1999年01月
「三つの小さな王国」

amazonそれぞれ自分の中にある小さな王国(つまりは人生そのものなのだが)について書いてある3つの短編からなる。
形式的には実験小説的趣を持ちながらも一糸乱れない。著者はものすごい筆力で内なる美しい王国を夢想的に紡いでいく。すごいのは紡いでいる視点が第一人称なのか第二人称なのか第三人称なのか、読み終わってから混乱すること。読んでいる間は気持ちよくスムーズに読めるのだが、読後に視点が折り重なって4次元のような不思議な浮遊感をもつのだ。こういった小説はあまり読んだことがない。
敢えて言えばアンドレ・デビュースっぽいかな。違うかな。なんというか著者の小説世界に一度身を投じるとしばらく出たくなくなってしまう。そんな気持ちよい異次元さ。柴田元幸訳ということで安心して読んだ部分が大きいのだが、実はちょっと青山南訳で読んでみたい気もしている。もうちょっと原文は耽美的なような気もするし。
特に一つ目、「J・フランクリン・ペインの小さな王国」は傑作短編。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「この闇と光」

amazon掘り出し物。
服部とくるとまず「服部真澄」となってしまうが、「まゆみ」もかなりいい。実に芳醇な空気を持った上質なミステリーだ。とっても上手に文章を刈り込んでいるのが特に気に入った。簡潔にして明瞭。それでいてこれだけ豊かな表現をしているあたりがただものではなさそう。ミステリーとしての展開も見事で、思わせぶりなラストがまた好きである。
比べて悪いが、服部真澄は映画的。それに対して服部まゆみの本作は小説でなければ出来ない闇の濃さがある。映像化はまず不可能。そこが面白い。他の本も読んでみようっと。
なお、装丁は思わせぶりすぎて嫌い。内容に比べて俗っぽすぎる。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「ワイン 一杯だけの真実」

amazon今度の村上龍はワインが題材か…。ブームに乗っているみたいでイヤだな…と思いつつ読んだ。
オーパス・ワン、マルゴー、ラ・ターシュなど8本のワインが絡む8つの物語。
映画小説とかレストラン小説とかを以前発表している著者であるだけに、同じような筆致なのであろうと高をくくって読んだのだが、期待はいい方に裏切られてしまった。ここには散文としての小説のある到達点があると思う。筋とか主題とかそんなものにとらわれない「文体だけの小説」・・・とでもいうのか、文体だけでここまで読ませる物語は得難いものがある。
筋を追うタイプの読者にはつまらない本かもしれないが、もうこうなってくると題材は現実感のないものであれば何でもありだと思う。ただ、ボクは敢えて日本的・土俗的なもの、例えば日本酒とかをテーマに選んで著者の中との違和感を追ってみて欲しかった気がする。もう一歩深いところに行くために。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「孤独について」

amazon副題は「生きるのが困難な人々へ」。
孤独を自分に課せられた重い荷物と取るのではなく、自分が積極的に選び取った大事な時間なのだととらえることによって得られる価値の転換について、著者自身の半生を赤裸々につづりながら説いている。いや「孤独」という言葉よりは「ジコチュー(自己中心主義)」という言葉の方が内容に近いかも。「孤独になる」=「なるべく他人のためにではなく自分のために時間を使うこと」と明記してあるくらいだし。
なにしろ著者は「うるさい日本の私」を書いた難物。一筋縄なる孤独論ではない。
もちろんお説教含みの「生き方指南本」ではないし、わけのわかったような「机上の哲学書」でもない。だから実際に苦しんでいる読者はかなり共感できると思う。今の生活に違和感を感じている人はすべからく読むべし。読んで損はしないと思う。ただし、後半は少々ヒステリック。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:哲学・精神世界
「パソコンを鍛える」

amazonそれなりにパソコンを知っている人のためのパソコン教科書。
OSの原理をわかりやすく解説して「パソコンのユーザーの多くが現在の完全受け身から完全攻勢に180度転換」させる狙いで書かれている。
で、その狙いは成功していると思う。説明が難しいであろう技術についても大変興味深く書かれており(かといって読者を子供扱いもしてない)、ボクにOSの成り立ちをよく理解させてくれた。最後では結局UNIX啓蒙になるのだが、ウィン・マックともに平明に見る目が養われたと思う。もうちょっと既存OSについて公平な書き方であればよりよかった。バイアスがかかっている内容に思えて、読者はちょっと警戒してしまうのだ。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「リンボウ先生ディープ・イングランドを行く」

amazonボクたち夫婦は新婚旅行でイギリスを24日間に渡ってレンタカーで旅した。
そういうこともあって、かなりイギリスびいきである。
だから、ということもあろうが、かなりこの本は楽しめた。著者自身の手による写真も素晴らしく、ディープ・イングランドが存分に楽しめる。ただ、意外とすぐ読めてしまうことと(こういうエッセイはだらだら長く楽しみたい)、イギリスにほとんど興味がない人を惹きつけるようなインパクトにはかける気がするのが残念。
でも次にイギリスに行くとき行ってみたいところが出来たのがうれしいな。個人的には。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「食べ物情報ウソ・ホント」

amazon新聞の雑誌広告などは相変わらず「○○で△△が治った!」などの健康食品宣伝文で埋まっている。確かに治った人もいるのだろうが、実際に科学的に分析したらどうなのか、知りたくない?
本書は副題が「氾濫する情報を正しく読みとる」とあるように、そういう宣伝文のウソをある程度暴いてくれる(もちろんまだ科学的に良いとも悪いとも言えないものもある)。
コラーゲンを食べると肌がつるつるになる、とか天然酵母は体にいいとか、一見科学的に読めるいわゆる「フード・ファディズム」について科学的検証を加えているのだ。内容自体は知りたかったことだしとても有益だったが、難点はこの本に書かれている告発情報と、先の宣伝文とがだんだん区別が付かなくなってくることである。いったいどっちが正しいのか…。まぁそれを自分で比較検討できる目を養えるところが、この本の最大のイイトコロかもしれない。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「約束された場所で」

amazon副題が「underground〈2〉」。つまり、地下鉄サリン事件の被害者たちをインタビューした分厚い本「アンダーグラウンド」の続編にあたる。
今度は加害者側をインタビューしており巻末に河合隼雄氏との分析対談もある。
インタビュアーが黒子をやめて一歩前に出てきた感じだ。それは小説家として正しい態度であると思うが(前作ではその点が少々物足りなかった)、今度はバイアスのかかり方が最初からいくぶん加害者否定になっているところが不満である。常識家ならそれでいいのだが、小説家がそれでいいのであろうか。
また、サンプル数が少ないのも不満。前作はその飽きるほどのサンプル数が結果的に全体を浮き彫りにしたのだが、今回はそういう作用がなかった。単に「特殊な人々」という見え方にしかならないサンプル数である。
評価すべきなのは「この時期に出した」ということ。もう一度あの問題を根本から考え直すのに最適のタイミングではなかろうか。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「チャリング・クロス街84番地」

amazon副題が「書物を愛する人のための本」。
1970年に刊行された世界的ベストセラーである。
NYの本好きの女性とロンドンの古書店の往復書簡をそのまま編んであるもの。先輩から譲られなければ読まなかったかもしれない本だが、しっかりした事実が裏にあるだけになかなか感動的であった。
ボクたちは、こういう「ちょっといい話」が世界的ベストセラーになった時代からずいぶん遠いところに来てしまったなぁという感慨をボクは持つ。素直ではないのか? いや、とっても素直な感慨だと思う。ある意味、甘い時代の物語なのだ。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ノンフィクション
「我らが隣人の犯罪」

amazon宮部みゆきのわりと初期の短編作品集。
文庫になったのを機に読んでみたのだが、評判ほど感心しなかった。なんというか、甘ったるく感じてしまう。別にハードボイルドにしてほしいというのではないが、中学生向けミステリー文庫的甘さを感じてしまっていまいち楽しめなかったのだ。
プロット自体もひとつもびっくりさせられるものがなく、細部で面白いところがあるだけで、全体にはちょっとがっかり。そんなに当たり外れのある作家じゃないと思うのだが…。他の短編に期待。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「至福の境地―自分の顔、相手の顔」

amazon曾野綾子は好きだ。信頼している。
だからこそ、よけいに厳しくなってしまうのか、今回のエッセイはいつもより刺激が少なく、ちょっとがっかりだった。ところどころにさすがと思える視点があるのだが、はたと膝を打つほどのものでもないのが多い。ちょっといろんな本・連載を書きすぎているのではないだろうか。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「マサチューセッツ工科大学」

amazon世に名高いMIT。
明治維新前にボストンでたった15人の生徒で発足していつしか世界の頂点に立ったこの専門学校をオタク生徒たちのエピソードや内部レポートでつづっていった本なのだが、つまらなかった。
エピソードにしてもファインマン先生ほどのものは望まないものの、もうちょっといろいろ読みたいし、内部レポートみたいなものも散漫で一向にMITの姿が浮かび上がってこない。中途半端な本だ。スコット・トゥローの「ハーバード・ロー・スクール」や「ファインマン・シリーズ」みたいなものを期待すると痛い目にあうかも。
1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
@satonao310




