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1998年12月

LV5「宮殿泥棒」

イーサン・ケイニン著/柴田元幸訳/文藝春秋/2200円

宮殿泥棒
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柴田元幸の翻訳したものにハズレなし(彼自身のエッセイはときどきはずれるが)! 
ということで、今回もはずれなかった。中編4つ。それぞれ「普通の人」の心の動きを細かく追って、ストーリーテリング小説ともシチュエーション小説とも違うカタチでまとめあげており、実に奥深いいい出来の小説集だ。なんというか小市民的感情の動きが実に上手に描かれている。そして身につまされる。

小説の性格からいって教会の懺悔室で聞かれるような物語だが、読後感はたいへん爽やかで充実している。こういった、あまり仕掛けのないヨーロッパ映画みたいな小説をもっと読みたい。ハリウッド映画ばりに仕掛けたっぷりの本がこの頃多すぎる気がする。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「蕪村春秋」

高橋治著/朝日新聞社/2300円

蕪村春秋
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ここ2カ月間の「寝酒」みたいな本。寝る前に1~3コラムくらい読んで蕪村の世界に浸りつつ眠った。蕪村を、いや俳句自体をほとんど知らなかったボクとしては、この本に非常に感謝している。

もともと朝日新聞で連載していたものらしい。
与謝蕪村の俳句を季語に沿って110コラムに渡り取り上げて(句にしたら375句)エッセイにしたものだ。冒頭、著者はこう語る。「のっけから乱暴なことをいうようだが、世の中には二種類の人間しかいない。蕪村に狂う人と、不幸にして蕪村を知らずに終わってしまう人とである」 つまり、蕪村を知れば必ず蕪村に狂う、ということだ。わかる。実に広大で芳醇な世界がそこに広がっている。それが著者の卓越なる視線によって浮き彫りにされているから、ボクみたいな俳句無知にも実に楽しく蕪村の世界が読み取れ、もう一歩踏み込んで行きたくなるのだ。

いいなぁ、蕪村。芭蕉が想像力のない朴念仁に思えてくるようなその色彩感覚と映像感覚。もちろん著者の誘導もあるのだが。
ちなみにこの本、現代の俳句界に対するすぐれた批評の書にもなっている。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 詩集・歌集など

LV4「上院議員」

リチャード・バウカー著/高田恵子訳/創元推理文庫/上650円下580円

上院議員〈上〉
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1996年発売のミステリー。

ずっと前から買っておいてあったものをやっと読んだ。面白い。アメリカの政治や選挙の実際、有名人としての生活、上院議員という人生、そしてそれを取り巻く家族やスタッフ、ライバルや敵の思惑など、とてもよく描けていて読者を見事に引きずり込む。主人公の動きにいくぶん不可解なところがあるし、ミステリとしての仕掛けに凝りすぎて人物描写の足を引っ張ったところがあるのが残念だが、単なるミステリで終わらない人生のコクがなんとも気持ちよい。

ミステリーとして作りすぎないで、ある種「文学」として同じ筋を書いた方が逆に面白かったかもしれない。ミステリーにしようとしすぎているのがこの本の欠点なのかも。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「依頼なき弁護」

スティーブ・マルティニ著/菊谷匡祐訳/集英社文庫/上下各700円

依頼なき弁護〈上〉
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1996年に出た法廷サスペンス。
映画化されたような気もするが…良く知らない。これも本棚に長く眠っていたものだ。ストーリー的にはかなり練り込まれ、どんでん返しもなかなかのものだが、「そんなのあり?」なご都合展開と、「オレって頭いいだろう」的比喩の嵐(特に前半)がわりと鼻に付く。著者の自意識過剰がちょっと見えてきてしまうのが残念だ。
そうやって悪意に見だすと、ストーリー展開もいかにも「よく考えただろ、オレ」という感じだし、数ある伏線も「読者なんて頭悪いんだからこのくらいわかりやすくしといてやるよ」みたいなわざとらしさに取れてくる(←悪意すぎ)。まぁなんというか、良く出来ているけど嫌いなタイプのミステリーかな。人物描写や内面描写があまりにステロタイプなのが全体を「薄く」しているのかもしれない。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「うるさい日本の私、それから」

中島義道著/洋泉社/1600円

うるさい日本の私、それから
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97年1月に読んでとても気に入った「うるさい日本の私」の続編。

前著は、著者が無意味で無神経な「騒音」に戦いを挑んだ戦記であり、幼稚国家日本についての社会学的分析でもあるのだが、この本はそこからもう五歩くらい突っ込んで「私の敵は日本および日本人なのだ」と、一見めちゃくちゃな論が展開されていく。

その根底に流れるのは著者独自なる「個人主義」、そして既存の考え方に束縛されない自由なる「哲学の心」だ。
彼の真の自由は「孤独」にある。もう途中からこの本は著者の(孤独という自由ゆえの)ワガママ自慢みたいになっていき、「ついてこれないのならついてこなくていい」という突き放しまで出てきて、なんだか飲み屋の長時間説教みたいになっていくのだが、実はそのはちゃめちゃの根底に流れる精神にボクはわりと共感を覚える。説教しっぱなしではなくて一応改善策も最後に載せているところがまた微笑ましい。

前著を社会的提案の書と読んだ人はかなりとまどうだろう。でも、前著を「考えヒント」と見た人にはそんなに違和感がない続編である。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV3「美味しさの力」

永田照喜治著/PHP/1500円

美味しさの力―生命あふれる奇跡の食材
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副題が「生命あふれる奇跡の食材」。
著者の作り出す農作物の評判は聞いていた。いわゆる緑健のトマトが一番有名だが、こうして「永田農法」としてまとめて読むとなかなか圧巻である。今すぐにでも彼の農作物を口に入れたくなるし、汚染された偽物の食卓に別れを告げたくなる。

「福岡正信の自然農法」に興味があって何冊か読んだことがあるが、あっちが哲学がらみなのに比べるとこちらは哲学をあまり語らない分たいへん平易で逆に信頼性を増している。ただ、題名が普通なのが残念だ。例えばずばり「永田農法」とかした方が彼の農法は普及すると思う。そして普及してほしいとボクは願う。

それにしても、彼の作った野菜は当然だが、特に卵とワインには惹かれるなぁ。手に入らないかなぁ。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV3「ムツゴロウのどこ吹く風」

畑正憲著/潮出版社/1200円

ムツゴロウのどこ吹く風
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日本という狭い世間からは過小評価され続けている天才、畑正憲。彼のエッセイ集だ。

何が天才ってその「生き方」「面白がり方」「科学的分析力」「真理を掴む力」などが常人とはかけ離れているし、それこそ動物に対しての理解・問題意識はもっともっと評価されるべきだろう。どうも日本人はああいう「特別な人」を認めないばかりかバカにしてしまう。失ってから気付くなよ。もうすぐ死んじゃうぞ(かなり失礼)。

あ、この本の話の話ですね。ええと、いつものエッセイです(←なんじゃそりゃ!)。
いや、だから、動物王国をめぐって起こる事件を著者の視線で解剖して快調に読ませるのだ。ただ、読みやすい分、なんというか残りにくいところがある。もっとゴリゴリ重く書いてほしいなぁ、彼には。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「脳内イメージと映像」

吉田直哉著/文春新書/710円

脳内イメージと映像
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映像とは何か。
これはボクのテーマのひとつでもあるのだが、この本は、脳内で表出される映像「脳内イメージ」を手がかりに、「映像とは脳を拡大するために脳の延長として存在する」という結論まで個人の体験(臨死体験)をもとに平易に書き進めていく。

自分の五感の外のものとして映像を捉えていたボクにとってかなり新鮮な論であったが、もっともエキサイティングだったのは、(著者も危惧しているが)「映像が脳を越えるときが来るかもしれない」という新しい視点を与えられたこと。いろんな妄想が沸き上がってくる。読書の醍醐味だ。

著者は元NHKのディレクター。科学的に小難しく書こうと思えばどうにでもなってしまう題材をここまで平易に書いたことは大変素晴らしく思う。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像

LV3「活字博物誌」

椎名誠著/岩波新書/640円

活字博物誌
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著者が読んだ本を起点にいろいろ派生した妄想・出来事・感想をエッセイしているもの。
「活字のサーカス」(岩波新書)の続編に当たる。なぜ新書なのか?という疑問は最後までぬぐえないくらい、いわゆるいつものシーナ節。文庫の趣が強く、岩波新書ぽさはまるでない。読書感想文に絞ったということがまぁ新書ぽいのか。

いつものように自然科学系の本に対する言及が多く、またまたいつものように読み飛ばせる快調な筆致。
こんなに書き散らしていて筆が荒れないか心配になるが、出張の新幹線の3時間で読むには適切なる娯楽である。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「作家のインデックス」

大倉舜二写真/集英社/4935円

作家のインデックス
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作家の書斎を中心に細々した小物にもレンズを向けてその作家の人物像を浮かび上がらせるのが目的の写真集。

有名作家56人の日常生活の場・仕事の場が写し出されている。
写真家というものはフラットに撮っているつもりでもどこかに意図を写し出してしまうものだ。これからの写真から匂うように浮かび上がってくるのは「作家の孤独」。畏れにも似た構図とは裏腹にその孤独をフィルムに定着させたいという意図を感じてしまう。意図がなかったとしたら「先入観」がフィルムに定着したのか…。
そしてリアリティのなさ。生活のリアリティがほとんど浮き出てこない。これも珍しいことだ。少し前に「TOKYO STYLE」という都会の部屋を撮った秀逸な写真集があったが、これと比べてみるとそのリアリティの差に愕然とするはず。それは被写体というよりも写真家の視線の違いであろう。

ただ、ボクはこの企画においてこのリアリティのなさは成功の一因だと思っている。作家のリアリティはその作品にのみ表れるものだからだ。ワイドショー的リアリティはいらない。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集

LV2「世界ワイン大全」

渋谷康弘・柳忠之監修/日経BPムック/4000円

世界ワイン大全
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講談社が出している「世界の名酒事典」は便利だが、すべての洋酒に言及しているのでワイン部門が浅かった。どこかでワインに絞って「名酒事典」みたいなことしてくれないかなぁ、と思っていたらやっと出た。分厚いムック版。
監修の渋谷氏は実はあまり好みのソムリエではないのだが、まぁ労作には変わりない。14000本を収録していて、生産者別に分類、生産者の解説があるのも便利。特に現時点での一般小売価格がわかるのがうれしい。いっそのこと全ワインが写真付きだとなお良かったのだが。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV2「フランスワインガイド」

山本博著/柴田書店/5400円

山本博フランスワインガイド―2100シャトー・ドメーヌ・醸造元総覧
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フランスに限定して生産者別にワインを分類したもの。
写真はまるでないが、事典としてはかなりの充実。分厚いが、それでもすべての生産者を網羅するわけにはいかなかったようだ。ただ、各地区において著名・老舗・新鋭など、重視できる生産者はすべて載せていると書いてあるだけに、ラベルを見てこの本で検索し、その生産者が載っていればまぁちょっとだけ安心、ってなところだろうか。簡単な紹介文も載っているが、これはすごく便利というほどのものではない。これまた労作ではある。値段もかなりだが。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV1「料理の鉄人名勝負十二番」

グルメアカデミー編/扶桑社文庫/571円

料理の鉄人名勝負十二番
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フジTVの「料理の鉄人」の名勝負を、鉄人・挑戦者の舞台裏の駆け引きや感情の動きを追いつつ再現したもの。
TVを見ていたボクとしてはわりと楽しんだのだが、TVのアンチョコの域を出ておらず、本というメディアの特性をまだ活かし切っていないのが残念。
TVの補佐にまわるのではなく、もうちょっとその料理人(特に挑戦者)の生い立ちや経験にしっかり踏み込んで、TVでの勝負までの人生を本的にドラマタイズし、ある種の料理ノンフィクションに仕立てることが可能だったと思うのだ。

勝負も12本もいらない。
3本くらい、きっちりした書き手に書き下ろさせていたら出版界でもある種のムーブメントを起こせた企画になった気がする。惜しい。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

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