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1998年10月

LV5「赤目四十八瀧心中未遂」

車谷長吉著/文藝春秋/1619円

赤目四十八瀧心中未遂
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久しぶりに心に楔を打ちこまれた気がする。
自らのヒフを剥ぐようなその文体は、題材が自らの経験にもとずくというだけでなく、自分を傷つけて血糊の中でのたうつ様を楽しんでいるようなある種の狂気から来ている気がするほど迫力と魅力に富んでいる。描写される世界の空気感、時代感も抜群だ。日本近代文学がどこかに置き忘れてきつつあった「体臭」みたいなものがプンプン匂ってくる。

それにしてもこれが今年の直木賞か。芥川賞の方がいい気もするが…。それだけ境目がなくなってきたんだろうなぁ。いい意味でごく初期の宮本輝を彷彿とさせて楽しめます。あ、暗い話が嫌いな人は近づかない方がいいかも。まぁ題名がコレだから近づかんか。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「黒と青」

イアン・ランキン著/延原泰子訳/ハヤカワ・ポケット・ミステリ/1800円

黒と青―リーバス警部シリーズ
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「リーバス警部シリーズ」と銘打たれている。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞を受賞した力作。

著者の本は本邦初訳だからこれから徐々にリーバス警部を読めるようになるらしい。
題名はストーンズのアルバムから。あの「愚か者の涙」が入っているヤツ。それに象徴されるようにロックはある種この本の基調になっている。読者と主人公を結ぶ架け橋だ。エジンバラを舞台にロックとハードボイルドが入り交じり、凄惨なる自己憐愍と高揚が交互に現れる。

ちょっと会話が洒落すぎているのが全体の色調からいって座りが悪い気がするけど、それもこの本の魅力なのだろう。ボクはもう少し無骨な方が好きだけど。でもまぁとても楽しめます。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「道頓堀の雨に別れて以来なり」

田辺聖子著/中央公論社/上2400円・下2700円

道頓堀の雨に別れて以来なり〈上〉―川柳作家・岸本水府とその時代
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田辺聖子の本にここまで苦しむとは思わなかった。かれこれ3カ月かかってしまった。いや、面白すぎて3日で読み終わったという人もいるからこれは相性かも。

副題に「川柳作家・岸田水府とその時代」とあるように、岸田水府という著名な川柳作家に焦点を当てつつ、例によってのお聖さん節で話はアッチャコッチャ飛び回る。時制も場所もあったもんじゃないところが凄い。これは雑談か井戸端のうわさ話かって感じで展開するのだ。だが、そのお蔭で重層的に明治・大正・昭和が浮かび上がってくる。

しかし水府は格好いいなぁ。川柳自体も見直すこと頻り。もっともっと見直されていい立派な芸術である。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「へらへらぼっちゃん」

町田康著/講談社/1600円

へらへらぼっちゃん
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町田康という「文体」は、ストーリーもしくは決められた字数という枠組みがあった方がぐっとしまって活きる気がする。
この本はエッセイなのだが、あの文体がだらだら続く魅力は認めながらも、やっぱり要所の切れ込みというか唄で言うなら「サビ」がないから、読んでいて衝撃が薄いのだ。なんだか才能がドバドバ垂れ流されているような、そんなもったいなさを感じる。おいおい、こんなとこでそんなすばらしいフレーズ出すならそれ小説で使ってくれー!と叫びたくなったりして。

後半の書評とかはとっても面白い。そう、こういう風に制約があった方がいいのよ、町田康は。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「老人力」

赤瀬川原平著/筑摩書房/1500円

老人力
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この造語をはじめて聞いたのはいつだったかな。「新解さんの謎」を読んだ頃だったか。「老人力」。こんなにいい造語はなかなかない。この本はこの造語から派生する諸問題に赤瀬川節でそれこそ「老人力で」踏み込んだ好エッセイである。

いつも全体にのほほんとしすぎて物足りないところのある彼のエッセイだが、この本に関してはそうでもない。老人力から人生観、世界観などに論を広げているところなど見事。現代の文明批評にもなっている。こういう新しい視点、好きだなぁ。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「霞町物語」

浅田次郎著/講談社/1500円

霞町物語
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帯とか広告で「著者自身の物語」と書いてあるのを読まなければもっともっと楽しめたかも。

非常に良く出来た青春の1シーンなのだが、「主人公=著者」と思って読んでしまうと白けてしまうのだ。やることなすこと格好良すぎる。よく自分でこんなの書けるなぁ、と逆に感心してしまう。含羞がなさすぎてちょっとついていけない部分がある。祖父や親父を描いたところはとってもいい。が、彼自身の描写になると読んでいる方がこそばゆくなってくる。

うまいんだけどなぁ。でもこれは、自分の半生を自分に酔いながら歌いあげる演歌歌手と変わらない。いろいろなエピソードは心に残るのだけど…。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 小説(日本)

LV2「本に読まれて」

須賀敦子著/中央公論社/1600円

本に読まれて
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この頃「須賀敦子追悼企画」みたいなのが多すぎてちょっと辟易。
いや、彼女が書いた文はなんであれ読みたい。でも、彼女はこういう形での出版を絶対認めなかっただろうな、と思われるようなお手軽企画が多すぎる気がする。ある意味、彼女の著作の全体レベルをさげてしまう出版が続いている。

これは生前著者がいろんなところに書き残した書評集、そして読書日記。
いい出来のものもあれば、おやどうしたの? と思わせるものもある。こうしてそれをモザイク状に並べても散漫な印象しか残らない。彼女の遺したものは読みたい。でもなんだか読みたくない。そんな複雑な想いで読み終えた。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 評論

LV2「味と香りの話」

栗原堅三著/岩波新書/660円

味と香りの話
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なかなか面白い。食べることが好きな人は一回こういう「おいしく感じる仕組みの話」は読んでおいても損はないだろう。
味・匂い・香りの科学的エッセイなのだが、専門用語を多用しているわりには、エピソードのまじえ方がうまいのだろうか、わりと最後までスラスラ読み通せる。ただ、初めの頃のきさくさが、後の方ではなくなっているのが惜しい。
でもあれだな。こういう新書系の科学書って読んだ端から内容を忘れていくな。いったいなんでだろう。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , 科学

LV2「一生、遊んで暮らしたい」

中場利一著/角川書店/1300円

一生、遊んで暮らしたい
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大好きな作家になりつつある中場利一だけど、エッセイはイマイチかも。
著者自身、めちゃめちゃ戸惑っている。特に前半は目も当てられない。後半にはかなり持ち直し、調子を取り戻している。でも、あの小説で見せる才気やギャグのキレがあまり見られない。

多分、「喧嘩と遊びで暮らしている中場利一」という枠を自ら作ってしまっていて、その枠内でそういう中場利一を演じてしまっているのがおもしろくない要因だろう。そういう背景のもとで著者がどう感じ、どう生きているのかを読者は読みたいのに、その背景説明の域をあまり出てこないのがつらいところ。
小説もそう。そろそろ「喧嘩」という枠から出て書いてみたらどうかなと思う。才能はとてもあると思うのだけど…。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「マダム・ルロワの愛からワイン」

星谷とよみ著/文園社/2500円

マダム・ルロワの愛からワイン―ブルゴーニュ 土の味・風の香り
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副題は「ブルゴーニュ 土の味・風の香り」。
ブルゴーニュの英才、マダム・ルロワのワインに対する真摯な取り組み、そしてビオディナミの考え方はよくわかった。

でも読後感はそれだけかも。
なにしろ著者が素材(マダム・ルロワ)を崇め奉っちゃっているから、なんだか読者は引いてしまうのだ。

なかなかいい素材なのだから、それを冷静に客観的に取り上げてしっかり書いてほしかった。
マダム・ルロワを賞賛し、彼女が言っていることをただ単に書き写しているだけの本なのだ。ええ、そういう本の存在価値は認めます。でもそこからは生身のマダム・ルロワは匂ってこないし、彼女の作った素晴らしいワインを飲むときの付加価値も浮かび上がってこない。もう二歩も三歩も踏み込めばとっても面白いものになるのになぁ。惜しい限り。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

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