1998年06月
「遠い朝の本たち」

amazon98年3月20日に急逝された著者の遺作である。
ボクは本当に彼女の本を愛していたので悲しくてたまらない。これを最後にもう彼女の作品は読めないことになる。なんということだろうか。
内容は著者が若い頃に愛した本たちについての随筆である。相変わらず読者の心を静かにそして透明にしてくれるその筆致。名文の連続でありとても速読はできない。その「まやかしのない言葉の束」が読者の心に直接に入ってくる。そして読者をして「私ってこんなに感性豊かだったかしら?」と錯覚させてしまうような効果すらある。
手を洗って背筋を伸ばしてゆっくりページをめくりたい名作だ。
向田邦子のように小道具が散りばめられてはいないしオチもないのだが、どこかで彼女の静謐な魅力に通じるところがある。文体の素晴らしさがそう感じさせるのか…。とにかく、日本語をここまで品よく書ける人を我々は失ってしまった。実に哀しい。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「文人悪食」

amazon労作にして名作。日本文学好きには堪らない本だ。
近代文学史を文士たちの食の嗜好によってたどってみようとするもので、まずその切り口に目丸。作家の食の嗜好はその作品と密接な関係があり、それを作者ごとにじっくり見ていくその労力に口開。そしてそしてそれぞれが非常に優れた作家論になっているその技に舌巻。
取り上げている作家は37人。それぞれに絶妙の作家論が展開されるが、それはそれ名手嵐山光三郎であるから、ひとつも小難しくなく読者を上手にその作家の世界にいざなってくれる。各作家ごとにかなりの文献・資料を読むせいだろう、著者の文体が微妙に違っていてそれもオマケ的に楽しめるよ。 なおこれは去年の3月初版のもの。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「わたしの渡世日記」

amazon名作の誉れ高かった著者の自伝の復刊である。
最初の出版が昭和51年であるから、ええと、何年前だ? まぁいいや。とにかく昔の本である。が、その頃から高峰秀子は名手だったのがよくわかる。もともとスターとして生きてきた半生自体が一般人には興味深いものなのであるが、それを抜きにしても実に面白い自伝だと思う。
自分を遠くから眺めおこすその視点がとても心地よい。変に謙虚ぶったり変に偉ぶったりせず淡々とイキイキと自分を語っていく。なかなか出来るもんじゃない。
そして母親との確執も迫真と客観を入り交えて上手に描き切っている。もちろん著者に関わってくる人生折々のスターたちのエピソードも興味深いが、彼らに対する著者の観察眼の鋭さはまた格別。
総じて上質なるエンターテイメントなのである。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「最後の昼餐」

amazon根津りえの絵と俳句がとてもいい。この挿絵がなければこの本の魅力は半減であろう。まぁこの絵自体が執筆動機なのだからそんな仮定はありえないのだけど。
根津りえが描いているのは、著名な建築家である著者との「料理絵日記」である。
どちらかが料理を作りそして彼女が描く。それがある程度まとまったので著者が文章をつけたわけだ。大変楽しそうな食卓がページに広がっていて読んでいるこちらも楽しくなる。では文章も浮かれきっているかと言えば、これはそうでもない。透明で静かな文章が続く。これは本の最後の方でわかるのだが、著者が癌に侵されてから書いたものだからだろう。
静かで充足したセンスのいい日常が終息していく様がここにある。まだ著者は健在だが、「一番愛していた時間」をこの本に凍結保存しておきたかったのではないか。読み終わってそう思った。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「人生上達の術」

amazonボクは著者の「術」が好きである。「ムツゴロウの青春記」を読んだ中学時代から彼の物事上達法に心酔し学んできたところがある。本質をつかみそこに到達する術を実にオリジナルに生み出す名人なのだ。
この本はそんな著者のノウハウ集と言ってもいい。アウトドア、スキューバ、釣り、乗馬、海外旅行、語学、競馬、麻雀、グルメ、ペット、ゴルフ、囲碁と、それぞれについて他人より充実した経験を誇る著者がオリジナルな「上達の術」を書いているのだから役に立たないわけがない。
が、残念なのは「紙数が少ない」ので手短すぎること。
これらすべてを語って317ページではとても足りない。ボクは彼の手短でない経験をきちんと読みたい。ここまでいろんな経験が豊富な超人はなかなかいないので、もう少し詳細に書いてほしいと(贅沢ながら)望んでしまうのだ。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「くりやのくりごと」

amazonこういうことを自慢させたらこの人にかなうものはいない。普通の人なら嫌味に聞こえることもこの人が語るとそうでもなくなるのだ。
副題は「リンボウ先生家事を論ず」。つまりくりや(台所)を中心とした家事全般についての教育的指導エッセイだ。
ド頭から「ステンレスの無水鍋なんてものを、私は調理道具として喜ばしいものとは認めない」と始まる。
ステンレスの無水鍋を愛用しているボクはまず最初からギャフン(死語)なのだが、著者の語りにかかるとなんとなく納得してしまうから参る。それが偏見であってもここまで堂々と自論を開示されると押し切られてしまうのだ。
一事が万事この調子。もちろんその論旨は明解で理屈もあっており、そこらのハウトゥーものの数倍役に立つのだが。ただ、前半の快調さに比べて後半が少し「繰り言」めいたのが残念かな。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「二都物語」

amazonボクの尊敬する人の一人である著者がソウルとピョンヤンを訪れて絵を描き文を書いている本。
彼の絵も文も常にボクにナニカを与えてくれるのだが、今回もそれは期待を裏切らなかった。内臓をそのままさらけ出してくるような彼の画体・文体はいつも直接に心を刺激してくれる。
ピョンヤンでの彼の絵はニンゲンを意識していっぱい描いている。それだけピョンヤンのニンゲンが見えなかったからなのだろう。必死にニンゲンを探している彼の絵が線が、結果としてピョンヤンの現在を浮き彫りにしていてとても面白い。ソウルにしてもピョンヤンにしてもたぶん彼の言葉を活字にせず彼の字で印刷した方がより良かった気がする。それはそうと、彼の絵はこうして本にするとどうしてもチンマリ見えるのはなぜだろう。実物はあんなにパワフルなのに。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「新解さんの読み方」

amazon「新解さんの謎」を読んだことがある人ならわかると思うけど、あそこにSM嬢というのが出てきたよね。何を隠そう、その方こそこの本の著者。攻めの辞書新明解国語辞典ブームの火つけ役はまさにこの方なのだ。
この本はあの名作「新解さんの謎」よりも一段と詳しく読みほぐした専門書の趣。一見それぞれのワードについて言及しているだけのように見えるけど、実は著者は「新解さん」と対談しながらエッセイをものにしているという知能犯。やり手だ。
いずれにせよ、四版と五版の比較を始め、気の遠くなるような手作業のすえに生まれた本であることは間違いがない。労作に見えない労作。新解さんに興味がある人にはたまらない魅力を有するが、ちょっとくどいと言えばまぁくどいかな。ボクは楽しめた。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「おもしろくても理科」

amazon簡単に言えば「バカでもわかる科学」。
具体的に言えば「西原理恵子でもわかる理科」である。とはいえ、サイバラ画伯は思ったより絡んでこず、清水義範がほとんど論を進める。
この本の問題は章によって題材によって面白さにムラがあることだ。
例えば「慣性の法則」などはとてもわかりやすく面白く書いてあるし「××が東京ドームだったら」も良く出来ている。が、いくつかの章はとてもつまらない。著者もパスティーシュで見られるような切れ味が感じられずちょっとつらいものがあった。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:科学
「ピアノ レッスンズ」

amazon51歳になって突如ピアノを弾くことを志した著者(アメリカで一番人気があるラジオパーソナリティらしい)の悪戦苦闘ピアノ物語。
そのエピソードの数々はそれなりに読ませるし、ピアノをある程度の歳から始めた(もしくは始めようとしている)読者にとっては共感も多いと思う。が、訳が悪いのか原文が悪いのかわからないが、全体に稚拙で散漫な印象。もっともっと盛り上げられるしもっともっと共感を呼べる題材なのに。残念だ。
同じ様なレベルのピアノ弾きとして個人的にはいくつも参考になるところがあったのだけど。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:音楽




