1998年03月
「月の影 影の海」「風の海 迷宮の岸」「東の海神 西の滄海」「風の万里 黎明の空」「図南の翼」

amazon「十二国記シリーズ」を一気に読んだ。
小野不由美の評判はずいぶん前から聞いていたんだけど、読んでその魅力がよくわかった。
まぁ一言で言えば東洋風ファンタジーなんだけど、さとうさとるの「コロボックル・シリーズ」に匹敵する出来。「ナルニア国物語」と「ゲド戦記」と「ネバーエンディングストーリー」と「時をかける少女」を足して4で割って東洋風にしたような作りで、設定も筋もキャラクター造形もどれをとっても秀逸。
そのうえ、若年層向け文庫シリーズだけに若者に対するメッセージも平易に気持ちよく織り込まれていて、それがまた通り一遍ではない。著者は平易な語り口で深い教訓をしっかり与えている。ある意味で作家の鑑なのである。うん、ベタボメ。難を言えば題名がみな似たり寄ったりで読む気が起こらないこと。これは本当に残念だ。これから読む人は一巻目の「月の影 影の海」からどうぞ。
物語と関係のないことを言えば、今まで本を読んできてこんなに「漢字」を美しいと思ったことはなかった。
本当に「漢字って美しい。すばらしい」と読んでいて思わせる。それを実感するだけでもこのシリーズは読む価値がある。
それと個人的には、あとがきで「ゾラック」が出てきたのがなんだかうれしかった。それについてはこちら。
1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「『Shall we ダンス?』アメリカを行く」

amazon映画『Shall we ダンス?』が全米で公開になり、そのキャンペーンで18都市を訪れた周防監督の日記である。
基本的にはどういうインタビューを誰からどう受けこう答えた、という記録なのだが、大部なのに読者を飽きさせずさらっと読ませる。文章が平易。彼の映画そのもので「まずわかりやすいこと」を主眼に置いているからだろう。そして楽しく興味ある展開が次々あらわれる。
アメリカ公開に向けてどこを無理やりカットさせられたか、など、エージェンシーとの闘いは映画好きには必読だし、インタビューやキャンペーンがどのように繰り広げられるかに興味ある人も必読だ。
だがこの本の真骨頂は結果的に浮かび上がるアメリカ文化と日本文化の姿だろう。特にインタビューの質問を通してアメリカ人が思っている日本が浮かび上がってくるのが面白い。それを周防監督と一緒に受け止め、では日本とは一体なんなのだとこちらも考え始めていく。そこの過程がボクには新鮮で楽しめたのだ。
1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「敵対水域」

amazon冷戦時代の1986年。バミューダ海域でソ連の原子力潜水艦が沈没した。これはその関係者を詳細に取材して一編に織り上げたノン・フィクションである。
「泣いた」「感動に手が震えた」などと前評判が高い上に、表紙にトム・クランシーが「これほど深く胸に滲み入る潜水艦の実話を私はこれまでに読んだことがない」などと書いているもんだからかなり期待した。
たしかに内容は感動的。また、潜水艦内の油の匂いまで匂い立ってくるような迫真の表現で読者を飽きさせず最後まで引っ張る。だがどこかで気持ちが入り込みきれなかった。
その理由は「これって本当にノン・フィクションか?」というところ。
ストーリー自体は実話だろう。が、登場人物の感情の動きなどに必要以上に作者の筆が入り込み「感動を演出」している気がするのだ。別に演出してもいいんだけど、表紙などでここまで「実話」「ノン・フィクション」をうたっている上に前書きでも「その行動、交わした会話、そして各人が胸に抱いた密やかな思いにいたるまで、すべて本人が著者に直接語った証言に基づいている」と書かれているから突っ込みたくなる。ボクが気にしすぎなのかもしれない。でもノン・フィクションをうたうには作者の筆が走りすぎている。この本は事実に基づいたフィクションである、そう割り切って読めばもちろん充分に楽しめる。
1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ノンフィクション
「東京観音」

amazonアラーキーが写真を撮り、杉浦日向子が小文を書きながら東京の街の姿と観音像を巡っていく。その企画にまず拍手。
相変わらずアラーキーの視点がいいので飽きない。彼に撮られると観音様も急に人間味を持ち出すから面白い。杉浦日向子の文もいい。妙に色気がある。アラーキーに触発されている感じ。
という風に至極面白かったんだけど、この二人のそぞろ歩きであるならばもっともっと濃厚な構成でないと読んだ気がしない部分がある。もうお腹いっぱいってくらい写真と文を載せて濃厚きわまりなく構成してくれてこその二人だと思うのだが。ちょっと欲求不満が残るかも。
1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「孤独のグルメ」

amazon漫画である。
主人公がいろんな場所で「何食おうかなぁ」とふらりと街の安飯屋に入る、それだけの物語だが、意外と面白かった。というかものすごくボクの気分に近かった。わりと出張が多く、いろんな街で昼時を迎えることが多いボクだが、一人で飯屋にはいるのがまったく苦にならないどころかどっちかというと好き。そして、その、店がなかなか決まらない「腹はすっからかん、心は宙ぶらりん」の感じ、そのどうにも解決できない突然な食欲、そのなにからも自由な気分、そしてその奥底から癒される感じ……。それらのすべてにとても共感できた。
ストーリー自体たいしたことないので共感もてない人にはつまらないだろうが、こういう「漫画エッセイ」はこれから増えていくんではないかな。空気感がとてもいい佳作。
1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「東京見おさめレクイエム」

amazon視点や良し。日々変わって行ってしまう東京を「見おさめ」ようという。江戸川乱歩「青銅の魔人」の銀座、太宰治「犯人」の吉祥寺、吉行淳之介「大きい荷物」の田園調布…、などなど、その本や映画に描かれた東京を見おさめ、レクイエムをおくろうというのだ(そういう主題にまったく乗っ取らない章もあるが)。しかも著者ならではの霊的な視点もずいぶん入っている。
が、不満なのはそれぞれのものへの突っ込みがあまりに足りないこと。朝日新聞でのコラムだったらしいから字数など制限はあったろうが、それにしても題材がいいだけに読者としては非常に消化不良、欲求不満が溜まるのだ。惜しい。
1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ




