1998年02月
「ストライク・ゾーン」

amazon新年早々大傑作にぶちあたってしまった。
洒落ていて人生が詰まっていてスリリング。筆も見事に抑えが効いていて淡々とした中にぎっちり興奮を詰め込んでいる。
うまいなぁ。野球の物語なのだが視点が良く実に楽しめるのだ。書いているのはある日のたった1試合の出来事。ここに非常に濃いドラマが隠されているのだがこれが結末までオチがわからず夢中になること請け合いだ。
単に筋がよく出来ているだけの本ではない。濃厚な人生を詰め込んでいる。でいて読後感は明るくさわやか。元気になる。こういうのを読むとこの頃の日本文学は暗いばっかりでつまらないなぁと思ってしまう。上質のエンターテイメントがまだまだ少ないよねぇ。
また、装丁もGOOD。
ちなみに著者はふたりだが、これはどちらかがアイデアマンでどちらかが執筆者というところなのだろうか。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「寂しい国の殺人」

amazon1週間ほどこの本を毎日読んでいた。1回30分程で読めるから持ち歩いていた。
「イン ザ・ミソ・スープ」の随筆版とでも呼ぶのかな。
物語に昇華していない分とてもわかりやすいテキストとして時代を読み解く鍵になる。居眠りしがちな問題意識を揺り起こすチカラがここにはある。今のボクにこの本に書かれていることがたまたま合致したということもあると思うけど。
「イン ザ・ミソ・スープ」を読んで現代に生きるということはどういうことなのかについて考え込んだ人には是非この本も読むことを勧める。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「OUT」

amazonなぜ直木賞をとれなかったのか、と不思議な気持ちになる。いったい審査員は何を見ているのだろうか。
確かに警察の追及部分は甘いし、男が復讐していく過程の心の動きももうひとつ突っ込みが足りないかもしれない。
だが、主婦が死体を解体するに至る「寂しさ」はとてつもないリアリティで書かれているし、各登場人物たちのキャラクター造形・リアリティもまったく見事。情景描写も簡潔かつ充分かつ異様なリアリティ。ストーリーテリングも上出来だ。こういうイマな本に直木賞をあげないと、そのうち日本レコード大賞みたいに全く権威がなくなっちゃうんじゃないだろうか。
欲を言えばエピローグが弱すぎるかも。こういうエピローグならないほうが良かったのではないだろうかとちょっと思ったけど。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「Portrait in Jazz」

amazon和田誠のイラストに村上春樹の文章でジャズを描く、となれば冬の一晩を楽しく過ごせること請け合いだ。
まず和田誠によるジャズ・プレイヤーのイラストありきで、それに村上春樹がエッセイを乗せていっているのが普通の本と逆。プレイヤーの個性をつかんだ上質のイラストに刺激されて(プレイヤーの人選がまたすばらしい)、実にリズミカルにエッセイがスイングしている。村上春樹はこういう企画ものでも大変丁寧に書き込む。しかも新しい視点を各編ひとつは読者に与えてくれる。やっぱりすごい文筆家なのだなぁ。
というか、ジャズを好きに書く、という場を得て、イキイキしている感じ。すばらしい。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「ソバ屋で憩う」

amazonこの本は72軒のソバ屋を紹介した本だが、いわゆるソバ屋ガイドではない。大人のための憩の空間ガイドなのだ。
ソバを愛する人を無理やり二つに分けると「勢い余って自分で打っちゃう求道オヤジ」と「夕方4時の熱燗&蕎麦オヤジ」に分かれると思うが、この本は後者のためのみに書かれている。ボク自身は蕎麦も打つが求道家ではない。どちらかというと後者なので、なんだか共感しつつ読み終えた。
そんな楽しみを追及する人にはうってつけの本ではないだろうか。対談もよく出来ているし、セレクションも妙に納得がいく(地方の店についてはソバという料理に少し寄りすぎている感があるが)。こういう風に視点を絞ってある本って好きだなぁ。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「インド ミニアチュール幻想」

amazonミニアチュールというインド独特の細密画を御存知ですか?
ボクはこの本を読むまで実はよく知らなかった。こういう絵があってそれをとりまく世界があってこういう有象無象がうごめいている……という「いままで僕の人生とは全く関係なかったこと」が急に生活に入り込んでくるところが本の醍醐味でもあるよね。テレビ番組だと通りすぎてしまうんだけど、本は少なくとも数日はかけるから心まで入り込んでくる。ミニアチュールはこの本によって確実に僕の人生に入ってきた。ものすごく好きになってしまったのだ。買えないまでも展覧会とかないだろうか…。
あ、書評だったですね。えーと、そうなってしまうくらい面白い本(笑)。ちなみにこの本は1997年度の講談社ノンフィクション賞を受賞している。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:アート・舞台
「朽ちた樹々の枝の下で」

amazon特殊な職業の人を題材に展開するいつもの真保節。ちょっと前の著作だが、森林作業員と自衛隊がからむよく出来たサスペンスである。
ただ、ちょっと「火曜サスペンス劇場」的薄っぺらさを感じてしまった。「ダイハード」的アクションと「野性の証明」的シチュエーションはまぁいいとして、ちょっと盛り上げ方がサスペンスしすぎているというか…。なんだかいろんなものを合体させてエンターテイメントにした感じ。題名は妙に文学的だし。
彼のいつもの切れ味に比べると数段落ちる印象。もちろん真保裕一の中では、なのだけど。普通の作家よりずっと面白いけど、彼にしてはちょっと不調、という感じをうけた。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「珍妃の井戸」

amazonアポロン的大傑作「蒼穹の昴」の外伝的位置づけか。「蒼穹の昴」に登場した人物がその人物造形のままにあらわれるので「蒼穹の昴」を読んでいない人にはいまひとつ楽しめないかもしれない。
相変わらずの浅田浪花節で快感に導いてくれる。
が、著者が読者よりも先に泣き叫んでしまうので、読者はちょっとひいてしまうところがある。この頃このパターンが多いかも。「泣かせ」に自信を持ちすぎているのかなぁ。必要以上にビブラートをきかす演歌歌手みたいなところがある。ちょっと惜しい。
物語的には4人の貴族たちが珍妃殺人の調査に乗り出す動機がもうひとつ弱い気がする。
貴族がそんなことするだろうか? 最後までそれに対する違和感が残った。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:歴史小説
「ターン」

amazon「時と人」三部作その2。
前作「スキップ」にあったみずみずしいリアリティがなくなってしまって、なんだかちょっと少女小説のようになってしまったのが残念。赤川次郎を読んでいるような甘ったるさを感じた。そういった本を否定するわけではないが、どうもボクは食い足りなかった。
まったく同じような設定に大名作「リプライ」(ケン・グリムウッド著)があって、この名作と比べるのもアレなのだけど、うーん、もう少しなんとかならなかったのだろうか。ちょっと優しさや繊細さが前面に出すぎてしまって居心地悪い部分があった。もしかしたら若い女性にはこのくらいがちょうどいいかもしれない。ジュブナイル系とかにも。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ファンタジー
「東京エピキュリアン」

amazonフレンチレストランのガイドブックである。
毎年、見田盛夫が審査して星をつけていたのだが、今年は見田盛夫以外の6人の調査員が「調査員であることを秘して調査にあたり、もちろんきちんと料金を支払いました。こうすることによってこそ、調査の公正さ、正確さを保証できると信じているからです」らしい。そう帯に書いてある。いままでは公正・正確ではなかったということでしょうか? なんかボクが主宰しているジバランを意識していると思うのは自意識過剰かな?
内容はというとあまり去年と記述が変わっていないところも多く、覆面で行って本当にこの星の数?と、個人的には疑問に思うレストランも多い。なんだか視点が中途半端なのだ。これなら「フレンチの大御所見田盛夫個人が審査するフレンチガイド」の方がずっと読みたい。
なお、いままでのしっかりした装丁から一転して安っぽく読みにくくなってしまった。これも実用性を狙ったのかな? はっきり言って読む楽しさが減ってしまった。また、いままで載せていた関西の店もカットし東京に絞った。フレンチの東京集中を助長する行為だと思う。この2つに関しては非常に悲しく思っている。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「伊丹由宇のビデオでROCK」

amazon著者には「こだわりの店不親切ガイド」という食べ物系の著書があって、そちらはわりと文体も切り口も好きだったのでこれも買って読んだ。
音楽ビデオのレビューなのだが、例えば村上春樹にあるような独自の目線による解析が少ないし、妙に読者に媚びたようなミーハー文体も混ぜていたりしてなんだか読んでいて落ち着かなかった。ビデオをもとに時代を切るということ自体はユニークなのだからもっとしっかり書き込んで欲しかったと残念に思った。
1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL




