1998年01月
「レディ・ジョーカー」

amazon「かい人二十一面相」に題材を得てその完全犯罪をするどく描き込んでいるが、実はこの本は日本の偽りの成長を支えた歯車達の「疲労」について書いている。働き続け犠牲になり続けた結果こんなに醜劣な社会になってしまったことへの救いようのない「絶望」について書いている。
組織という名の偽善、忠誠という名の暴力、そして成長という名の犠牲……一読絶望の地平が広がる。こんなにも日本という社会の先行きを憂い(というかもう匙を投げている)、日本人の疲弊をリアルに描いた小説には近来お目にかかったことがない。
ラストにいくらか救いのようなものが用意されているが、それは著者が編集者に言われて仕方なく入れたのではないか、と思わせるくらいこの本は著者の悲痛なる叫びで埋め尽くされている。ただ、読者にこうして絶望と無力感を味わわせるだけでいいのか。小説家としてそれだけでいいのか、それは疑問だ。
余談だが舞台はボクが子供時代に過ごした土地、東京の大森山王。地元っ子だからこそわかるのだが、作者の下調べの周到さには舌を巻いた。さすがだなぁ。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「マイ・ラッキー・スターズ」

amazon副題が「わがハリウッド人生の共演者たち」。
映画好きにはたまらない本だ。シャーリー・マクレーンが自らの映画人生について、そして数々の共演者たちについて赤裸々に語り尽くしている。ディーン・マーチンに恋したりロバート・ミッチャムと愛の日々を送ったりした日々のいわゆるゴシップ系のネタも面白いが、映画撮影現場でのもろもろの心の動きなどもまたたまらない臨場感で実によく書けている。彼女特有の「霊魂ネタ」はラストに少し出てくるだけなので、その系統にアレルギーのある人でも大丈夫。
彼女はボクのフェバリット女優。そして彼女の全盛期ごろのハリウッド映画も大好き。そのうえ彼女の「アウト・オン・ザ・リム」以来の霊魂系著作もすべて読んでいる僕としては、実に楽しめる本だった。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「今日からちょっとワイン通」

amazonワイン本乱立。でもろくな本がないよなぁとぼやきながら一応すべてチェックするようにしているが、この本は久しぶりの快著であった。
ワインはおいしいけどこの頃のブームはなんだか違う気がするなぁ、本当にこんなことが大事なのかなぁなどと思っていたもろもろのことがすべてこの本に書いてある。するどくも痛快な切り口と書き味。ワインうんちくのウソがいっぱいわかると同時にワインの本当もいっぱいわかるのだ。著者はサントリーで長くワインに携わっている人。その本音のトークがわかりやすい文体と共に好感が持てる。おすすめ。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「心は孤独な数学者」

amazonわかりやすい文体とワクワクさせる切り口でいつも楽しませてくれる著者(本職は数学者)が3人の天才数学者の生涯をたどる紀行エッセイ。
取り上げたのはニュートンとハミルトンとラマヌジャン。
ニュートン、ハミルトンはともかく、インドの大天才ラマヌジャンについては初めて知った。それを知っただけでも収穫だ。残念ながらボクは数学の美しさを知らないまま数学を諦めた口であるが(しかも早くも中学生のときに)、こういう本をあの頃読んでいたらまた数学に対する見方が変わっていただろうなぁと残念に思う。ただ、惜しむらくは、紀行文としても数学エッセイとしてもそれぞれ突っ込みが中途半端だ。惜しい。
表題もちょっと疑問。数学者の孤独はわかるのだが、それを表題にするのは違うと思う。著者も数学者だけにちょっとナルシスト的な嫌らしさが匂ってしまう。内容がいいだけに残念。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「天涯 ~第一 鳥は舞い光は流れ~」

amazon沢木耕太郎初の写真集。
短文がほんの少しついてはいるが、まぁ写真集と言ってもいいだろう。旅をしながら著者がどういった視線でモノを見ているのかが実によくわかる写真集だ。
天涯=地の果て。常に自分を天涯に置き、自分と世界との距離感を客観的に見つめている彼の写真は実にさめている。雄弁さはまったくなく、どちらかというと寡黙だ。ボクはその寡黙さを愛するが、少々物足りないのも事実。ただ、見終わって「耕太郎ブルー」と言ってもいいような「青」が目に焼きつくのが印象的ではある。これは「第一」となっているので次作が出るのだろうが、それを買うかどうかは微妙。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「エチケット1994」

amazonエチケットというのはフランス語でラベルのこと。つまりワインのボトルについているラベルのことをエチケットというわけ。
この本は、著者がまったくのワイン初心者だった頃の話から、フランスソムリエ協会にもぐり込み、しまいには権威あるワイン試飲会で優勝しそのテーマワインのエチケットに自分の名前が印刷されるに至るまでを書いた、女性ひとりでのフランスワイン修行記なのだ。
どんな著者かわからないままに物語が進むのでなかなかカタルシスが得られにくいのが欠点だが、その素直な目線で書かれたワインのあれやこれやは新鮮で趣すら感じられる。またフランスのシャトーやソムリエ達の描写もおもしろい。雑誌などで脚色されて伝わってくるのとはずいぶん違うまさに生の情報だ。ワイン好きならきっと楽しめる本だろう。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「わからなくなってきました」

amazon名著「牛への道」で初めて知った著者の最新エッセイ集。
といっても97年の5月に出ているのでホントに最新かどうかは知らない。
相変わらずの新鮮きわまりない切り口。でんぐりがえった視点。まわりくどくこだわり続ける文体。それらが期待通りの面白さに昇華され存分に楽しめる。が、そういう面白さを読者側が望み作者がそれをかなえようとすればするほどマンネリに陥っていく。またそう陥りやすい系統の面白さなのだ。IQが高い笑いにありがちなことなのかなぁ?
ファンとしてはいまのままの宮沢節をずっと読み続けたい気持ちと、新しい境地を見いだして欲しい気持ちの板挟みになってしまう。著者にとっても分岐点ではないだろうか。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「うまいもの職人帖」

amazon題名通り、うまいものを作り続けている職人たちを取材したものである。
なかなかいいなと思うのは料理人だけを取り上げたのではないというところ。
例えば別海の牛乳屋さんだったり和歌山の醤油屋さんだったり山形のワイナリーだったり丹波篠山の黒豆だったり南青山の珈琲だったりするのだ。人選は著者の人脈によるのかな。もっとうまいのがありそうだったりするのだが、それはそれ。職人たちがこのくだらない我々消費者たちを見捨てずにこれからも頑張ってくれることを願いたくなるような本だ。なかなかなごめます。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「シャンパンの教え」

amazon前著「ワイン道」はスノッブでくだらない日本のワイン文化を逆手にとった傑作であった。ワインを思いっきりスノッブな位置に祭り上げて的確な効果を出していたのである。
この本は同じ著者がシャンパンについて書いたものだけにかなり期待してしまったが、もともとシャンパン自体ワインよりかなりスノッブであるせいか、前作で使った疑似スノッブ化の効果があまり出ず、ちょっと苦しかったかも。
難しいことではあるが、シャンパンについてはド初心者の読み手(ボク)でも笑えて楽しめる内容までは行き着けなかったようだ。惜しい感じ。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒





