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1997年12月

LV5「イン ザ・ミソスープ」

村上龍著/読売新聞社/1500円

イン ザ・ミソスープ
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圧倒的傑作。
ゴツンと楔を打ちつけられる。ボクたちはなんてリアリティのない時代に生きているのだろう。どうしてこの日本という共同体はこんなに薄っぺらくなってしまったのだろう。どうしてこの共同体は癒しの力を失ってしまったのだろう……。
この小説を読んで初めてそういうことを再確認しだすボクもそうとう不感症なのだが、著者はそれらをごく平易な形で読者に提示してみせてくれる。説明しすぎていると思われるくらいだ。そのうえ、この小説がすごいのは我々が感じているリアリティのなさをしっかり紙の上に定着させたこと。並みの筆力ではこれはできない。もの凄いリアリティで日本で生きる人々のリアリティのなさを描いている。

著者は「汚物処理のようなことを一人でまかされている気分になった」とあとがきで書いているが、まさにそういう実感をボクも持つ。汚物処理というより汚物整理に近いけど。

読み終わったあとしばらく身体がリアリティを失い、ふわ~と浮遊している感覚にボクは襲われた。小説のもつ暴力的なまでの「異化の力」を久々に感じた。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「モンキービジネス」

内山安雄著/講談社/1900円

モンキービジネス
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面白い。いい意味で三文小説だ。日本ではちょっと珍しい。だからうれしい。

フィリピンを舞台にしたビジネスものだが、小難しい理屈は全くなく文句なく楽しめるのだ。
まぁストーリーテリングだけの小説なのだけど、それに撤しているだけあって実に上手に読者を引きずり回してくれ、時間を忘れさせてくれる。なにせ主人公の名前が長流(おさる)だからねぇ。こういう安っぽい大衆小説を待っていたのだなぁ。いや、マジで本当に褒めてるんです。

まぁある意味で著者は開き直っているみたい。
こういう本が売れたりしたらそれ自体がモンキービジネスだということなのだな、きっと。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「防壁」

真保裕一著/講談社/1600円

防壁
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著者には珍しい短編集。
VIPを守るSP、特殊救難隊員、不発弾処理隊員、消防士。危険と隣り合わせで働いている人々を4パターンとりあげ、著者お手のもののストーリーテリングでその事件と内面を追っていく。
それぞれの危険の中に潜む同僚への疑念をモチーフに、内的サスペンスと危険な職業そのものの描写とが上手に絡み合い物語を深くした。前より内面の描写が多くなってきたのがまたうれしい。

でも、でもでもこの人にはゴツゴツした長編をやっぱり期待してしまう。この程度の短編を書ける人は他にもいる。小説筋肉の訓練として短編をやってみたのならいいが、とりあえず長編を期待したい。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「すきやばし次郎 旬を握る」

里見真三著/文藝春秋/2667円

すきやばし次郎 旬を握る
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東京の名店「すきやばし次郎」の鮨職人・小野二郎の寿司語りを季節ごとに収録。美しい写真と共にその握りの技術を徹底的に踏み込んで取材してある。驚くのはわりとカンタンに小野二郎がその技を明かしているところ。もうちょっともったいぶると思ったが非常に素直に語っている。著者との人間関係もあるのだろう。

「すきやばし次郎」へは一回だけ行ったことがある。非常にオーソドックスな握りで安定しているが驚きにちょっと欠ける気がした。この本を読んでその理由がわかった気がする。基本的には高打率狙いの人なのだ。本塁打を狙った大振りはまったくしない。そこらへんを僕は誤解していたようだ。ちょっときっちり通ってみたくなってきたなぁ、すきやばし次郎。貯金しなければ……。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV3「スキップ」

北村薫著/新潮社/1900円

スキップ
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17歳の女子高生が25年の時を超えて42歳の自分にタイムスリップするお話。

25年後、学校教師をしている自分に17歳の自我が入ってしまう設定は非常に新鮮で、その時の主人公の心の動きは非常によく書けていると思う。人生とは時間そのものなんだな、と改めて思わされるし、では時間とはいったい何なのだと胸元に突きつけられる。

だが、17歳の精神にしては主人公はあまりにしっかりしすぎているのがボクは気になった。カタルシスを感じる寸前でしらけてしまうのはそこらへんが原因だったと思う。惜しいなぁ。ケン・グリムウッドの名作「リプレイ」と題材が似ているが、主人公の内面の揺らぎをもう少し上手に膨らませれば、あれに勝てるほどのものも出来たと思う。なんだか惜しい本だ。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ファンタジー

LV3「若い読者のための短編小説案内」

村上春樹著/文藝春秋/1238円

若い読者のための短編小説案内
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アメリカの大学での著者の授業そのままに構成してある日本短編小説ゼミナール。

テーマに指定した短編に対する著者の真摯なる態度と丁寧な読み込みは驚嘆に値するしこちらも背筋が伸びる。
が、もしできうるならばそれらの短編も一緒に収録して欲しかったと思うのだ。全然読んだことのない第三の新人と呼ばれる作家達の短編。一般書店では手に入りにくいのが多いので、熱意があれば図書館にでも行けばいいのだろうが、なかなかそうは時間がない人が多いから…。

いや、一般化するのは卑怯か。そう、僕はそれだけの努力をしてまでこれらのテキストとなった短編を探し出して読むパワーがない。同時収録してくれたらなんて良かっただろう、と夢想してしまった怠け者なのでした。だってテーマ本を読まないとこの本の面白さは半減以下なのだもの。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論

LV3「月のしずく」

浅田次郎著/文藝春秋/1429円

月のしずく
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小説が心のマッサージであるならば、こういう「泣かせ」狙いは決して間違っていない。日々の生活にほんの少し潤いを与えてくれる。忘れそうになっていた何かを取り戻させてくれる。

だが、本来それはスパイスとして効いてくるべきもので、その狙いがモロに見えてくると鼻につくものだ。泣かしのド演歌が聞いていて辛いのと一緒。狙いはわかるが読んでいて辛い。「鉄道員」でこの系統は打ち止めして欲しかった。

いい話は多いのである。もう少し構成を淡白に、さらりと書いてなおかつ泣かせて欲しい。こういう書き方をしていると著者はここで終わってしまう気がする。そんなにヤワではないとは思うが、でも、ちょっと心配。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「ソラミタコトカ」

山本ちず著/フォレスト出版/952円

ソラミタコトカ―会社つぶれてしもたがな!
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副題「会社つぶれてしもたがな!」。
著者のホームページで連載していた抱腹絶倒の物語を出版したものだ。HP連載当時からボクはたまたま見つけて愛読していたので本屋で見つけたときはオオ!っと喜び、お祝いの気持ちも込めて購入した。内容はだいたい知っていたのだがHP(横書き・モニター上)で読むのと紙に刷ったもの(縦書き・冊子上)を読むのとで同じ内容でどう違うかというのも興味があったからだ。

結果としては本だといまいち笑えなかった。なんか本にすると手軽に前後のページに行き来できるせいか、HPを読んでいるときの「秘密のものを読んでいるようなワクワク感」がもうひとつない、というのもあるかもしれない。とにかく本にするならもう少し内容を突っ込んで厚みのあるものにするべきだったかも。題材がとてもいいし、HPではマジで抱腹絶倒だっただけに惜しまれる。

ちなみに、HPの内容を本にしたのは、世の中でこの本が一番早かったのではないだろうか。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV1「結婚恐怖」

小林信彦著/新潮社/1200円

結婚恐怖
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題名がいいし、何と言っても小林信彦だから即買って読んだ。
でも、期待が大きすぎたのか、ちょっと拍子抜けだった。
こういう内容ならこんなスキャンダラスな題はいらないかもしれないとちょっと思った。結婚という生活形態についての突っ込みも中途半端だし(もっと著者特有の視点で突っ込んでくれるのかと思った)、サスペンスとしても盛り上がりに欠ける。著者ならではの切り口、展開、余韻がない。
小林信彦に読者はもっともっとクレバーでアナーキーなものを期待する。この人らしくない長編小説だった印象。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「新しい歌をうたえ」

鈴木光司著/新潮社/1300円

新しい歌をうたえ
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「リング」「らせん」の作者の初エッセイ。
エッセイを書くのに必要な才能として「自慢するのが上手であること」があると思う。嫌味にならず反感も買わず上手に自慢すること……たとえば玉村豊男や林望などはたいへん上手である。

この著者ははっきり言ってわりと下手。内容は悪くない。つぶりたい目を無理やりこじ開けるような強烈なメッセージも入っている。そのうえ題名もなかなかいい(とても共感する)。なのに、自慢下手なせいで全体がちょっと微妙な空気になってしまった。ちょっと残念かも。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「ミジンコ道楽」

坂田明著/講談社/1500円

ミジンコ道楽―その哲学と実践
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副題は「その哲学と実践」。
ミジンコに魅入られて果てはモンゴル、ヒマラヤまで行ってしまったミュージシャン坂田明のお話。
題材よし。哲学よし。実践も良し。だけどあとは全部もうひとつだった。「である」と「ですます」が混在する文体は読みにくくって閉口したし、随所にちりばめたつもりのギャグも空振りが多い。ボクは著者の演奏は生で何回も見ているしお人柄も非常に好きだ。だが、演奏に見られる常識にとらわれない縦横無尽さが文にはなく、本人の魅力もイマイチ紙に定着していない。なんだかもったいなかったのである。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:雑学・その他 , 科学 , 哲学・精神世界

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