1997年05月
「千尋の闇」

amazon素晴しい。傑作だ。小説の魅力を満喫できる。映画ではこうはいかない。
一読巻置くあたわず。寝不足になること受け合い。騙りにあふれたストーリーテリングの妙。キャラクターの見事な立ち上がり方。ストーリーテリングだけに終わらない美しい叙情性。哲学。トレヴェニアンを読んだときのような圧倒的な諦観に包まれる。この本は著者の処女作だが他の著作も急いで読みたい。
敢えて言えば、邦題に納得がいかないかも。原題は「Past Caring」。この作品にこの邦題でいいのだろうか。
これについては文庫版の訳者あとがきで説明がされているがいまひとつ納得がいかない部分がある。しかも千尋を「ちいろ」と読ませるという狙いもどうなのだろう? 個人的には少し小難しくしすぎな気がした。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「リング」

amazon一言。怖い。
ホラー小説とは知らず(角川ホラー文庫と書いてあるのにねぇ)に読み始めた。ホラーは基本的に嫌いだからホラーと知っていたら読まなかった。
だから僕がホラーになれていないというせいもあるとは思うのだけど、本当に怖かった。目の付けどころ。構成。盛り上げ。謎。推理。展開。どれをとっても見事な完成度。著者のずいぶん前の作品だが、ずいぶん前に「ぜひ読んで」とメールが来たのでやっと読んだ。読んでよかった。でも出張中にホテルでひとりで読むもんではありませんね。あぁ怖かった。怖がりなんです。ボク。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ホラー
「アンダーグラウンド」

amazon地下鉄サリン事件の被害者達をたんねんに拾いだしてまとめた分厚いインタビュー集。先月の「AV女優」に似た構成。もともとこういう構成の本は好きだ。リアリティが違う。
作家村上春樹は知る人ぞ知るインタビューの名手で前にジョン・アービングをインタビューしたものを読んで舌を巻いたことがある。
今回も簡潔に要点をついている。が、読んでいるあいだ中「何故この著者が?」という思いが離れなかった。それは最後に著者自身の言葉で語られてはいるのだが、答えにはなっていない気がする。
地下や井戸を重要モチーフにする著者にとって「その日東京の地下で何が起こったのか」は興味があるところなのだろうが、ジャーナリズムでも小説でもない新しいカタチが著者によってここで現われるのではないか、と期待した読者は肩すかしを食う。
ボクは「東京の地下で何が起きたか」よりもインタビューをすべて終えた後「村上春樹に何が起きたか」が読みたかった。労作だが力作ではない。今後の著者の栄養にはなっただろうが。
ただし、インタビュー内容は衿を正されるような迫力がある。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ノンフィクション
「プリズンホテル」「プリズンホテル秋」「プリズンホテル冬」「プリズンホテル春」

amazonこれはシリーズだが、それぞれ異なった作品ゆえ別々に取り上げるべきではある。がそうすると書評のしようもないのでまとめて取り上げよう。
結論から言うと「プリズンホテル」は傑作。
後にいくにしたがって普通になっていく印象だ。ただ1作目が傑作だから後をどうしても読みたくなってしまう。
この著者、泣かしは絶品だが、笑わしはへたくそである(泣かしに比べると、だが)。このシリーズはばかばかしい笑わしの要素が強いのでそこらへんが際立ってしまった。これで笑わしのコツでも掴んだ日には浅田次郎は大化けするかも。それにしても極道書かせたら日本一だねぇ。見事だ。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「ユルスナールの靴」

amazonこの人の本は必ず読んでいるが、今回はちょっと肩の力が入りすぎているようだった。
フランスを代表する作家ユルスナールの人生を縦軸に、著者の人生を横軸に、見事に紡ぎ上げてはいるのだが、思い入れが強すぎるのかそれともその構成に縛られ過ぎたのか、ちょっと全体に硬直して感じられる。静謐な文体は相変わらずだけど。
ちなみに出だしの一文は名文でした。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「蛇を踏む」

amazon「小説における異化」のお手本のような作品。
去年の芥川賞をもらっているが、さもありなん、審査員はこういうの好きだろうなぁと思わせる。完成度も高い。
女性の深層心理をしっかり異化して構成していく表題作はうまく手法がはまっていて素晴しい。
読んだとたん読者の心のなかにも蛇が住み込んでしまう。が並録の作品はハテナ。もともと実験的な匂いのする作家であるが、こちらは実験がすぎたような印象。こういう人が肩の力が抜けると実に面白いのを書くのだろうなぁ。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「ジャズと生きる」

amazon「世界のアキヨシ」の自伝。
日本で不当に評価されているこの著者の自伝は前から読みたかった。
文章の方は音楽と違い淡々としていてリズム感もスイング感もないが、その分だけ絞り出すような迫力が出てきていている。ただ時系列的な混乱、唐突に入ってくるエピソード、ジャズへの中途半端な言及、など、読んでいて辛いところはいっぱいある。そこらへんがもう少しこなれていればぐっと密度が濃厚になりいい自伝となったのに悔やまれる。
彼女のビッグバンドジャズは「ミナマタ」などのテーマ性の強さで敬遠していたがこれを機にまた聴いてみたい。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「古い骨」

amazon古典的な推理小説。
現代のシャーロック・ホームズとでも言おうか。骨が専門の学者がワトソン役を従えて難事件に挑んでいく。
トリックは新鮮味がないしキャラクターも特に魅力的という訳ではないのに何故か人を掴んで離さない魅力がこの小説にはある。トリックは物語の途中で読めてしまう。それでもなんか魅力がある。不思議な推理小説。時間つぶしには最適。アメリカ探偵作家クラブ賞をもらっている。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「ニューヨーク遥かに」

amazon小説。
この人はニューヨークに思い入れが強すぎるのだろう。いままで何冊もマンハッタンについてエッセイを書いている。
それはそれぞれ味があるものだ。でも今回のように小説となると途端に味と勢いをなくしてしまい凡庸になってしまう。マンハッタンを作家の視点でもっと消化してから書いて欲しい。ガイドブックがわりになって楽しいし、ニューヨークをよく知っている人にとっては絵も浮かんでうれしいが、小説としてはちょっと弱い一作。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「マンハッタン・ルールブック」

amazon電通総研の社員が描いたニューヨーク。
新しい視点を期待したが特に目新しいものはなかったのが残念。マンハッタンってこんなところよ、と解説しつつ論を展開していくのだが、エピソードがそれぞれ普通の出来事ゆえ解説もどうしても普通になってしまう。いまやニューヨークは既知の人が多い時代。もう少し突っ込んだ分析とか体験を書いてほしかった。
ガイドブックの域を出ない印象。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:旅




