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1997年02月

LV5「少年H」

妹尾河童著/講談社/1500円

少年H (上巻)
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独特の細密イラストレーションで知られる著者初の自伝小説。少年がHするお話ではないですハイ。

上下二巻だが全く飽きさせない展開でものすごく面白い。
好奇心の塊(「河童が覗いた」シリーズの、あの脅威の好奇心!)である著者のルーツがしっかりわかる自伝なのだが、それよりもこの本は日本がどのように戦争に傾いていったか、国民はどのように戦時下を生きていったか、そしてどのように終戦を迎えたか、を神戸に住む子供の目で詳しく平明に綴った貴重な記録文学でもあるのだ。それをあの細密画のような描写で書き込んでいってしっかりエンターテイメントしているんだから、スゴイ! 総ルビというのも見識だし1月17日初版というのもうれしい。よし、ここで予言しよう。この本は「NHK朝の連続TV小説」になる!

本屋で上巻の扉を開けてみてください。そこに少年時代の河童さんがいるのだけど、この写真を見るだけで「この本は面白そう」という気になる。いやぁすごくいい顔しているのですよ、これが。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 児童・ティーンズ

LV5「海は涸いていた」

白川道著/新潮社/1733円

海は涸いていた
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日本産ハードボイルドのレベルアップを実感させられる長編。
著者2作目らしいが、ベテランのような筆力と構成力で一気に読ませ、ラストでは不覚にも泣いてしまった。

ストーリーはまぁ一種の「砂の器」ではあるのだが、語り口が上手でベタベタはしていない。
ヤクザ側と刑事側の双方の視点に立って、徹底的にドライに描かれている。ただある主要人物(女)の描き込みが少々足りないし(硬質な文体なので仕方ない部分もあるが)、ペルーの話も胸に響いてこない。こういう細部の書き込みをして、もう3割くらい長い物語にしても良かったと思う。リアリティは充分だしエンターテイメントも充分。だから長くても持つと思う。

とにかく、ボクはすばらしいと思った。おすすめ。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「レキシントンの幽霊」

村上春樹著/文藝春秋

レキシントンの幽霊
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村上春樹久々の短編集。全部で7編からなる。

この人の創作力はずば抜けているな、と今回改めて思った。
文体も一見羽毛のように軽快に見えるが、読み始めると1文1文しっかり噛みしめざるを得ない迫力を持っている。こんなに1文1文立ち上がってくる作家は他にカーヴァーくらいか。なんで同じ写植なのに他の作家のは立ち上がらないで、この人たちのは立ち上がるのだろう。不思議すぎる。まぁそれを「文体」と呼ぶのだが。

中では「氷男」「トニー滝谷」「めくらやなぎと、眠る女」がボクは好き。どれも「クロニクル」以前に書いたものらしいが、とても力がある。
村上春樹を読むとしばらくぼんやりしてしまう。何かを失ったような気がしてしまうのだ。こんな作家も珍しい。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「夢の靴職人 -フェラガモ自伝-」

サルヴァトーレ・フェラガモ著/堀江瑠璃子訳/文藝春秋/2900円

夢の靴職人―フェラガモ自伝
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あんまりフェラガモとは縁がなかったんだけど、この前ニューヨークではじめて買った。ちょっと甲が低いスマートな作り。でも別に感心はしなかったけど…(男物だからか?)

この本を読むと、しかし、フェラガモの靴が無性に欲しくなる。
なんにせよ1代で財を築いた人っていうのはすごいものだが、この人もたいていすごい。そして本当の職人だったのだなぁ。フェラガモ=ミーハーブランドと思っていたボクにとってとても新鮮だった。特に「足を守る」ことにかける情熱がひしひしと伝わってくる。靴はフェラガモが最高、と読み終わる頃にはしっかり洗脳されること請け合い。余計な出費をしたくない人は読まない方がいいかもしれない。

まぁでも普段疑問に感じたことがないこと、すなわち「靴とは何か」という問題点を提起されるだけでも意味のある本だ。
この疑問はこの本で氷解するだろう。そういう意味ですごく役に立った。自伝という意味でもなかなかサジェスチョンに富んでいる。ただ怖いのはこれもフェラガモのふか~い陰謀で、顧客増やしの片棒を担がされているのではということだけ…。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV5「うつろな男」

ダン・シモンズ著/内田昌之訳/扶桑社/1800円

うつろな男
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大傑作「ハイペリオン」シリーズに続くダン・シモンズの新作。

脅威の書き手ゆえ期待満々で迎え撃ったが、裏切られなかった。
まぁさすがに「ハイペリオン」の雄大な構築には全然及ばないまでも、迫真のリアリティで読者を引っ張るのは見事。このリアリティさは何かに似ているな、と考えたらあれ、H.F.セイントの「透明人間告白」に似ている。あっちが透明人間のリアリティならこっちはテレパスのリアリティ。どっちも素晴らしい想像力と表現力だ。

1人のテレパス(テレパシスト)の苦難の物語なのだが「ハイペリオン」を思わせるようなラストで救われる。ただこのラストへ持っていくための理屈が少々わかりにくいのが難といえば難。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:SF

LV3「はじめての夜・二度目の夜・最後の夜」

村上龍著/集英社/1400円

はじめての夜 二度目の夜 最後の夜
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「料理小説」と銘打っている。ボクも好きなフレンチレストラン、長崎はハウステンボスにある「エリタージュ」を舞台にして主人公(著者がモデル)と幼馴染みの女性の3つの夜を描いている。おのおのの夜がフルコースの経過と共に描かれていて好きな人にはたまらないだろう。

ただ、なんとなくだが、「エリタージュを舞台に小説書くよ」と上柿元シェフと約束してしまったから無理矢理ストーリーを広げたみたいな感じがある(あくまで想像)。著者のエリタージュ好きは知る人には有名で毎月のように通っているらしいし、故郷の佐世保は目と鼻の先だし。もしかしたらハウステンボスの機関誌とかに発表したものなのかもしれない。

そういう意味でちょっと後付けっぽいストーリーなのだが、そこは力技が得意な著者ゆえなかなか素晴らしい。細部に著者の「生き方のスタイル」についての本音が散りばめられているのが面白い。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 食・酒

LV3「時の旅人」

ジャック・フィニィ著/浅倉久志訳/角川書店

時の旅人
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タイムトラベルの古典とも言える力作「ふりだしに戻る」の25年ぶりの続編にしてフィニィの遺作。フィニィでは圧倒的に「盗まれた街」が好き。あ、「夜の冒険者」もまぁまぁ。

「ふりだしに戻る」も嫌いではないけれどちょっと食い足りない感じが残ったのだが、この続編は残念ながらもっと食い足りない。
細部の破綻が気になって仕方がないのだ。が、ストーリー展開の妙と写真入りの巧妙な構成、そして1910年代のニューヨークの描写の素晴らしさも相まってわりと忘れ難い印象が残った本だ。特にヴォードヴィル芸人達とのエピソードやその前後の謎解きなどは好き。
フィニィのファンなら必読。ちなみに前作を読んでいなくてもちゃんと前作の粗筋が書いてあるから大丈夫。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「ヨーロッパ人の奇妙なしぐさ」

ピーター・コレット著/高橋健次訳/草思社/2300円

ヨーロッパ人の奇妙なしぐさ
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わりと話題になった本。とにかくヨーロッパの国々をそのしぐさや習慣で比較しそれを文化論・哲学まで引きずって行く力技だから、興味がある方にはとてつもなく魅力的な本だと思う。

しぐさの比較と言っても手招きの仕方から清潔度比較といった一般的なものから「なぜフランス人は肩をすくめると口がへの時になるのか」「なぜ何もしていないときにイギリス人はおちょぼ口になるのか」「なぜフィンランド人は自分が無言でいることに気が付かないのか」などを、豊富なエピソードを添えて検討するのだから面白くないはずがない。

でもちょっと読みにくいのが難かも。それとボクはヨーロッパ経験が少ないから読んでいて実感がわかない。少なくともヨーロッパに1年くらい住んだことがある人じゃないと通り一遍の知的快感で終わってしまう本だ。別にそれでもいいけど。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 雑学・その他

LV2「季節の記憶」

保坂和志著/講談社/1600円

季節の記憶
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前作「この人の閾」で芥川賞をとった著者のいわゆる受賞第1作。前作はあまりボクには合わなかったが、1作で判断するのも何なので読んだ。意外と悪くはなかった。

ただ、いくつかやはり好きじゃない部分はある。構成の主要要素である会話にリアリティがあまりない。終始だらだらと普通の人が言いそうもないことを会話し続ける。夏目漱石の小説に出てくるような会話(古臭い物言いという意味でなく内容が)なのだ。この著者はイイタイコトを「しゃべり」で表現しようとしすぎる気がする。
全体に趣味はいいし、言っている内容はよい。だからもう少しエンターテイメントがあるとよりいいと思うのだけど。
なお「季節の記憶」のホームページがあるそうだ。筆者と一緒に実際に小説に出てきた場面を歩ける。そういうのってイイね。http://www.iijnet.or.jp/SHONAN-NET-134/Hosaka/へどうぞ。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「海風通信-カモガワ開拓日記-」

村山由佳著/集英社/1900円

海風通信―カモガワ開拓日記
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千葉県の鴨川に住む著者の毎日を綴ったエッセイ。
写真やイラスト(著者)もふんだんできれいな本だが、いわゆる「田舎生活ってこんなに素晴らしいよ」本の域をそんなに出ていないのが残念。ちょっと全体に甘ったるくファンシーなのもボクの趣味ではない。わりと地に足のついた生活をしているのだからもっと浮つかずに書いて欲しかったな。それだけの力量がある著者だと思うし。
ちなみに「手作り味噌の作り方」はとても参考になった。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「ぼくが料理人になったわけ」

小林充著/TBSブリタニカ/1800円

ぼくが料理人になったわけ
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月刊「料理王国」の連載の単行本化。

道場六三郎、高橋徳男、井上旭、中村勝宏、片岡護など一流(と言われる)料理人を13人取り上げ、その半生をインタビューして仕上げてある。が、全体を通して散漫な印象はぬぐえない。せっかくこれだけの人達をインタビューしたのだから著者オリジナルの視点で構成し直して料理人像を浮き彫りにして欲しかった。この頃どこにでも転がっている料理人賛歌の評伝で終わってしまっている気がする。
もちろん好きな人には資料的な価値があるのだが。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , 自伝・評伝

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