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1996年12月

LV5「血脈の火 ー流転の海〈第3部〉」

宮本輝著/新潮社/2100円

血脈の火―流転の海〈第3部〉
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戦後最高の大河小説「流転の海」の第3部。
第1部「流転の海」の連載が昭和57年というから3巻書くのに14年かかったことになる。第5部まであるらしいから、ボクたちはまさにこの本と生きていくことになる。幸せなことだ。

あらかた筋を忘れてしまっていたので「流転の海」「地の星」と読み返してからこの本に臨んだ。
シリーズを一気に読んでみて思うのだが、この本の主題はまさに「人間の途方もなさ」だと思う。もちろんこれだけの長編ゆえ、他にもいっぱい要素は入ってきている。人間の強さや勇気を歌い上げてもいるが何より著者が書きたかったのは人間そのもの。「人間ちゅうのは、底無し沼じゃのう」という松坂熊吾の台詞があったがまさにこれこそ主題だと思う。

物語は大阪に帰ってきて「泥の河」などを彷彿とさせる宮本輝ワールドが展開するのだが、第1部第2部に比べて筆致が静かになってきたのと、説教くさくなってきたのが気にかかる。14年も書いているから文体も変化するだろうし言いたいことも変わってくるだろうが、なんとかこの緊張感を持続させてがんばって欲しいと思うなぁ。

1996年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「江戸前の男 ―春風亭柳朝一代記」

吉川潮著/新潮社/1900円

江戸前の男―春風亭柳朝一代記
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副題通り、春風亭柳朝の一代記である。

江戸っ子芸人の生涯を描いた傑作だ。
小朝の師匠である柳朝はもう巷から忘れ去られていてテープなんかもあんまり出ていないようだが、読んでいるとどうしても彼の気っ風のいい落語を聞きたくなってくる。いや面白い本である。含羞と見栄と野暮嫌い。そんな天然記念物みたいな江戸っ子のお話を皆さんもぜひ読んでおくんなさい。
ただ後半、著者はちょっと息切れしたのかな。かなり柳朝に思い入れてしまった読者たちにとってはかなり物足りない描写だった。

1996年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , アート・舞台

LV5「ナイチンゲールは夜に歌う」

ジョン・クロウリー著/浅倉久志訳/早川書房/2000円

ナイチンゲールは夜に歌う
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香り高いSF叙事詩&幻想純文学(ジャンルミックス小説と呼ぶらしい)が4編。

この著者の魅力はその文体にある。
ル・グインもヴォネガットもその魅惑の文体で1行目から読者を惹きつけて離さないが、この人もそう。特に表題作の見事さは文体の勝利だろう(訳文だから訳者がうまい、ということもいえる)。どんなに先を急ぐ読者でもゆっくり読まざるを得ない美しい文章だ。

4編のうちのひとつ「時の偉業」で世界幻想文学大賞ノヴェラ部門をとっている。
でもね、ボクは美しい表題作が好き。冬の静かな夜にうってつけの本。

1996年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , SF

LV4「ヴァージン・ビューティ」

斎藤綾子著/新潮社/1350円

ヴァージン・ビューティ
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皆さんは斎藤綾子を読んだことがあるだろうか。
「愛より速く」「ルビーフルーツ」「結核病棟物語」……そして久しぶりの新作がこれ、である。
まだ読んでない? んー、読まんと。最初に読むなら「愛より速く」がいいと思う。

彼女の本は読む度に呆然とさせてくれるが、今回はそのインパクトがちょっと弱かったのが残念。
でも相変わらず乾いた筆致で性の深淵を覗かせてくれます。同じ覗かすにしても村上龍のは「性(さが)」とか「業」を覗かせようとするが、彼女のはもっと表面的でさらっとしている。「それでいいじゃない」っていう開き直ったところがより好ましい。

1996年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「自走式漂流記 1944~1996」

椎名誠著/新潮文庫/1000円

自走式漂流記―1944~1996
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小説新潮・臨時増刊「椎名誠の増刊号」を焼き直した文庫オリジナル企画。

編集者としての彼、作家としての彼、監督としての彼、友人としての彼……いろんな角度からシーナを解剖していて、ファンには楽しい一冊だ。
興味深いのは19歳のときに創刊した「幕張ジャーナル」がそのまま載っていたり、高校3年のときに書いた小説(処女作?)が載っていたりすること。特に後者。「赤い斑点のまむしの話」という題名のそれは、並々ならぬ文章力をうかがわせる力作。「完全年譜」や「全自作を語る」など資料的にも良く出来ている。

1996年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV1「麦酒主義の構造とその応用力学」

椎名誠著/集英社/1200円

麦酒主義の構造とその応用力学
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シーナによる短編12編。
相変わらずの椎名節だが、そもそも本としての求心力がないので散漫でバラバラ。読んでいてつらい部分があった。

小説を書きつつだんだんエッセイ化していくみたいな構成(またはその逆)が多い。そういう流れは独特だし面白いのだけど、やっぱりまとまりという点で欠ける。ちょっとどうかなぁというレベルの作品も中にまじっているし。筆力も魅力も群を抜いていると思うからこそ、ある程度レベルを揃えて出して欲しいと個人的には思う。

1996年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「人生途中対談」

東海林さだお・椎名誠著/文藝春秋/1100円

人生途中対談
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著者それぞれはすごく面白いのだが、こうして対談をまとめてみると個性を消しあっている部分があって惜しい感じ。
たぶん対談のその場でライブで聞いていたら抱腹絶倒なのだろうが、その味が紙に定着していない。本の雑誌社での発作的座談会における沢野氏みたいな潤滑油が欲しいのである。椎名氏はたぶん東海林氏に対して尊敬的なる緊張をしていてちょっと言動がぎこちない。やはり沢野氏みたいに上から押さえつけたくなる人(親分的態度をとれる相手)の存在がないと彼の持ち味は生きてこない気がする。そしてそれを東海林氏も受けきっていない。お互いに少しずつ遠慮している。残念。

1996年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談

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