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LV5「Gファイル ー長嶋茂雄と黒衣の参謀」

武田 頼政著/文藝春秋/2000円

Gファイル―長嶋茂雄と黒衣の参謀
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TVで移籍会見する日ハムの小笠原道大選手に向かって「よりによって巨人に行くな〜!」と叫んでしまうのは、今年になって妙に北海道と縁が深くなったからだけではない。このところの巨人に嫌気がさしているからでもない。どうせなら阪神に来て〜というファン心理でもない。この本を読んだからである。
まぁどのチームに行っても実はそんなに変わらないのかもしれないが、読売ジャイアンツという巨大泥船にわざわざ選んで乗り込むことはない。このチームはどうやっても変わらない。変われない。いったん浮かび上がるかもしれないが、また必ず沈んでゆく。この本に書かれていることが本当ならば。

この本は、アメリカ仕込みの最新スポーツ理論をもとに(ちょっと「マネー・ボール」を思い出した)、長嶋巨人のメークミラクルを長嶋茂雄の陰の参謀として完璧に演出した、河田弘道という人間のノンフィクションである。彼が「誰にも知られていない長嶋茂雄の陰の参謀」として在職した期間(94〜97年)に実際に長嶋監督(当時)に指示・提供した5000ページにも及ぶ膨大な「G FILE」を元に書き起こした労作だ。

長嶋茂雄の快活・苦悩・成功の裏側・実像、 選手・他チーム監督達の素顔、 優勝の裏側・確執・ドタバタ、 選手トレードの暗闇、 読売ジャイアンツという伏魔殿の裏の裏、 今後も変われないであろう組織の疲弊と老害、などを粘っこい筆致で活写している。というか、読み終わってまず感じたのは、日本の組織のどうしようもない閉塞感みたいなもの。結局改革に挫折していく河田弘道の絶望感がもう少し濃く描かれていれば、もっと普遍的なテーマになっていたかもしれない。

長嶋ファンは一読ちょっと呆然とするだろう。
でもボクは彼が「常勝軍団として勝ちにこだわる監督」から「日本中で愛される長嶋茂雄」を演ずる方に方向転換&妥協したことを責められない。家族よりも自分を取ったことも責められない。天性の性格、しがみつき、義理など、いろんな要素があるとは思うが、あえてその役目を負った部分もあると思うのだ。それはそれで立派なことである。日本は彼の笑顔でずいぶん救われても来たし。

勝つための冷徹なサイエンティストとしての河田と、娯楽&人気商売&自分を優先したエンターティナーとしての長嶋。彼らふたりが完璧な二人三脚で歩いていたこと自体が奇跡であり、その後の決別は必然だったのだろうと思う。ま、そこに渡邉恒雄氏が絡んでくるので大変複雑な様相を呈すのだが。

個人的にはPNFという最新スポーツ医科学(手技)が興味深かった。PNFを受けた日の松井秀喜は実に7割の打率を残したという。いまもアメリカで受けているかなぁ…。

2006年11月23日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , スポーツ

LV4「新・勉強の常識」

ストロング宮迫&タイガー山中著/PHP研究所/1365円

新・勉強の常識―成績がイイ子の親だけが知っている!
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副題が「成績がイイ子の親だけが知っている!」で、帯は「親は絶対に勉強を教えてはいけない!」。受験生を持つ親は必読な本である。

うちも中学受験を一年後に控え、毎晩のように妻と娘の勉強バトルが繰り広げられているわけだが(ボクは仲裁役)、その妻がさっそく読んで感動していた。「わたし、いけないことばかりしていた」と反省しきり。すごく役に立ったようである。あれ以来バトルが激減した(笑)。これだけでも著者の方々に感謝しなければならない。

で、遅ればせながら、ボクもじっくり読んでみた。
なるほど、つまりどう子供を乗せちゃうか、ということですね。あとは親の勘違いの是正。親は中途半端に自分の体験を子供にかぶせるからなぁ。しかも視野狭く。
というか、勉強って本来楽しいもののはず、という当たり前のことを思い出させてもらった気がする。大人になると勉強ってそれなりに楽しいんだけど、子供のときはなぜあんなに辛かったのか。その答えが書いてある。な〜んだ、楽しく出来そうじゃん。そういう親の意識改革にとても役立つ本である。

2006年01月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉

LV2「蕎麦の蘊蓄」

太野祺郎著/講談社+α新書/780円

蕎麦の蘊蓄―五味を超える美味しさの条件
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蕎麦のあれこれについて、コンパクトにわかりやすくまとめてあるいい本である。様々な要素をまとめてあるので既知のこともたくさん出てくるが、ある意味「蕎麦の蘊蓄網羅本」なので仕方がないだろう。コンパクトに網羅してある分、幾分内容が薄くなっているが、まぁでもこれ以上の知識は素人にはいらないだろうなぁ。程のよいマニアックぶり。選定してある蕎麦店が少し偏っているかなとも思うが、まぁそこからは読者の好みということで。
ただ、蕎麦喰いや蕎麦打ちってどうしても求道者的イメージが出てしまうのがイヤなのだが、どうもその辺の匂いがこの本からもしてくるのが個人的にはなんだかなな感じ。蕎麦ってどうしてそうなるのだろう。うどんはそうならないのに。もう少し肩の力を抜いてくれ、とちょっと思った。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV4「コットンが好き」

高峰秀子著/文春文庫/724円

コットンが好き
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高峰秀子のエッセイを読んだことある人はみんな、彼女が『捨てる人』であることを知っている。
身辺を整理しすぎるほど整理して、シンプルに生きていることを知っている。その中で彼女が捨てていない(捨てられない)小物たちを集めて、その写真とともに小文にしているのがこの本である。指輪、はんこ、飾り棚、腕時計、風呂敷、台本……著者が思い出とともにそれらを語るわけ。著者ファンなら見逃せないでしょ?

とても滋味溢れた名文揃い。
実は1983年に出された単行本の復刻版文庫なのだが、2002年(ほぼ現在)に書かれた「あと書き」も瑞々しい。彼女は鴨長明みたいな暮らしと精神性に憧れているようだが、ボクにとっては彼女の生き方こそ憧れだ。女優業のときの栄光を捨て、身丈にあったシンプルな暮らしを心がけ、人の評価などどこ吹く風と自分の生き方を貫いている潔さ……。人気稼業にいた人で、歳取ってもなかなか「人気の魔力」から逃れられない人がいるが(人気稼業ではなくても、他人の評価で自分の価値を決めている人は多い)、そこともっとも離れたところで生きている彼女。見習いたし。

2003年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「犬を飼う」

谷口ジロー著/小学館文庫/457円

犬を飼う
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実は期待が大きすぎた部分がある。第37回小学館漫画賞審査委員特別賞受賞のマンガなのだ。で、評判も高く、涙なしには読めないという噂を聞いていたので、イヤでも期待高まるじゃんねぇ。
表題作は短編。愛犬の最期を看取る物語で、絵はとても丁寧で瑞々しいもの。人間の老期と重ね合わせつつ、じっくり読ませる。淡々として味わい深いのだが、それでも評判ほどではないかなぁと思った。ボクが感性不足なのかしら。

2003年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:漫画

LV5「なにも見ていない」

ダニエル・アラス著/宮下志朗訳/白水社/2600円

なにも見ていない―名画をめぐる六つの冒険
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副題は「名画をめぐる六つの冒険」。
帯は「いまもっとも注目される美術史家によるスリリングなエッセイ。文献学的な方法論を越えた新しい絵画解読法を提唱する」。

うはは。文献学とか解読法とか言われるとちょい難しい専門書的な感じだ。でも絵画素人のボクでも楽しく読めたから大丈夫。なにが楽しいって「見る」ということの本質がここに書かれているから。
絵を見るのに美術史的知識もなにもいらない。そういうのを持っている人は結局「なにも見ていない」ことが多いのだ。よーくこの絵を見てご覧? ほら、こんな風に画家は描いているんだ。美術史的にはこう解釈されているが、そんなのなにも見ていない。先入観を捨ててよーく見てご覧?……簡単に言えばこういう感じ。

ボクたちはどんなことについても目では見ず脳で見ることが多い。
道端のタンポポでも「あ、タンポポか」とわかった時点で見ることをやめてしまう。もう見知らぬ花としてよーく見るという行動は起こさない。絵もいっしょ。「あ、受胎告知か」とわかった時点で見ることをやめてしまう。見ているようでなにも見なくなる。でも、そんなことではなくてちゃんと見てみる。遠近やリアリティや絵の端の風景までよーく見てみる。大画家が描いた絵でもおかしいところはおかしいと思ってみる。そうするとこんなにいろいろ見えてくる。

実はこういう態度自体が人生を楽しむコツというか真髄だったりすると個人的には思っているので、この本は意義深かった。文体が妙に気取っていて、いらない工夫とかをいろいろしているのが読みづらいが、わからないところはさっと飛ばしてでも読む価値あり。実に示唆に富んでいる。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 評論

LV5「十一月の扉」

高楼方子著/リブリオ出版/1900円

十一月の扉
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著者は「たかどのほうこ」と読む。帯に「小学校高学年から」と書いてあるしルビも多いし内容も女子中学生の成長小説なのでジュブナイル小説系に分類されるのだろうが、大人が読んでも充分おもしろい。
つか、35歳以上くらいの方が楽しめるかも。とうの昔に忘れてしまった中学生のころのみずみずしい気持ちが読み進むに従ってどんどん蘇ってくる。その感じはある程度歳をとった人の方がより新鮮に思えるだろうし、そろそろ思い出すべき年齢でもあるから。

ある十一月、ある中学生が二ヶ月だけ十一月荘で暮らすことになった・・・そこで起こるいろいろなふれあいを丁寧に丁寧に描いた本。女性作家が女性向けに書いたのだろうが、オッサンのボクでもそこここで「あぁそうだったよなぁ」と感慨を覚える(悪いか?)。窓の外に枯葉舞う11月に、ゆっっっくり読みたいいい本である。ちなみに第47回産経児童出版文化賞フジテレビ賞を受賞している。

2002年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ

LV4「にんげん住所録」

高峰秀子著/文藝春秋/1238円

にんげん住所録
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名人高峰秀子の最新作。
相変わらず読んでいて気持ちよく、自然と「足るを知る」気持ちにさせるエッセイ。そろそろ著者の本も読めなくなるだろうという気もしており(知り合いの担当編集者が「これが最後かもしれません」と言ってたし)、読み終わるのが惜しかった。

正直言うと、いままでの著者が書いた名エッセイ群に比べるとちょっと切れ味が落ちる。でも彼女のエッセイを楽しみにしている常連読者たち(ボクを含む)にはそんなこと気にもならない。だって、ちょっと低調とはいえ、そこらのエッセイの数倍は面白いから。そして、今この歳になったから書けるいろいろな総まとめが哀しくも美しいから。ファンとの交友を綴った「住所録」、黒澤明のことを書いた「クロさんのこと」、木下監督のことを語った「私だけの弔辞」など、淡々としながら、読んでいる側が思わず背筋を伸ばしてしまうような名エッセイの数々。ぜひゆっくり味わって欲しい。

高峰秀子の本を読むたびに、持ち物少なく思い出も少なくきれいに老いたい、という気持ちに満たされる。そして現在の身の回りの複雑さ・煩雑さを顧みて、自分の至らなさにがっくりくる。ボクは彼女のようにきれいに老えるだろうか。5年ごとに再読して確かめたいエッセイ群である。

2002年11月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?」

棚沢直子・草野いづみ著/角川ソフィア文庫/600円

フランスには、なぜ恋愛スキャンダルがないのか?
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6月にフランスに行き、その印象を不定期日記につづったら、やけに受けた。フランス特有の価値観に改めて感じいった人が多かったのだ。で、ある人から「日記を読んでこの本を思い出しました」とメールをもらったので読んでみた一冊。

ちょっと厳しすぎるかなと自分でも思ってはいる。というのも、資料としてとてもよく出来ているし、結論としての分析もとても面白いから。ただ、もうちょっとミーハー的な「フランス恋愛価値観のいろいろ」を読みたかった感じなので、そういう意味ではがっかりしたかも。だって恋愛観の歴史的必然性や宗教的裏付けを追うのにほぼ8割使ってしまっているんだもの。それらを読んでいるうちに、フランス人の恋愛について知りたかったワクワク感が、なんだか大学の研究室のほこりくささでかすんでしまったみたいな感じになったから。ちょっと惜しいなぁ。テーマは最高なのに。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV5「からくり民主主義」

高橋秀実著/草思社/1800円

からくり民主主義
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おもしろい。
別に民主主義のウソについて語っている堅苦しい本ではない。
著者曰く「からくり_民主主義」ではなく「からくり民主_主義」なのだそうだ。民主とは国民が主役ということ。国民みんなが主役なら主役はいないのと同じではないか…というところから、著者は「みんなというカラクリ」に迫っていく。それは細かいことを「国民の声」として声高にクレームする新聞投書欄から、小さな親切運動、統一協会の若いカップル、諫早湾干拓問題などまで及ぶ。ホントにそれは「国民の声」であり「みんなの思い」なのか? だいたい「みんなの思い」って何なのだ? 全員が同じことを思うならオウムや統一協会とどこが違う? 何かおかしくないか? と、じっくり悩みながらまだるっこしく追っていくのだ。
そう、そのまだるっこしさが著者の特性でもありおかしみでもある。大まじめに取材してまだるっこしく悩むあたりがとってもおかしい本なのである。

はっきり言うとつまらない章もある。でもおもしろい章は抜群。マスコミが作り上げたわかりやすい構図(悪者vsいい者)のからくりも見えてくる。諫早湾のことなど、まったくマスコミに洗脳されていたよ。最後のほうの章がテーマずれを感じるが、全体としてとても印象深い本だった。

2002年08月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV2「ダライ・ラマ自伝」

ダライ・ラマ著/山際素男訳/文春文庫/552円

ダライ・ラマ自伝
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さて、ダライ・ラマが書いたものに対して、ボクが好き嫌いを言うことが許されるのかどうか。彼の深遠も深淵も神園もなにも理解していない(であろう)このボクが。 これって例えば聖書に好き嫌いを言うようなことなのかも、ってちょっと思ったり。

でもまぁ正直に言おう。
彼の半生を彼とともに追っていく旅は面白かった。チベットの姿にも触れられたし彼がどう世界を見ていたかもよくわかる。が、ボクは「自伝」という題名からもっと深い思想みたいなものに触れられると期待していた。それはこの本からは見つけられなかった。そういうことだ。淡々と半生を語っていくその淡々さこそ彼の深遠さかもしれないが、そのわりには精神論や祈りもたまに語る。そこらへんはちょっと中途半端な感じなのだ。
ダライ・ラマ関係の書物は3冊くらいしか読んでないが、外から語る彼の実際の方が、読み物としては面白い。史実・史料としてはもちろん貴重。

2002年08月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 哲学・精神世界

LV3「もう消費すら快楽じゃない彼女へ」

田口ランディ著/幻冬舎文庫/571円

もう消費すら快楽じゃない彼女へ
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実は小説でない田口ランディを読むのは初めてなのだが(つか、小説も「コンセント」しか読んでない)、この本のようなエッセイだと、なんというか、読者に嫌われないためにずいぶん気を使って書いているなぁという印象を受ける。もっと高慢に書いた方がキャラ立ちするなぁとも思うし、意外と普通っぽくて好ましく思う部分もある。ただ、読者がついてこれるか心配で論の展開をくどくしてしまっているような部分がある。これはウェブで書いていたという出自がそうさせるのかもしれない。不特定多数に対しての文体。本にして売った時点で「田口ランディを買うタイプの人しか読まなくなる」ので、そこまで気遣わなくてもいいなぁとちょっと思った。

内容的には面白かった。特にノリコという友達には瞠目。彼女の「人をなぜ殺してはいけないか」に対する答えの中の「感情は思考より劣ると信じ込んでいるのはナ〜ゼ?」は名文句だ。他にはロックに対する考察、無内容に対する考察など、刺激になる部分が多々あった。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「田中康夫が訊く」

田中康夫著/光文社/1500円

田中康夫が訊く―どう食べるかどう楽しむか
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副題が「どう食べるか どう楽しむか」。
雑誌「BRIO」に99年5月〜01年6月まで連載したレストラン見栄講座的連載を再構成した本。連載中も意識して読んでいたが、著者のイイトコロが出たいい連載だった。

著者に「ソムリエに訊け」という田崎真也をインタビューした本があるが、構成はほぼ同じ。著者が初心者のボクたちに成り代わっていろんな質問をプロにしていくというインタビューものだ。その質問が、素人すぎず玄人すぎず、非常にバランスがいいのである。そうそうソコが知りたかったのよー的ポイントをしっかり突いてくれる。著者独特の向上心がいい方に作用した「格好いい客になるためのマニュアル集」とも言えるかも。

青柳から始まって、寿司幸、楽亭、味満ん、燕楽、ふじおか、アカーチェ、タイユバン、バーラジオ、福臨門、スタミナ苑、俵屋旅館など、取材という立場を最大限利用していい思いしやがったなぁとうらやましくなるようなラインナップに細かくインタビューしていく。
注文上手になるためにはどうすればいいか、なにからどう食べるのが正解か、粋な食べ方とは何か、何が本当においしいのか、など、読者に成り代わって丁寧に質問してくれている。初心者よりある程度知っている人の方が「目から鱗」が体験できるかもしれない。

個人的には中華ととんかつに目鱗。中華は知っているようで知らなかった分野。ほーこういうことになっているのかーと素直に感動した。こうやって楽しむべしというマニュアルに使うより、行間をちゃんと読んで、より食べ巧者になるために活用したい。そんな本である。

2002年05月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , 対談

LV5「話の後始末」

立川志の輔・天野祐吉著/マドラ出版/1600円

話の後始末
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おもしろい構成の本だ。
志の輔(ためしてガッテンの人)が絶妙なマクラと共に落語をしゃべり、その後、天野祐吉と世の中についてあーだこーだ対談する、という構成の章が5つ。おふたりによるそういう構成の「講演」を本にしたものらしい。落語と対談はテーマが同じなので、無理なくそのふたつがつながっているのもなかなかいい。帯に「落語つき世相放談」とあるが、そのコピーが一番内容を言い得ているかも。

まず落語がおもしろい。オリジナルもあるが(よくできている)、基本は古典落語。有名なものばかりだが、あらためて志の輔の視点で読まされると非常に笑える。この人、落語うまいかも。また、そのあと天野祐吉が登場して、まずは落語の感想から入っていき、どんどん世相に話が広がっていくバランスが良い。ふたりとも話し上手かつ品がいいので、なんだか気持ちよく言葉の波に乗っていけるのである。そこには笑いだけでなく発見も多々ある。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 対談

LV3「木立ちのなかに引っ越しました」

高木美保著/幻冬舎文庫/571円

木立ちのなかに引っ越しました
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病院の待ち時間1時間ほどでササッと読めた本ではあるが、わりと文章もよく、好感が持てた。
ご存じの通り、高木美保は女優である。昔NHKのドラマでチェリストをやった演技が印象に残っていたりして、好きな女優のひとりではある。そんな彼女が都会から那須に引っ越した動機、顛末、そして自然に触れたり農業したりする日々の生活の魅力が書かれている。

内容的にはありがちとも言えるが、品がよくハシャギのない文章は気持ちよく、読んでいてゆったりした気持ちになる。特に田舎に引っ越そうという人や、ファーミング(農業)を始めたいと思っている人にとってはいい参考になるのではないだろうか。都会生活者がはじめて田舎に住む戸惑いなどもよく書けている。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「コンセント」

田口ランディ著/幻冬舎/1500円

コンセント
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田口ランディは初読。
あれだけ話題になっていたのに手に取らなかったのは、なんというか、「エロス的な異化」や「ネット的な異化」や「引きこもり的な異化」で作品に思わせぶりな奥深さを与えようとする類の作家なのかな、と勝手に思っていたという理由が大きい。
でも今回読んでみて、それは単なる先入観であったことがわかった。著者はそれらを思わせぶりに異化してはいない。それどころか全く逆である。ただそれはいい面ばかりではなく、例えばエロスという「官能」を論旨が明快な「感応」に収束してしまった点をとっても、ちょいと全体に理屈が勝ってしまったきらいがある。破綻なく隅々まで理屈のあった、よく出来たお話になりすぎた感じ。その妙に収まりがいい感じがボクにはわりと快感であったが、それがこの物語を狭くもしていると思う。感心はするが感動はしない。そんな印象。

でも、感心する描写や感心するストーリーテリングは随所にある。それだけでも処女作としてはすごすぎる。
冒頭からしばらくはちょっと自意識過剰的表現で居心地悪いのだが、中盤から素晴らしい展開を見せていく。結末に向けてのシャーマニズムのとらえ方に既視感があり(吉本ばなな的)、そこに新しいシャーマニズムが展開されていればもっと面白かったと個人的には思う。

ずっとこんな感じで頭のいい小説を書いていっちゃうのかなぁと不安にはなるが、処女作としては傑作。もうちょっと頭の良さが前面から引っ込むとグンと良くなる気がするが、いい部分も失われてしまうのかな。ドロドロした話なのに、読後感が精緻な建築物を見た感じに近いのが、長所でもあり欠点でもある、そんな印象。

2002年01月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「13階段」

高野和明著/講談社/1600円

13階段
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今年の江戸川乱歩賞受賞作であるミステリー。
読み出したら止まらない。一気に読んだ。死刑の是非から冤罪、罪と罰の命題まで踏み込んで書いてあり、主題はかなり重い。が、ストーリーはエンターテイメントに満ちており、二重三重のどんでんがえしもよく出来ている。どんでんがえしの演出もわりとさりげなく劇的にしていないところも上手。重い主題に快調な演出テンポ。なかなかだ。

無実と思われる死刑囚を救い出す、報酬は1000万円、乗り出すのは死刑執行経験のある刑務官と仮釈放中の青年、という設定。仮釈放の青年が妙に優秀だったりする違和感も気になるし、たまたま彼が選ばれてしまうご都合主義もアララと思うし、時限型サスペンスなのに時限(死刑)がいつ来るのかわからない弱点があったり、と、欠点はいろいろある。ただ、読んでいてストーリーとは別にふと立ち止まり、死刑とはどういうことなのか、被害者家族のやりきれなさとはこういうことなのか、などと読者をしっかり考えこませるチカラをこの小説は持っている。死刑の描写や刑務官の懊悩が特によく書けているからかもしれない。

冤罪の死刑囚視点の描写がもう少し物語に絡まればよりそこらへんが分厚くなったと思うが、そうなると快調なテンポが損なわれてしまうのかな…。いずれにしろ、オススメのミステリーである。

2001年12月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV2「図解でわかるインターネットテクノロジー」

田口美帆著/日本実業出版社/2500円

図解でわかるインターネットテクノロジー―ブロードバンドから次世代携帯電話まで
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このごろほとんどウェブプロデューサー的仕事になってきているので、仕事柄コンピューターアプリノウハウ本みたいなものはよく読む。「超できる」的なヤツとかね。が、世のテクニカルライター達はやっぱりまだまだ想像力が欠如している人が多くて、ちょーどいいバランスで書いてくれる人が実に少なかったりする。ちょっと難しすぎたりちょっとやさしすぎたり、いらぬ説明が多かったり欲しい説明がなかったり…。本屋に何時間も粘って探していても結局満足するものに出会えなかったりするのだ。

この本もノウハウ本ではあるが、そういう意味で実にバランスが良く秀逸な本だったのでこの欄では珍しいが取り上げる。
ネット系テクノロジーについて部分部分の技術動向は掴んでいても全体像がなんかボンヤリしてるなぁ補強したいなぁと感じていたボクにはまさにうってつけのコンセプトな本だったのだが、説明が懇切丁寧かつ専門的なうえに、ちょうどいい塩梅で読者の身になってくれ、難易のバランスも実にいい。ええとところでアレはどうだったっけ?と思っていると絶妙のタイミングでコラムが現れたりする。うー、こういう本欲しかったのよね。ややこしいテクノロジーをこういうバランスでちゃんと書くって実に難しい技だと思う。著者の技量だろう。
ちなみに著者はその昔「テクニカルライター日記」という人気日記をウェブで書いていてボクも愛読していた。買ってから「お、あのミホさんか」と気づいたんだけど。

2001年09月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:実用・ホビー

LV2「八重山列島釣り日記」

高橋敬一著/随想舎/1400円

八重山列島釣り日記
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副題は「石垣島に暮らした1500日」。
石垣あたりを八重山諸島とか八重山列島とか言うが、そこらへんを根城にした気楽で気ままな釣り日記である(一部小笠原やフィリピンの日記もある)。肩に力の入らない随筆で、これはこれでダラダラと楽しめるので良いのだが、世界の名著たちと比べてしまうとまぁもうひとつかなぁ。比べにくいんだけどね、こういうのって。

この本は石垣島の本屋で購入した。だからボクは石垣島で読んだわけ。あの極楽とも言うべき空気の中で読むと、こののんびり進行具合がとても気持ちがいい。なかにはシンミリさせる話しも入っているのだが、それすらも八重山の空気が昇華してしまう。あー、八重山に行きたいなぁ。八重山で逝きたいなぁ。

2001年08月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , スポーツ

LV4「ツキの法則」

谷岡一郎著/PHP新書/657円

ツキの法則―「賭け方」と「勝敗」の科学
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先月読んだ「『社会調査』のウソ」が面白かったので、同じ著者の本を購入。
クレバーで的確な切り口、そして分析は相変わらず面白い。ボクが賭事好きであれば読み方も変わり、当然三ツ星ってことになったかもしれない。でもいかんせんボクは現在ほとんど賭事に手を出していないので、中盤の各ゲーム別具体的分析あたりがちょっと退屈であった。仕方ないけど。

科学的、統計学的に巷で言われているいわゆる「ツキ」というものを次々切り捨てていく展開は見事。ツキの正体が豊富な実例と考察でしっかりあばかれている。そして「確実に勝つ方法はないが確実に負ける方法」はある、と断定し、ギャンブル本来のスリルや楽しさを損なわずに「大負けしない方法」は存在すると導く。

著者が統計バカでないのもうれしい。筋金入りのゲーマーなのだ。コントラクトブリッジ全日本学生リーグ委員長だった経歴すら持っているのである。そういうゲームの流れの機微を知ったうえでのツキの科学。興味ある向きにはオススメである。

2001年05月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:科学 , 雑学・その他 , 実用・ホビー

LV5「『社会調査』のウソ」

谷岡一郎著/文春文庫/690円

「社会調査」のウソ―リサーチ・リテラシーのすすめ
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新聞や雑誌、テレビはもとより学会誌に至るまで、「○○の調べによると△△が□%にものぼることがわかった」みたいなデータが横行しているが、それの過半数はゴミである、と断言している本。ゴミというか「ウソ」だな。

例を実名を上げて豊富に紹介し、そのいちいちをどこがどうウソなのか分析し、巻末には「じゃーこのデータはどこがウソだかわかりますか?」みたいな例題までついている。
データを解釈者の都合のいいように解釈している例が世の中にここまで多く存在し、それをわれわれはいかに疑いもせず信じ込んでいるか、がよくわかる本である。つうか、大新聞やテレビが堂々と発表しているんだから、まぁ端から疑わない人が多いよなぁ。でもよく考えたら確かにデータなんて作為を持たせればいくらでも作為を作れるもんなぁ。いままで疑わなかった自分の方が悪いのだ(たまにトンデモ的なデータもあるから疑うことは疑うが、ここまでしっかり考えたことはあまりなかった)。

とある掲示板で勧められて読んだが、面白かった。
この著者の他の作品も読んでみようと思う。副題は「リサーチ・リテラシーのすすめ」。リテラシーという言葉はこの頃よく使うね。直訳すれば「読み書き能力」。基礎能力、みたいなことかな。

2001年04月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:評論 , 科学 , 経済・ビジネス , 雑学・その他

LV5「竹中教授のみんなの経済学」

竹中平蔵著/幻冬舎/1300円

竹中教授のみんなの経済学
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佐藤雅彦と共著で「経済ってそういうことだったのか会議」をベストセラーにした著者による経済学解説書。

ひとこと、とってもわかりやすい。
経済学科だったくせに経済の「け」の字もわからないボクなのだが、経済学科だったということがどうやら後ろめたいらしく、わりと経済入門みたいな本は読む(読もうとする)。いろいろ読んだが、この本は最上クラスにわかりやすい。いいぞ。その上、いたずらに不安を煽っていないところが好ましい。いやそれどころか日本ってちゃんとすごいのだ、と自信さえつけさせてくれるところがある。こういうのを本当の意味で大局的というのだと思うな。

この本がいいところは、まだある。経済の解説書なのに、ちゃんと自分の言葉で語っている点。変に客観的になっていないのだ。あと要所で出てくる「つぶやき」の題材もいい。うん。数回読み直してみたい好著。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:経済・ビジネス , 時事・政治・国際

LV1「回転スシ世界一周」

玉村豊男著/世界文化社/1575円

回転スシ世界一周
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この頃の回転スシの世界制覇のイキオイはすごいものがある。
この本は著者がパリ、ロンドン、アムス、NYC、ロスと16日間に渡って海外の回転スシを食べまくった記録である。果たして回転スシを海外の人はどう捉えているのか。回転スシ文化はどう根付いていくのか。どうしてこんなにスシが流行っているのか…。そういう問題を考察しつつ、著者はとにかく食べまくっているのである。

現地のスシ事情やインタビューなどは興味深いし、世界がどうスシを捉えているのか、読むに従って理解できてくる。
ただ、それ以上のものはここにはない。ちょっと気のきいたライターでも、現地コーディネーターに恵まれれば同じようなものが書けるだろう。ボクは「玉村豊男がそれをどう感じどう消化しどう発信するか」がもっと読みたかった。そういう意味での突っ込みが足りない気がする。著者独特の匂いがない本に仕上がってしまった。そこが残念でならない。企画も題材も著者もいいのに惜しい一冊。

2000年09月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV3「人間の行方」

多田富雄・山折哲雄著/文春ネスコ/1600円

人間の行方―二十世紀の一生、二十一世紀の一生
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副題が「二十世紀の一生、二十一世紀の一生」。
なんかPHP出版が出しそうな本である。著名な科学者と著名な宗教学者がそれぞれの立場に固執しないで腹を割って話し合った、ある種の人生論。実際含蓄に富んでいる。科学と宗教という思いっきり反対の立場にたつ識者同士だから物事の見方が多角的になり、読者にあらぬ方向の思考を強いてくれる。人生や人間や生き方を考えるいいきっかけにはなるだろう。

ただ、老練な識者同士だからこその曖昧さはある。いろいろ問題が複雑に絡み合っているとわかっている同士だからこそ、ちょっと言葉を濁しがちになってしまうのだろう。命題が無難な方向に収束してしまったり、答えを明確に出さなかったりするのは少し残念。ま、答えが出ようがない命題が多いから仕方ないのだけど。
でも、読者は彼らの「偏見」を読みたいし、彼らの「敵対論争」も読みたいのだ。いたずらにスキャンダラスにしろ、というのではなく、ある強い偏見こそ刺激的な「考えるヒント」になると思うからである。

ある書評でベタ誉めしてあったからかなり期待をして読んだが、ちょっぴり期待はずれかな。こういう議論をとっくの昔にふまえている秀逸SFとかが多いせいもあるかも。

2000年08月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界 , 対談

LV1「ゴルゴン」

タニス・リー著/木村由利子・佐田千織訳/ハヤカワ文庫/640円

ゴルゴン―幻獣夜話
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副題は「幻獣夜話」。ファンタジーもの(一部モダンホラー)の短編集で、1983年の世界幻想文学大賞(短編部門)も取っている。著者はこの世界の一人者。

と、まぁ読む前はわりと期待したのだが、この本に限って言えば、少年少女用の域を出ていない印象。文章がわりと稚拙。同じ題材でももっともっと幻想的に出来ないだろうか。読者の想像力をもっともっと刺激することが出来ないだろうか。あー、小野不由美のレベルの高さをまざまざと見せつけられるなぁ。

1983年と言えばまだ8ビットのファミコンが出た頃、という感じか? その頃ならまだ許せるが、今現在ではもうこのレベルじゃ子供は楽しまないだろう。
幻想文学はRPGに勝てるのか。この本レベルだとボロ負け。小野不由美の十二国記シリーズまで行くと、漢字の美しさや想像力の喚起でなんとか文学の勝ち、かな。要は想像力の喚起なんだな、きっと。FF8なんて想像力が入り込めないリアルさがあって、結局つまらなかったもんな。

2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー , ホラー

LV3「小さな農園主の日記」

玉村豊男著/講談社現代新書/660円

小さな農園主の日記
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ウェブで日記を読むのに似て、やはりダラダラと日記を読むのは快感なのである。
ただ、著者はここで「日記作家宣言」をしているがが、日記文学というものは(いまや)同時性がかなり重要になっている。書いた1年後に出版される日記はやはり鮮度が薄れ、どんなに文学的昇華がなされていようとも腐りかけていることは確かなのである(紫式部日記的な古典的価値・歴史的価値があるものは別)。リアルタイムの日記をリアルタイムで読む。その同時性がウェブ時代では求められるであろう。著者が日記作家を目指すのであれば、まずウェブで始めて欲しい。そして同時性という有史以来初めての文学的イノチを上手に昇華してほしい。

まぁそんなようなことをアタマでは思うのだが、賞味期限を越えていても人の日記は面白い。この本もそれなりに面白い。同時性があったらもっとだな、と贅沢を思うだけなのである。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「エンディミオンの覚醒」

ダン・シモンズ著/酒井昭伸訳/早川書房/3800円

エンディミオンの覚醒
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二段組800ページのSF大作にして、大傑作「ハイペリオン」シリーズ全4作の完結編。

この本を読むために2カ月かけて前3作を読み直したボクは、めちゃくちゃな期待と共に「エンディミオンの覚醒」に取りかかったのである。世界観を復習し、結末を予想し、残された膨大な量の謎を推理しつつ読み始めたのだが、結果はいい方に裏切られた。なるほど!こうなるのか!の連続。推理もハズレまくり。ラストにかけてそれこそゴマンとある謎がドンドコ解かれまくるのである。めちゃめちゃ快感であった。

だが、それでもまだ謎はいくつも残されたままである。
読後すぐに、4日ほどかけて駆け足で再読してみて「あ、こんなところに伏線が!」「あ、この思わせぶりな記述はこういう意味だったのか!」みたいな発見をいくつもした。「あー、この一行はこういう意味なんだ」「注意深く前作を読み返していないとわからない読者もいるだろうな」みたいな優越感にもいろいろ浸れる。が、いまだにわからない謎がいくつも残されている。タイムパラドクスも解決されているのかいないのかわからん。うーん。なんちゅう物語なのだ。

でも、著者は本当にこの結末を最初から念頭に置いて第一作の「ハイペリオン」を書き始めたのかなぁ。だとしたら驚異の構築力 & 忍耐力 & 粘り、だ。 だって、4作で二段組2500ページあるんだよ。参ったなぁ。
ただ、正直言うと少し冗長なものも感じた。この4作目に限っては、いろんな説明や描写が多すぎて途中つらかったのも事実。宗教に踏み込んだ部分も、説明しつつ筋を進める分かなりまだるっこしかった(一茶や良寛の短歌がいっぱい出てくるのは面白かったけど)。それと、どう考えても矛盾する部分がいくつもあるのも気になるな。大著にじっくりつきあった読者としてはすべてが細部まですっきり解けてほしかったのだ。

とはいえ、圧倒的筆力とは何か、が肌で感じられる名作だ。長くSFの傑作として語り継がれることでしょう。想像力とはこういうことを言うのだね。マジで脱帽します。

2000年04月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:SF

LV5「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」

ダン・シモンズ著/酒井昭伸訳/早川書房/各2900円 3000円

ハイペリオン
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96年2月以来の再読。
ええ、読み返してしまいましたよ、両方合わせて1130ページ、しかも二段組を再読してしまいました。理由はひとつ。先月の「エンディミオン」の項でも書いたけど、このシリーズ4部作最終作の「エンディミオンの覚醒」を読むための予習ですよ。なにしろこの4作目ではいままでの重要出演人物総出演のうえ、すべてのナゾが解かれるというんだから、過去の忘れている細かい筋や伏線までも読み返したくなるではないですか。

で、読み返したんだけど、再読のくせに読み終わるのが惜しい出来。
やっぱり大傑作だあぁ。
ただ、4年前に読んだ時と印象が違う章がいろいろあったりして、それはそれで面白かった。再読の2冊が今月の最高というのも情けないけど、でもこの2冊を抜く本はそうはないから、仕方ない。

2000年03月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:SF

LV5「エンディミオン」

ダン・シモンズ著/酒井昭伸訳/早川書房/3000円

エンディミオン
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はぁ。やっと読めた。
大傑作「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」を読んで以来ずっとずっと続編のコレが読みたかったのだけど、去年の2月に発売になってすぐ買ったにも関わらず、その分厚さ(二段組600ページ)と、「ハイペリオン」を読んでから3年経っていて筋を忘れている、という障壁に阻まれて手を着けなかったのでした。
で、正月休み。ここで読まねばいつ読むの !? と前の筋を忘れているのもものともせず読み始めたんだけど、これがまた期待に違わぬ面白さ。読み進むに従って筋や世界観、登場人物たちもどんどん思いだしてきて…つまりは堪能したのでした。やっぱりダン・シモンズ! さすがはダン・シモンズ!

「ハイペリオン」二作は要所要所にSFファン用のお遊びが隠されていたりしたが、今回はそれが少なかったな。わりと一直線的ストーリー展開。デ・ソヤとロールの交互展開は効果的で、物語に奥行きを与えている。ただ、もう少し強くデ・ソヤにカタルシスを感じさせてくれたらもっと深くなったと思う。妙に主観的な描写と妙に客観的な描写との乖離があって、デ・ソヤの部分はちょっと中途半端感があるのが残念。

次作「エンディミオンの覚醒」で4部作堂々の完結、となるのだが、「エンディミオンの覚醒」では過去の登場人物がすべて出てきて、すべての謎が解き明かされるらしい。
こうなったら「ハイペリオン」「ハイペリオンの没落」ももう一度読み返しておかねば!と、いまこの分厚い二冊を読み返しているところ。つまりはそのくらいは夢中になれる大傑作シリーズ。読んで損はないから、まだの人は「ハイペリオン」からじっくり、どうぞ。(このシリーズを初読する喜びが人生に残されている人がうらやましい)

2000年02月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:SF

LV5「谷岡ヤスジ傑作選 天才の証明」

谷岡ヤスジ著/実業之日本社/1500円

天才の証明―谷岡ヤスジ傑作選
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1999年6月14日に喉頭ガンで亡くなった漫画家谷岡ヤスジの追悼傑作選である。

500ページ超の大部ながらその内容の詰まり方は尋常でなく(例によって漫画そのものはムダだらけなのだが)、その価格も含めて、出版社に感謝したい企画だ。
読み返してみて、そのリズム感、その論理の飛躍、その空気、その言葉使いの斬新さ、その線のシンプルさ、などなど、あぁ赤塚不二夫よりもうひとまわり天才な人なんだなぁと再確認。特に言葉使いはすごいなぁ。あの言葉頭の略しかたなどクラクラしてしまう。一気に読むとちょっとつらい部分もあるが、昆布をしがむように毎日少しずつ味わうには最適な本だ。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:漫画

LV3「どこまで続くヌカルミぞ」

俵孝太郎著/文春新書/690円

どこまで続くヌカルミぞ―老老介護奮戦記
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副題は「老老介護奮戦記」。

キャスターである著者の老老介護の毎日がこれぞ赤裸々とばかりに書かれているのだ。儒教以来の親孝行精神を受け継ぐ人が読んだら卒倒するような、親に対しての厳しい言葉の数々。ただ、子供からの一方的な視点から書かれているとはいえ、ドラ息子ならぬ「ドラ親」を持つ苦労は読むに従ってどんどん身につまされていく。また兄弟との確執もすごい。なんというか、まぁでもよくここまで書いたなぁ。

人間は年をとるに従って人格が完成されていくのではなくて、単に若いときの性格が煮詰まるだけなのだな、と妙に納得させられる。これから日本人がいままで経験したことがない介護社会が出現するが、ここに書かれているような問題が各家庭個別毎に違ったカタチを持って起こってくるのだ。おっそろしいことだ。これでは備えるのは無理である。在宅介護制度自体をやはり見直す時がそのうち来よう。

それはともかく、一人っ子で良かったと実感をもって感じてしまった。兄弟の存在が問題を余計にやっかいにしていく様は目を覆うばかり。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉 , ノンフィクション

LV3「コンパクトカメラ撮影事典」

丹野清志著/ナツメ社/1300円

コンパクトカメラ撮影事典
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カメラという趣味を始めようと思ったわけではないのだが、ちょっとした「人生メモ」的にミノルタの「TC-1」という、レンズが良くて非常に小さなコンパクトカメラを持ち歩くようになった。モノクロ・フィルムを入れて28・の広角で日常を写す。そこには芸術を撮ってやろうとかいうような気概はまるでなく、ただ毎日を楽しむ手段・道具の一つ、という意識しかないのだけれど、なんとなく日常風景への視点が自分の中で変換していることに気がついたりする。わりと面白い。

この「TC-1」、露出制御は絞り優先AEなので「カメラ無知」のボクは何冊か本を買って研究したのだが、その中ではこの本が一番面白かった。いや、撮影のABCを教えてくれるという意味では他にもいい本はあった。この本がいいのは、撮影事典などというタイトルのくせにほとんど「エッセイ」なのだ。著者による「コンパクトカメラな日常」のエッセイ。そしてコンパクトカメラとは何か、ということをこの本ほど看破している本はなかった。スペック的な意味ではなく、精神的・人生的な意味でね。そういう意味でひたすら共感した事典であった。以上。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:映画・映像 , 実用・ホビー

LV1「機長の一万日」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の一万日―コックピットの恐さと快感!
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副題は「コックピットの恐さと快感!」。「機長という仕事」についてのノンフィクション・エッセイである。

著者はJALの現役ベテラン機長。数々の経験を踏まえてやわらかいタッチで機長の仕事を綴ってくれている。飛行機での旅が多い人にとっては「なるほどあのサインはこういう理由でこうなのか」「ああいう揺れはこういう事態なのか」みたいな、機内でのナゾがちょこちょこ解ける一冊だ。ただ、マニアックと初心者向けの中間って感じでちょっと中途半端なのが難。それと、エッセイとしての面白さに欠ける。続編「機長の700万マイル」の方がエピソードがユニークでまだ面白い。

何の気なしに二冊買って読んだが、どうやら山崎豊子の著書発売以来この手の航空機業界本はちょっとブーム化しているようだ。なんだかブームに乗ってしまったようで悔しい。全然違うのに。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV1「機長の700万マイル」

田口美貴夫著/講談社/1600円

機長の700万マイル―翼は語る
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「機長の一万日」の続編である。

普通この手のノンフィクション・エッセイは処女作の方が面白いと相場は決まっている。が、この二冊に関しては続編の方がずっと面白い。珍しいパターン。書き慣れもあるだろうが、前作で書いた内容を簡単にレジメして、それ以外のエピソードなどに内容を絞ったのがより面白くなった要因だろう。
前作はある意味「機長という仕事とはどういうことか」という説明から始めないといけなかった分、理屈っぽくなっている。初歩的説明でかなりのページ数を取られている感じ。続編のこっちの方がいい意味ワイドショー的で、飛行機や航空機業界、機長の生活などにミーハーな興味しか持っていない読者(つまりボク)には手っ取り早い感じだ。

まぁどちらにしても単行本で買うほどではないかも。文庫になるのを待ってから買った方が賢いかも。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , エッセイ

LV5「バトル・ロワイヤル」

高見広春著/太田出版/1480円

バトル・ロワイアル
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面白い。圧倒的に。
舞台設定も物語展開も荒唐無稽なのだがそれが異様なリアリティをもって眼前に浮き上がってくる。やるなぁ高見広春。こういカタチで「異化」する手もあったんだなぁとちょっと驚き。冗長な部分や浮ついた部分もあるのだが、それらも嫌味ではなく味になっている。金八先生のパロディっぽい記述もそんなに気にならなかった。

太平洋戦争で勝利した大東亜共和国の理不尽なプログラム、それは中学三年生のクラス全員のバトルロワイヤル。生き残れるのはただひとり…。無作為のもとで選ばれたあるクラスの、孤島での殺し合いの一部始終がここで描かれているのであるが、クラス42人のキャラ造形がそれぞれ見事で、こんなに多い登場人物なのにそのすべてを愛している自分に読後あなたは気がつくであろう。最初はその登場人物の多さに怖じ気づくんだけどね。

ある小説新人賞選考会ではそのあまりに過激な内容ゆえ全員から拒絶され落選させられたらしいが、ボクにはそんなには過激に見えなかったのはなぜ? 新人賞選考会委員って何歳なの? 世代的ズレを感じるなぁ。それにしてもぜひ映画化をのぞむぞ。

1999年10月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , ミステリー

LV3「バスにのって」

田中小実昌著/青土社/1600円

バスにのって
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コミマサがいろんなところに発表した日記風エッセイを一冊にまとめたもの。

別にバスを主題の紀行エッセイではない。
その脱力した文体は実にさばさばしていて読みやすく、読者を気持ちよく弛緩させてくれる。
なにせ内容的に何もなく(そこがいいのだが)、ヒトに薦められるかと言われればノーなのだが、ボクはこのコミマサ・ワールドを至極楽しんだ。あとがきで「これでおしまいかもしれない」などと弱気を書いているがまた書いて欲しいな。ダラダラと。こっちもダラダラと読むからさ。

1999年10月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「それでも真っ当な料理店」

田中康夫著/ぴあ/1500円

それでも真っ当な料理店
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前作「いまどき真っ当な料理店」の最新版。なかなか粘着質な批評で思わず「真っ当ではなくて納豆か」と思ったりしたりして(ツマラン!)。

相変わらず言いたい放題であり、その視点の中に共感できるもの、納得できるものがあるのも認める。
が、ちょっとイヤな部分も目につく。例えば、シェフなどの私生活的裏話をして、それをもってそういう姿勢でやっている店もダメ、みたいな評価の下し方。そのスタンスは頷けない。また、ある項で「僕が来たから力を込めて作ったんだと友人に言われた」みたいな記述が出てくるが、著者ならそれは当たり前である。そういうことが他の店でも十分起こりえ、また実際に起こっていることにどのくらい気がついているのであろうか。基本的に著者と一般人とでは出てくる料理は違うと思った方がいい。なのにどこをもって「真っ当」の判断をするのだろうか。わからない。
シェフの腕がいい、とかの判断は出来よう。でも「真っ当」となるとまた別ではないか。辛口批評が存在しない日本においてこの本の功績は認める。が、前作よりも、ちょっと一般人の「真っ当」と著者の「真っ当」の視点がズレ始めていると感じる。

1999年05月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV5「ふるほん文庫やさんの奇跡」

谷口雅男著/ダイアモンド社/1600円

ふるほん文庫やさんの奇跡
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なにしろ「奇跡」なのであるからして、かなりの奇跡を期待するのであるが、本書は裏切らない。まぁ本来の意味の奇跡というよりは「奇」なる「足跡」という感じではあるが。

とにかく面白い。一気に読める。内容はくどくどしているし文章も勢いのみであるが、この著者の場合、その人生・生き方が面白すぎてその他の要素がなにも気にならなくなるのである。

「文庫本のみの古本屋」をまさに波瀾万丈なる半生の後に開き孤軍奮闘する様を著者本人が書きまくっているのだが、約7年間1日240円の食費で過ごしたり、結婚を一回の電話だけで決めたり、愛知から福岡への本屋移転を結婚と同時に即決したり、もうめちゃくちゃ。しまいには給料ももらわず、この本の印税も計画中の文庫本のみの図書館「としょかん文庫やさん」にすべて寄付するという無私無欲。

「全身全霊を尽くす」とはどういうことなのか…。子供の頃読んだ偉人伝の登場人物でなく、同じ時代に生きている人の身近な例として、ボクは初めて知ったような気がする。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV2「食べ物情報ウソ・ホント」

高橋久仁子著/講談社/900円

「食べもの情報」ウソ・ホント―氾濫する情報を正しく読み取る
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新聞の雑誌広告などは相変わらず「○○で△△が治った!」などの健康食品宣伝文で埋まっている。確かに治った人もいるのだろうが、実際に科学的に分析したらどうなのか、知りたくない?

本書は副題が「氾濫する情報を正しく読みとる」とあるように、そういう宣伝文のウソをある程度暴いてくれる(もちろんまだ科学的に良いとも悪いとも言えないものもある)。
コラーゲンを食べると肌がつるつるになる、とか天然酵母は体にいいとか、一見科学的に読めるいわゆる「フード・ファディズム」について科学的検証を加えているのだ。内容自体は知りたかったことだしとても有益だったが、難点はこの本に書かれている告発情報と、先の宣伝文とがだんだん区別が付かなくなってくることである。いったいどっちが正しいのか…。まぁそれを自分で比較検討できる目を養えるところが、この本の最大のイイトコロかもしれない。

1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , 健康

LV5「蕪村春秋」

高橋治著/朝日新聞社/2300円

蕪村春秋
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ここ2カ月間の「寝酒」みたいな本。寝る前に1~3コラムくらい読んで蕪村の世界に浸りつつ眠った。蕪村を、いや俳句自体をほとんど知らなかったボクとしては、この本に非常に感謝している。

もともと朝日新聞で連載していたものらしい。
与謝蕪村の俳句を季語に沿って110コラムに渡り取り上げて(句にしたら375句)エッセイにしたものだ。冒頭、著者はこう語る。「のっけから乱暴なことをいうようだが、世の中には二種類の人間しかいない。蕪村に狂う人と、不幸にして蕪村を知らずに終わってしまう人とである」 つまり、蕪村を知れば必ず蕪村に狂う、ということだ。わかる。実に広大で芳醇な世界がそこに広がっている。それが著者の卓越なる視線によって浮き彫りにされているから、ボクみたいな俳句無知にも実に楽しく蕪村の世界が読み取れ、もう一歩踏み込んで行きたくなるのだ。

いいなぁ、蕪村。芭蕉が想像力のない朴念仁に思えてくるようなその色彩感覚と映像感覚。もちろん著者の誘導もあるのだが。
ちなみにこの本、現代の俳句界に対するすぐれた批評の書にもなっている。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 詩集・歌集など

LV2「アポトーシスとは何か」

田沼靖一著/講談社現代新書/650円

アポトーシスとは何か―死からはじまる生の科学
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副題は「死からはじまる生の科学」。
アポトーシスという言葉はなんとなく聞いていたけど、友人の薦めでこうして読むまで意識して感じたことはなかった。生の中に死は含まれる、という命題で本を書く作家は多いが、実際に細胞レベルで生と死が共存しているとは驚きだ。

アポトーシスとは「細胞が積極的に死んで行くこと」。
自らの意思で死を選ぶ細胞がいるのだ。この本はその発見とそれによる癌・AIDS・アルツハイマー治療最前線の話とともに、生(性)と死の哲学が語られている。難しいが興味深い本だ。特に興味深いのは第8章「死から生をとらえなおす」。死をちょっと違う観点から捉え直し、それによって生を考えるきっかけを与えてくれる。

1998年11月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界 , 健康 , 科学

LV3「道頓堀の雨に別れて以来なり」

田辺聖子著/中央公論社/上2400円・下2700円

道頓堀の雨に別れて以来なり〈上〉―川柳作家・岸本水府とその時代
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田辺聖子の本にここまで苦しむとは思わなかった。かれこれ3カ月かかってしまった。いや、面白すぎて3日で読み終わったという人もいるからこれは相性かも。

副題に「川柳作家・岸田水府とその時代」とあるように、岸田水府という著名な川柳作家に焦点を当てつつ、例によってのお聖さん節で話はアッチャコッチャ飛び回る。時制も場所もあったもんじゃないところが凄い。これは雑談か井戸端のうわさ話かって感じで展開するのだ。だが、そのお蔭で重層的に明治・大正・昭和が浮かび上がってくる。

しかし水府は格好いいなぁ。川柳自体も見直すこと頻り。もっともっと見直されていい立派な芸術である。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「にんげんのおへそ」

高峰秀子著/文藝春秋/1238円

にんげんのおへそ
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エッセイの名手高峰秀子の新作である。
まだ彼女が生きていて同じ時代の空気をすっていることにとりあえず感謝したい。

行動範囲が狭くなりつつあるのであろう、ちょっと題材に繰り返しが多く新たな視点が少なかったりするのだが、そこはそこ、向田邦子と幸田文と群ようこを足して3で割ったようなその文体の艶でなんなく読者を彼女の膝元へ誘き寄せてしまう。
内容的にはちょっとキレがなくなってきているが、読んでいて心底安心できるエッセイは貴重。また安野光雅の装丁も大変いい。

1998年07月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「がんの常識」

竹中文良著/講談社現代新書/660円

がんの常識
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先月、腫瘍の疑いを受けた。
結局検査結果はセーフだったのだが、その時のことを日記に書いたら稲岡旦那さんにこの本を勧められたのだ。

初版は97年5月なのでがん最前線というわけにはいかないが、とてもわかりやすくがんの今を伝えている本だ。
著者自身がんを患った医者である。そのため医者の視点に偏らず患者の視点からもがんを眺めており、そこらへんが我々にとってとてもわかりやすい。事例も多く、がんを患った場合の手引き書にもなっておりコンパクトだがなかなか充実している。がんが気になる方は一度読んでみてもいいのではないだろうか。

1998年07月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:健康

LV1「メニューの設計図」

高橋徳男著/柴田書店/1300円

メニューの設計図
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著者は東京の有名高級フレンチレストラン「アピシウス」の総料理長。出版社は柴田書店。題名が「メニューの設計図」。こう3つ揃えば、メニューの構築についてのかなり専門的で経験に即した興味深い内容であることが察せられる。少なくとも買う側はそれを期待して1300円払う。

が、残念なことにそれは裏切られるであろう。どういう気持ちでメニューを設定しお客に対してどうアピールしていくのか、という著者ならではの視点があまりになく、一般的なフレンチの話、物価への愚痴、素材への愛などに終始している。もちろん多少深い突っ込みはあるが、それもそんなに目新しい話ではない。メニュー(題名)に偽りあり。そんな感じである。

1998年07月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV5「わたしの渡世日記」

高峰秀子著/文春文庫/上下各667円

わたしの渡世日記〈上〉
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名作の誉れ高かった著者の自伝の復刊である。
最初の出版が昭和51年であるから、ええと、何年前だ? まぁいいや。とにかく昔の本である。が、その頃から高峰秀子は名手だったのがよくわかる。もともとスターとして生きてきた半生自体が一般人には興味深いものなのであるが、それを抜きにしても実に面白い自伝だと思う。

自分を遠くから眺めおこすその視点がとても心地よい。変に謙虚ぶったり変に偉ぶったりせず淡々とイキイキと自分を語っていく。なかなか出来るもんじゃない。
そして母親との確執も迫真と客観を入り交えて上手に描き切っている。もちろん著者に関わってくる人生折々のスターたちのエピソードも興味深いが、彼らに対する著者の観察眼の鋭さはまた格別。
総じて上質なるエンターテイメントなのである。

1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV4「ひめゆり教師の手紙」

玉代勢秀文・玉代勢秀子著/ニライ社/1236円

ひめゆり教師の手紙
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第二次世界大戦の沖縄戦で、「私のひめゆり戦記」の著者である宮良ルリなどと同じ壕にいて女子学生などを指導した教師・玉代勢秀文。宮良ルリと共にガス弾からは奇跡的に助かったがその後消息を絶ったこの教師が宮崎に疎開した妻に送り続けた手紙を中心に、妻がその想いを綴っている。
「私のひめゆり戦記」や「初年兵の沖縄戦記」などと比べるとどうしても逼迫した感が薄いのだが、切々とした想いが静かに伝わってくる。沖縄戦の現実を外から感じることが出来て、これも必読だろう。

1998年05月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 自伝・評伝 ,

LV3「イギリス人はおかしい」

高尾慶子著/文藝春秋/1429円

イギリス人はおかしい―日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔
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イギリス礼賛の本ばかり出ているし、またそういうのを好んで読んでいるので、たまにはイギリス非難本も読みたいと思い、探して読んだエッセイ。
副題に「日本人ハウスキーパーが見た階級社会の素顔」とあり、帯に「英国ベタ誉めはもう沢山!」とある。なかなか面白そうではないか。

内容は、著者がリドリー・スコット監督の家でハウスキーパーをした数年を中心に長年イギリスで暮らした経験を書いたリアルな英国生活体験記なのだが、スタンスが思ったよりも中立でもう少しエキセントリックなものを期待したボクにはちょっと大人しかった。
が、イギリスのいろんな問題点が一般人の目からきれいに浮き彫りにされており、日本という社会の良さをそれなりに見直す契機ともなる。サッチャー政権に対する批判もかなりしつこく展開されていて、ちょっとサッチャーの政策を調べ直してみたいなぁと向学心をくすぐられたりもした。

1998年04月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 時事・政治・国際 ,

LV5「レディ・ジョーカー」

高村薫著/毎日新聞社/上下各1700円

レディ・ジョーカー〈上〉
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「かい人二十一面相」に題材を得てその完全犯罪をするどく描き込んでいるが、実はこの本は日本の偽りの成長を支えた歯車達の「疲労」について書いている。働き続け犠牲になり続けた結果こんなに醜劣な社会になってしまったことへの救いようのない「絶望」について書いている。
組織という名の偽善、忠誠という名の暴力、そして成長という名の犠牲……一読絶望の地平が広がる。こんなにも日本という社会の先行きを憂い(というかもう匙を投げている)、日本人の疲弊をリアルに描いた小説には近来お目にかかったことがない。

ラストにいくらか救いのようなものが用意されているが、それは著者が編集者に言われて仕方なく入れたのではないか、と思わせるくらいこの本は著者の悲痛なる叫びで埋め尽くされている。ただ、読者にこうして絶望と無力感を味わわせるだけでいいのか。小説家としてそれだけでいいのか、それは疑問だ。

余談だが舞台はボクが子供時代に過ごした土地、東京の大森山王。地元っ子だからこそわかるのだが、作者の下調べの周到さには舌を巻いた。さすがだなぁ。

1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV4「私の梅原龍三郎」

高峰秀子著/文春文庫/667円

私の梅原龍三郎
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隠れた名文家・高峰秀子の昭和62年出版本の文庫化。
彼女の良さは客観化がしっかり出来ている平明な視点と含羞の程よさである。そして筋が一本通っている生き方。そう、生き方自体が文章によく表れているのである。

この作品でもそれはしっかり出ている。感動するのは梅原龍三郎との近くなりすぎない距離感。それは彼の死まで変わらない。小説(随筆)的視点と実生活的視点がこれほど近い人も珍しいのではないか。新作が待たれる。

1997年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , エッセイ

LV4「星にとどく樹」

舘野泉著/求龍堂/1545円

星にとどく樹―世界を旅するピアニスト
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恥ずかしながら舘野泉を知らなかった。
フィンランド在住の世界的ピアニストらしくピアノ教師をしている嫁などは「エ!?知らないの?」てな反応を示した。う~ん。でももう知ったもんね。副題は「世界を旅するピアニスト」。この副題に惹かれて買ったわけでそんな有名人とは知らなかった。

内容は、フィンランドのこと、演奏旅行のこと、作曲家たちのこと、などのエッセイなのだが、静かな文体でなかなか心地よい。彼のCDでも聴きながら(早速買いました)寝る前にゆっくりこの本の世界に浸るなんて、なかなか贅沢だ。

1997年08月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , エッセイ

LV1「パンとワインとおしゃべりと」

玉村豊男著/ブロンズ新社/1600円

パンとワインとおしゃべりと
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玉村豊男による食エッセイ。

パンについてのエッセイはわりと面白かった。パンの蘊蓄について書かれた本って意外と少ないから新鮮なものもあった。
でもそれは前半1/3くらいで終わってしまって、あとは普通の玉村節である。それはそれで面白いし、著者ファンのボクとしては楽しいのだが、彼の著作はほとんど読んでいる身としてはちょっと飽き気味でもある。新機軸を打ち出してくれないと、そろそろ買わなくなりそうだ。読みとばすにはなかなか気持ちいい本なんだけど。ちょっと厳しく一つ星級。

1997年08月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV1「東京ステーションホテル物語」

種村直樹著/集英社/1800円

東京ステーションホテル物語
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東京駅はよく利用する。丸の内の改札口で吹き抜けを見上げ、川端康成の部屋はどれだ?などと探すくらいはこのホテルのことを知っていた。
長い歴史とエピソードでは事欠かないこのホテルに泊まったことはないが常に興味津々であり、店頭でこの本を見つけたときは迷わず買ったものだ。そして、読んだ。

エピソードは満載だし正確にその歴史を追ってはいる。が、それだけ。東京駅という超特別な立地を持つこのホテルの人間臭さも洗練も苦悩も全然伝わってこない。表面をサッと撫でたという感じ。ちょっと残念。

1997年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , 雑学・その他

LV4「にんげん蚤の市」

高峰秀子著/文藝春秋/1300円

にんげん蚤の市
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知る人ぞ知るエッセイの名人、高峰秀子による最新エッセイ集。
やさしい目線で鋭く切りつけるその手腕には毎回感心させられるが今回もとてもいいエッセイがいくつか。土門拳や木村伊兵衛のエピソード。中島誠之助という人間鑑定。司馬遼太郎とのついえぬ思い出。歯切れのいい(伝法調)文体で過去、人、想いを削り出す様は、並みの作家真っ青の出来だ。
ただ今回はちょっと散漫なエッセイも見受けられ残念。特にご主人との掛け合いはそんなに効果をあげていなかった。

1997年03月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「うつろな男」

ダン・シモンズ著/内田昌之訳/扶桑社/1800円

うつろな男
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大傑作「ハイペリオン」シリーズに続くダン・シモンズの新作。

脅威の書き手ゆえ期待満々で迎え撃ったが、裏切られなかった。
まぁさすがに「ハイペリオン」の雄大な構築には全然及ばないまでも、迫真のリアリティで読者を引っ張るのは見事。このリアリティさは何かに似ているな、と考えたらあれ、H.F.セイントの「透明人間告白」に似ている。あっちが透明人間のリアリティならこっちはテレパスのリアリティ。どっちも素晴らしい想像力と表現力だ。

1人のテレパス(テレパシスト)の苦難の物語なのだが「ハイペリオン」を思わせるようなラストで救われる。ただこのラストへ持っていくための理屈が少々わかりにくいのが難といえば難。

1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:SF

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