せ
「戸村飯店 青春100連発」

amazon瀬尾まいこって高校生の気持ちを書かせたら天下一品である。戸村飯店の二人の兄弟の桎梏と解放が明るい筆致で描かれている佳作だ。
今回はナチュラルな大阪弁も炸裂しており、エセ大阪弁を操れるボクとしては楽しくも懐かしい(東京の人には違和感あるかも)。大阪弁の小説ってわざとらしいのが多いのだけど、この本はまったくそれを感じさせない。しかも東京と大阪の空気の違いが明確に描かれており、その点も愉快。
100連発というと吉本の名作「ギャグ100連発」を思い起こさせるし、わりと疾走感&炸裂感がある題名だと思うが、以前紹介した「仏果を得ず」と同じく、題名で少し損していると思う。疾走感&炸裂感というよりは、普通に温かくてさわやかな青春小説なのだ。少しキワモノに見えてしまうし、はしゃぎすぎに見えてもしまうかも。
でも、この兄弟、どっちも好きだなぁ。特に弟は名作「幸福な食卓」の大浦勉学くんみたい。いいキャラだ。読みやすい分、少し損をしている作家であるが、ボクはこの読みやすくさりげないところが好き。
2008年04月05日(土) 14:15:52・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「強運の持ち主」

amazon占い師ルイーズ吉田を主人公にした短編小説集。
瀬尾まいこは三冊目。どの本も題名が普通っぽい。その普通ぽさも著者らしいのだが、ちょっと惜しいかな。この本ももう少しマシな題名があった気がする。
相変わらずあっさりさっぱりした読後感。でも主人公設定がなかなかユニークで面白いので印象に残る本となった。技のないインチキ占い師。適当に相手から情報を引き出して、気持ちよくさせてあげ、背中を押してあげる仕事。占いというより相談。そして当然そこにいろんな悩みが持ち込まれるわけで、小説的展開に持って行きやすい。もっと野心的に書けばいくらでも劇的なお話しになるだろうに、それをしないでひたすらあっさり持っていっちゃうのが著者独特の価値観だ(価値観なのだろう。他の本もそうだもの)。
主人公の彼が「占い上では強運の持ち主」という設定なのだが、特にそれをいかした展開はない。その辺、やっぱり少し物足りなく読み終わった。意外と数冊のシリーズにして、全体で俯瞰したら面白い題材なのかも。続編とかあったらダラダラ読みたい気分。
2007年04月22日(日) 21:13:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「温室デイズ」

amazon「幸福な食卓」を読んでとても良かったのと、学級崩壊の描き方がスマートで好感がもてたので、続けて瀬尾まいこの「温室デイズ」を読んだ。
テーマはまっすぐ学級崩壊とイジメ。
とはいえ全然ドロドロしてなくて、あっさり推移していく。この、真っ向から立ち向かわないあっさり感が逆にリアリティを生んでいる。上から見て書くとお説教っぽくなったり、懸命に生徒たちに寄り添って書くとオーバーになったりするところを上手に避けて通ることによって、逆にリアルな空気感が出てきているのである。金八なら解決できるところをあえて解決させない「流し感」。このあっさりした収め方は逆に勇気がいる気がする。なかなかやるなぁ。
ただ、じゃあそのリアル感だけで小説が持つかというとそうでもない。小説全体として考えると物足りなかったのも確か。収めどころがどうしても欲しくなる。あっさり終わって好ましいけど物足りない。複雑な感じ。あと「幸福の食卓」に出てきたような秀逸なキャラがひとり欲しかった。不良役がそうとも言えるがもう少し突っ込み足りず。惜しい。
2007年04月21日(土) 8:57:03・リンク用URL
「幸福な食卓」

amazon寡聞にして瀬尾まいこのことを知らなかったが、中一の娘に激薦められて読んだ。最初がこの「幸福の食卓」。とても良かった。しばらく他のも読んでみたい作家である。
出てくるキャラがとてもいい。直ちゃんも大浦くんも実に魅力的で、しかもリアリティがある。父も母も通り一遍でないキャラ設定で、シンプルに見える断片の奥底にちゃんといろんなものを抱えている様子がさりげなく描写されている。なんつうか「表面に見えている姿は氷山の一角」的な描き込みがちゃんと出来ている感じ。なかなか種を明かさず、だんだんキャラの薄皮がはがれていく快感。そしてはがれていくに従ってキャラがより魅力的になるのである。逆のパターンも多い中、さすがな筆力と構成力。周到にキャラ設定して書き始める作家なのかもしれないが、意外とそういうのを感じさせないなにげなさもこの著者のイイトコロ。
ふわふわ生きているようで意外と地に足が着いているキャラたち。細かいところの書き込みがしっかりしているのでリアリティがあるのだが、この空気感はとてもモダンだと思った。イマっぽい。えてしてステロタイプな描き方になってしまう現代の病巣(家族崩壊や学級崩壊)もスラリとスマートに書ききっている。こういう距離感がいいな。
2007年04月20日(金) 15:35:27・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「まれに見るバカ」

amazon章立てをご紹介すると、第一章 バカはなぜ罪なのか 第二章 バカ本を読む 第三章 現代バカ著名人列伝 第四章 現代無名バカ列伝 第五章 わたしの嫌いな10のバカ言葉 第六章「あとがき日付」一言バカの諸君 第七章 バカを寿ぐ、である。
実に面白そうではないか。
んでもって著者はなーんにも遠慮せずバカをバカと呼び、バカにし切り捨てる。しかも上から見てバカにするのではなく、下から仰ぎ見てニャンニャンじゃれついてバカと呼ぶのでもなく、しっかり同じ地平に立ってバカにする。しかも「こういう本を出している自分が一番バカでして」みたいな自虐やおもねりがない。それが一番潔く気持ちよい。
バカ本、現代バカ著名人列伝のあたりは、遠慮がない分、実に鋭い書評・人物評になっており、特におもしろい。
無名バカ列伝も良い。社会をバカという切り口で切ると実に爽快だということがわかる。ただ、バカにバカというバカはバカに違いない的な二重三重四重構造に時たま著者が陥り、読者もなにがなんだかわからなくなってしまうところがあるのだが、まぁバカ本だからそれもいいか。細かく異論がある向きもあろうが、勢いがあってボクは気に入った。
2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「16歳のセアラが挑んだ世界最強の暗号」

amazonEU青年科学者大賞を暗号の研究でとった16歳のレディの顛末記というか自伝というか(数学的説明の一部は父親と一緒に書いたようであるが)。
彼女が純粋なる数学的興味のもとに開発してしまった暗号は世界最強の暗号と言われているものを凌ぐ可能性すらあり、暗号専門家の度肝を抜いた。数学との出会いから、その暗号を提出課題にし研究するまで、達意の文章でやわらかく読者を導いていってくれる。文章はとても良い。
特に数学との出会いの辺りは素晴らしい出来。例に上げられているクイズも興味深く、知的興奮に満ちている。ただ「mod」に言及する辺りからかなーり難しくなってくるので、数学音痴としては辛かった。でもそこらの章は読み飛ばしてもなんら大筋に影響ないので、音痴さんでも大丈夫。
原題は「In Code : A Mathematical Journey」。
邦題、オーバー過ぎないか? なんというか邦題イメージほど「挑んだ系ド根性の物語」ではなく、ずっとスマートな物語なので、読者は(邦題のせいで)少し肩透かしを食わせられるところがあるかもしれない。もっとなにげなく成功しちゃうのだ。しかも成功かどうかもまだ判断保留だったりするのだ。
行間から感じられるアイルランドののびのびした教育環境がかなりうらやましい。移行年やアルバイト制度など学ぶべき点はいっぱいある気がした。
2001年11月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「マンハッタン・ルールブック」

amazon電通総研の社員が描いたニューヨーク。
新しい視点を期待したが特に目新しいものはなかったのが残念。マンハッタンってこんなところよ、と解説しつつ論を展開していくのだが、エピソードがそれぞれ普通の出来事ゆえ解説もどうしても普通になってしまう。いまやニューヨークは既知の人が多い時代。もう少し突っ込んだ分析とか体験を書いてほしかった。
ガイドブックの域を出ない印象。
1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:旅
「少年H」

amazon独特の細密イラストレーションで知られる著者初の自伝小説。少年がHするお話ではないですハイ。
上下二巻だが全く飽きさせない展開でものすごく面白い。
好奇心の塊(「河童が覗いた」シリーズの、あの脅威の好奇心!)である著者のルーツがしっかりわかる自伝なのだが、それよりもこの本は日本がどのように戦争に傾いていったか、国民はどのように戦時下を生きていったか、そしてどのように終戦を迎えたか、を神戸に住む子供の目で詳しく平明に綴った貴重な記録文学でもあるのだ。それをあの細密画のような描写で書き込んでいってしっかりエンターテイメントしているんだから、スゴイ! 総ルビというのも見識だし1月17日初版というのもうれしい。よし、ここで予言しよう。この本は「NHK朝の連続TV小説」になる!
本屋で上巻の扉を開けてみてください。そこに少年時代の河童さんがいるのだけど、この写真を見るだけで「この本は面白そう」という気になる。いやぁすごくいい顔しているのですよ、これが。
1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL




