し
「野ブタ。をプロデュース」

amazon2004年度文藝賞受賞作品。芥川賞候補にもなった。
題名が独特なのと、亀梨和也が主演してドラマになったこと(彼と堀北真希の出世作でもある)、役名の修二と彰で「青春アミーゴ」を歌いヒットしたことなどで、知名度は抜群だろう。ボクも読もう読もうと思っていたがようやく読めた。
単純に面白かった。
高校生の物語だが、高校生に限らず若者全体の「ポジショニング命な感覚」「表面的なプロデュースで渡っていく感じ」をここまでリアルにわかりやすく描ききった本は他にあまりないだろう。ポジショニング。プロデュース力。これがすべて。中身も深みもいらないのだ。
そのテーマを、「着ぐるみ」と称して自分を演出する秀逸な主人公・修二に託し、彼に信太(野ブタ)をプロデュースさせることでよりわかりやすく表出させているあたりが舌を巻くくらい上手。さすが。しかも45歳のオッサン(ボクです)ですらとっても共感できるくらい、いくつも入口とヒントを用意してくれている。
というか、高校の話というよりは「日本社会の上手な泳ぎ渡り方」にまで普遍化されたらどうなっていたんだろう、とか考えてしまう。サラリーマンだって「着ぐるみ」を着るし、「ポジショニングを敏感に察知」するし、「自分や部下をプロデュース」して生きている。表面的なのだ。修二の親世代か先生たちを絡めて普遍化させていたらどんな作品になっていたかな…。
ちなみにラストは賛否両論あるらしいが、このリセット感は絶対必要だと思う。ポジショニングに失敗したらあっさりリセットする。それでこそ修二である。
2007年04月25日(水) 16:44:49・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「ナラタージュ」

amazon島本理生(りお)が22歳の時に書いた恋愛小説。
題名のナラタージュとは「映画などで、主人公が回想の形で、過去の出来事を物語ること」らしい。表紙袖に書いてあった。でも小説内にはこの言葉は出てこず、表紙袖に気づかないと最後までわからない。このような難解な題名にすることの必然性も含めて、少しハテナ。
全体にとても端正に書かれた小説で、表現は過不足ない。いや、むしろうまい。
でも、熱い想いを描いているわりに主人公は冷めていて捉え所がなく客観的だ。これが表現力不足なのか、この著者の文体なのか、これがいまの20歳のリアルなのかがボクにはいまひとつ掴めず、最後まで違和感として残ってしまった。
でも「ボク(45歳男)に共感されず違和感を感じられたこと」は実はイイコトなのかもしれない。というのも、小説的手法として、著者は主人公のリアルな回想独白(ナラタージュ)を取っているからだ。
たとえば偏執狂な主人公の一人称で書くとき、本当なら文章は支離滅裂になるはずだ。でも一般的な小説はそれをせず、真っ当な一人称文章でその主人公の崩壊を描いていく。もしリアルに一人称にするなら読者の共感なんか放っておいてでも、偏執狂的文章にするべきなのだ。
この本はナラタージュという題名なだけに、その辺のリアルを目指している気はした。主人公の気持ちや行動を必要以上に説明せず、素っ気ないくらい淡々と一人称的な物語が進んでいく。世代も性別も違うボクとしてはもう少しその辺の気持ちの動きを書いてほしいよ、とか思うけど。
ラストの半ページがよい。この半ページに収束させるために、端正にいろんな場面を描いてきたんだろうな。
2007年03月17日(土) 17:33:52・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「テレビCM崩壊」

amazon副題は「マス広告の終焉と動き始めたマーケティング2.0」。
去年、NYでの「Branded Entertainment Summit」に参加したときに講演を聞いてとても面白かったJoseph Jaffe氏の本。
その時一緒に講演を聞いていた織田浩一氏が「この本、訳して出そうと思ってるんですよ」と言っていたのをよく覚えている。とうとう出版、ということで予約し、出てすぐ読了。
ここ1,2年の、そしてこれからの広告の大変革をまとめた本で、著者独特の言い回しが多少読みにくいのだが、広告に携わるものとしては必読の一冊だろう。「崩壊する」という予言ではなく「崩壊した」という事実として語っていることを重く受け止めなければいけない。というか、これを読んで「へー」とか言っているプロがいるとしたらかなりヤバイ。書いてあることは危機意識が少しでもある人たちにとってはとても常識的なことだ。
ボク自身、トラディショナルな広告会社の"アン"トラディショナルな部署にいて、身に染みて危機感を感じているというか「背中は冷や汗でビッショリ」なのであるが、ボクは、外からではなく中からの変革を模索していきたいと思っている(間に合えば)。変化はチャンス。危機もチャンス。でもなぁ「針の穴を通すコントロールで頭をかすめるビンボールを投げないといけない」からなぁ。
2006年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:IT・ネット
「Lightweights」

amazon題名はライト級、とか、おチビ、とかいう意味。
洋書の写真集で、各ページ、体重計に乗っている子犬の写真で埋まっている。
子犬は30種類くらい。体重計もレトロな凝ったデザインのものが多く、子犬ファンのみならず体重計ファン、いや、古い調度品ファンにも楽しめる作りになっている。
写真は文句なくかわいい。子犬の写真集って「かわいく撮る」という目的がギンギンに伝わってくるものが多いが、これはとても自然な表情を撮っていてわざとらしくない。この程度のかわいさがボクにはちょうどいい感じ。
2006年05月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:写真集・イラスト集
「出会いの先に」

amazon9月に進藤晶子がパーソナリティを務めるT-FMの番組にゲスト出演した。
TBSでキャスターやっているころからその感じの良さにぐっと来ていたが、実際に会ってみるとそりゃぁもう想像以上。ニコニコと自然体でゲストのボクを導いてくれ、生放送の緊張をまったく忘れてしまった。そんな彼女が本を出したというのでさっそく買ってみた一冊。
週刊アスキーで連載している対談(現在100人ほど)から14人をセレクトした本で、対談相手は「現代を牽引するトップランナーたち」。庵野秀明、坂本龍一、桐野夏生、古田敦也、糸井重里、阿川佐和子、荒木経惟、花村萬月、松永真、中村正人、三谷幸喜、浅利慶太、西村由紀江、多田琢、と言った人々の名前が並ぶ。個人的には、松永真と中村正人の対談が興味深かった。
対談ってインタビュアーの力量がそのまま出てしまう恐ろしい分野なのだが、進藤晶子の場合、ある種のお育ちの良さがすべての対談者に影響を与え、優しくゆっくりと話が進んでいく。インタビュアーとしては発展途上かもしれないが、相手の心を開かせてしまう名人にこの人はなれるかもしれない。そんなことを思った。
2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:対談
「かえっていく場所」

amazon帯に「シーナ版私小説の集大成」とある。いつものシーナ文体ではない、ちょっと静かな家族私小説だ。
ひどく小学生的な感想を言うと、この本を読んで初めて「椎名誠もいろいろ大変な思いをしているのだな」と意識した。というか、人生を楽しみきっている人なのだろうなとなんとなく感じていたので、ここまで真情を吐露されると少しびっくりしてしまう。冷静に考えれば当たり前のことなのだが、それぞれみんな大変なのだな。あは。マジで小学生みたいな感想だな。ちなみに野田知佑の乱れを書いたところなど少々衝撃的だったかな。いったい幸せに生きるってなんなんだろう。
静かな文体がとてもいい。妻娘息子に投じる視線も自然体で気持ちいい。読みやすく美しく、なんともホッと出来る本であった。ただ、椎名誠の人生もいろいろ大変なのだというこのイメージは、これからの「シーナ」にとってどうなのだろうとは思う。明るいエッセイを読んでも裏の苦労が見えてきてしまう。それは作家にとってどうなのだ? わざわざ私小説を書かなくても良かったのではないか? そんな心配が少し。
2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「もっとコロッケな日本語を」

amazon東海林さだおを好きな人は多い。ボクももちろん好きだが、どちらかというと消極的に「嫌いではない」といったスタンス。なんかね、決して敵を作らない内容と文章が、どこかでウソっぽく感じられてしまい、好きになりきれないのだ。とかいいつつ、たまにこうして彼の本を読むとやっぱりうひゃうひゃ笑って楽しんでしまう。うーむ。結局嫉妬に近い気持ちがあるのかもしれない(笑)。
この本は「オール讀物」に連載されたものをまとめたもので、例によって食事関係の章も多いが、この本に限ってはそれ以外が面白い。特に好きなのは「ドーダの人々」シリーズと「なにわ七低山めぐり」。大笑いである。また、対談も面白かった。イラストも絶品。そう、結局とても面白い本なのです。まぁなんというか、老後に取っておきたい作家ではあるなぁ…。
2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「キャッチャー・イン・ザ・ライ」

amazon村上春樹訳のライ麦畑。
サリンジャーマニアだった大学時代を持つボクとしては見逃せない企画。というか2000年11月に読んだ「翻訳夜話」の中で予告はされていたので、じぃっと息を潜めて待っていた感じである。やっと出た出た。
読むにあたって、野崎孝訳の本も本棚から出してきて読み比べたりした。
最大の興味は、一世を風靡した「インチキ」を村上がどう訳しているかだったが、やっぱり「インチキ」だった(笑)。これにはちょっとこけたが、あとは村上特有の言い回し(やれやれ、とか)が多用されていたり、現代風に読みやすくなっていたり、訳も時代によって変えていくことにちゃんと意味があるのだなぁと実感。つか、改めて読んだ野崎訳がめちゃくちゃ古びていたことにビックリした。言葉は生き物だなぁ。
それと、敢えて言えば、題名を新訳してほしかった気持ちはある。そのまんまかよ、と。「つかまえて」という題名を訳としてどうなのだろうと思い続けて四半世紀。村上春樹なりに答えを出してほしかった。
2003年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「HARRY POTTER and the Chamber of Secrets」

amazon原書読み。
シリーズ2巻目だが、この本が後回しになってしまっていた。現刊ハリー・ポッター・シリーズはこれで全部原書を読み終わったことになる。4巻目の「炎のゴブレット」の方がずっとずっと分厚いのに、この本の方が時間がかかってしまったな。面白さが一番劣るから、という理由が大きい。途中のダレ方がとてもつらかった。次は5巻が夏に出るのを待つばかり。ただ、噂では「炎のゴブレット」の倍近く長いらしい。分厚いと通勤で持っていくのにうざいし、ベッドで読むにも腕が疲れる。ちょっとイヤだなぁ。
2003年03月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「広島快食案内」

amazon広島のうまい店ガイドである。
自分で探したうまい店1200軒の中から255軒を厳選掲載して星の数で評価しコメントしている労作。ページ構成もわかりやすく読みやすい。ひとりの素人が自分の考えを素直に表明し手作りで作ったガイドとして近来まれに見る出来の良さだと思う。文章が少々一辺倒なのと店の全体像への言及が少し少ないのが難かな。細かい描写が多く店全体の感じが掴みにくいところがあるのだ。各章末のコラムはとても面白い。
プロのライターが書いた本には生活がない。生活を書けないから料理へのコメントに傾斜していく。そして料理を芸術とまで昇華し評価してしまう。本当にレストランの料理とは芸術なのだろうか。レストランの料理とは生活の中の句読点的「食事」ではないのだろうか…。
ボクは「生活」や「食事」の視点がないガイドが嫌いなのだが、この一素人が書いた本にはちゃんと生活の匂いがある。生活の食事の延長に店がある、と考える人にとっては信頼に足る唯一無二のガイドになることだろう。逆に、料理の何たるかを知らない素人が書いた本なんか信頼できるか!と考える人にはまるで信頼できない本だろう。でも、個人的には、後者のタイプの人とはお友達にもなりたくないからどうでもいいや。
著者の人気ウェブ「快食.com」の単行本化というとお気楽そうだが、実際にこういう風に一冊の本としてまとめることの大変さは(ジバランなどをまとめた経験から)自分のことのようにわかる。
マスコミの東京偏重により東京の店ばかり取り上げられる昨今だが、地方の一都市にもすばらしくも愛すべき店がいっぱいあることを肌感覚で教えてくれるこの本は貴重だ。レストラン好きなら、広島に行く予定すらなくても、本棚に並べておくと幸せな気分になれる。そんな一冊である。
2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
「小さき者へ」

amazon先月も書いたが、重松清は好きだけどあまり読みたくない。これも買い置きしてなかったら読まなかったかも。でもやっぱりこういう家族短編ものはうまいなぁ。どちらかというと先月読んだ「ナイフ」の方が数倍印象的だが、これはこれでちゃんと面白い。
全体にあざといと感じる部分も多い。
たとえば表題作「小さき者へ」。引きこもり&家庭内暴力に荒む息子への父からの手紙の形式をとっている。難しい題材だと思うし難しい方法で敢えて書いたんだなとも思うが、泣かせに入った部分があざとくてボクはちょっとついていきにくい。リアリティももうひとつ。同じようなあざとさを感じる部分が他の短編にもあり、読んでいてそこらへんが照れくさくなるので、ちょっとつらい。
ただ、浅田次郎がそうだったように著者もほぼ確信犯なので、これはボクがどうのこうの言う部分ではないだろう。ちゃんと読者を泣かして明日への勇気を与える。その目的は果たされていると思う。つか、泣いたし(笑)。収録短編の中では「団旗はためく下に」が特に泣ける。ここの中で書かれている「応援ということの意味」こそ、重松清の執筆姿勢なのだと思う。そう言う意味で著者にとっての重要作かも。
2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「ナイフ」

amazonなぜか著者の本を敬遠してしまっているボクであるが(「定年ゴジラ」しか読んだことなく、しかも最高点にしてるのに)、その理由がこれを読んでわかった。時代の切り取り方やリアリティの出し方、泣かせの持って行き方などが予想ついてしまうのだ。つまり、たぶんボクと感じ方が非常に近いのだろう。同年代ということもあるかもしれない。
で、著者は必ず「励まし」をテーマのどこかに潜ませるのだが、その潜ませ方もとても「わかってしまう」。で、照れてしまう。落ち着いて読めなかったりする。でも感心してるしうまいなぁとも思っている。でも照れてしまう。そんな感じ。わかる?
帯に「重松文学、初期の大傑作」と二重三重に持ち上げてあるが、初期にさりげなくこのような短編を書ける筆力はやっぱりたいしたものだ。
家族のそれぞれの気持ちに寄り添いながら丁寧にその想いを紡いでいっている短編集。リアリティも会話の上手さも少年少女の気持ちへの寄り添い方も、それぞれ一流。「ワニとハブとひょうたん池で」「ナイフ」「キャッチボール日和」「エビスくん」「ビタースィート・ホーム」の5編それぞれ、こうして表題を書くだけで筋やニュアンスが頭に思い浮かぶ。つまりそれぞれとても印象的なのだ。
オススメ。とてもいい。けどボクはこれからも重松作品はそんなに読まないかも(「小さき者へ」を買ってあるのでこれは読むが)。微妙な気持ちで説明しがたいのだが、こういう芸風から脱却した後の彼を読みたい。
2002年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「HARRY POTTER and the Philosopher's Stone」

amazon原書読み。
3巻4巻と原書を読了したので、どうせなら全巻読了!と目標を立て、まずは第1巻。筋はよく了解しているし、第1巻のせいかわりと読みやすい英語だったのか、すぃすぃ読了。読み慣れてきたのかなともちょっと思うが、少し難しい文章になるとまるでわからないので、単に筋を知らなかった第4巻の苦労に比べて読みやすく感じたってだけのことのようだ。次は第2巻「秘密の部屋」。映画が来月公開されるヤツ。公開までには読めないだろうが、筋を良い具合に忘れているのでわりと勉強になるかも。
2002年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「戦争中毒」

amazon副題は「アメリカが軍国主義を抜け出せない本当の理由」。
60ページちょっとの短いマンガである。でも本当に大切なことは短く表現できるものだ。アメリカ人が書いたこの短いマンガの中にアメリカの醜い側面が余すところなく描かれている。すべてが真実かどうか判断する材料がないが、無批判にアメリカの善を信じてきた(信じている)多くの人々に、平らかに比較検討するチャンスを提供する意味で「必読」の一冊だろう。
驚くべきことにこの本の初版は1993年の湾岸戦争直後である。初版は7000部。すぐ絶版となり埋もれていたが、有志の手により発見、私立探偵を雇って著者を捜し出し説得して、2001年の911後、最新情報を盛り込んだ改訂版を緊急出版したという。著者の先見性&平明な視点に脱帽する。
その有志の中心人物は「アメリカの問題は、政府や米軍が海外でしていることを、アメリカ市民のほとんどが何も知らされていないことに尽きる」と語っている。
まさにその通り。というか、過去の戦争中、どの国もそういう状態で暗黒に突き進んでいったのだ。そういう意味でこれはアメリカ国民自身に読まれるべき本である。「『戦争中毒』を認知させる会」という活動があり「アメリカの若者が軍隊に志願する前に『戦争中毒』を読めるように、アメリカの学校と図書館に『戦争中毒』を寄贈する」活動をおこなっているという。この本の内容が絶対的に正しいとは言い切れないが、中立な視点を与える意味でとてもいい活動だと思う。ひと口乗ろうっと。(この本のサイトにくわしく載っている)
いままた冷静に読み直してみて、この本の内容はアメリカを無視できない現代社会を生きるのに「知っておかないといけないある側面」であることは確かだと思う。「今」と正面切ってつきあっていこうという人々には「必読」だろう。そこまで真剣でもない人々にも、マンガだし、読んで損はないと思うよ。
2002年11月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「HARRY POTTER and the Goblet of Fire」

amazon原書読み。
これを原書で読み終わったときは充実感あったなぁ。なにしろ796ページ。英語的にもわりと難しく(ボクにとっては)、筋も知らない状態で読んだので、苦労が多かった。時間もかかった(1ヶ月半)。でも、日本語版が出版される前に読み終えたのはうれしかったぞ。なんだボクもわりと根気あんじゃんと自覚できた意味で、思い出深い一冊になった模様。
内容的にはかなり高度で 子ども向きっぽさもほとんどなく、大人でも楽しめる。ラストなどとっても怖く、子どもによっては読み進められないのではないかな。シリーズ最高作といわれるのもわかる。とはいえ、クディッチのワールドカップや三校対抗戦がそれほど面白い物なのかという根本的な疑問が最後までつきまとったのが残念。日本語版もそのうち買って、ちゃんと読んでみようとは思うが…なんというか再読欲は起こらない本だな。
2002年11月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「HARRY POTTER AND THE PRISONER OF AZKABAN」

amazonハリーポッターの第三巻、原書で読み下し。
英語力ないため不完全だが、とにかく読み下したという記録にここに載せておこう。これがあったがために日本語の本は冊数がはかどっていない部分もあるし。
この原書はUS版のようだ。意識せず買ったのだが、UK版とは単語や表現が少し違うらしい。ま、確かにUSとUKでは例えば同じゴミでもUSでは「trash」、UKでは「rubbish」のように、少しずつ違うよね。
原書を読んで思うのは、 日本語版で読んだ感じよりオドロオドロな単語が多かったこと。そしてリズムが非常に良い。わからないところなど、たまに日本語版と読み比べもしたが、邦訳は非常に苦労の後が見えるものの、ちょっとリズムが悪いなぁと感じるところが多かった。
ということで、いまは第四巻に挑戦中。700ページ超なので10月いっぱいでは無理だなぁ。11月にはなんとかしたい。 (邦訳は10/23に発売になる)
2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
「占星術殺人事件」

amazonまったくもって何をいまさら!と推理小説ファンから怒られそうだが、ボクだって本意ではないのだ。古くは日本の推理小説を変えた本とまで言われ、近くは金田一少年の映画の中で同じトリックが使われて問題になったことが話題となったこの本、単行本の初版は昭和56年という古さである。ボクはいろんな評論でこれが「伝説的名作」と謳われるたびに読んでみたいと思い、本屋を探し回った。が、出会えなかった。今考えればネットで注文しておけば良かった、とも思うのだが、そういう時に限ってこの本の存在を忘れていたりする。今年の6月のある日に本屋で見つけたとき、小躍りしたのは言うまでもない。
内容的には既読の人には説明不要なほど印象的な本だろうし、未読の人にはただ「読め」としか言えない。
手法的にはその後いろいろマネされたのか、古い感じは否めないのだが、伝説的、という意味はとってもよくわかるのである。手に入れるまでの長い時間も含めて、ボクは十二分に楽しんだ、ということで最高点。一種の教養として知っておいて損はない作品である。
2002年08月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「ダイスをころがせ!」

amazon選挙小説、とでも呼ぼうか。
久しぶりに読んだ真保裕一だが、相変わらずテンポよく熱く痛快。「奪取」で感じた軽快感が帰ってきた印象。選挙に出馬する友とそれを第一秘書として助けるリストラされた主人公を追いながら、大人になりきれない青年男女たちが大人になっていく物語をそこに上手にかぶせた。
作家の志として、国政参加を小説という形で取り上げ呼びかけたのはよくわかるしめちゃめちゃ評価したい。底流には「○○のせいとか嘆いてばかりいないで、参加しようぜ」という著者本人の熱い憤りがあると思う。それがこのテーマを選ばせ、熱く書かせたのだろう。題名もそこから来ている。とにかく手持ちのダイスをころがそう、と。政治の現状の説明などもくどいくらい入れ込んであり、エンターテイメント小説として読むと冗長なのだが、一種に啓蒙小説として読むと意図はよくわかるのである。
ただ、キャラやエピソードや他陣営との確執(ミステリー的な部分)が、すべてにステロタイプ的なのが残念。取材はよくされているのだが、表面的にストーリーが展開していくだけで、深みが足りない気がする。キャラがひとりふたり、もう少し深く描き込まれていたら、ずいぶん変わったのだと思う。とても面白く、志も高い本だけに、惜しい。
2002年03月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「夜の姉妹団」

amazon副題が「とびきりの現代英米小説14編」。
お馴染みのミルハウザーやレベッカ・ブラウンをはじめとして、あまり知られていない短編作家たちまで、編者が趣味で集めたオムニバス短編集。雑誌「エスクァイア」への連載をまとめたものだが、連載条件は「編訳者の好きなもの」ということだけだったらしく、編訳者は非常に乗って訳している。柴田元幸訳にハズレなし、というボクの信頼に応えてくれる名短編集である。
表題の「夜の姉妹団」そして続く「結婚の悦び」の二編を読んでまず圧倒される。
この後はもう編者の思うつぼ。それぞれ構成に凝った確信犯的短編がこれでもかと登場し読者を唖然とさせ感動させる。ラストの「北ロンドン死者の書」まで息もつかせない(中には相当変なのもあって少々困る場合もあるが)。こういう完成度が高く想像力も高く仕掛けレベルも高い短編群を読むと、日本の、ただ日常の小さな気持ちを書きつづっただけの短編たちがいかに「なんとなく書かれているか」がよくわかる。エッセイ的小説と本当の小説の違いをまざまざと見せつけられた思いである。
短編をひとつ読み終わるたびに、日常が異化され、違って見えてくる…そんな小説に年いくつ出会えることだろう。そういう小説をまとめて提供してくれた柴田元幸に拍手である。いや、面白かった。
2001年12月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「『テロリスト』がアメリカを憎む理由」

amazon表題のテロリストに「」をつけた理由についての説明から本が始まる。つまりは彼らをテロリストと位置づけることの不公平さを言っているのである。
それはロイター通信社の国際ニュース責任者の言葉に端的に表されている。「ある人にとっての『テロリスト』は、他の人にとっては『自由の戦士』だ、ということをわれわれはみな知っており、ロイターでは、テロリストという言葉を使わないという原則を崩さないことにした」。素晴らしい言葉だ。こういうことを言うジャーナリストがいるということ自体が救いになる。そして、著者のスタンスもここにある。この本でも便宜上テロリストという言葉は使うが、彼らをそう定義したわけではなく「」付き引用である、ということである。
このスタンスと表題とでこの本の内容はだいたいわかるだろう。アフガン側に偏向することなく、なるべく公平な立場からアフガンや「テロリストたち」の立場を書いてみようという本だ。その過程でイスラエル建国に端を発するパレスチナ問題もわかりやすく総括してあり、西側の(特にアメリカの)すさまじいエゴが目の前に明らかにされていく。つうか、やっぱ西側の人々は心の底ではアラブ・アジア人を「人間」と認めていないな。
アメリカがいままで世界各地で行ってきた行為は間違いなく「テロ」である。
アメリカは世界最大のテロ国家なのだ。その辺の言及が個人的にはいささか物足りないが、アメリカ偏重の報道が多い中、こういう本は知のコレステロール・バランスを保たせてくれる美味しいサラダみたいなもの。興味ある方にはおすすめだ。
2001年12月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:時事・政治・国際
「いやでも楽しめる算数」

amazonこのふたりが組んで5冊目、かな? 理科エッセイ2冊、社会科エッセイ2冊と来て、ついに算数エッセイである。
先生役の清水とサル役の西原が非常にうまく絡み合うこのシリーズをボクはたぶん2冊読んだことあるが、この「算数篇」はちょっと中途半端な印象を持った。ある意味このシリーズで一番熱心に説明はなされているものの、算数に関するおもしろ本は世界的に数多くあり、レベルも高く、しかもそれらをわりとボクは読んでいるので、比較しちゃうとどうにも辛い。清水がとうとうと述べている面白い算数の命題とかも、他の本で読んだものがほとんどだった。うぅ、こりゃアンフェアかも。そういうのに触れたことのない人が読んだらもっともっと面白いのかもしれない。
西原は今回、別の勝負をしている感もあり、ほぼ算数に関しては清水の独壇場。
ボクはもともと算数大嫌い派なのでイイタイコトとかよくわかるのだが、「算数を嫌っている人にも楽しく読めるように書くからね、ゴメンね」という引き気味のスタンスが表面に出過ぎて、小さくまとまってしまった感があるのがやっぱり惜しいな。そんなの無視して「算数ってこんなに楽しいの!」と自信たっぷり書いてくれれば良かったのに。そこに西原が暴力的にツッコんできた方がよっぽど面白かったと思うのに。
2001年12月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「闘うプログラマー」

amazon副題に「ビル・ゲイツの野望を担った男達」とある。ウィンドウズNTの開発のものすごさ(死の行軍)を書いたノンフィクション。言うなれば、ウィンドウズNT版「プロジェクトX」である。
なんとなくソフト開発物語が読みたくて探して買った本だが、実は初版1994年である古い本。そのことに途中まで気がつかない辺りが、ボクのウィン系への疎さを感じさせますな ←マック派だしさ。
ま、確かにその開発行程はすさまじい。
でも「アラこの程度?」とも一方で思っちゃうくらいはボクも忙しい時期があったので、なんだろう、ある種死の行軍をしたもの同士の連帯感が出演者と読者であるボクの間に芽生えたり。はは。でも、死の行軍を終えた彼らが「疑問ももたずに長時間勤務を受けいれる純真さを失った」と書いてあるところがあるが、ここらへんは特に共感しちゃったのだった。
内容的には面白いし、マイクロソフト・オールスターズがいきいきと動き回ってくれるので、MS嫌いなボクであっても、なんとなくMSを見直したり。じぃっとプログラミングの様子を追っていたりするのでどうしてもノンフィクションとしては中だるみや退屈な部分も出てくる(だって動きがないしさ)。そこらへんが欠陥ではあるが、興味のある向きには面白い本だろう。でもラストをもう少し盛り上げてもいいと思ったな。原題は「SHOWSTOPPER!」。うぅ。個人的にドキッとする原題なんです、はい。心臓に悪いです。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「オールド・ルーキー」

amazon副題は「先生は大リーガーになった」。
アメリカの田舎の35歳の高校教師が大リーグの最年長ルーキーになった、という実話を、本人であるモリスともうひとりの著者エンゲルが組んで書いた本。ディズニーによる映画化も決定しているらしい。いかにも映画になりそうなストーリーだからねー。
ま、先生、というところがわりと強調されている分、学園感動ものかと思われるが別にそうでもなく、実は先生であるというよりは「いままですべてに中途半端だった主人公の、野球をめぐる半生記」みたいな趣。学校がからんでくるのは最後の頃だけである(大リーガーになったあと、思ったより生徒たちが登場しない。なぜだろう?登場させたらより感動的なのに…。映画ではもっと絡むことであろう)。
淡々と正直な著者の記述も好感もてるし、いたずらにお涙演出していないところも心地よい。まぁまぁなのだ。でもまぁまぁ止まり。ノンフィクションとしてはいい話しだし、全米でも話題になったトゥルーストーリーらしいが、なんか物足りないなぁ。
2001年09月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」

amazonシリーズ3作目。
2001年5月現在で全世界1億部突破というからものすごい(印税を考えると卒倒しそうである。定価の10%としても…ひぇ~)。テレビやゲームから子供たちを取り返した、という世評そのままに、本のチカラを再認識させてくれる名シリーズとなった。全8巻。まだまだ継続していくハリー・ポッターの物語をリアルタイムで読める我々は後生うらやましがられるかもしれない(シャーロック・ホームズものをリアルタイムで読んだロンドン市民みたいにね)。
危機、試練、興奮、友情、そして意外な結末、を毎巻きっちり用意し、展開し、きちんと収束させる著者の力量はたいしたもので、この成功はもうフロックとは言えまい。今回はシリーズ3巻の中で一番面白いと評判であるが、ボクもそう思う。後半、厳しく言えばちょっとだけ不満があるのだが、十分面白い。ストーリー展開が子供には難しすぎるかもしれないと思えるところも気に入っている。著者は子供を子供扱いしてはいないのだ。
さて、第4巻は、これまでの3倍の長さだと言う。我が娘は小一。第4巻発売までに、ハリー・ポッターの世界に導引させてみようっと。
2001年08月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
「南島ぶちくん騒動」

amazon石垣島で買い、石垣島で読んだ。
著者の監督により、石垣の白保海岸で撮った映画「うみ・そら・さんごのいいつたえ」のロケ日記的趣きの本である。120ページ程度の薄さにモノクロ写真ふんだん、という体裁なので、あっっっという間に読める。でも椎名節は八重山ののんびり空気に合っていて、薄くてもあっという間でも不満はあまりないのであった。
文中、「南の島の魅力はなにか?ひとつだけあげよ」という命題で、著者は「沖縄の子供たち!」としている。卓見、そして共感。あの目の輝き、あの身体中から発散される楽しいぞオーラは尋常ではない。たぶん著者も自分の子供時代に重ね合わせて見ているのだろう。つか、重ね合わせて見られる子供が東京にはもういない、ということか。著者撮影の写真はそんな子供たちをよく捉えている。目線が近いせいだろうか。
2001年08月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
「スター・ガール」

amazon全米書店員が選ぶ「2000年いちばん好きだった小説」の第一位だったそうな。映画化も決定したらしい。うーむ。映画にしてほしいようなしてほしくないような。ちょっとヒトに内緒にしておきたくなるような素敵な本である。せつなくて、キュートで、強い心の物語、ってところ。基本的にラブストーリーだけど、根本はそこにとどまらない。
ま、甘ったるくファンシーな物語と言うこともできる。せちがらい世の中から見たら「は?」な感想を持つ方もいらっしゃろう。
でも、ボクはこの本が好きだ。なんか赤毛のアンとハイジと長くつ下のピッピとさとうさとるを足して4で割って、ちょっと村上春樹を足したような小説で、照れくさかったり痒かったりするところもあるんだけど、でも、好き。これからこの本を読むなら、先を急がず、ゆっっっくりページをくくってほしい。どうしようもない日常から離れ、じっくりスター・ガールの世界に浸ってください。
しかし、こういう小説、アメリカっぽいなぁ。日本ではとうてい書かれないタイプの小説だ。おすすめ。LOVE!
2001年07月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「ポップ1280」

amazon作品自体は1964年に発表されたもの。
近年再評価の動きが激しくリバイバル・ブームになっているらしいジム・トンプスン。タランティーノやらキューブリックやS・キングに影響を与えたなどと喧しく言われ、あげく、古い作品なのに2001年の「このミステリーがすごい!海外編」で第一位も取ってしまった。アメリカでも日本でも長く無視されてきた人らしい(なぜかフランスでは大人気)。
うーむ。そんな外部評価はどうでもいいや。とりあえずとても面白い。古さを全く感じさせない。文体も展開も主人公のユニークさも、良い感じでバランスが取れている。たまに破綻的に名文が現れたり、唐突になげやり文が出てきたり、といった意外性が(結果的に)リズムになっているのも面白い。全体に漂う重さと軽さを上手に訳出した訳者の手腕かもしれない。そう、重いのに妙に軽い、この微妙な感覚・・・タランティーノっぽいよね。
裏に人間存在に対する痛烈なる批判というか呪詛が満ちているからこそ、この本は面白いのだろうな。他の作品もなるべく早く読んでみたい。
2001年06月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「シーズンチケット」

amazonペーパーバック的風合いが好ましいBOOK PLUSシリーズの一巻。
この本はイギリスの物語。サッカーのシーズンチケットを買うことが唯一の夢である少年ふたりの悪戦苦闘の日々を描いた中編。「映画化!2001年GWに公開」と帯に書いてあるから、ちょうどこの5月に日本で公開されているらしい。
イングランド北部の貧困街で、閉塞感バリバリで暮らす少年ふたりの夢、それはニューカッスル・ユナイテッドの年間指定席を手に入れること。
スタジアムで好きなだけ試合を見れたらなんて素敵だろう、という閉塞感の象徴のような密やかな夢の設定がまず泣かせる。そしてそれを買うためにお金を貯めるのだが、その考えついた方法がすべてあまりに貧困で泣けてくる。そう、一見明るい筆致でコミカルに書かれた本のようだが、内実は暗く閉じられた悪循環の話なのだ。そしてラストもハッピーエンドではない。夢を諦めないところが救いといえば救いだが、でもきっと彼らはこの悪循環から抜け出せない。
明るく性格もいいふたりがどうしようもなく堕ちていく様が、社会派的押しつけを使用せずよく書けている。読者を自然に応援させつつ、一緒に閉塞感を味わわせる手法もなかなか。金稼ぎエピソード群がもっと面白ければかなりいい本になった気がする。あそこらへんがもうひとつなのがこの本の弱いところ。映画はここらへんを笑えるように描いていることであろう。
2001年05月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「脳男」

amazonちょっと厳しすぎるかもしれないけど、でも「週刊文春2000年度ミステリーベスト10第1位」とか「第46回江戸川乱歩賞受賞」とか聞かされると「マジー?」って思って気持ちがネガティブな方に働いてしまう。うーん、マジ?
主人公を特殊に設定すること自体は(主人公が青年期の教育であそこまで学習するとはとても思えないけど、それに目をつぶりつつ)成功しているとは思うのだけど、でもそれってよくある手だと思う。その後の彼の活躍もかなり非現実的で(特に網くぐり)、なんだか主人公が著者の頭の中を出ていない印象。主人公がすべてな本であるだけに、そこがつらい。
また、脇役もステロタイプだし、どんでんも予想がつくし、ラストも思わせぶりだし、題名も「ハサミ男」に似ているし……佳作ではあるけど、2000年度ナンバー1とはちょっと思えない。ここまで他の評価が高くなかったら違う感想を持ったかもしれないけど、ちょっと期待しすぎてしまい申し訳なかった。残念。
2001年04月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「板前修業」

amazon数々の名店で修行したあと「銀座しも田」という店(ボクはまだ行ったことない)を開いた板前が書いた「板前修業紙上体験」である。
そう、読者はいうなれば「板前修業」というカルチャースクールの講座を受けている生徒、というような設定。著者は軽妙洒脱な話し口調で、板前の様々な技を披露し、教えてくれる。語りかけがやさしいから専門的な部分も抵抗なく読み進められ、隅々まで退屈せず読めるからこそ見えてくる全体像みたいなものが、板前の本当の姿をより浮き彫りにしてくれている。専門的な部分と全体像のバランスを取る、というとっても難しいことがスラリと出来ているのがこの本の出色なところであろう。
個々の料理法や魚の見分け方さばき方なども参考になるから、そういう興味がある方にもいいかもしれない。
2001年03月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「サン・ジャンの葬儀屋」

amazon「フランスで大ベストセラー! 2000年シネレクト賞受賞」という帯(シール)につられて買ってしまった。
著者のデビュー作らしい。軽妙かつヨタヨタな空気感がまず良い。著者のクレバーさが伺える文体だ。筋もなんだか滑稽で最後はロードムービーのようになりとても映像的。斬新を気取らず、わざと田舎っぽい描き方に徹しながら、しっかり「新しさ」を演出するあたり、なかなかである。
全体にいかにもフランスっぽいウィット感があるので、好む人には心地よいだろう。オチも小洒落ていてちょうどよい。
ただなにか刺激があるかとか面白いかとか言われるとノーである。なんちゅうか南の島の海岸に寝ころんで読み捨てするには最適だけど、都会であくせくしている日常で読むと(肩の力を抜けさせてはくれるが)ちょっと物足りない部分もある。読む状況でどうにでも変わる本、かな。
2001年03月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「ハリー・ポッターと秘密の部屋」

amazonハリー・ポッター・シリーズの第二巻。
面白い。世界観を思い出すために、前回の「賢者の石」を再読した上で一気になだれこんでみたが、二冊いっぺんに読んだせいもあるのだろう、その世界観構築の見事さと、事件やエピソードの巧みさに(前回の印象より)かなり感心させられた。大ヒット作の二作目というのは難しいだろうと思うが、非常に成功した例ではないだろうか。
前作も初読時より面白く感じた。つまり再読に耐えるシリーズということか。今作「秘密の部屋」に限ると、前作よりもずっと恐怖感の演出がうまく、想像力豊かな子供なら読むのをやめてしまうかもしれないレベルの怖さまで行っている。子供用に書くという手加減をしていないあたりの気骨さが、全編に渡って感じられ、それがこの物語をより深いものにしているのだろう。
それにしても・・・全世界で3600万部とは! 今年は映画化もされるらしい。謎解きがあって、困難や障害物があって、仲間がいて、魅力的な救助者がいて・・・と、ヒットすべき文法を忠実に守っているだけという感じもするのだが、それぞれが半端でなく完成されているだけに、これからの作品もまず期待を裏切らないであろう。第三巻「ハリー・ポッターとアズカバンの囚人」は今年夏に発売らしい。楽しみである。
2001年02月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「停電の夜に」

amazon山本夏彦は向田邦子を評して「向田邦子は、突然現れてほとんど名人である」と言ったが、このジュンパ・ラヒリというNYC在住のベンガル人女性はまさにそんな感じである。この本がデビュー短編集なのだが、いきなり「ほとんど名人」なのである。一読びっくり。再読ほっこり。このデビュー作で2000年度ピュリツァー賞、O・ヘンリー賞、ニューヨーカー新人賞などを総なめしたのも理解できる。うーん、スゴイ…。
静かな語り口。無駄のないフォルム。全体に独特の距離感のある描き方で、それは主人公に対しても同じ。短編の最後の方で、ふっと主人公からの距離を遠くに見せる感じが絶妙(映像で言ったら最後にすっと程良く引く感じ)。うーん。物語の収め方がいいなぁ。好きなタイプのエンディング。
どの短編もとっても良かったが、特に印象に残っているのは「本物の門番」「病気の通訳」「ピルザダさんが食事に来たころ」。なんとなく彼らの世界観が読んでずいぶんたったいまでも心の中に巣くっているという意味で印象に残っている。でも全部いい。今年のベスト1かもしれない。オススメ。
2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「渋澤龍彦綺譚集1(全2巻)」

amazon先月香山滋の幻想小説集を読んで、無性に渋澤龍彦が読みたくなった。
この希有な物語作家の全集(全2巻)は前から買ってあったもので、いままでも拾い読みはしていたが、じっくり腰を落ち着けて読んだのは初めて。今月はまずその第1巻。いや、実はここに収められた26編の8割くらいしか読めなかった。こうして書いている今もまだ読書継続中である。だって、著者の文章は流し読みが出来ないんだもの。ゆっくり物語世界に沈み込む快感こそ、彼に求めたいものだからである。
渋澤龍彦の作風をひと言で表現するなら「妖しい目眩」とでも言えようか。
この頃ではもう知らない人の方が多くなりつつある作家だが、読み返してみてそのオリジナリティと尋常でない妖しさに慄然とすることしばし。緻密かつアバウトな構成力と行間の深い表現力。細部に川端康成の文学的おどろおどろと三島由紀夫の絢爛が、ちょっとずつ宿っている。なんちゅうか、気持ちよく彼が作り出した闇に落ちていけるあの加速度感が得難いのです。初期の作品はちょっとイマイチなのも多いけど、全体の物語よりもなんというか漢字ひとつから匂ってくるようなイメージを楽しみたかったので満足。文字色、書体、装丁、挿し絵もそれぞれとてもよい。しかしこの著者、導入がうまいなぁ。このまま第2巻に突入予定。
2000年11月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
「十月はハロウィーンの月」

amazon「長田弘が選んだ7冊」の第二回配本の一冊。
「絵本」というより「詩集」である。アップダイクの冷たいまでに計算された名文による12ヶ月の風物詩である。
実に名文、と言わざるを得ない。ゆっくりゆっくり味わって読ませてもらった。
ただこうなると絵は文章の脇役でしかない。もっともっと「強い絵」があったなら、と思う。また、長田弘による訳は、原文に忠実なのだろうが、ちょっと読み聞かせるにはイマイチなリズム。ちなみに5歳の娘は絵も文も楽しまなかった。仕方ないかな、ちょっと高度過ぎたかなと思いつつ、実は訳によってもう少しなんとかなったんではないか、とも思うのである。
2000年11月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:絵本
「おやすみ、おやすみ」

amazon「長田弘が選んだ7冊」の第二回配本の2冊目。
これはとても良かった。娘と共に非常に楽しんだし、いまも「読んで」とせがまれる。
絵もいいし、文もよい。まぁなんてことない内容だと言えばそれまでだが、ここから広がる会話と空想がこの本を楽しくしている。そう、娘との会話と空想の入り口として、この絵本は優れているのである。来月の配本が楽しみだ。
2000年11月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:絵本
「緋の女 スカーレット・ウーマン」

amazon著者は匿名作家らしい。世界的ベストセラーを書いた人の別名なのだそうだが、かたくなに匿名を守っているのだとか。トレヴェニアンもそうだったっけ? 「イマージュ」の作者もそうだったような。まぁ匿名でいままでの自分の領域と違う世界を書きたくなる気持ちはわかる。
印象としては良くできたミステリー。全米、そして日本でも(数年前だが)絶賛されたのはよくわかる。
19世紀後半のニューヨークを舞台に、時代考証がよくされているせいだろう、リアリティ溢れた冒険に同行できるのである。スカーレット・ウーマンというのはいわゆる売春婦のことだが、舞台を女性運動黎明期に持ってきた分、別の意味も持ってきている。著者の頭の良さの勝利だろう。
難を言えば、キャラの立ちがもうひとつなのだ。もうほんの少し、体臭みたいなものが匂ってきたらかなり作品に奥行きが出ただろう。あと、ストーリーもわりと複雑。印象がちょっと分散してしまうのが惜しい。凝りすぎなのかな、ひと言で言うと。あの世界観の中でもうちょっとシンプルな物語が語られたら・・・抜群だったかも。
2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「死者の書」

amazonミステリーなのかな。いや、ホラーか。うーんそれともファンタジー小説か。まぁどれでもいい。鬼才と言われる作家のデビュー作で、アメリカではベストセラーだったらしい。
面白い。発想といい展開といい不思議な文体といい行間の深さといい、非常に楽しめる。だけどだけど、結局最後は拍子抜けだったのである。むーん。前半から終盤まではホントにいいの。でもね、終盤からラストにかけてがどうにも居心地が悪いのだ。息切れしたのかなぁ。それとも終盤までの怒濤の展開を支えきれなくなったのか。処女作だけにいろいろ考えられるけど、まぁ広げすぎ、なのかな。収まりがつけにくい展開ではあるし。
作家は想像力だけで世界を構築できる、ある意味で「神」なのだけど、そういう意味ではこの本はまさに「想像力そのもの」。
ちょっと映画「マトリックス」的部分や、ゲーム「ウルティマ・オンライン」的な部分もあって、面白い。読後はわりと拍子抜けだけど、時間が経つに従って印象が深まるタイプの本である。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「シャーロック・ホームズのクロニクル」

amazonいわゆるホームズ・パスティーシュですね。贋作、というか、まぁコナン・ドイルになりきって、ホームズの推理短編を書き下ろしたもの。著者は「シャーロック・ホームズの秘密ファイル」に続く第二作目。ホームズ・パスティーュもののなかでは定評ある人。
個人的に転勤という大イベントがあって、とにかく雑事の中でも気楽に読める本としてこれを選んでみた。
ホームズはかなりマニアックに好きだった時期もあるから。で、読み始めはその徹底した贋作ぶりに違和感があって笑ってしまったが、読み進むに従ってその違和感が消え、お馴染みの19世紀末のロンドン・ベーカー街が浮かび上がってくる。うーん、さすがな力量。
だが、もっと読み進むと「こりゃダメかも」に変わっていく。推理の質がわりとお粗末なのだ。いや実はコナン・ドイル本家のホームズ短編も最後の方はお粗末な出来のものも多かった。そういう意味では質的にも後期の正調贋作になっているのだが、贋作でお粗末ぶりを見させられるとどうして白ける。それだけ。
2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「アメリカ文学のレッスン」

amazon柴田元幸が雑誌「本」で連載していた「アメリカ文学講義ノート」に加筆修正し、改題したもの。
ボク自身は、講義とかレッスンとかいう題名は内容を言い表していないと思う。確かに読むに従いアメリカ文学の全貌が文学史と違う側面から浮かび上がっては来るのだが、これは決してレッスンではない。「アメリカ文学を通してみた人の世」であり「アメリカ文学によって表される人生の諸相」を著者の視点で突っ込んで考えていったものである。
かなり面白いのだが、レッスンとエッセイの中間といった感じになってしまい、中途半端感があるのが残念。もっと生き生きとしたエッセイにしてほしかったなぁと思う。アメリカ文学についてある程度背景をわかっている層に対してのちょっと高度なおもしろエッセイみたいのが読みたかった。
読んでくると彼は意外とレイモンド・カーヴァーに刺激されているのがわかる。カーヴァーの代表的翻訳者は村上春樹だが、柴田元幸の訳も読み比べてみたいと思わせる。作家が訳すのとはまた違ったミニマリズムの特徴がそこに表出してきそうだからである。「アフリカの日々」に代表的訳がふたつあるように、カーヴァーにも欲しい。
2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:評論
「女たちのジハード」

amazon何年前だかの直木賞受賞作。浅田次郎の「鉄道員」と一緒に受賞したものである。
実はまるで期待せず読み始めたのだが、予想に反してとても面白かった。全体に女性たちの行き場のないやるせなさがよく伝わってきてとても共感できたのだ。でも、ジハード(聖戦)したものの結果が結局こういうことなの?と鼻白む部分はあったかも。特にラスト。なんだか安いテレビドラマの結末の付け方みたいで、ちょっと不満なのである。
そう、ある意味とてもテレビドラマ的なつくりだ。性格も境遇もまるで違う5人のOLたちが主人公で、キャラはとてもわかりやすい設定だし、描写も非常にテレビ的。ストーリー的にもいかにもテレビ、である。というか、テレビ脚本が直木賞に近づいたのかも。でも、こういう文学が賞をとったのは悪いことではないと思う。時代に即した大衆文学。それが直木賞であるならば、まさに直木賞的作品なのであるとボクは思う。
深さはあまり感じないが「スライス・オブ・時代」としてはよく出来ている。そんな感じ。
2000年04月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「死を誘うロケ地」

amazon「ボーンコレクター」の著者のずいぶん前の作品。
本棚に死蔵されていたものだが、「ボーンコレクター」が面白かったから読んだみた…が、うーん、大化けする前の桐野夏生を読んでいる時に感じるような、なんだかいたたまれない感じが漂う。なんだか完成度が低い、というよりも、主人公を最後まで魅力的に思えなかったのが一番の問題であろう。
映画のロケーションハンティング業自体を取り上げたのは面白かったが、その世界をそれなりに知っているボクですらどうしてものめりこめなかった。どうしてかな。やっぱり主人公の書き込みが特に前半部で足りないせいだと思う。んでもって、のめりこめないうちに殺人がおこってしまったのも敗因かもしれない。わりと時間の無駄だった作品。
2000年03月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「ボーン・コレクター」

amazon去年の海外ミステリー物のベスト1を総なめした感があるこの本、なんとなく怖そうだったから敬遠していたのだが、読んでみたらちゃんとした正統ミステリーでした。
いやまぁ怖いことは怖いんだけど、想像していたスプラッター的怖さではなくてホッ。全体に登場人物のキャラがそれぞれ深く掘り下げられていて見事だし、ストーリーも練りに練られているし、どんでん返しも鮮やかだし、ベスト1を総なめするのも理解できる。ま、めちゃめちゃすげーとは思わなかったけど、誰にでも安心して推薦できる良質ミステリーだ。
主人公的役割のハリー・ライムは四肢麻痺で左手の薬指一本しか動かないという設定。
ここで「うーん、障害者ものかぁ」と敬遠するなかれ。彼は障害者主役にありがちな人格者として書かれていない。いまひとつカタルシスまで持っていけなかったのが残念だが、欠点が多い普通の人として描かれる。いやむしろ健常者よりも性格的欠点が多いくらい。こういう主人公を設定してストーリーを進めるのは並みの筆力ではできないだろう。また現代科学捜査についての記述も詳細でそれはそれで面白い。
著者の名前を見てどこかで見たことがあると思い本棚をあさってみたら「死を誘うロケ地」という本が出てきた。つん読状態でまだ読んでないが、早速読んでみよう。CMを生業にしている身にはめちゃめちゃ不吉な題名なのだが・・・。
2000年02月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「ハリー・ポッターと賢者の石」

amazon全世界で800万部売れていて、来年夏にはワーナーが映画化すると言われている話題のファンタジー。
全7巻完結らしく、これから順々に読んでいけるわけですね。まぁ面白かったからそれはそれで楽しみだ。ちなみに初邦訳。日本では無名小出版社が世界的超ベストセラー本の翻訳を勝ち取ったことでも話題になった。
ひと言で言えば、ロンドンの子供魔法使いの話。魔法学校に通って魔法を覚えていくうちにまき起こる事件の数々…。こう書くとちょっと「ゲド戦記」を思い出す。硬派な「ゲド戦記」をリンドグレーン風に料理して、ディズニーのスパイスを散りばめた、みたいな印象をボクは受けた。
ストーリーはよく出来ている。夢中で読める。一巻完結ならちょっと「ぬるいな」と思う構成も、七巻続くならもちろん許せる。いまひとつカタルシスを感じられない主人公もだんだんに成長していくのだろう。子供の活字離れを嘆く前に、そう、こういう風にテレビゲームに勝てるような本を大人は書くべきなのだ(活字離れを嘆くなら、ね)。
まぁ童話的なものなので比べようもないが、日本にも小野不由美の「十二国記シリーズ」という「世界的ベストセラーになったっていいじゃん的大名作ファンタジー」があるんだがなぁ…と読後に思った。ハリー・ポッターに全然勝っているぞ、十二国記!
2000年02月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
「ニューヨークの錠前屋、街を行く」

amazon著者自身が実際にニューヨークの錠前屋である。
つまりこの本はノンフィクション的小説で、錠前屋が街のいろんなところで経験するちょっと小洒落たエピソードを14編集めた短編集となっている。
硬質な文章で上手にニューヨークの空気を再現しているとは思う。ニューヨークというある種特殊な街に生きる普通の人々が活写され、錠前屋主観のその文章は、被写体との距離感が見事に取れている。でもなぁ、でもでも、なんつうかこういう「ボブ・グリーン的世界」ってちょっと古くない? つうか、飽きない? あ、ボクだけ? よくわからないけど、よく出来ているとは思うけどつまらなかった、みたいな印象。錠前屋、という職業にはとても興味が湧いたけど。
ちなみにこの頃ちょっとだけ常盤新平の著書・訳書にアタリは少ない、と思い始めている。なんだか「ぬるい」のだ。
2000年02月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
「ハサミ男」

amazon帯に「最近、推理小説らしい推理小説がないとボヤいている人へ。--法月綸太郎」とある。
確かに二重三重に読者を騙す罠が仕掛けられていてタネがわかってくるに従い呆然とすること確実。え!?そんなはずは、と前半を思わず読み直してしまう。映像がない「本」という特性自体が罠なのだ。いや、題名自体も・・・まぁやめておこう。とにかく見事と言わざるを得ない。まさに知能犯の仕業である。
ただ、コクというかヒダヒダというかそういったものを求める向きには不満が残るだろう。感心はするが感動はしない内容だ。「よく出来ているね」という感想しか残らないタイプの推理小説。特に犯人(ハサミ男以外の)の書き込みが足りない。まぁ無い物ねだり、かな。ちなみに第13回メフィスト賞を受賞したらしい。
1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「ボーダーライン」

amazon真保裕一待望の新作。
カリフォルニアを舞台にめちゃめちゃハードボイルドな探偵小説を書き上げた。
日本在住の作家とは思えないその筆致、リアリティ、会話、展開、それぞれ見事であるが、名作「ホワイトアウト」に見られたような「迫力&圧倒的ストーリーテリング」みたいなものが感じられないのは何故だろう。彼の地の気候にも似た乾いた筆致にこだわりすぎたか。細部とストーリーテリングとのバランスが悪いのか・・・。いや、たぶん、後半に出てくる「犯罪者は先天的に出来上がっているのか、それとも教育か、または環境ホルモンか、キレる若者の精神構造はどうなのか」的な長い議論が全体のストーリーを邪魔しているのだ。説明不要な部分に思えたが…?
見事な重層構造でしっかり読ませるのだが、ちょっとだけ理屈っぽすぎるのが弱い。彼自身がいまボーダーラインにいるのかもしれない。
1999年10月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「むずかしい愛」

amazon副題は「現代英米愛の小説集」。
スティーブン・ミルハウザーやレベッカ・ブラウンをはじめとしてウィリアム・トレヴァー、ヘレン・シンプソン、グレアム・スウィフト、ウォルターモズリイ、V.S.プリチェット、ジョン・クロウリーと、日本ではマイナーな作家たちの短編を集めたもの。
テーマは題名通り「むずかしい愛」。つまりは普通でない愛の物語だ。
冒頭のレベッカ・ブラウン「私たちがやったこと」が特にいい。いつも一緒にいるために片方は耳を焼き、片方は目をつぶした恋人達の物語。そう、そんな「変な愛の物語」がいっぱいつまった本なのだ。いや、愛はいつもどこか欠けている方が強くなる。そういう意味では「強い愛の物語」とも言えるかもしれない。
編者は信頼する柴田元幸。彼が訳したものはハズレがない。ただ、今回はテーマ先行って感じで、ちょっとレベル的につらい短編もあったのも確か。秋の夜の就寝前にじっくりつき合うにはとてもいい本だけど。(p.s. 嶋津ふみさんありがとう!)
1999年10月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)
「カープ島サカナ作戦」

amazon週刊文春に連載しているエッセイ「新宿赤マント」をまとめたシリーズの最新刊。
わりと文春は読んでいるからここに収録されたものもほとんど読んでいたが、海外出張の友としては軽く読めるので助かるのだ。
そう、椎名は海外出張にとてもいい。読み捨てられる上にテンションが上がるのだ。話題も縦横無尽に広がるし、文体も気分も安定しているし、なによりも面白いから。マンネリという声もこのごろある。が、著者はマンネリを一番畏れているみたい。文体の節々にそれを感じる。で、椎名誠はそれに成功しているとボクは思うぞ。こんなに多作なのに、たいしたものなのだ。
1999年09月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
「活字博物誌」

amazon著者が読んだ本を起点にいろいろ派生した妄想・出来事・感想をエッセイしているもの。
「活字のサーカス」(岩波新書)の続編に当たる。なぜ新書なのか?という疑問は最後までぬぐえないくらい、いわゆるいつものシーナ節。文庫の趣が強く、岩波新書ぽさはまるでない。読書感想文に絞ったということがまぁ新書ぽいのか。
いつものように自然科学系の本に対する言及が多く、またまたいつものように読み飛ばせる快調な筆致。
こんなに書き散らしていて筆が荒れないか心配になるが、出張の新幹線の3時間で読むには適切なる娯楽である。
1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「定年ゴジラ」

amazon定年者の気持ちが良く描けている小説である。
うんうん定年したらこう思うだろうなぁというリアリティが非常に感じられる。が、あまりに共感したので「ボクって定年者の気持ちが何でこんなにわかるんだろう」とちょっと不思議になり思わず奥付を見たら、この作者、なんとボクの同年代ではないか。想像力・筆力のすごさに脱帽すると共に「やっぱりボクの年代から見て書いた定年者なんだな」とちょっと納得もした。本物の定年者が読んだらどう思うか、興味があるところである。
もうひとつ面白かったのは「ニュータウン」について非常によく書けているところ。定年者という素材を借りながら実はニュータウン論を書きたかったのではないかと邪推したくなるくらいだ。
全体にとてもよく構成されていて楽しく読める。日本の社会の仕組みそのものが「定年」していく姿が浮き彫りになり、ちょっとせつなくなる。あと、主人公も「さん」づけで呼んでしまうのがなんだか新鮮でした、関係ないけど。
1998年09月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「密告」

amazon元オリンピック候補の警察官に降りかかった密告者の汚名。警察組織の腐敗を描く長編である。
相変わらず真保裕一は読ませる。面白い。
が、これに関してはちょっと読後感が悪すぎる。それに主人公の行動がいまいち読者として納得いかないのが難だ。
例えばゴダードの本に出てくる主人公もおバカな行動をとるけど、どこかで納得がいく。それは人物造形の違いだろうか。いや、ちょっとしたセリフの違いなんだろうな。とにかくカタルシスがあまり感じられず、読んでいる間も読後もなんだか気分がすぐれなかった。惜しい感じ。
1998年08月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ミステリー
「おもしろくても理科」

amazon簡単に言えば「バカでもわかる科学」。
具体的に言えば「西原理恵子でもわかる理科」である。とはいえ、サイバラ画伯は思ったより絡んでこず、清水義範がほとんど論を進める。
この本の問題は章によって題材によって面白さにムラがあることだ。
例えば「慣性の法則」などはとてもわかりやすく面白く書いてあるし「××が東京ドームだったら」も良く出来ている。が、いくつかの章はとてもつまらない。著者もパスティーシュで見られるような切れ味が感じられずちょっとつらいものがあった。
1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:科学
「テレビジョン」

amazon著者5年ぶりの新作。
「浴室」「ムッシュー」以来の文体はそのままに今回は著者にしてはかなりの長編となった。
ある日テレビを見るのをやめたある男の物語であるが、テレビをやめることで逆にテレビという概念に縛られていく様が面白い。テレビがあるからテレビを消したときの安息があるのであり、テレビをなくすと逆に安息がどんどん奪われはじめるのだ。
この本はテレビをはじめとする「受け身媒体」と現代人との関わり方を現代の生活の中で丁寧に描きこんでおり、その丁寧さが読者を退屈させることを除けばなかなかの傑作である。特徴的な垂れ流し文体も主題とよくあっていたが、ちょっと読みづらいのが難。著者を好きな人にはたまらない本かもしれないけど。
1998年05月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(海外)