さ
「一瞬の風になれ」

amazon三巻に渡る、ものすごく真っ直ぐでイノセントな陸上短距離一人称小説。
ちょっと前に買ってあったのだが、直木賞候補になったと知って慌ててこの連休に読んだ。直木賞とれるかな。どうなんだろう。シンプルすぎる気もする。
「走る」実感をここまで感じさせてくれる本もめったにない。ベッドで読んでいる間、何度もカラダが無意識に動いた。一緒に走っているような共有感。登場人物と同じトラックに立っているようなリアリティ。そして最後は少し泣かされてしまった。仕方ないな、この展開では(笑)
登場人物がみんな魅力的。よく書き分けられている。軽すぎるくらいの文体。凝った表現は出てこない。でもそれが不思議にマッチしている。だから混乱もなくあっという間に三巻読めてしまう。若い読者には向いているかも。
ただ、出てくる人がみんな良い人すぎるのがちょっと…。大人が考える理想的な高校生すぎ。健全すぎるんだよなぁ。でも(たぶん)あえてそれを狙って書いているのだろう。この時代、このように真っ直ぐ性善説的に夢を見られる小説は必要だ。あと、どうせここまで真っ直ぐに書くなら、ラストの観客席に健ちゃんは来て欲しかったと思う。予定調和でもいいから。
ちなみに、副産物的にだが、この本を読むと陸上(特に短距離)にくわしくなり、とても見たくなる。陸上競技の魅力が余すところなく描かれているのだ。スラムダンクを読んだ後に「高校バスケ冬の選抜」を見に行ってしまったみたいに、陸上のインターハイとか見に行きたくなる読後感。家族に読ませて一度一緒に見に行こう。
2007年01月03日(水) 12:00:00・リンク用URL
「西麻布ダンス教室」

amazonバレエ系の本や情報をあさっていると、この本を絶賛する評がとても多いのに気づき、遅ればせながら熟読。基本的に「やさしくわかりやすく神髄まで」な本だし、先生役の桜井圭介と生徒役のいとうせいこう・押切伸一の3人のぶっちゃけた対話で章が進んでいくので読みやすいのだが、やっぱり初心者にはつらいかも、というのが感想。だって固有名詞(人名)がドカドカ出てきて初心者はこんがらがりまくるんだもの。でも、経験を積んで1年後とかに読んだらきっととてもいい感じに読めるのだろうと思う。中級者には最適な本だと思われる。というか、こういう「油断すると難解になってしまうことを平易に説いてくれるセンスのいい本」というのは大好き。1年後再読候補本。
2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:アート・舞台
「無名」

amazonあの沢木耕太郎が無名の人である実の父親の死について書いたというのだもの、読まざるをえないだろう。
でも、実はあまり期待しなかった。沢木耕太郎はある冷たい客観性を持った上で対象物に(仕事として)熱く近づいて行くときにこそそのチカラを発揮すると思うから。父が対象物というのは少し出発点がウェットになりすぎ、著者のいい部分が活かされないのではないかと予想したのだ(名作「深夜特急」も、彼は基本的に対象物に冷たい。そしてそれを熱めに書く。逆のように思っている人も多いと思うが、ボクはそう思う。まぁ時間を置いて書いたらしいのもあるかもしれないが)。
ボクの予想はある部分当たりある部分はずれた。どうも父親に対してもともとウェットではなかったようだ。だから彼の文章の良さはキープされていた。が、熱く近づくには苦しい対象物だったようで、ぐっと胸に来るチカラが全体を通して感じられなかった。たぶん著者自身、抑制を効かせることを意識していてそれが効き過ぎたのかもしれない。また著者ならではの掘り下げがいまひとつなのも不満。全体にまぁまぁ良かったのだけど、沢木耕太郎が書くならもっと何かを期待してしまう。そんな感じ。
2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:ノンフィクション
「永遠の文庫〈解説〉名作選」

amazonボクたちが中学生高校生だったころの文庫が手に入らなくなってきた。
つまり30年くらい前の古典的文庫群。もちろん小説は再販されたりしてこれからも生き残っていくことが多いだろうが(絶版も多いだろうが)、痛いのは、再版されると解説も変わること。文庫にはさまざまな名解説がある、名文がたくさんあるんだけどなぁ…などと思っていたら奥さん! こんな本が出たですよ!
この本はその「文庫の解説を取り上げた」という切り口がすばらしい。実際に読み始めると、わりとマニアックな小説を取り上げているので鼻白む部分もあるのだが、さすがに選ばれているだけある名文揃い。評論上級者が本編に負けないように書いているせいか、迫力すら感じる。そしてなんだか学生時代の向学心まで戻ってくるような懐かしさすら感じた。
向田邦子の「父の詫び状」を解説する沢木耕太郎や、池澤夏樹の「スティル・ライフ」を解説する須賀敦子、野坂昭如の「エロ事師たち」を解説する澁澤龍彦など、聞いただけで読んでみたいでしょ? 解説とはそういう名文がいっぱい溢れている宝庫であることをわからせてくれるいい本なのである。
2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:評論
「間取りの手帖」

amazon文字通り「間取り」のみの本。
チラシとか賃貸ニュースとかに載っているマンションとかの間取り。膨大な量にのぼるそれらの間取り集から、めちゃくちゃヘンテコな間取りだけを取りだしてまとめたのが本書なのだ。
こんなところに本当に人が住んでいるの?と疑問に思うような変わった間取りを1ページにひとつ収録してある。そして気の利いたコピーがひとつ(コピーの出来がとてもよい)。著者は賃貸ニュースとか細かく細かく見続けたのだろうなぁ。でないとこういうコレクションは出来ない。そういう意味では(きっと趣味なのだろうが)大労作。だってさ、一目で「変な間取り」とわかるものばかりではないのだよ。よーく見てよーく考えて「あ、あれ?」と気づく変な間取りも多いのだ。
この本の遊び方としては、コピーを隠してまず間取りをじっと見る。そしてその「変」な部分をじっと探す。自分が住んでみた身になって想像をいろいろ働かせる。そして「あっ!」と気づく。「なんだこの間取り〜!」と大笑いする。そんな遊びをやってると日曜なんてあっという間です。そういう本。おすすめ。
2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「毎月新聞」

amazonまぁなんつうか、サスガですね。
毎日新聞で連載しているときから読んではいたが、こうしてまとめるとまた面白い。新聞という形式を借りたエッセイ集なのだが、形式が新聞(ニュース媒体)であることをちゃんと計算に入れた構成で飽きさせない。相変わらずの知能犯ぶり。社会に対する視点の新しさや理系的実験(三角形の内角の和とか)の楽しさはこの著者独自のものだなぁ。
そのうえ最近は知能犯的部分だけでなくブンガク的な部分も出てきて、なかなか泣ける回(「真夏の葬儀」)もある。「ねっとのおやつ」や「日本のスイッチ」みたいな別企画の発想が生まれる様も見えたりして、いろいろ面白いのである。
マジでうまいなぁと思うのは「こういう発想だったらボクでも出来るかも♪」と読者がギリギリ競えるバランスで止めておいているところ。この人の本質はこういうバランス感覚なのだろうと思う。
2003年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
「坂崎幸之助のJ-POPスクール」

amazonTHE ALFEEの坂崎の、フォークや歌謡曲に対する並々ならぬ知識と情熱を知ったのはボクがまだ高校時代(25年近く前)、吉田拓郎のラジオ(「ヤンタン」)とか聞いていてたまにゲストで出てきて拓郎のマネをしつつその周辺をパロったりしていたあたりから「こいつ何者?」という感じであった。背景に深いものを持ったオタクしか出来ない技と話題を持っていた。
そんな著者が書いた「自分の半生記とそれにシンクロするJ-POPの流れ」がおもしろくないはずがない。はずがない。はずがないのだが、異様に期待した分、ちょっとはずしたかも。
もっともっともっとオタクに書いてよかったのだよ坂崎ぃ〜!という叫びが読後に出てしまった感じ。読者に日和らなくてもいいのだ。もっとオタクに書けばいいのだ。誰もついてこれなくてもいいのだ。ものすごく美味しい味噌汁なのに、わざわざうすーく薄めて減塩にしてしまった感じ。ちょっと惜しいなぁ。新書ではなく、単行本で濃ゆ〜〜いのを読ませて欲しいと切望する次第。
2003年04月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
「できるかな」

amazonできるかな、というとこんなサイトを思い浮かべるのがネット人の常識であるが、これは西原の「できるかな」である。
つか、いつものように、企画として筋が通っているのは最初の方だけ。あとはどんどんわけわかんなくなっていくのだが、それもこの著者の魅力。今回は原発の話とタイの話が白眉。現ダンナである鴨ちゃんとのきっかけみたいなのもそこはかとなく出てきて、のぞき見的興味も満たしてくれる。
初期の西原はすべての著作を読んでいたが、このごろは長旅の車中とかでの時間つぶし程度にしか読まなくなった。でも読むとやっぱりおもしろい。でも読まなくなった。なぜだろう。たぶん多作な感じが「いつでも読めるしいいや」につながっているのかな(一時の群ようこみたいに)。もうちょっと出し惜しみしてもいいかなと思う。
2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「私の遺言」

amazonこの本で作家佐藤愛子が作家生命をかけて遺言していることが本当であるならば、ボクも彼女と同じように人生観を変えなければならない。
つまりはそういう本だ。彼女は作家生命をかけて「死後の世界はある」と断言している。彼女の長年に渡る実体験を根拠にしているだけに説得力はある。この、北海道の別荘での霊的実体験は著者の他の本でも読んだことがあり、どこかでこれらについて著者が答えを出してくるとは思っていたが、最後の言葉としてこう押し出してくるとはよっぽどの覚悟だったと思われる。科学偏重の世の中に、名のある作家がこう押し出すのはそれなりに勇気のいることだし。
ボクには、シャーリー・マクレーンから入りシルバー・バーチ、ホワイト・イーグル、エドガー・ケーシーその他、当時出ていたたいていの心霊世界本を読了している過去がある。サイババ系ももちろん漁った。そういう死後の世界と現世の意味について完璧に信じ切っていた時期を過ぎ、その後反動のようにそれらを徹底的に疑い、今はどちらかというと「やっぱないかも」という方に傾いている。そこらへんは自分の中でかなり検証してきた。
そんな今読んだこの本は、忘れかけた揺さぶりをボクの精神にかける。佐藤愛子がその存在をかけて主張するように死後の世界が存在し、現世の意味がそういうことだとするならば、ボクの生きる意味もまた少し違った意味を帯びてくる。うーむ。
さすがの著者も目を曇らせているのかな?な記述が、実は多々出てくる。招霊会の模様などさすがにちょっとそれはないだろうという感じ。なんでキツネの霊がついたからってキツネの格好になるんじゃい、など。ただ、それらを差し引いても著者の身の回りに起こった出来事がウソとは思えない。うーん、どうなんだろう。
著者が佐藤愛子でなければまさに眉に唾な本だ。あの佐藤愛子が書いたからこそ、変な記述がいろいろあってもどこかで「本当かも」と思わせる。そう言う意味では著者にしか書けなかった本ではある。
2003年01月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:哲学・精神世界
「アッシュと歩いたヨーロッパ」

amazon帯に「あなたも愛犬を連れて海外に行ける!」とあるように、これは著者が愛犬(ミニチュア・シュナウザーのアッシュ)とともにヨーロッパを65日間旅した記録である。
「おー、犬をつれて海外旅行に行けるんだー!」という驚きがまずあり、そのやり方やノウハウを読んでいくうちに自分もやってみたくなり、最後にはヨーロッパ人の犬文化の深さにため息をつく。そんな本。ちなみにサイトはこちら。サイトもとてもすばらしい。
基本的に旅エッセイ。
フランスやイタリアを旅したことのある人(もしくは興味がある人)にはとても楽しい旅エッセイになっているうえに、もちろん犬と旅行するための実用情報が盛りだくさんに入っている。読んでいくうちに自分にも出来る気になってくるのがいい。そういう読者気配りがかなり上手な著者である。愛犬と海外旅行が出来たらいいなぁと少しでも思う人は読んで損はない。ただし、この本には「海外旅行に堪えられるように犬をしつける方法」だけは書いてないので、まずはしつけないといけないが。
2002年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
「文壇アイドル論」

amazon「どんなにいい製品でも需要がないところに供給はない。彼らがアイドルであるなら当然その背後に彼らをスターダムにのし上げたジャーナリズムと読者の存在がある。彼らがどのように語られ評され報じられたかを見ることでアイドルのアイドルたるゆえんを探ってみたかった」という意味のことを、この、ナイフの切れ味が今一番鋭い文芸評論家は書いている。
で、著者に取り上げられあっちこっちから切られまくってしまう文壇のアイドルは登場順に、村上春樹、俵万智、吉本ばなな、林真理子、上野千鶴子、立花隆、村上龍、田中康夫、なのだ。ね、面白そうでしょ?
で、実際に面白い本である。
まずアイドルがどう語られ評されたかの例を上げつつその傾向をざっくり切り分け、交通整理し、そのアイドルの本質はなんなのかを浮かび上がらせていくのである。「村上春樹ってゲーセンじゃん」「吉本ばななってコバルトじゃん」みたいな感じ。一般読者にはここらへんの「総括」が一番面白い。
が、この本は「一般読者向け」な部分と「評論家向け」な部分がある。本質を見ず時代に媚びた文芸評論を続ける評論家たちへの厳しい評価と嘲笑が裏テーマ(本テーマ)だからだ。アイドルたちを通した時事文芸評論家論でもあるわけ。このテーマがこの本を実に魅力的にしている。マーケティング的アイドル論だったら二流評論家でも出せるだろうが、斎藤美奈子ならではな部分はまさにこの、同業者へのブラック・ナイフの鋭さ具合にある。
2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:評論
「調理場という戦場」

amazon三田の名フレンチレストラン「コート・ドール」のシェフである著者はいままでに数冊名著を残している。特に「十皿の料理」は名作で、レシピとその思い出を語っているだけなのに、何度もの再読に耐える深みを持つ。その「十皿の料理」が横軸だとすると、この本は著者の修行店を順番にたどることで縦軸で彼の人生を鳥瞰できるようになっている。両方読むと欠けているパーツが埋まっていき、見事にひとつの人生が見えてくる感じだ。
前半は傑作に近いと思う。
が、中盤から後半に向けてお説教めいた人生訓が出てきてしまい、ちょっと鼻白む。著者の持ち味は(その料理も含めて)淡々として客観視だと思うのだが。 歳を経て、そろそろ言ってもいいか、という部分はあるのだろうが、少々くどく、謙虚と声高主張の入り交じり方がバランス悪く、前半に感じた感動が色あせていくのを読んでいて感じた。惜しい。
著者のレストランは3回ほど行っているが、最新では去年の今頃行き、そのときはちょっとがっかりさせられた。ハズレがない店(シェフ)と信じていただけに「カラダの調子でも悪いのではなかろうか」と心配した。が、この本を読んでちょっと理由がわかった気がする。人生を語り、説教を始めてしまうと、ある意味自分の言葉に縛られて、人間「守りに入る」場合がある。「自己模倣しだす」場合もある。とても難しいことだとは思うが、まだそうなってほしくないシェフである。
2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「ユカリューシャ」

amazon副題は「奇跡の復活を果たしたバレリーナ」。
著者は東京バレエ団のプリマ・バレリーナで、この世界では有名な人。題名のユカリューシャはロシアにおける著者のニックネームだ。
著者の、バレエに賭けた半生の記である。
バレエとの出会い、ソ連のボリショイ劇場での日々、ボリショイのプリンシパル・ダンサーであるニコライ・フョードロフとの結婚、出産、致命的なケガ、復活の「ジゼル」…と、話の前後がたまにわからなくなる部分があるのだが、劇的な人生が冷静な主観で書かれており、とても興味深い。バレエを真剣に観た回数が少ないボクにも内容はわかりやすく、また、もっといろいろ観てみたい気にもさせる。
著者は謙虚なので苦労の部分はそんなに大仰に書いていない。が、日本人ダンサーがボリショイで踊ったりするには並大抵でない苦労があったはず。半生を振り返るに(といっても著者はまだ35歳だが)いい思い出しか浮かばなかったのかもしれないが、ドロドロした内面にもう少し踏み込んでくれたなら、この本はもっとコクのあるものになっていただろう。その辺がちょっとだけ物足りない。
2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「理想の国語教科書」

amazon昔、国語の教科書を読むのが大好きだったボクは、4月にはその年に習う文章をすべて読んでしまって、残りの11ヶ月を限りない欲求不満とともに過ごした記憶がある。
そんなボクにとって、「声に出して読みたい日本語」を大ベストセラーにした著者が選んだ、教科書に取り上げたい名文の集大成であるこの本は実に興味深いものである。期待して読んだ。全編ふりがな付きであり、一学期、二学期と章分けもしてあり、小学生にも読ませられる構成になっている。丁寧な編集だ。
ま、名文を読む作業は楽しかった。
でもこれらが本当に最高レベルの日本語なのかは非常に疑問が残る。かなり一般的すぎる選択だ。もちろん教科書であるから名文を読ませつつ文豪などの存在を教えたり子どもの倫理観などに影響を及ぼす名作を選ぶ必要はあるが、新たに世にプレゼンするのだから独自の視点で「これぞ名文」を発掘して提出してほしかった。
また、イマの作家を正面切って取り上げる必要はないのか。明治の作家中心で本当にいいのか。最高レベルの日本語はそこにしかないのか。そして「野口シカ」の手紙はそこに入るのか(感動的ではあるが教科書としてどうなのか)。などなど、疑問はいろいろ残る。作品の選び方がとってもありきたりだと思うのだ。残念。また、著者による解説がつまらないこともちょっと不満。
2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「暗号解読」

amazon「フェルマーの最終定理」を書いたサイモン・シンが、今度は暗号に取り組んだ……というだけで「フェルマー…」を読んだ人にとっては是非とも読みたい一冊になるだろう。
そのくらい「フェルマー…」は面白かったし、著者の取材力と再構成力は信頼がおけるのである。ただ、前回と違うのは、「暗号」というメソッドの複雑さがボクの理解をかなり超えるということだ。「暗号理論を学びながらその歴史と現状を理解し最前線を知る」ということが、数学得意でないボクにはどうにも苦痛になってしまうのである。
「16歳のセアラが挑んだ世界最強の暗号」も暗号を扱っていたが、これは非常に簡略化して素人でもわかるように書いてあり、ボクは「暗号の現状ってこうなんだぜ」と知ったかぶりしてヒトに話したくらいである。が、サイモン・シンのこれは、確かにわかりやすく咀嚼して書かれてはあるものの、玄人の領域まで突っ込んだ記述になっていて途中で混乱してしまう。つまり詳しすぎてわからなくなっちゃうのだ。うーむ。
こういう題材が好きな人には大オススメ。相変わらずの構成力と筆力で粘り強く語られているそれは感動的ですらある。暗号のことが(具体的数式を除いて)すべてわかると言っても過言ではない。が、ご自分の数学的素養に疑問を抱いているヒトにはあまり薦めない。分厚いし、苦痛なだけだと思う。
2002年05月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
「文章読本さん江」

amazon数多く出版されている「文章読本」というジャンル。近代以降に限っても、谷崎、川端、三島に始まり有象無象の「〜の書き方」に到るまで「文章読本界」と名前を付けてもいいくらい大量に出版されている。そしてその「業界」にいままで批評のメスを入れた人はいなかった。
そこに現れたる斎藤美奈子。奔放でクレバーな辛口書評で知られる著者が文章読本界をごめんあそばせとばかりにドシャドシャ斬って捨てる。そして斬って捨てるのみならず、じゃー文章読本とは何なのか、いや、文とは何なのか、まで突っ込んで分析していく。引用あまたの労作であるが、押したり引いたり、実に多彩なテクニックを使って、読者を飽きさせない。
なにしろこれまで出た文章読本のジャンル分け、分析、批評批判がまずよく出来ている。
で、読み進むに従ってあまりの多種多様さゆえ「文章とはいったいなんなのだよ」と読者は途方に暮れるのであるが、巻末に著者はちゃんと答えまで用意しているからスッキリする。「文は人なり」ではなく、「文は服なり」というひとつの答え。例えば文章家はこの現代に裃を着ろと説くし、新聞記者タイプはどぶねずみ色スーツの無難な服を着ろと言う。で、彼らがたまに軽妙な文章を書こうとすると、カジュアルフライデーのださいオヤジみたいになる……と、スパーッと見事に斬った挙げ句、その後の現代文章分析まで、ほんの数ページで見事にすべてを括っている。
引用が多く飽きる読者もいると思うが、文章に興味がある向きは我慢して最後までたどり着くことをオススメする。ちょっとシニカルで芳醇な時間が過ごせ、そしてそして、すべての文章読本を読了した気持ちにすらなる。そういう意味ではお得な本だ。
2002年03月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:評論
「世界は『使われなかった人生』であふれてる」

amazonいい題名である。で、題名からはわかりにくいが、実は映画評コラムを集めた本である。
「暮しの手帖」という渋くも良質な雑誌に連載中のものから30編選んだものだ。著者も書いているが、これは映画評というよりは映画に触発された著者のエッセイという感じで、映画の筋は追ってくれるが、映画に密着して話しが進むわけでもない。それがボクにはちょうどいい距離感であった。
本編に入る前の短文がいい。映画を想うとき語るとき、我々は「ありえたかもしれない人生」というスタンスをとることがよくある。ありえたかもしれない人生をそこに見るのだ。でもこの本は「使われなかった人生」というスタンスをとることでもう一歩踏み込んでいる。「『ありえたかもしれない人生』には、もう手の届かない、だから夢を見るしかない遠さがあるが、『使われなかった人生』には、具体的な可能性があったと思われる近さがある」と。で、「使われなかった人生」がいかに我々の間に溢れているかを語っているのだ(ここらへんは本文を読まないとちょっと伝わりにくいかも)。
ただ、使われなかった人生、というスタンスが30編もの映画評にきっちり活きているかと言われるとそうでもない。そのスタンスを活かした狙いのエッセイ、というわけではないのだ。題名やはじめの短文がいいだけに、そこにちょっと不満が残るのは確か。
2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「ラーメンを味わいつくす」

amazon「TVチャンピオン第7回ラーメン王選手権」で優勝した著者のラーメンエッセイ+お奨めラーメン店350店リスト。
ボク個人は、実は、あまりラーメンに固執していない。世のラーメンブームでいわゆる「天才ラーメン職人」が多々輩出しているのをかなりネガティブに見ているくらいで、なんというか、ヒトが言うほどラーメンに「舌の上の芸術」的深みを感じないのだ。経験不足もあるだろう。まだラーメンにビックリさせてもらったことがないのが大きい。早くラーメンでビックリして、世のラーメン好きといろいろ話をしてみたいとは思うのだが…。
ということもあって、ラーメン本というよりは、ある食に凝った著者のエッセイとして読んだ。
さぬきうどんや沖縄に凝った経験上、その方向性は共感たっぷりである。で、この手のラーメン本がほとんどラーメン道みたいなものに偏りすぎているのに比べて、この本はわりと客観的に凝った軌跡が書かれているので、ラーメンの味自体に共感持てないボクでも胸焼けせず非常に面白く読めたのである。
巻末の350店リストを見ると、行っている店もわりとある。うーむ…。これは!と思わされるラーメンを探してもうちょっと食べてみよう。淡々とした文章だがなんとなくラーメン欲が出るいいエッセイであった。
2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
「面目ないが」

amazon毎日新聞に連載していたコラムを中心に編まれたエッセイ集。
毎日新聞のはリアルタイムで読んでおり、また、著者の短歌自体は折に触れ目にしていたので、どことなく懐かしい気持ちで読んだ。山本夏彦のエッセイで彼のこの本(単行本当時)が取り上げられベタ褒めされたりしていたのが個人的には印象的であるが、これを読むと、公私ともに山本に師事していたようではある。そう思って読むと、確かに文体が非常に似ており(特に連載初期などあからさまに似ており)、ちょっと微笑ましかったりする。
著者独特の自己憐憫と自己悪口が鼻につく読者もいるかもしれない。自分の情けなさをネタにして歌を詠む著者の視線はエッセイでも同じように働いており、結果として常に自分しか見ていない独特のエッセイ世界が出来上がっている。そこが売りでも味でもあるので仕方がないのである。
と、こう書くと批判しているように読めるかもしれないが、さにあらず。なぜか大変気持ちよく読めたので喜んでいるのである。悪意を持たれぬ筆の運びは、突然出てきてすでに名人の域である。さすがなものだ。
ちなみに著者のエッセイより著者の短歌の方がボクは好きである。
2001年12月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:エッセイ
「精霊流し」

amazonさだまさし初の小説。TV番組「関口宏の本パラ!」での仕掛けに乗って書いた書き下ろしである。
ほとんど自伝と言ってもいい作品で、短編8つからなっているが、どのエピソードも密接に関わり合っており、全体でひとつの作品になっている。8つのエピソードはすべて「死」を題材にしている。そういう意味では8つの精霊船と言えるかもしれない。この本自体が、彼の人生での精霊流しになっているのだ。
期待はしなかった。一部で「泣ける!」「初めて小説を書いたとは思えない」「感動にふるえた!」との評判があったし、中学高校時代にさだまさしをかなり聴いていることもあって興味はあった。ただ、さだまさしは自分の中で封印した過去なので「今」の彼の小説を読むことにちょっと抵抗があったし、照れくさい感じがあった。
結果から言うと、いい本だった。ラストは確かに泣けた。参ったなぁ。実際かなりうまいとは思う。推敲が足りないんだろう、とか、ちょっと自慢めいて鼻につく、とか、ちょいと格好よく書きすぎじゃない?な部分はいろいろある。説明しすぎたりキレイゴトにしすぎたり。でも全体に彼のいい時のいい歌を心を澄まして聴いているような、静かな時が流れる。思ったよりサビを歌い上げず、あっさり書いているのも成功している。表現者としてある意味熟成されているのだ。著者の様々な歌の主題も結果的に解題され、彼の歌をいろいろ知っている人には特に興味深い部分も多いだろう。
読後、さだまさしのCDを無性に聴きたくなる。これは歌の延長なのだ。8曲入ったアルバムなのだ。彼の中では、表現手段として、歌と小説の区別はあまりなかったのだろうと思われる。
2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「王妃の離婚」

amazonやっと読んだ話題作。
以前読んだ「双頭の鷲」的歴史ロマンかと思ったら、予想を覆す中世法廷もの(まぁ中世ヨーロッパが舞台という点では変わらないが)。しかもジェフリー・アーチャー的大逆転物語なので、ま、手に汗握り徹夜するというハメになる。
とても面白い。「双頭の鷲」は、いまいちカタルシスがなくノリきれなかったが、この本は見事なカタルシスとストーリーテリングでぐいぐい読者を引っ張ってくれる。主人公や王妃の細やかな描き込みも素晴らしく、中世の民衆の描写もリアリティがある。この本で99年直木賞を取ったのもうなずける。うーむ、佐藤賢一、ただものではない。
ま、そういうわけで、話題作だし、とっくに読んでおられる方も多いだろう。いまさらながらの紹介で申し訳ないが、この本はオススメ。未読の人はぜひ。
2001年09月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:歴史小説
「高峰秀子の捨てられない荷物」

amazon冒頭の文章が素晴らしい。あのまま行ったら傑作であった。
いや途中まではかなりイケルと思っていた。が、途中から著者の対象(高峰秀子)に対する過剰な愛と、自己憐憫的自虐表現が鼻につきだす。いったいこの著者は読者に「高峰秀子」を伝えたいのか「著者の対象に対する赤裸々な愛」を伝えたいのかわからなくなる。評伝なのであれば困った展開だし、著者の自己満足であるならちょっと中途半端。著者が勝手に盛り上がってしまって読者が置いて行かれる状況が続く。この本を買った読者は著者の自虐が読みたいわけではない。高峰秀子の人生が読みたいのだ。そこらへんを著者はごっちゃにしているのではないだろうか。
高峰秀子自身の傑作「わたしの渡世日記」の続編たるべきエピソードに溢れてはいるので、彼女のファンにはそれなりに楽しめる。上手に対象をあぶり出しているなぁと感じられる所も多い。
筆力も構成力もあるのに、惜しい。つうか、もうちょっと対象と距離が離れてから書いた方が良かったかもしれない。近ずぎる対象を書くのは手練れでも至難のワザであろう。
2001年06月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝
「だれが『本』を殺すのか」

amazon未曾有の出版危機、ということをテーマにノンフィクションで450ページ強も書いてしまうこの筆力! まずそこに驚く。
読み始めるとどうして分厚くなってしまったのかの理由はわかってくるのだが、でもやっぱり200ページくらいにまとまるんじゃないか、という思いもある。こういうテーマの本こそ、1000円くらい、かつ、程よい薄さで出版することが本を殺さない一助になったりするのでは、という気もしたり。
内容的には、「本を殺そうとしているのは、出版社なのか編集者なのか取次なのか書店なのかデジタルなのか著者たちなのか、それとも読者なのか…」ということを数多くのインタビューを交え、ルポタージュしていくもの。
取次や再販制度など、著者にとっては常識の言葉を読者に説明せずに使っている不親切さは多々あるが、ぐいぐい本質に迫っていく力はさすがなもの。面白い。また、本好きな身として、いままで知らなかった配本の仕組みや客注の謎がいろいろわかったのもうれしい。暗澹たる気持ちになったり、展望が開けたり、忙しい本であるが、本を殺したくないという著者の気持ちは切実に伝わってくる。
個人的には「ネットが常時接続ブロードバンドになり広く接続料が意識されなくなった時点で、本、CD、ビデオなどの旧来媒体はすべて再編を余儀なくされる」と思っている。取次問題もこの「外圧」で変わらざるを得ないだろう。でもこれは「殺し」ではないだろう。きっと「活かし」になるはずだ、と、本好きのボクは楽観視しているのであるが…。
2001年05月01日(火) 12:00:00・リンク用URL
「フェルマーの最終定理」

amazon友人が面白いよと貸してくれた本。うん、面白かった。
フェルマー系の本は他にもいろいろ出ているが、この本がすごいのはかなりつっこんで数学を書いていること。ある意味フェルマーの最終定理を起点にした数学史になっている。で、その数学史が面白い。身近な命題を持ち出してなんというか「面白い数学の授業を聞いているような」気分になってくる。うーん、数学をちゃんと勉強しておけば良かったよー。こんなに面白い学問、他になさそうな気になってくるではないか。そこらへんがとてもうまい本なのである。ピタゴラスについて突っ込んだ章なんか面白かったな。
もともとはイギリスのテレビ番組のための取材が基本になっている。だから文章も要所要所が映像的で面白い。知的興奮と快感を適度に感じさせるバランス感覚もテレビ的である。そのへんもこの本の成功要因であろう。
日本人の我々にとっては「谷山-志村予想」に深く突っ込んだ章などなかなか愛国心をくすぐられてうれしい。インド系の著者はマイノリティ人種を全く差別しないのも素晴らしい。面白くためになり知的好奇心も満足させてくれる一冊である。おすすめ。
2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「経済ってそういうことだったのか会議」

amazon有名CMプランナーにして「だんご三兄弟」の作者である佐藤雅彦は「仕掛け」が非常にうまい知能犯。この本でも「大学を出てサラリーマンもやったけど、結局、経済ってよくわかんない」というスタンスを明確にして、とっても身近で平明な例をひきつつ、経済とはどういうことなのかを解き明かしていく。応えるのは竹中平蔵。これまた頭の固い経済学者に爪の垢を煎じて飲ませてあげたいくらい平明に佐藤の質問に答えていく。
題名もいい。装丁も素敵。内容は実にわかりやすい。かといっていわゆる「サルにもわかる」的うざったさもない。ある程度の知力を前提として書かれているあたりのバランス感が見事なのだ。
こういったややこしいことの質問者として佐藤雅彦ほどの適任者はいまの日本にはいないのかもしれない。西原理恵子もある意味一人者だが、ちょっとサルに偏りすぎる。彼にもっといろんなものの不思議を解いていって欲しい、と、ちょっと他力本願に思ったりするボクは怠け者です、はい。
2000年05月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「双頭の鷲」

amazon二段組616ページの分厚い本。
実在のベルトラン・デュ・ゲクランという不世出の「戦の天才」を主人公にフランスの戦国時代というべきものを描いたエンターテイメント。
筋は面白いし読み応えもあるのだが、この著者、わりとはぐらかす。盛り上げるだけ盛り上げておいて「そこを読みたい!」という部分をはぐらかして飛ばしちゃう。読んでいる側にはストレスが残って最後まで本当のカタルシスが感じられないまま筋を追うことになる。しかも表現が少し足りない部分がある。これだけの大部を書ききった構成力はめちゃめちゃ認めるが、じゃぁ「大デュマの興奮と司馬遼太郎の面白さを足した書。自信を持って今年度のベスト1に推す」と北上次郎(目黒考二)が大絶賛するほど面白いかと言われれば、答えは否。
著者はまだ31歳。その事実には驚くなぁ。フランス史をエンターテイメントにしたのはユニークだし素材の選び方もさすが。人物造形もうまいし、筋の持って行き方も悪くない。でも、これだけの大部を時間かけて読んだのに読後感やカタルシスがイマイチなのはちょと痛い。
1999年07月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:歴史小説
「TOKYO RESTAURANTS」
ニューヨークなどでいつもお世話になっているザガットの東京版がついに出来た。ジバランの団長をやっている身としてはなかなかに複雑だが、冷静に考えて次のことを思う。
さすがだなと評価できる点は次の3つ。
労作であること。地区別索引、目的別索引、地図などが充実していること。コンパクトな外観であること。
それに対して全く評価できない点は次の3つ。
客の年齢層やレベルを徹底的に無視して平均点を取ったこと。5000円を高いと思うかどうかのレベルも合わさずどうやって評価するのだろう。20才のお嬢さんと40才のオヤジでは舌や雰囲気に対する印象もまるで違う。それらを無視して平均してしまったことで「ぴあランキンググルメ」とさして変わらない内容になっていると思われる。
二つ目は最新データとはとても言えないこと。ザガットのアンケート用紙を見る機会があったが、文中に小さく「最近一年の」とは書いてはあるが、記入者はそんなこと気にせず「いままで行った店すべてについて点をつける」であろう。まぁ表題に1999年版と書いてないのでいいのかもしれないが、10年前に一回行っただけという店を平気で書いている人がいっぱいいると思う。いいのか?
三つ目は同じくアンケート用紙で「評価基準がまるで定かでないこと」。適当に気軽に「あー、味は6点かな、雰囲気はそうね8点!」とかつけちゃえる。そんな適当な評価を人々から集めたとしてもその結果はいったい何かを語るのであろうか。
アンケート用紙もわりと業界系若手に多く流れており、レベルも金銭感覚もばらばら。まぁスノッブ版ぴあランキンググルメと思っていれば間違いはないだろう。でもまぁ労作だしコンパクトな電話帳がわりにはなる。
1999年07月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「おたんこナース」全6巻

amazonあるきっかけがあって、久しぶりに漫画を単行本でぶっ続けて読んだ。
昔はそれなりに漫画に凝ったのだが、この頃時間がなくてずっと離れていたのだ。でも、やっぱり面白いな。日本の漫画は実によく出来ていることを再認識。この「おたんこナース」は綿密な取材と構想で非常にしっかり作ってある人気シリーズ(今頃読んだのかって言うなー)。要所要所のギャグも面白いし、なにより作画が秀逸である。
難しいところだが、なんというか、こういう題材って人生語りやすい部分がある。なんだか、シリーズ初期の軽く情けないノリで最後までずずずっと引っ張っていってくれたらもっとよかったな、とちょっと思った。人生語ったり説教臭くなったりしないで。贅沢かもしれないけど。それだけ。
あ、ちなみに定価の999円って「救急」とかとかけている? いや、なんだか珍しい定価なので。漫画単行本では普通なのだろうか?
1999年05月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:漫画
「あほらし屋の鐘が鳴る」

amazon書評界で話題の人。初読。ちなみに斉藤澪奈子女王様とは別人。
なんというか、中野翠みたいな鋭利な刃物。
ただ、甘粕りりこやナンシー関、ひいては山本夏彦も少し入っている。そこらへんが著者の人気がある所以だろう(マネをしているという意味ではなくて、もとからそういうキャラであるという意味)。かなり辛口だけど自己満足的でなく実にわかりやすい分析が魅力的。サルでもわかる論理構成なのに、とっても鋭利。なかなか難しい技なのだ。
本書に限っていえば、女性誌の分析が面白い。門外漢のボクでもなぜか膝をうって納得してしまう。そのくらいは分析がツボをついている。あ、「もののけ姫」に対する考察も非常に共感できるところだったな。次は長い書評を読んでみよう。
1999年04月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:評論
「貧乏だけど贅沢」

amazon著者がテレビに出ないのは正解である。
だって紙上対談ですらこんなに面白くない。アドリブの人ではないのだ、沢木耕太郎は。これはたぶん対談相手のことを調べすぎていることも一因だ。対談に際して準備しすぎ。著者自身も「納得するまで相手の作品を読んだり見たりしたうえでないと安心してその人に会うことができない」と書いている。うーん…それでは対談でも対話でもなくてインタビューだろう。
内容は「旅をめぐる対談集」といったところ。
井上陽水、阿川弘之、高倉健、群ようこ、田村光昭など、魅力的な人選なのだが…。対談者のことはいっぱい調べているかもしれないけど、著者自身はわりとワンパターンなしゃべりだから、なんだか読んでいてつまらない。インタビューでもない、アドリブ的な対談でもない、中途半端さ。
1999年04月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「メニューは僕の誇りです」

amazon東京は三田のフレンチの名店「コートドール」料理長である著者が書いた第二作目。
前作「十皿の料理」はシェフが書いたエッセイとしてはベストと呼べるものだが、今回も味わい深く楽しめた。文体が素っ気なく素朴で稀薄なのだが、コートドールの料理の演出と似ていてなんだか微笑ましい。シェフの人柄が出ていてあの店に行ったことがある人ならとても楽しめると思う。
あとがきで「前作と多少のダブりがある」と書いてあるが、ボクとしてはもっともっとダブってほしかったところだ。
前作が出てずいぶんになるし読者も同じとは限らない(既読の読者だって前作の内容を覚えているとは限らない)から前の本と合体させるくらい繰り返しが多くても読者は喜ぶと思うのだ。というかはしょっている部分がわりと興味深いところだったりするので(フランスでの体験など)、前作で言及しているのかもしれないがもっともっとそこを読みたくなるのである。そういう意味でちょっと消化不良が残るのが残念。
それにしても、同じように自分のメニューのことを語っているのに、数カ月前に読んだあるシェフの本とはどうしてこうも読後感が違ってくるのだろう。料理への姿勢の違いなのであろうか。
1998年11月01日(日) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「絶対音感」

amazon素敵な出だしを持つノンフィクション。
絶対音感について様々な角度から調べてあり労作である。
が、評判ほどには面白く感じなかった。いや、面白くはあったのである。絶対音感というものに対する認識も新たに出来たしそれについて何日も夫婦間で話題になったりした。いろんな意味で良く出来たルポタージュであると思う。
ただ、絶対音感がある人の哀しみだったり、絶対音感がない人の苦労だったりを、人間ドラマとしてもう少し読みたいと思うのはボクだけだろうか。全体に優れた報告書ではあるがいまひとつ血が通っている感じがしない気がする。人間のヒダヒダに触れる部分の突っ込みがもう少し欲しいと思った。
1998年07月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
「クリック」

amazon超売れっこCMプランナーである著者の初・超・短編集。
CMというのは15秒30秒の勝負ゆえ、著者にとっての表現法として「超・短編集」はうってつけであったろう。63編それぞれに小さな発見をちりばめてあっておもしろい。映像的お遊びを活字でやってみた、という趣のものも多い。
が、ちょっと玉石混合でもある。音楽がのったり映像がのったりしたら面白いんだろうけどなぁ…が多いのだ。でも読者の脳みそをちょっと刺激(クリック)する素材集としては良く出来ていると思う。たぶんそういう目的で作られていると思うし。
1998年05月01日(金) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「天涯 ~第一 鳥は舞い光は流れ~」

amazon沢木耕太郎初の写真集。
短文がほんの少しついてはいるが、まぁ写真集と言ってもいいだろう。旅をしながら著者がどういった視線でモノを見ているのかが実によくわかる写真集だ。
天涯=地の果て。常に自分を天涯に置き、自分と世界との距離感を客観的に見つめている彼の写真は実にさめている。雄弁さはまったくなく、どちらかというと寡黙だ。ボクはその寡黙さを愛するが、少々物足りないのも事実。ただ、見終わって「耕太郎ブルー」と言ってもいいような「青」が目に焼きつくのが印象的ではある。これは「第一」となっているので次作が出るのだろうが、それを買うかどうかは微妙。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
「うまいもの職人帖」

amazon題名通り、うまいものを作り続けている職人たちを取材したものである。
なかなかいいなと思うのは料理人だけを取り上げたのではないというところ。
例えば別海の牛乳屋さんだったり和歌山の醤油屋さんだったり山形のワイナリーだったり丹波篠山の黒豆だったり南青山の珈琲だったりするのだ。人選は著者の人脈によるのかな。もっとうまいのがありそうだったりするのだが、それはそれ。職人たちがこのくだらない我々消費者たちを見捨てずにこれからも頑張ってくれることを願いたくなるような本だ。なかなかなごめます。
1998年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「すきやばし次郎 旬を握る」

amazon東京の名店「すきやばし次郎」の鮨職人・小野二郎の寿司語りを季節ごとに収録。美しい写真と共にその握りの技術を徹底的に踏み込んで取材してある。驚くのはわりとカンタンに小野二郎がその技を明かしているところ。もうちょっともったいぶると思ったが非常に素直に語っている。著者との人間関係もあるのだろう。
「すきやばし次郎」へは一回だけ行ったことがある。非常にオーソドックスな握りで安定しているが驚きにちょっと欠ける気がした。この本を読んでその理由がわかった気がする。基本的には高打率狙いの人なのだ。本塁打を狙った大振りはまったくしない。そこらへんを僕は誤解していたようだ。ちょっときっちり通ってみたくなってきたなぁ、すきやばし次郎。貯金しなければ……。
1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:食・酒
「ミジンコ道楽」

amazon副題は「その哲学と実践」。
ミジンコに魅入られて果てはモンゴル、ヒマラヤまで行ってしまったミュージシャン坂田明のお話。
題材よし。哲学よし。実践も良し。だけどあとは全部もうひとつだった。「である」と「ですます」が混在する文体は読みにくくって閉口したし、随所にちりばめたつもりのギャグも空振りが多い。ボクは著者の演奏は生で何回も見ているしお人柄も非常に好きだ。だが、演奏に見られる常識にとらわれない縦横無尽さが文にはなく、本人の魅力もイマイチ紙に定着していない。なんだかもったいなかったのである。
1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
「夢の靴職人 -フェラガモ自伝-」

amazonあんまりフェラガモとは縁がなかったんだけど、この前ニューヨークではじめて買った。ちょっと甲が低いスマートな作り。でも別に感心はしなかったけど…(男物だからか?)
この本を読むと、しかし、フェラガモの靴が無性に欲しくなる。
なんにせよ1代で財を築いた人っていうのはすごいものだが、この人もたいていすごい。そして本当の職人だったのだなぁ。フェラガモ=ミーハーブランドと思っていたボクにとってとても新鮮だった。特に「足を守る」ことにかける情熱がひしひしと伝わってくる。靴はフェラガモが最高、と読み終わる頃にはしっかり洗脳されること請け合い。余計な出費をしたくない人は読まない方がいいかもしれない。
まぁでも普段疑問に感じたことがないこと、すなわち「靴とは何か」という問題点を提起されるだけでも意味のある本だ。
この疑問はこの本で氷解するだろう。そういう意味ですごく役に立った。自伝という意味でもなかなかサジェスチョンに富んでいる。ただ怖いのはこれもフェラガモのふか~い陰謀で、顧客増やしの片棒を担がされているのではということだけ…。
1997年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:自伝・評伝




