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LV3「フェルメール全点踏破の旅」

朽木ゆり子著/集英社新書ヴィジュアル版/1000円

フェルメール全点踏破の旅
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現存するフェルメールの絵は、疑わしいモノも含めて37点しかないと言う。だからこそ成立した全点踏破の企画。美術誌ではない一般雑誌「UOMO」創刊号でのこの企画を一冊にしたものということもあり、著者は丁寧にフェルメールを読み解いてくれている。そういう意味で(多少詳しすぎる部分もあるものの)フェルメール入門者にもいいし、フェルメールを詳しく知りたいヒトにも良い本になっている。

もうひとついいのは、所蔵されている美術館順に話を進めていること。そのせいで紀行文的になっているのもいいが、絵の制作年が前後することで逆に読者の理解が深まるところがある。もしフェルメールの初期から後期に向けて順を追って構成していたら、(教科書的になって)逆に頭に入らなかったことが多くなった気がする。あぁずっと前のページで言っていたことはこういうことか、みたいな気づきが脳を活性化させるのだな、とか思った。

ボクはフェルメール初心者だ。まずは細かい研究記述をすっとばしてざっと読んだことにより(そして掲載のカラー写真で確かめたことにより)、フェルメールを概観でき、彼の絵の特徴、様式、盛衰などを理解できた。もっと好きになったらまた再読して詳しく読めばよい。そういう意味で、ボクには至極役にたった一冊。ボクは美術館では走るように絵を見て、なんか気になった絵の前だけで長時間過ごすような見方をする。有名絵画でも気持ちに引っかからなければ無視するタイプだが、そんな「走り見」系のボクにはとても合っている一冊だった。

2007年03月11日(日) 8:37:25・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , , 写真集・イラスト集

LV4「KAKIBAKA 描く男」

黒田征太郎著/求龍堂/2200円

黒田征太郎 KAKIBAKA 描く男
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1995年に出した「KAKIBAKA」の第二弾になるのかな。
5000円もした大判の第一弾に比べると小振りだが、中身はギュウと詰まっている。分厚い本にイラストが数万点規模。巻末に「本書掲載のモノクロページのイラストは、黒田征太郎が絵を描いている以外の日々の暮らしのなか、電話をしながらや食事中などに無意識のうちに手が動いて、身近にある紙切れなどに書き残していたもの」とある。それが数万点。

圧倒的なKAKIBAKAであり「手が走るッ」という帯コピー通りの本なのだ。
確かに書き殴ったような絵の集合だが、目的やメッセージを持った絵とはまた違う何かが伝わってくる。黒田征太郎を身近で知っている人やファンにとっては時間を忘れて見続けられるイラスト&エッセイ集。だが、黒田征太郎を知らない人には何がなんだかわからないかもしれない。そういう意味で微妙な本。

ちなみに挿入されている彼の一言一言がとてもイイ。これはいろんな本や雑誌で彼が語ったことの抜粋らしいが、抜粋したヒトがわりとセンスいいな。

2003年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集

LV2「Made in LONDON」

熊川哲也著/文春文庫/667円

メイド・イン・ロンドン
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バレエ予習の6冊のうちの1冊。英国ロイヤルバレエでプリンシパルまで上りつめた熊川哲也の半生記である。ロイヤルバレエを退団して自らのバレエ団を旗揚げする直前に書かれた自伝なので、全体に少々チカラが入っているのは仕方がない。かなり自己陶酔的だし自慢的だが、バレエでトップを張るダンサーはそうであっても全く構わないと思う。というかそうあるべきかも。という感じで、わりと微笑ましく読んだ。

自伝であるが、苦労しました、という感じは微塵もないのがいい。なんかスルスルとここまで来てしまったのが当然な感じで描かれている。スルスル来たのに敢えて苦労をオーバーに描きがちな自伝という分野で、ここまで素直にそのスルスル感を書いているあたり、なんだか野球の新庄を思い出したり。きっとこのふたり、似てるぞ。
ま、薄い本だし、スルスルっとした内容だし、バレエや熊川哲也に興味がないひとにはオススメしない。でもちょっとは興味がある人なら、そこそこ楽しめる。そんな感じ。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV5「落語的生活ことはじめ」

くまざわあかね著/平凡社/1400円

落語的生活ことはじめ―大阪下町・昭和十年体験記
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副題は「大阪下町・昭和十年体験記」。
著者は落語の台本を書く仕事をしている。で、「台本書いていてカンテキや火鉢、箱膳などの道具の細かい点がよくわからない。他の小道具でも使ってみてはじめてわかる発見があるのではないか…。それじゃぁ落語的な古い生活をしてみようではないか!」と思ったがこの本のキッカケ。

具体的には(江戸時代的生活はさすがに無理なので)昭和十年と設定。
冷蔵庫なしテレビなし電話なし。電球は40ワット。昼は着物。寝るときゃ浴衣。銭湯使って足りない物はご近所や大家さんに助けてもらう。ご飯は羽釜、おかずはカンテキ(七輪)で作る。机の横には火鉢があって、かけてあるヤカンからは常に湯気がシューシュー……それを一ヶ月やってみようというのだ。すばらしい。そういう発想大好き。で、そういう発想をするヒトだもの、本も当然おもしろい。日記風のルポになっていて一緒に昭和十年に生活しているようである。厳しく言うと、終わり方が中途半端なのと、どうせなら最低半年、そして厳冬も体験してほしかったと思うのだが、読者のわがままだな。充分おもしろいし、自分でもやってみたくなる。

たった65年前、日本人はみなそういう生活をしていたのだが、 いまそれをしようと思うとぶち当たる壁が非常に多いのもよくわかる。死語かつ死道具のいかに多いことか。日本が過去の豊かな価値観をいかに惜しげもなく捨ててきたかをわかると同時に真の豊かさとは何かを考えるキッカケになる。はやりのスローライフ的読み物としても秀逸。オススメ。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , アート・舞台 , 雑学・その他

LV4「横断歩道」

黒井千次著/潮出版社/1600円

横断歩道
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静かな小説である。
ある主婦がプールで知り合った同年代の女性と友達になるが、彼女はある日突然姿を消す。彼女がいる日常に慣れた主婦は彼女を捜し始める…というような物語なのだが、読後、さてココにどう書こうかと困ってしまうほどなにも起こらず、結果も展望も解決も現れない。だけど不思議に印象的。
読者によっては退屈を感じる人もいると思う。20代に読んだら退屈だろう。でも40.50歳以降に読むとわりと空気が読め、共感を得られる気がする。ボクは現代の危うい人生構築を外側から内側に向かって注意深くじっくり描いていることに好感を持った。意識して構築したわけでもない人生に埋没している安心感と不安。ある時、ほんの小さなキッカケでそこから一歩出る。すると違う景色が見え始めるのだが、それもまた非常に不安…。構築した人生に絡め取られ、行くも戻るもしにくくなった中年以降の不安感を静かに描いている。題名の「横断歩道」はそんな向こう岸への(安全な)一歩を象徴しているようだ。

著者は何も起こらないことにさすがに不安を持ったのか、ちょっとした出来事を重ねてミステリーっぽくしたりもするのだが、それはちょっと中途半端であった。ミステリー的にするより、より純文学的に持っていった方が個人的には望ましかったな。思わせぶりな小説と切り捨てることも出来るだろうが、正直ボクはわりと好きである。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「国境」

黒川博行著/講談社/1900円

国境
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先月、東野圭吾のサイトの中で「黒川博行の『切断』、『封印』、『疫病神』、『国境』は傑作」と書かれていると書いた。で、先月は「疫病神」を読んだ。今月は「国境」である。「疫病神」の二宮と桑原が、今度は北朝鮮の国境を破る羽目になり、またコンビを組む。この強烈な個性のコンビが復活すると聞いただけで読みたくなる。著者はとてもいいキャラを発掘したなあ。

抱腹絶倒感やシズル感は前回の方が強いが、なにしろ主な舞台は北朝鮮である。未知かつ不可思議な国である。その異様さをちゃんと描写しながら物語は進むのだが、これがとてもリアルに描かれていて、空気感までしっかり伝わってくる。それだけでもこの本は買いだ。理解できないもの(北朝鮮)への根元的恐怖が行間からじっとり伝わってくるのである。そして読み終わる頃にはなんとなく北朝鮮を知った気になる。

前作同様、犯罪の背景が入り組んでいてとてもわかりにくい。説明も長いしシンプルではない。前後関係を理解するのにそれなりの集中力もいる。そしてそこに北朝鮮の現状描写が入るから非常にまどろっこしい。でも、それを上回る魅力が作品中に溢れているのも前作と一緒。キャラの立ち方をはじめ、ギャグ的センス、コンビの絶妙な絡みなど、かなり面白い。ヤクザものがお嫌いな人でも楽しめるはず。わりとオススメ。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「疫病神」

黒川博行著/新潮文庫/667円

疫病神
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東野圭吾のホームページの中の作家紹介に「黒川博行は、読んで絶対に損はないと、自信を持って勧められる作家である。中でも、『切断』、『封印』、『疫病神』、『国境』は傑作。これだけ褒めておけば、向こうもどこかでお返しをしてくれるかもしれないな。」とか書いてあり、未読の作家というか、実は知らなかった作家だったので妙に気になり、一番評判が高いらしい「疫病神」から読んでみた。そしたらなかなかのアタリだったのである。

基本的にヤクザ小説なのだが、しっかりした下調べと思わず笑ってしまう大阪弁会話の妙で、なかなか良い。キャラもしっかり立っていて、ヤクザ的リアリティもしっかりある。ただ、著者はかなり理屈っぽいのだろうか、めちゃくちゃ細かいプロットで、全体の犯罪構造を理解するのに大変苦労する。まぁそれも全体に漂う雰囲気とリアリティで許せてしまうのだが、もうちょっとシンプルになっていたらより人気が出た本だろう。

桑原というキャラは実に魅力的だ。主人公の二宮との疫病神コンビを使って続編「国境」を書いているようなので、来月はこれを読んでみよう。また彼らに会えるのが楽しみである。

2002年03月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「空から堕ちた」

黒田征太郎著/塩澤文男構成/新風舎/700円

空から堕ちた
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ページ数にしたら30ページほどの本。9.11のテロの日から数ヶ月に渡り、黒田征太郎(NY在住)がNYから日本に出し続けたハガキや書簡の数々(全部イラスト)を一冊にまとめたものである。
題材は9.11。確かに薄い本だが、あの日に黒田征太郎の目がアソコにあったことを喜びたくなる、そんな独特の視点に満ちた本である。あの日の、そしてあの日以降のNYの空気を、実感として心に届けてくれる。イラストの力か。

9.11の当日、いつものようにジョギングする人々への黒田征太郎の視線。ヒロシマナガサキとツインタワーを重ね合わせる黒田征太郎の視線。そしてまた、そんなハガキイラストの上に、ペタペタとめちゃくちゃ多く消印を押しまくるNYの郵便局員(←共感か?呪詛か?とても面白いコラボレーションになっている)……印象深いイラストが多く、思わず何回も何回も読み直してしまった。そしてまた思う。やっぱり黒田征太郎という人の線は天才の線である。字も、捉え方も含めて。

2002年03月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集 , 時事・政治・国際

LV0「看護婦探偵ケイト」

C・グリーン著/浅羽莢子訳/扶桑社ミステリー/740円

看護婦探偵ケイト
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看護婦が探偵を開業したから「看護婦探偵」……なんつうかベタベタな設定の推理小説である。
うはは、と笑いつつ、こういうのはまずハズれるんだよなとも思いつつ、なんとなく惹かれて読み始めてしまったのはやっぱりナースへの男性永遠の憧れがあるから?

んでもって、ええ、ハズしました。
英国推理作家協会の処女長編賞最終候補作、であるらしいので、ちょっと変わった設定のデビュー作を楽しめる推理小説マニアにはいいかもしれないが、客観的に見ると駄作ではないでしょうか。病院の裏側に精通している看護婦であるというメリットを活かしているのはいいが、人物の描き込みは雑だし、サスペンス的にも弱い。主人公にカタルシスも感じない。脇役も(足フェチの変人という設定はなかなかだが)いまいち体温が伝わってこない。ボク個人としては読まなくてもいい小説だと思う。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「蕭々館日録」

久世光彦著/中央公論新社/2200円

蕭々館日録
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無人島に一冊持っていくとしたら漱石の「吾輩は猫である」を持っていく、という著者が書いた久世版「吾輩は…」である。

語り部は猫から5歳の早熟少女に変えてあり、登場人物も(名前は変えてあるが)芥川龍之介、菊池寛、小島政二郎らであり、時代も大正から昭和に変わる頃、と、もちろん著者なりにアレンジはしてあるのだが、元本は明らかに「吾輩は…」。あそこに漂う高等遊民的空気と語り部による観察・批判の鋭さを再現しようとしたものなのである。

「猫」に比べて語り部の「麗子」が同族である人間な分、視点が「猫」よりだいぶん人間に近く、それが中途半端な感じになっていて--麗子のヒトとしての心情が描けすぎている--ちょっとウェットに傾きすぎている。そこが強みでも弱みでもある本。向田邦子が書いた方がもっとドライになって面白かっただろう。

「重箱の隅っこに文化がある」という一文があった。今時重箱の隅など、だれも覗かない。その淋しさをバネにしてしっかり書き込んだ労作だとは思う。相当な知性と緻密な下調べ、そしてこういった筋がない物語を破綻なくまとめあげる筆力、感服する。
が、この馴染めない感じはなんだろう? もうボクがこういうものを楽しめなくなっているのであろうか。駆け足で過ぎていく時代へのアンチテーゼとして示された本でもあるとは思うが、まさに駆けている状態のボクは何度か途中で挫折しそうになった。心の余裕がある時にゆっくりスルメのように味わう本であるかもしれない。

2001年07月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「癌 --患者になった5人の医師たち」

黒木登志夫他著/角川oneテーマ21/571円

癌-患者になった5人の医師たち
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癌にかかった医師たち5人の文章を寄せ合って作った新書本。
一人の患者として、人間として、どう癌を受け止めたのか、どう闘っていったのか、そして医者としてどう変わっていったのか。生の言葉でしっかり書いてある。かりそめの健常者としてそれを読むことは、一種のグラウンディング(地に足をつけること、自分を知ること)の作業になり、とても有効であった。良い企画に感謝する。

死に至る病は人間を、いや自分を、どう変えるだろうか。
いやもちろんボク自身、死に至る病にかかっている。1分1秒死に向かって時は進んでいく。そういう意味では著者たちとボクになんの立場上の違いはない。深く沈降し、自分を捜し出さなければいけない。癌にかかっていようとかからないでいようと。個人的には「ゲルソン療法」が興味深かった。もしボクが癌にかかったら「必ず」告知して、療法そして生き方(死に方)を選ばせてくださいね ←近親者へ私信。

2001年02月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:健康 , ノンフィクション

LV5「馬鹿でよかった」

久住昌之著/演劇ぶっく社/1500円

馬鹿でよかった
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いいなぁ、この本。
なんじゃろう、単に「この本、好き」で書評を終わりたい気分。不便を不便と感じることがアイデアの元である、みたいな言葉があるけど、なんというか著者は誰もが普段そう感じながらも見逃しているそういう小さな小さな感情を逃さず表現していく。その観察力、バカ正直さ、想像力が素晴らしい。そして読者を共感の渦に巻き込んでいくその技術も(さりげなく)素晴らしい。

この本を「ぼくは静かに揺れ動く」の後に読んだのだが、「ぼくは静かに揺れ動く」がどうにもうざったいのは「馬鹿でよかった」と違って読者を信用しないで説明しすぎるところなんだろうな。そう。つまり「馬鹿でよかった」は読者を信用してのびのびと意識の流れを書いているのだ。その信用の仕方と著者自身の自信が素晴らしい。その自信の持ちようこそ「馬鹿」じゃないと出来ないこと。うーん、著者が馬鹿でよかった。はは。いいなぁ、この本。

2000年12月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「白バラはどこに」

クリストフ・ガラーツ&ロベルト・イーノセンティ著/ロベルト・イーノセンティ絵/長田弘訳/みすず書房/1800円

白バラはどこに
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「長田弘が選んだ7冊」の2冊目。
これは戦争の物語。哲学的な「・・・の反対は?」と同時配本でナチスものを持ってくるあたりはバランス感覚がいいというか、教育的過ぎるというか・・・実はちょっとガッカリ。なんというか「良書」を読まされている時の居心地の悪さがどうしても漂うのだ。文体に甘さがないのが救いだが、結末もお涙頂戴系。大人が読むには少しセンチすぎるようである。

ただし、子供にとっての「戦争の入り口」としては実はいいのかもしれない。テレビゲームでの殺し合いが氾濫するなか、こういう物語が彼らの心に一滴でも潤いを与えられるなら、意味があるのかもしれない。それは認める。でも、長田弘という希有の詩人が世に問う7冊としては・・・わりとイマイチかも。正直言って。
ちなみに5歳の娘はこの本の「絵」が好きみたい。筋にはあまり乗ってこなかった。戦争という概念がよく理解できないのだ。子供が「戦争ということ」を理解できない世の中。いまの日本はその意味では実に幸せな集合体と言わざるを得ない。昔から考えたら「理想郷」に近い。平和ボケ? 結構なことじゃないか。

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:絵本

LV3「漂流物」

車谷長吉著/新潮社/1600円

漂流物
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死後に地獄というものがあるとしたら、こういう生前の醜い想いが漂っている場所のことかもしれない。
この本を読んでそう思った。
短編集だが、著者が吐き出す地獄模様は1ページが10ページ分くらいの密度で読者におそいかかり、読み通すのになかなか力がいる。ある種、私小説であると思うのだが、私小説も行き着くとこういった「心の中の地獄」を描くしかないのだろう。ボクはこの人が書く嫉妬地獄みたいなものを読んでみたい。

1999年10月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「昭和恋々」

山本夏彦・久世光彦著/清流出版/1600円

昭和恋々―あのころ、こんな暮らしがあった
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この超絶共著でこの評価、というのは、期待をかなり裏切った、ということです(期待しすぎ?)。

書き手抜群。昭和という故郷を失った我々が、昭和を恋々と懐かしむ際の語り部として彼らはまず最良の人選。題材も抜群。いまこそ「昭和」を語るべき。写真もなかなか良し。あー、ボクたち(S30年代以前生まれ)の小さい頃はこうだったよなーとの感慨…。

だのに、なんでこんなに面白くなかったんだろう。
古い記憶自慢大会みたいになったからかなぁ、「懐かしのメロディ」的番組を見ているような行き場のなさを感じてしまった。「懐メロ」としては良く出来ている。この本の役割も価値もわかる。だが、このふたりの書き手を擁しておいて「懐メロ」に終わらせるのはもったいなさすぎるのだ。「老人のマスターベーション」に終わらせるには、書き手も題材も良すぎるのだ。惜しい。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集

LV5「赤目四十八瀧心中未遂」

車谷長吉著/文藝春秋/1619円

赤目四十八瀧心中未遂
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久しぶりに心に楔を打ちこまれた気がする。
自らのヒフを剥ぐようなその文体は、題材が自らの経験にもとずくというだけでなく、自分を傷つけて血糊の中でのたうつ様を楽しんでいるようなある種の狂気から来ている気がするほど迫力と魅力に富んでいる。描写される世界の空気感、時代感も抜群だ。日本近代文学がどこかに置き忘れてきつつあった「体臭」みたいなものがプンプン匂ってくる。

それにしてもこれが今年の直木賞か。芥川賞の方がいい気もするが…。それだけ境目がなくなってきたんだろうなぁ。いい意味でごく初期の宮本輝を彷彿とさせて楽しめます。あ、暗い話が嫌いな人は近づかない方がいいかも。まぁ題名がコレだから近づかんか。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「味と香りの話」

栗原堅三著/岩波新書/660円

味と香りの話
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なかなか面白い。食べることが好きな人は一回こういう「おいしく感じる仕組みの話」は読んでおいても損はないだろう。
味・匂い・香りの科学的エッセイなのだが、専門用語を多用しているわりには、エピソードのまじえ方がうまいのだろうか、わりと最後までスラスラ読み通せる。ただ、初めの頃のきさくさが、後の方ではなくなっているのが惜しい。
でもあれだな。こういう新書系の科学書って読んだ端から内容を忘れていくな。いったいなんでだろう。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , 科学

LV1「懐石料理の知恵」

串岡慶子著/ちくま新書/660円

懐石料理の知恵
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懐石料理についていろいろ知りたいとずっと思っていたので、新書判で手軽に知識が得られるこの本は最適だった。通勤途上の電車で読めるからね。とにかくその精神、しくみ、さまざまな茶事などがギュッと詰め込んであるので資料としてはなかなかいい。

が、詰め込もうとした分だけ読みづらい。
新書にするのだったらもう少しイイタイコト・伝えたいことを絞ってやさしく書いてほしいと思う。あれもこれもと(グラフなどの資料も含めて)言及しすぎている。捨てるところは捨てて、ボクみたいな初心者でもその根本的精神にじっくり触れられるような仕組みにしてほしかったと思う。贅沢かな。

1998年08月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV3「二都物語」

黒田征太郎・絵と文/アートン/1905円

二都物語―ソウル・ピョンヤン
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ボクの尊敬する人の一人である著者がソウルとピョンヤンを訪れて絵を描き文を書いている本。
彼の絵も文も常にボクにナニカを与えてくれるのだが、今回もそれは期待を裏切らなかった。内臓をそのままさらけ出してくるような彼の画体・文体はいつも直接に心を刺激してくれる。

ピョンヤンでの彼の絵はニンゲンを意識していっぱい描いている。それだけピョンヤンのニンゲンが見えなかったからなのだろう。必死にニンゲンを探している彼の絵が線が、結果としてピョンヤンの現在を浮き彫りにしていてとても面白い。ソウルにしてもピョンヤンにしてもたぶん彼の言葉を活字にせず彼の字で印刷した方がより良かった気がする。それはそうと、彼の絵はこうして本にするとどうしてもチンマリ見えるのはなぜだろう。実物はあんなにパワフルなのに。

1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , 写真集・イラスト集

LV3「孤独のグルメ」

久住昌之原作/谷口ジロー作画/扶桑社/1143円

孤独のグルメ
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漫画である。
主人公がいろんな場所で「何食おうかなぁ」とふらりと街の安飯屋に入る、それだけの物語だが、意外と面白かった。というかものすごくボクの気分に近かった。わりと出張が多く、いろんな街で昼時を迎えることが多いボクだが、一人で飯屋にはいるのがまったく苦にならないどころかどっちかというと好き。そして、その、店がなかなか決まらない「腹はすっからかん、心は宙ぶらりん」の感じ、そのどうにも解決できない突然な食欲、そのなにからも自由な気分、そしてその奥底から癒される感じ……。それらのすべてにとても共感できた。

ストーリー自体たいしたことないので共感もてない人にはつまらないだろうが、こういう「漫画エッセイ」はこれから増えていくんではないかな。空気感がとてもいい佳作。

1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:漫画 , 食・酒

LV5「警視庁刑事」

鍬本實敏著/講談社/1900円

警視庁刑事―私の仕事と人生
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昭和63年に退職した名物デカ鍬本實敏(くわもとみとし)をインタビューした傑作ドキュメント。

熟読するほどに感嘆。玩味するほどに悔恨。我々は素晴らしい時代を捨ててきたのである。
そう、これは単なる職人刑事の仕事録だけにおさまらず、「昭和」という人の情が残っていた素晴らしい時代の貴重な証言でもあるのだ。まぁそこまで大上段に振りかぶらなくてもいいけど、とにかく刑事という仕事の本当を知りたい方は是非読んでみてください。ちなみにすべて彼の記憶だけを頼りにインタビューは進んでおり、その記憶のコンピューターぶりにはただ舌を巻かされる。

それにひきかえ、装丁はなんとかならないのか。これだけの内容なのに、地味で古臭いイメージ。若い読者が寄りつきそうもない感じ。

1997年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 自伝・評伝

LV5「脳天観光」

久住昌之・加藤総夫著/扶桑社文庫/680円

脳天観光
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真の意味で聡明な知性に難解なことを語らせてみたら、こんなに平明なものになりました、の見本。

地球最後の秘境「脳」がこんなに面白く優しく深くわかっていいのか、とつぶやきながら読んだ。
「頭がいい人」というのはこの著者たち(特に学者・加藤総夫)のような人を指すのだと思う。こんな学者がいるならまだニホンも大丈夫。知的エンターティメントとしても科学啓蒙の書としても満点なる名著。

1997年04月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:科学

LV1「鳥を描き続けた男」

国松俊英著/晶文社/2200円

鳥を描き続けた男―鳥類画家 小林重三
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鳥類画家小林重三の伝記。
おもに辞典に鳥の絵を書き続けてきた画家の一生を他の鳥類画家と共に丹念に書いたもの。

扱われる題材が珍しいこともあって飽きはしないが、もっとエンターテイメントに徹すれば映画の原作にも出来る題材だけに、作者の「単に真面目なだけ」の文体が残念。本作りも定価が高くなることを覚悟でもっと図版・写真をカラーで入れてほしかった。なにせ今でも日本一と言われている鳥類画家の伝記なんだから。
こういう知られていない人生を読むのって好きなので、どうせなら徹して欲しかった一冊。

1996年08月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 写真集・イラスト集

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