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川上弘美
「真鶴」

amazon文学を読む楽しさを心ゆくまで味わわせてくれる名作。美しく、そして怖く、なんとも不思議な物語なのだが、この小説世界から離れがたい気持ちを起こさせてくれる。
川上弘美は新鉱脈を掘り当てたのかも。
「蛇を踏む」のころのちょっとおどろおどろしい異化の表現と、「センセイの鞄」にあるような性善説的ホンワカ感とが見事に融合してきて、なんというか、川上弘美にしか書けない地平が目の前にぐわーーっと広がっている感じを受ける。マジで舌を巻いた。
言葉の選び方や会話の描き分けの鮮やかさ、ひらがなと漢字の使い分け、浮遊感と現実感の出し入れなど、細かいところまで計算しつくされ、前半と後半では手触りまで違い、うわぁと圧倒された感じ。ルビの出し入れにまで技を感じる。でも技がわざとらしくなる寸前で止めている。この辺の微妙なセンス。素晴らしいなぁ。
2007年02月15日(木) 23:47:24・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「ざらざら」

amazon出す本ごとに充実を感じさせる川上弘美の短編小説集。8ページ前後の超短編が23編収録されている。
読みはじめて著者の世界に浸りきるまでは「なんだか物足りない」「なんてたよりない」「さらりとしすぎてる」という印象だが、4,5編読んだあたりからだんだん気持ちよくなりだし、最後の方では「あぁこのままずぅっと読み終わらないと良いなぁ」とか思った。なんてやわらかくさらさらと言葉をつむぐ人だろう。表面はさらさらなのに、その少し奥にきちんとざらざらを隠している(表題の「ざらざら」はそういう意味ではないけれど)。ちゃんと描き込んでいるのに肩に力が全く入ってないように見える技も素晴らしい。
女性が読むとより強い共感を覚えるのだろうなと、少し嫉妬しながら読んだ。気楽にさらっと読めるが、じっくり再読味読してみたくなる逸品。ボクは好き。
2007年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「古道具 中野商店」

amazonやっぱりいいなぁ、川上弘美。彼女のほんわかした良さを(そしてほんわかの中のシビアなドライさも)よく伝えてくれる長編小説である。
東京近郊の学生街にある小さな古道具屋でアルバイトする女性が主人公。
ダメダメな店主・中野さんを始め、登場人物が持つ空気感が抜群にいい。外側をさらりとなぞるようにしか描いていないのに、イキイキとしたリアリティがある。そして見ていてじれったい恋人関係。この辺のじれったさを書かせたらこの人に並ぶ作家はいないのではないかな。
こんな店があったら通いたいなぁ、と読んでいて思わせるのはサスガ。できれば長くだらだらとシリーズにしてほしいとすら思ったが、著者はしっかり終わりを作った。それもまぁ良かったかな。考えてみたら、「センセイの鞄」にしてもこれにしても、空気感は一緒なのでシリーズみたいなものかもしれないし。
2006年02月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「光ってみえるもの、あれは」

amazon高校生の頃の、不安定でリアルじゃなくて自分の存在をどこか遠くへドライブしたい気分が、この小説では実に巧みに描かれている。
そういう意味では、主人公の翠(男)より友達の花田の方がその不安定度が高くて共感できそうな感じだが、著者はそういう「作家が高校生を描くとこうなる、の典型である小説的高校生」を主人公に持ってくるようなことをしない。ぼんやりしているがよりリアルに近い翠をあえて描き込んでいく。そこらへんのシャイさと程の良さが川上弘美。渋いのだ。
ボクは著者の、著者と同年代っぽい(例えば「センセイの鞄」の主人公のような)女性像が好きである。ふわふわと宙を漂うように現実と快楽といつかはなくなる生命との間を生きている感じを実にうまく書いていると思っている。その感じはこの本でも味わえる。主人公の家の祖母と母の日常だ。高校生たちのふわふわ感より、ある一定年齢以上の女性のふわふわ感の方が著者は圧倒的にうまい。物語の展開よりもこの家の日常にずっと浸っていたいと思ったのはボクだけだろうか。
高校生の瑞々しい描き方でこの本は好評のようだが、ボクは彼らに瑞々しさを感じなかった。逆に年老いて感じたくらい。リアルな感じとふわふわ感で独特の世界を紡ぎ出してはいるが、物語としては芯がなく、少し物足りないのも事実かな。
2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)
「センセイの鞄」

amazon話題作。というかヒット作。
川上弘美は芥川賞受賞作「蛇を踏む」のとんでもない異化の世界の印象が強く、体調がいいときにしかトライする気になれなかったのだけど、巷に「これはいい!」という声が溢れているので手に取ってみた。結論から言うと、これはいい!です、はい。
37歳になる独身女性ツキコと30歳以上年上のセンセイとの静かな愛の物語。
冒頭から引き込まれ、何も起こらないのにワクワクし、最後には読み終わるのが惜しくなってくる。特に会話がいい。お行儀のよい会話にお行儀のよい展開をつけて、昭和時代っぽい純な味を出している。主人公同士の小津安二郎的距離感も心地よく、小説を読む楽しみを思い出させてくれる。
著者はどこかのインタビューで「私は何かを伝えようと思って小説を書きません。伝えようとすると小説ではなくお説教になってしまう」と言っていたが、その通りの作法で書かれており、それも心地よい原因のひとつであろう。なんというか、フランス料理で商売できるほどの腕の人が作る家庭的お総菜を個人的にゆっくり味わわせてくれた後のような、滋味溢れる充足感がここにはある。静かで温かい気持ちになりたいときなど、おすすめ。
2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:小説(日本)






