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LV3「2050年のわたしから」

金子勝著/講談社/1200円

2050年のわたしから
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副題が「本当にリアルな日本の未来」。イラスト:ヤマザキマリ。

2005年における現実の統計を使って、その平均的傾向をグラフ上でずぅっと2050年まで延長してみるとどういう世界になっているか、ということをシミュレーションした本。だから少子化もこの減少率を保って45年続くので、0.11になっている。巨人戦の視聴率は0%。国民年金の納付率は20年前にゼロ。大卒就職率ゼロ。農家もゼロ。商店街もゼロ。日本は落ちぶれきり、アメリカも落ちぶれ、中国がナンバーワンの世界…。

もちろん単純計算なのでありえない数値なのだが、この本では2005年に20歳である主人公を狂言回しに2050年の社会をわりとドラマチックに報告しているので、意外とリアルで怖いのだ。

第三章では、そうならないための逆シミュレーションもしてくれる。第四章では著者の論説も展開されている。だから救いもあるし、読み終わると「あぁ脅かして安心させて自説を主張するプレゼン・パターンね」と気づくのだが、でもまぁこのうちのいくつかは本当にそうなってもおかしくない感じではある。

意外とさらっと読めてしまって物足りないが、現代日本について問題意識をわかりやすく持つためにはなかなか良い本。頭を整理し、問題点を絞るのに有益。

2007年03月17日(土) 18:02:52・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV5「真鶴」

川上弘美著/文藝春秋/1429円

真鶴
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文学を読む楽しさを心ゆくまで味わわせてくれる名作。美しく、そして怖く、なんとも不思議な物語なのだが、この小説世界から離れがたい気持ちを起こさせてくれる。

川上弘美は新鉱脈を掘り当てたのかも。
「蛇を踏む」のころのちょっとおどろおどろしい異化の表現と、「センセイの鞄」にあるような性善説的ホンワカ感とが見事に融合してきて、なんというか、川上弘美にしか書けない地平が目の前にぐわーーっと広がっている感じを受ける。マジで舌を巻いた。

言葉の選び方や会話の描き分けの鮮やかさ、ひらがなと漢字の使い分け、浮遊感と現実感の出し入れなど、細かいところまで計算しつくされ、前半と後半では手触りまで違い、うわぁと圧倒された感じ。ルビの出し入れにまで技を感じる。でも技がわざとらしくなる寸前で止めている。この辺の微妙なセンス。素晴らしいなぁ。

2007年02月15日(木) 23:47:24・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「カラスヤサトシ」

カラスヤサトシ著/講談社/590円

カラスヤサトシ
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コミック「月刊アフタヌーン」誌の読者コーナーに地味ぃに不定期連載している著者の四コマ漫画を集めて本にしたもの。
とはいえ、ひとつひとつの中身が濃いので読むのにとても時間がかかる。これだけ時間かけて楽しんで(しかも細かい技を本のいろんなところに仕込んであって)590円というのは大層お得である。

実に切り口が独特。
マニアでフェチで孤独で引きこもり的な独自の世界が広がっているのだが、ある程度独り遊びができる男達にとっては「わかるわかる〜」の世界なのだ。この世界を深堀りした本って初めてじゃないだろうか。いとおしくなるような場面が丁寧に描かれ、なんだか微笑ましくも懐かしい気分になる。

意外とこういうのを「豊か」と呼ぶのかも、とちょっと洗脳されそうになった自分が少し怖い。

2007年01月26日(金) 9:16:20・リンク用URL

ジャンル:漫画

LV5「ざらざら」

川上弘美著/マガジンハウス/1300円

ざらざら
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出す本ごとに充実を感じさせる川上弘美の短編小説集。8ページ前後の超短編が23編収録されている。

読みはじめて著者の世界に浸りきるまでは「なんだか物足りない」「なんてたよりない」「さらりとしすぎてる」という印象だが、4,5編読んだあたりからだんだん気持ちよくなりだし、最後の方では「あぁこのままずぅっと読み終わらないと良いなぁ」とか思った。なんてやわらかくさらさらと言葉をつむぐ人だろう。表面はさらさらなのに、その少し奥にきちんとざらざらを隠している(表題の「ざらざら」はそういう意味ではないけれど)。ちゃんと描き込んでいるのに肩に力が全く入ってないように見える技も素晴らしい。

女性が読むとより強い共感を覚えるのだろうなと、少し嫉妬しながら読んだ。気楽にさらっと読めるが、じっくり再読味読してみたくなる逸品。ボクは好き。

2007年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「古道具 中野商店」

川上弘美著/新潮社/1400円

古道具 中野商店
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やっぱりいいなぁ、川上弘美。彼女のほんわかした良さを(そしてほんわかの中のシビアなドライさも)よく伝えてくれる長編小説である。

東京近郊の学生街にある小さな古道具屋でアルバイトする女性が主人公。
ダメダメな店主・中野さんを始め、登場人物が持つ空気感が抜群にいい。外側をさらりとなぞるようにしか描いていないのに、イキイキとしたリアリティがある。そして見ていてじれったい恋人関係。この辺のじれったさを書かせたらこの人に並ぶ作家はいないのではないかな。

こんな店があったら通いたいなぁ、と読んでいて思わせるのはサスガ。できれば長くだらだらとシリーズにしてほしいとすら思ったが、著者はしっかり終わりを作った。それもまぁ良かったかな。考えてみたら、「センセイの鞄」にしてもこれにしても、空気感は一緒なのでシリーズみたいなものかもしれないし。

2006年02月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「カヴァフィス全詩集」

カヴァフィス著/中井久夫訳/みすず書房/3700円

カヴァフィス全詩集
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どの新聞だったかなぁ。カヴァフィスの詩を引用しているコラムがあって、その詩におお~っと感動して、ネットでこの本を注文した。で、1ページ目から丁寧に読んでいってその詩を探したのだけど、訳の違いもあるのか何度読んでもその詩が見つからず。その新聞のコラムは切り抜いておらず(出先だったのかも)、結局その詩とは再会できず仕舞い。がっくりである。(もしかしたら「市(まち)」という詩かもしれないという漠然とした印象はあるのだが)

ま、結果的にカヴァフィスと出会えたわけで良かったのです。
カヴァフィスは今世紀最大のギリシャ語詩人と言われ、20世紀言語芸術の極北のひとつとされているらしいが(本の紹介から)、彼が紡ぎ出す言葉は現代日本に住む我々にも平易でわかりやすく、実に示唆に富んでいる。ローカルな題材やギリシャ神話系題材も多いのでそっち方面の教養に薄いボクとしてはその手の詩は読み飛ばすしかなかったのだが、それでも十分に楽しめた。性の悦びをうたった官能詩も多いし。

ちなみに、エドワード・サイードが今年9月に亡くなった時、娘さんが父のお気に入りだったというカヴァフィスの「野蛮人を待つ」を朗読したそうだ。この詩はいい。ボクもかなり気に入った。また上述の「市」や「せめて出来るだけ」「認識」「隣のテーブル」「絶望して」など、わりと初期の詩が好きかも。

2004年01月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:詩集・歌集など

LV4「花火」

川内倫子著/リトル・モア/1800円

花火
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第27回木村伊兵衛写真賞受賞の写真集。
9月に花火師デビューしたボクであるが、一緒に花火打ち上げをしている仲間がこの写真集に写っているということを聞き、前から探していたのだった。やっと見つけて購入。

薄い写真集であるが、中身は濃い。花火を都会の生活の中の一事象として切り取っており、あの、打ち上げられた瞬間の時間が止まった感じもとてもよく写し取られている。都会の景色の中の異物としての花火。それを魂抜かれたような顔で見つめる人々。醜い電柱や電線の向こうで一瞬止まる花火。それを無視するように話す人々。写真家の目線は花火によって異化された都会に向けられている。感性あふれるいい写真集だ。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集

LV0「バレエ入門 〜バレリーナの手紙」

川路明著/土屋書店/1800円

バレエ入門―バレリーナの手紙
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もうバレエの入門書はお腹いっぱいで読みたくなかったのだが、著者の名前を見て考えを変えた。
川路明って、あの知る人ぞ知る名著「江戸前にぎりこだわり日記」の著者じゃないですか! ほー、本職ではこんなことをやっていたのね、といきなり関心と愛と親近感が生まれ購入。
ただ、いかにも古い装丁なのとムック版の大きさ、バレエ・ダンサーに向けてのバレエ入門であること、バレリーナである姉が妹に話しかけるという設定……などなどで「きっとボクには合わない」と確信しつつの購入だったのだが、その心配はまさにあたり。んーつまらなかった。というか、古い。写真も悪い。絵もデザインも昭和30年代な感じ。やっぱつらかったかなぁ…。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV5「FLY, DADDY, FLY」

金城一紀著/文藝春秋/1200円

フライ,ダディ,フライ
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「対話篇」を読んで金城一紀恐るべし、と震えたボクの金城一紀体験第二弾。

つか直木賞をとった「GO」を先に読めよという感じだが。まぁとりあえずコレから。「対話篇」とはずいぶん違う筆致の明るいエンターテイメントである。で、後でわかったがこの本の前作であり著者デビュー作の「レボリューションNo.3」に出てくる少年たちが深く関係している。そういう意味では「レボリューションNo.3」をもっと先に読んだ方がよかったかも。

題名見て、映画「ロッキー2(だったかな)」の中でロッキーが「WIN, ROCKY, WIN」というTシャツを着て縄跳びしている姿がいきなり思い出された。映画の中で1分と映っていない場面なのだが、なぜか印象的で覚えていたわけ。あのTシャツみたいな題名だなぁ…そんな記憶とともにこの本を読みはじめたわけなのだが、これがまた、なんつうか、まさに「ロッキー」なのだな。著者もあのTシャツの印象が強かったのだろうか、とちょっと思ってしまったくらいロッキーだった。

主人公は父親。平凡なサラリーマン。ある事件で破綻してしまった幸せな生活を取り戻すためにささやかな復讐を誓う。そしてあるキッカケで知り合った少年たちに教えを請い、体を鍛え直して自分を変え、復讐に成功するのだ。その過程が感動的。特にルーティンの象徴であったバスとの競争は涙すら誘う。うまいなぁ金城一紀。少年たちの描き方もリアリティあり楽しい。甘いとかありがちとかいう批判もあるかもしれないが、ボクはこの本、好きです。

2003年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「対話篇」

金城一紀著/講談社/1400円

対話篇
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傑作。いまのところ今年一番である。
プラトンの哲学書みたいな「対話篇」という題名、そして簡素すぎる装丁が手に取るのをためらわせるかもしれないが、まだの方はぜひ。「恋愛小説」「永遠の円環」「花」の3つの短編からなっているが、それぞれ微妙にリンクして補完しあっている構成。どの短編もすばらしいし、泣ける。どれも扱っているのは死である。でも語っているのは生なのだ。高らかに生を謳い、大丈夫だよと静かに寄り添ってくれる。

映画化されるらしい「花」が特にいい。ここまで前向きに生を語り死を描き、納得させる物語も近来稀だ。ストレートすぎて照れる部分もあるが、心のどこかで「そうだ。そうなのだ」とガッツポーズをとっている自分がいる。で、ラストは涙涙。というか、こういう小説を書きたいな、と心から思った。哀しいお話なのだが、でも生きていくことを心から応援している。こういう小説こそ真の小説ではないか、とすら。

表題作にない「対話篇」がどうしてこの短編集の題名として選ばれたのかは、読めば感じられる仕組みになっている。そういえば、長く対話をしてないなと気がついた。毎日毎日薄っぺらい時間が対話なしに過ぎていく。
余談だが、ボクはリヒャルト・シュトラウスの交響詩とかをまだあまり聴いてなかった。が、この本の中の「恋愛小説」を読んでから聴き始めてみたらとても良かった。とても身近な作曲家のひとりになった。そういう効能もこの短編集にはあります。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「光ってみえるもの、あれは」

川上弘美著/中央公論新社/1500円

光ってみえるもの、あれは
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高校生の頃の、不安定でリアルじゃなくて自分の存在をどこか遠くへドライブしたい気分が、この小説では実に巧みに描かれている。
そういう意味では、主人公の翠(男)より友達の花田の方がその不安定度が高くて共感できそうな感じだが、著者はそういう「作家が高校生を描くとこうなる、の典型である小説的高校生」を主人公に持ってくるようなことをしない。ぼんやりしているがよりリアルに近い翠をあえて描き込んでいく。そこらへんのシャイさと程の良さが川上弘美。渋いのだ。

ボクは著者の、著者と同年代っぽい(例えば「センセイの鞄」の主人公のような)女性像が好きである。ふわふわと宙を漂うように現実と快楽といつかはなくなる生命との間を生きている感じを実にうまく書いていると思っている。その感じはこの本でも味わえる。主人公の家の祖母と母の日常だ。高校生たちのふわふわ感より、ある一定年齢以上の女性のふわふわ感の方が著者は圧倒的にうまい。物語の展開よりもこの家の日常にずっと浸っていたいと思ったのはボクだけだろうか。

高校生の瑞々しい描き方でこの本は好評のようだが、ボクは彼らに瑞々しさを感じなかった。逆に年老いて感じたくらい。リアルな感じとふわふわ感で独特の世界を紡ぎ出してはいるが、物語としては芯がなく、少し物足りないのも事実かな。

2003年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「勝見洋一の美食講座」

勝見洋一著/海竜社/1500円

勝見洋一の美食講座
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日本を代表する美食家である著者が正面切ってこういう題名で出してきたからにはこれは読まねばなるまい。
読めば読むほど、美食は才能である、との思いがひしひし。金持ちも才能であると同じ意味で。うはは。ほとんど嫉妬してます。まぁ正直ボクには彼と同じレベルの美食は無理だな。財布的にも環境的にも人生的にも。

ま、それは置いておくとして、内容的には「美食講座」という題名から予想されるものではなく、著者の美食遍歴の一端が上質なエッセイとして披瀝されているもの。こういう食べ方・生き方を美食と呼ぶのだよ、という静かな主張が行間ににじみ出ている。けど、文章がいいので嫌味ではない。そこらへんがこの著者の強み。

場所によって味が変わって感じられるワインの話や、ラセールでのダリの話など、印象的な話も多い。各章最後に書かれているおまけの文章もとても良い。全体にオススメな本なのだが、うーん、題名がちょっとなぁ。もっとエスプリの効いた題名にしてくれたらバイアスかからず読めたのにな、と、少し残念。

2002年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , , エッセイ

LV5「センセイの鞄」

川上弘美著/平凡社/1400円

センセイの鞄
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話題作。というかヒット作。
川上弘美は芥川賞受賞作「蛇を踏む」のとんでもない異化の世界の印象が強く、体調がいいときにしかトライする気になれなかったのだけど、巷に「これはいい!」という声が溢れているので手に取ってみた。結論から言うと、これはいい!です、はい。

37歳になる独身女性ツキコと30歳以上年上のセンセイとの静かな愛の物語。
冒頭から引き込まれ、何も起こらないのにワクワクし、最後には読み終わるのが惜しくなってくる。特に会話がいい。お行儀のよい会話にお行儀のよい展開をつけて、昭和時代っぽい純な味を出している。主人公同士の小津安二郎的距離感も心地よく、小説を読む楽しみを思い出させてくれる。
著者はどこかのインタビューで「私は何かを伝えようと思って小説を書きません。伝えようとすると小説ではなくお説教になってしまう」と言っていたが、その通りの作法で書かれており、それも心地よい原因のひとつであろう。なんというか、フランス料理で商売できるほどの腕の人が作る家庭的お総菜を個人的にゆっくり味わわせてくれた後のような、滋味溢れる充足感がここにはある。静かで温かい気持ちになりたいときなど、おすすめ。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「忘れてはいけないことがある」

鎌田慧著/ダイヤモンド社/1600円

忘れてはいけないことがある
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社会派ルポライターである著者のいい評判は聞こえてきていた。著者と同時代に生きる光栄を語っていた文を誰かが書いていた記憶もある。で、ボクは著者初読。ちょっと期待して読んだ。

著者を褒めるヒトも多いので、この本だけで判断しにくい部分はあるのだが、客観的にこの本だけ取り上げると、かなりイマイチであった。「週刊女性」に連載されたコラムを中心としていることも影響しているかもしれないが、表層的で、論の展開に深みがなく、いたずらに告発的だったり、意味もなく嘆いてみたり、短絡的な結論付けが多かったり、なんだかなぁなコラムが多かった。
週刊誌のコラムを再編成するなら、出来がいい週のものだけを加筆してしっかりした論に仕立て上げ、後は捨てる。その方がいいのだろう。そんなことを思った。

2002年02月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV5「海から来た妖精」

香山滋著/中島河太郎編/牧神社/1800円

海から来た妖精古本屋で購入した一冊。1975年5月に発売されている。当時で1800円。カラー刷りでもない150頁の本としてはめちゃ高い。副題は「香山滋代表短編集 上」。下巻は古本屋に売ってなかった。探さなければ。

著者はゴジラを創造した人物として名高いファンタジー小説家。
いやファンタジーというより幻想文学といったほうがしっくりくるな。75年に亡くなった大人の童話作家なのである。一読、実に良い。いまと当時では時間の流れ方が違うので物語のスピードがたるい部分もあるが、その分ゆっくり幻想世界に沈んでいける。この「物語にゆっくり沈んでいく皮膚感覚」を物語が失って久しい気がする。フィクションは多いが「ものがたり」が少なくなったんだな、とこの本を読んで実感した。
どの短編も良い。個人的には「ネンゴ・ネンゴ」が気に入った。目の前に暗い海辺の暗い家が浮かび上がる。その家の饐えた匂いが鼻腔にむせかえる。闇。闇があったころの日本の素晴らしさがここにあるのである。なんだか澁澤龍彦を再読したくなったぞ。

※amazonでは登録すらありませんでした。

2000年10月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー

LV3「中国料理の迷宮」

勝見洋一著/講談社現代新書/700円

中国料理の迷宮
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薄らぼんやりしている中国料理の全体像とその複雑怪奇さなど、普通に中華を食べている分には伺いしれない部分が浮き彫りにされてくる本である。
雑然としていた中華料理という引き出しにきっちり仕切りが入り整理が出来た感じである。あー、なるほどそうなのか、ふーん、なるほどこういう歴史があるのか・・・そう、この本は中華料理を題材に中国の歴史を紐解こうという新しい試みでもあるのだが、そう欲張ってしまったのがちょっと欠点にもなってしまっている。

中国体験豊富な著者のそこここに入ってくる体験談は面白い。ただそれと資料的書き連ねとのバランスが悪いのがこの本を読みにくくしている。歴史や資料の部分をもっと読みやすくしてくれればずいぶん印象が変わったと思う。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV3「被差別部落の青春」

角岡伸彦著/講談社/1700円

被差別部落の青春
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ある仕事のきっかけがあって同和問題についてかなり考える時間を持ったのだが、その流れで読んだ本。
仕事の中でたくさんの被差別部落出身者と出会ったが、みな陽気でいい人ばかりである。彼らと話しているとまるで暗くはない。でもいざ世の中に向けて発信されるとなぜか暗いものとなる。その理由もいきさつもすべてわかった上で言うが、この本のような身の丈レベルの話がもっともっと前面に出てくればなにかが確実に変わるとは思う。そういうきっかけにはなる本だ。

ただ、少し残念なのは行間にまだ重苦しさが感じられること。無闇に明るく書けと言っているのではないが、事例取材などの語り口が淡々としていて、著者(被差別部落出身者)の思考の健康さが活かされ切っていないところがある。なにか重いものに引きずられていく感じが中半から後半にかけて漂った。惜しい。

被差別部落、という単語がまず重いよなぁ。なんというか、「誇り高き陽気なマイノリティ」的括り方はないものだろうか。過去の歴史から言っても無責任なことは言えないのだけど…。これからもいろいろ考え続けていきたい課題である。

2000年04月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV5「炎の仏師 松本明慶」

かぜ耕士・檜山秀樹著/ネスコ・文藝春秋/1700円

炎の仏師 松本明慶
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運慶・快慶を越えると噂される天才仏師の存在をご存知だろうか。
京都の仏師松本明慶。
彼のドキュメンタリー番組を撮ったテレビスタッフが書き下ろしたその半生と語録、である。頭で考えた温室の言葉ではなく、まさに彼本人の経験に基づいた野性の言葉。直接的に胸に響いてくるこの言葉たちが非常に興味深く面白い。

檜山秀樹が取材し、かぜ耕士が構成執筆した本。そう、昔の深夜放送ファンには懐かしい名前ですよね、かぜ耕士。いまはドキュメンタリー番組の構成作家をしているだけあって、本の構成も見事だし、文章もナレーションを読んでいるようにすぐ頭に入ってくる。この本に残念な点があるとすれば写真が少ないこと。明慶師の彫った仏像の写真がもっとふんだんに使われているとずっと楽しかったと思う。なお、かぜさんについてはこちらにくわしい情報を載せています。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV5「投球論」

川口和久著/講談社現代新書/640円

投球論
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会社の先輩が「とてもいいよ」と貸してくれた本。

元広島東洋カープの川口投手がピッチャーについて対戦術について過去の勝負について、そして野球について、真摯に語ったもの。
ピッチャーはアタマがいい人が多いと聞くが、これだけの文章を書ける人はそうはいないであろう。一晩で読める小編だが、実に内容が深く文章も達意。パーンとかパチンとかガチャンとかの擬音も大変適切。言葉ではなかなか通じない投球のコツみたいなことをそういう擬音や達意の文章を通じてしっかり伝えてくれるのだ。しかも偉ぶらない。説教しない。人生を語らない。うーん。川口、キミはすごい。

この頃野球をさっぱり見なくなったボクであるが、ピッチャーはこういうことを考えて投げていて、キャッチャーはああいうことを考えてサインを出していて、バッターはそういうことを意識して打ちにくる、というのがわかってくると俄然興味が湧いてくる。選手が100人いたら100通りの「論」があってそれがせめぎ合っているのだろうなぁ。川口が解説している番組なら見たいぞ。きっと性格的に要所でひと言ぼそっと話すだけなんだろうけど。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:スポーツ

LV3「東京 消えた街角」

加藤嶺夫著/河出書房新社/2500円

東京 消えた街角
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写真集である。東京23区の昔の街角写真をいっぱい掲載している。ざっと見て昭和40年代の写真が多いだろうか。ちゃんと何丁目何番まで撮った場所が載っているので、イマの風景と比較することは可能だ。そういう意味で、東京に住んでいる人には立ち読みするだけでも面白い資料であろうし、昔の東京を知っている人には懐かしくて時間を忘れる写真集である。

ボクは昭和36年に東京の大森で生まれ、その後24年間東京に暮らした(一時保土ヶ谷)。
昭和40年代後半の東京ならその匂いや空気を昨日のことのように覚えている。だから大変楽しんだ。著者は専門のカメラマンではなく単に趣味として撮り続けていたようだが、そのうまいような下手なようななんとも微妙な構図が逆に記憶の不確かさと重なってとても不思議な効果を及ぼしている。こういう回顧趣味的写真集はいっぱいあるが、その中でもなんとなく好ましい一冊。

1999年12月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集

LV2「お受験」

片山かおる著/文藝春秋/1333円

お受験
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前から興味があった世界だが、娘が幼稚園に入園したのを機に「そろそろどんな世界なのか読んでおくか」と、読んだ。

お受験とは幼稚園・小学校受験を主に言う。娘にさせる気はないが、これを読んでもっとさせる気をなくした。まったくもって異様な世界である。ただ、親の見栄だけと言いきれない事情も読んでいるうちにわかってきて身につまされるのも確か。まぁとりあえずうちは「出遅れた」ということだけはよくわかったなぁ。いいんだけど。

ええと、本としてはなかなか良く出来ている。お受験失敗組の著者がいろんなお受験成功者にインタビューしてまとめているもので、いまの日本のプチブルの現状がよく見えてくる。

1998年05月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉

LV5「軽いめまい」

金井美恵子著/講談社/1600円

軽いめまい
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手練れな著者による小説。

いきなり冒頭、4ページに渡り句点がない。
ずーっと連続した文章で主婦の独白を読ませる。秀逸。この文体(構成)自体がこの小説のテーマのバックボーンになっている。

その後も小劇団の舞台を思わせるような息継ぎなしシャベクリ(そういえば村上龍も効果的にこの手法を使うよね)が続き、上手に読者をひっぱりながらなんでもない日常をおくるどこにでもいるような主婦の軽いめまいを見事に浮かび上がらせている。一人称と三人称を自由自在に書き分け、しかも特に事件が起こるわけでもない筋から現代世界の狂気を浮き彫りするあたり、著者の並々ならぬ力量を感じる。これはまさに、サルトルの「嘔吐」の平成ぶっちぎり版なのである。

1997年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「蛇を踏む」

川上弘美著/文藝春秋/1000円

蛇を踏む
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「小説における異化」のお手本のような作品。
去年の芥川賞をもらっているが、さもありなん、審査員はこういうの好きだろうなぁと思わせる。完成度も高い。

女性の深層心理をしっかり異化して構成していく表題作はうまく手法がはまっていて素晴しい。
読んだとたん読者の心のなかにも蛇が住み込んでしまう。が並録の作品はハテナ。もともと実験的な匂いのする作家であるが、こちらは実験がすぎたような印象。こういう人が肩の力が抜けると実に面白いのを書くのだろうなぁ。

1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「ハウステンボスの挑戦」

神近義邦著/講談社/1700円

ハウステンボスの挑戦
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4月のはじめにハウステンボスを訪れたおりに、現地で売っていたこの本を軽い気持ちで買い求め軽い気持ちで読み始めたのだが、その面白さに眠れなくなり、せっかくのハウステンボスでの休日も寝不足で頭ガンガンという状態になってしまったのだった。

著者はハウステンボスを無から作り上げた人物。
村上龍曰く「夢をいかにして実現するか。すべてこの本に書いてある」と。ハウステンボスというテーマ都市に興味がない人でも十分面白く感動できる内容になっているのが立派。94年1月初版なので注文しないと手に入りにくいと思うが。

1996年05月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 教育・環境・福祉 ,

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