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池澤夏樹
「イラクの小さな橋を渡って」

amazonアメリカによるイラク侵略戦争(とあえて呼びたい)がいまにも起こりそうな雰囲気の中、ひとりの作家がペンの力を持って戦争への流れを止めようとした気高い試みとして評価したい本。本橋成一の写真に池澤夏樹の文章がつき、「この子たちをアメリカの爆弾が殺す理由はなにもない」と訴えている。
本は「もしも戦争になった時、どういう人々の上に爆弾が降るのか、そこが知りたかった」と始まる。実際にイラクを訪れ、人々の生活を見、それをウェブと本で世界に伝えた。国際政治的に進行する戦争について思考していくと、ふと、人々の暮らしという身近なレイヤーを忘れそうになる。作家の目はそこを鋭く突き、ボクたちに「想像力を取り戻せ」と訴える。そしてアメリカとの関係についても平明な論点で訴える。戦争を正当化する理由など、やっぱり何もないではないか、と。巻末の年表も役に立つ。イラクがいままで何をやってきたか。客観的事実も出しておくことでより狙いが明確になっていると思う。
国際政治を情緒で語るなと思う人もいるかもしれない。でもこの本に実は情緒はほとんどない。理系の目と感じるくらいである(写真はちょっと情緒的)。しかし、人を殺すかもしれない戦争に、情緒的になって何が悪い?ビジネスライクに考えていて良いのか? そんな反省を強く求められる一冊でもある。
※英語版・フランス語版・ドイツ語版が無料でダウンロードできます。
2003年03月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「南の島のティオ」

amazon南の小さな島で暮らすティオという少年の物語。
小さな物語を集めた本で、気楽に手軽にゆったりした島時間に浸れる。欺瞞的忙しさに追われる都会の日常からほんの数分逃避するには格好の本であろう。
描写が非常に自然。読んでいてどこにもつっかえるところがないし、ひっかかるところもない。一番難しいそういう技をなにげなくやっている著者の力量を感じる。そして、著者が沖縄に住んでいるところから来る問題意識もそこここに感じた。失ってしまったらもう元には戻らないもの、時間・精神・自然・精霊……そういったものを豊かに物語の中に棲ませ、違う方向へ行こうとしている現代人にそれらを思い出させる要素を散りばめている。とても好感が持てるのはそれが声高な主張ではないこと。しっかり物語の底に沈ませている。
第41回小学館文学賞を受賞している。
2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL
「新世紀へようこそ」

amazon著者が9.11のテロ事件を受けて始めたメール・マガジンのコラムを収録したもの。
著者のサイトでもほぼ同じ内容が読めるが、やはり本の方が目的のコラムを探しやすく、寝ながら読めるのでボクには便利。読者の反応もきっちり載っていて、著者のそれに対する反省や反論も誠実に書かれていてわかりやすい。なにしろ毎日のように書かれているコラムなので、作家の思考構築過程も浮き彫りになっているのが面白い。推敲や論を寝かすということができない分、かなり日々の本音が出てきていると思う。そういう環境の中でこれだけ冷静で客観的な文章を出し続けられるあたりに、著者の真の力が見える。さすがだ。
2001年9月11日にボクたちは真の意味で新世紀を迎えた。この意識が題名になっている。
世界は変わった。変わり続けている。週刊誌や月刊誌ですら、もう発言が追いつかない。この想いが著者にメルマガを書かせたようだ。著者にそこまで焦燥感を持たせたもの。著者に表現手段として評論や小説ではなく「ひとりの人間としての発言」を選ばせたもの。それを考えるとき、ボク自身としても、生き方を試される気持ちになる。読みながら、ボクはのほほんと何をやっているのだろう、と何度も自分に拳を向けた。
2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL
ジャンル:時事・政治・国際




