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LV5「魂の森を行け」

一志治夫著/新潮文庫/438円

魂の森を行け―3000万本の木を植えた男
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副題は「3000万本の木を植えた男」。森を作るために植樹を続ける超人・宮脇昭の人生と主張を丹念に描いた傑作である。必読。

どこかの雑誌で「人類は植物に寄生する動物にすぎない」という主張を読んだのがボクにとっての宮脇昭との出会いである。目ウロコだった。確かに人類は植物(もしくは森)を最大限利用して発展してきた。守られもしてきた。なのに植物や森を上から見て蔑んでいる。守ってやる、という不遜な態度すらとっている。このスタンス自体が大きく違っていたのである。寄生する立場なのだ。

その後、数々の植樹活動も知り、急いでこの本を買った。そしてその考え方と実行力に感動したのである。宮脇昭自身、単なる活動家でなく、日本を代表する植物生態学者なのだが、彼の「宮脇方式」による森の増やし方のなんと理にかなっていることか。その土地のもともとの植生に沿った森作り。だから最初の3年ほど手入れしてやればあとは永遠にメンテナンスフリーなのである。日本だけでなく中国やアマゾン、アフリカでも宮脇方式が広まっている。日本では「鎮守の森」にその土地の植生がそのまま残っている。ものすごい勢いで減りつつある鎮守の森を再び増やす活動も彼の目標のひとつである。

信念と行動と狂気の人・宮脇昭の破格な人生をなぞるだけでも刺激になる一冊だが、その発言、実行、そして成果を知るためにも是非読むべき本である。読後、「人間が森と共生することで、結果として地球環境が守られるのだ」というシンプルな構図が見えてくるだろう。木を植える。森を作る(宮脇方式だと5メートル幅あれば森が出来る)。そういったゴールがクリアに見えてくるノンフィクション。

なお、宮脇昭自身「木を植えよ!」という本を書いているが、それよりも先にこの評伝を読んだ方がわかりやすいと思う。

2007年01月30日(火) 12:42:51・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 教育・環境・福祉 , ノンフィクション

LV2「迷いと決断」

出井伸之著/新潮社/735円

迷いと決断
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ソニー元会長兼CEOの出井氏の本。
副題に「ソニーと格闘した10年の記録」とあるように、社長就任前の仕事歴から就任時の顛末、就任後の様々な苦難・格闘を自伝的に描いている。

世界トップブランド&世界的コングリマットの社長である、という希有な経験をした数少ない日本人であるので、彼の「とはいえ社長ってこんなに大変なんだよぉ」「意外と迷うんだよぉ」「決断も大変なんだよぉ」という経験談はやはり面白い。成功談も多く、優れた経営者であることもよくわかるし、あぁ大変だったんだろうなぁと素直に思う。でも逆に言うと内容がほぼそれだけなのが残念だった。

やはり、ある時期日本が誇った経営者であるだけに、その希有な経験を活かした新しい視点、強い覚悟、世界的な鳥瞰などを明確に我々に与えて欲しかった気がする。まぁそれは他の本で書くのかもしれないが。

2007年01月29日(月) 9:13:31・リンク用URL

ジャンル:経済・ビジネス , 自伝・評伝

LV5「バベットの晩餐会」

イサク・ディーネセン著/枡田啓介訳/ちくま文庫/680円

バベットの晩餐会
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この本での表記はイサク・ディーネセンとなっているが、ボクの中ではアイザック・ディネーセンである(ただし、この名で覚えられてしまってはいるが、英語読みに忠実にするならばアイザック・ダイネセンらしい。イサク・ディーネセンはデンマーク語読み。どちらにしろディネーセンはありえない、ディーネセンである、と訳者)。

ボクのフェバリットでもある「アフリカの日々」の著者。
彼女は英語版ではこの男性名を名乗るが、母国語であるデンマーク語で書くときはカレン・ブリクセンの名前を使った。先に英語で書いてから、自らデンマーク語で書き改め、ほぼ同時に出版するという特異なカタチをとった作家である。そうして書かれた英語版とデンマーク語版で内容にかなりへだたりがある場合があり、この「バベットの晩餐会」はそれに当たるらしい。デンマーク語版の方がずいぶんページ数が多いというのだ。そういうこともあって、この本はデンマーク語版を元にしているので、実はカレンの名前を著者に使うべきなのだが、併録の「エーレンガート」がイサクの版からとっているので訳者も悩んだらしい。結局通りがいいイサクの名前を使用したということだ。

この「バベットの晩餐会」は映画で観ていたが(傑作!)、原作をずっと読まずにいたのでいそいそと。
短い小説だが、予想通りの格調高さ。そして誇り。「アフリカの日々」でも感じたが、この行間から匂い立つような誇りはなんだろう。著者独特の文体だ。

内容的には、ある意味この短編の中に人生のすべてが入っているなぁと思わせる名作。寓話的ではあるが、芸術とはなにかをここまできっちり表現した小説も少ないだろう。併録されている「エーレンガート」もとてもいい。たまにこういう格調高い文章を読むと、現代作家をつまらなく感じてしまう。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「14歳からの哲学」

池田晶子著/トランスビュー/1200円

14歳からの哲学―考えるための教科書
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副題が「考えるための教科書」。
池田晶子が14歳のために「考えるとは」「言葉とは」「自分とは」「死とは」「他人とは」などを対話体で一緒に考えていってくれている本。
かといって14歳を子供扱いしていない。というか充分大人向け。14歳からの、という題名のニュアンスには「14歳のころにちゃんと考えてこなかった人たちへ」という感じも含まれている気がするくらい大人向け。すべて一度はきちんと考えないといけない命題ゆえ、なんとなくここまで生きてきちゃった大人も必読だ。全体に、答えを提示するのではなく一緒に考えるカタチをとっているから思考訓練にもなる。まぁ考えること自体が哲学だから当たり前といえば当たり前だが。

第三章では「17歳からの哲学」と題してより深い問題に取り組んでいる。最後の方の「人生の意味とは」など、42歳のボクにとっても非常に刺激的な思考展開で、そこに美すら感じる。極上の音楽を聴いているような陶酔すら感じる。なんつうか、本当の意味の「説教」をされて、肌から垢がはらはらと落ちていくような爽快感。

悩み深いけど、悩みの方向性が漠然としていてわからない、みたいなわけわからないあの頃、14歳。ボクが14歳だったころ、この本があったら世界はずっとクリアだっただろうなと思う反面、こういう風に整理して説かれてしまうとあのドロドロ悩んだ自分はなかったわけでそれはそれで自分ではないのではないかという思い、そして、実際に14歳の時に読んだらわりと反発したかもという思いもある。ま、とにかく、14歳以上のすべての人間、必読。小さな思い悩みや自殺願望など、この一冊で吹き飛ぶだろう。だって生きていることそれ自体奇跡に近いことなのだから。

2003年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV3「4TEEN」

石田衣良著/新潮社/1400円

4TEEN
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14歳の4人組が傷つき、協力し、恋をし、死に出会い、友情を確認し…という8つの短編。こう書くとありきたりな感じだが、著者は読者の心のツボを押す術を心得ており、実に上手に彼らの世界へ誘導していく。ええとこの本で第129回直木賞だったっけ。んー。実はそこまでイイとは思わなかったのだが、こういう本が直木賞を取ること自体は歓迎。

たとえば川上弘美ならこの少年たちにもっと漠然と生きるリアリティを与えるだろうなと思う。
もちろん著者の個性でもあるが、ここに出てくる少年たちはあまりに小説的中学生であり、希望と期待と「こうあってほしい」を込めて年長者が書いた感じがプンプンしてしまい、それがボクには最後まで違和感として残った。ある意味既視感があるし、厳しく言えば嘘くさい部分がある。感動させる場面もあるのだが、その後の会話とかにちょっとリアリティがない感じ。そこそこ楽しんだのだが、巷で話題になっているほどのものを感じなかった。

ちなみに同じ青春群像なら、「FLY, DADDY, FLY」などで金城一紀が書いている一連の少年たちの方が好き。

2003年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「蕎麦屋の系図」

岩崎信也著/光文社新書/720円

蕎麦屋の系図
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これはかなりマニアックな本。系譜系が好きなヒト(たとえばボク)にはとてもいいが、一般的ではないだろうなぁ。
ただ、興味ないヒトもさすがに「蕎麦屋って更科とか砂場とか藪とか、どうも系列があるらしい」ということくらい気がついているだろう。その系図を歴史的に丁寧に追い、名店を紹介したのがこの本なのだ。とりあげているのは5つの系図。前出の3つと東家、一茶庵の5つ。北海道系に広がる東家は行ったことがないが、その他の4つはお馴染みである。もう蕎麦蘊蓄などはやらないが、興味ある人はこれ一冊でずいぶん頭の中が整理できるだろう。

2003年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV3「沖縄発、山野草のおいしい話」

伊芸秀信・伊芸敬子著/ふきのとう書房/1500円

沖縄発、山野草のおいしい話―旬をいただく宿ファームハウスの四季
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沖縄で野草?と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれないが、実に豊かに野草が生え、それをおいしく食べる技も発達しているお土地柄。リゾートと海だけではない豊かな沖縄がそこにある。

著者は沖縄本島の本部半島、今帰仁(なきじん)で「ファームハウス」という宿を経営しており、そこの売りは山野草料理。四季それぞれの野草をおいしく料理して食べさせてくれる。そんな野草の話や、レシピ、沖縄エッセイ、そしてファームハウスを作るに至るこぼれ話などを収めたのが本書。イラストも豊富で、手作り感溢れた親密な本に仕上がっている。

実はファームハウスにはボクも泊まったことがある。
「胃袋で感じた沖縄」(のちに「沖縄やぎ地獄」と改題して文庫化)を出版する前、本部半島の野草料理の取材と称して家族で遊びに行ったのだ(もちろん自腹旅行)。1章わりふるほどの取材量にならなかったので結局本には書けなかったが、その晩は実に楽しい晩だった。おいしい料理と自家製リキュールと楽しい会話。素朴な宿ではあるが忘れられない思い出だ。そんな楽しい晩を思い出させるに十分な親密さを持った本書。出てくる食材などはなかなかマニアックだが、経営する著者夫婦の本音や人生観が行間から滲み出ていて味わい深い。

2003年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV3「二列目の人生 隠れた異才たち」

池内紀著/晶文社/2200円

二列目の人生 隠れた異才たち
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一列目の人生が超有名人の人生だとすれば、この本は二列目、つまり歴史に埋もれた無名の異才・天才の人生を16人取り上げて、短くまとめたものである。

たとえば南方熊楠や牧野富太郎の陰でまるで忘れ去られた市井の植物学者大上宇市をはじめ、島成園、モラエス、中谷巳次郎、西川義方、高頭式、秦豊吉などなど16人。地元でも忘れ去られた彼らに光をあて、丹念に淡々と書いてある労作だ。

もともと無名な素材ゆえ、ドラマにも事件にも乏しいので物語にしにくい部分があったのだろう。かなり淡々。だから、面白いかと言われると「うーむ」である。ただ、妙にせつなくなるし、妙に奮い立ちたくもなる。ある意味「プロジェクトX」を観た後のような感じに近いか。二列目の人生とはつまり「地上の星」なのだ。日本人のありがちな心情から考えると、ウソでも感動物語を作って浪花節的に泣かせて欲しいところであるが、それをあくまでも淡々淡々と書いたところがこの本の魅力でもあり欠点でもある。

2003年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV5「夏化粧」

池上永一著/文藝春秋/1524円

夏化粧
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石垣島を舞台にしたSFファンタジー風純文学とでも言おうか。
著者の本は短編集を読んだことがあるが、ちょっと期待はずれだった。でもこの長編はとても良かった。読後もとても強い印象。いろんな場面が瑞々しく思い出される。

物語はRPG的である。
ある島の井戸の奥に「陽」の世界であるこの世と反対の「陰」の世界がある。光と闇が逆転するその世界で7つの他人の「願い」を集めて、息子をこの世に取り戻そうとするシングルマザーの闘いの物語なのだ。7つの願いを陰の世界で集める旅……こう書くとジュブナイル小説か?と敬遠する向きもあるだろうが、筆致も展開も大人っぽいので杞憂。他人の願いを集める、というのがミソで、様々な人生がそこに絡んでき、なかなかせつないのだ。そしてラストもかなりせつない。満足して読み終えられるだろう。

敢えて言うなら題名がイマイチかなぁ。題名をここまでウェットにしてしまうと、ファンタジー好き読者が手に取らない気がする。また、内容を正確に言い当てていない。題名だけ純文学している。もうちょっと違う題名にしたらヒット作になったのではないだろうか。

2003年06月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー

LV3「ラッシュライフ」

伊坂幸太郎著/新潮社/1700円

ラッシュライフ
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ひと言でいうと、とても頭のいいミステリー。
時間軸を上手に切り貼りして作り上げた見事なパズル。いくつもの人生が併走していく話なのだが、それが最後に「あー、なるほど!」と収まっていく。謎も伏線も感情も含めて、すべての不可思議なミステリーが仙台駅前のある時間に収束していく様がなんとも快感だ。仙台という場所設定も面白い。独特の雰囲気を作っている。

ただ、感心はするけど感動はしないかな。
精妙なパズルを作ってみましたーどうですかー、という軽さがいろんなところに感じられる。でもそこが良いのだ。そこが良いのに、感心だけでなく感動を狙ったエピソードがちょっとずつ中途半端に入ってくる。それが邪魔かなぁ。いっそのこと完全に感心だけを追って、精妙精巧なパズルに徹した方が壮快だった気がする。

2003年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「イラクの小さな橋を渡って」

池澤夏樹著/本橋成一写真/光文社/952円

イラクの小さな橋を渡って
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アメリカによるイラク侵略戦争(とあえて呼びたい)がいまにも起こりそうな雰囲気の中、ひとりの作家がペンの力を持って戦争への流れを止めようとした気高い試みとして評価したい本。本橋成一の写真に池澤夏樹の文章がつき、「この子たちをアメリカの爆弾が殺す理由はなにもない」と訴えている。

本は「もしも戦争になった時、どういう人々の上に爆弾が降るのか、そこが知りたかった」と始まる。実際にイラクを訪れ、人々の生活を見、それをウェブと本で世界に伝えた。国際政治的に進行する戦争について思考していくと、ふと、人々の暮らしという身近なレイヤーを忘れそうになる。作家の目はそこを鋭く突き、ボクたちに「想像力を取り戻せ」と訴える。そしてアメリカとの関係についても平明な論点で訴える。戦争を正当化する理由など、やっぱり何もないではないか、と。巻末の年表も役に立つ。イラクがいままで何をやってきたか。客観的事実も出しておくことでより狙いが明確になっていると思う。

国際政治を情緒で語るなと思う人もいるかもしれない。でもこの本に実は情緒はほとんどない。理系の目と感じるくらいである(写真はちょっと情緒的)。しかし、人を殺すかもしれない戦争に、情緒的になって何が悪い?ビジネスライクに考えていて良いのか? そんな反省を強く求められる一冊でもある。
※英語版・フランス語版・ドイツ語版が無料でダウンロードできます。

2003年03月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 写真集・イラスト集

LV2「あたしのマブイ見ませんでしたか」

池上永一著/角川文庫/552円

あたしのマブイ見ませんでしたか
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沖縄在住で沖縄の豊かな世界を書き続けている池上永一の本は前から読もう読もうと思っていたのだが、なぜか縁がなくいままで読まなかった。まずは手軽に著者初の短編集から。
でも他のから読んだ方が良かったかも。短編より長編のヒトなのかな。叙情性に富んだとても美しい創作世界になっているのだが、おとぎ話になりきっていないし、かと言ってリアルな世界を描いているわけでもない。その間を狙っているのはわかるのだが、読んでいてちょっとずつ中途半端な後味が残るのが残念。ちょっとした場面の描き方とか行間の雰囲気作りで違ってくるのだろうと思うのだけど、それは長編の方が出しやすいのかもしれない。じっくり世界観を作っていった方が向いている感じに思えた。
「カジマイ」「復活、へび女」「宗教新聞」とか、とても印象に残る短編がいくつかあった。次は長編の「夏化粧」を読んでみよう。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「一目でわかる国際紛争地図」

伊藤芳明監修/ダイヤモンド社/1400円

一目でわかる国際紛争地図
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「世界の紛争がよくわかる本」を愛用してきたボクであるが、あれから2年、国際事情はいろいろ変わっている。で、今度はこれを購入。「世界の紛争がよくわかる本」は毎日新聞外信部編著だが、この本の監修は毎日新聞東京本社外信部長ゆえ、ま、同じ著者が編集したようなものと思ってもいいかも。作りもとても似ているし。

前書きに「それぞれの当事者が掲げる『正義』がいかに独りよがりで危ういものか、理解していただければ幸いである」とある。そういう視点に共感。ただ、編者の主観は極力排除してあり、客観的事実重視の作りなので偏向は特には感じられなかった。各紛争を短くまとめているので、事実の羅列に近くなってしまっているが、状況を頭に入れるにはなんの問題もない。1〜2年は愛用する予定。

2002年12月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV5「麦ふみクーツェ」

いしいしんじ著/理論社/1800円

麦ふみクーツェ
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前作「トリツカレ男」でとんでもないストーリーテリング能力を発揮した著者が出した名作。
彼にしか書けない分野を創出したとも言えるかも。「いしいしんじものがたり」というひとつの分野。物語というより「ものがたり」。現代の寓話としていろいろと警句・隠喩・置き換え・教訓を探し分析することも出来るだろうが、ボクはこれを純粋にものがたりとして読みたい。そしてものがたり世界に浸りたい。

音楽家をめざしたでくのぼうのような少年の半生を、地球のどこかの架空港町を舞台に魅力的すぎる登場人物たちを散りばめて描いたものがたり。出だしはわりと退屈で、おやおやと思っていたけど、中盤から断然面白くなりラストまで一直線。淡々としたペースを最後まできっちり守り抑制もよく効いている。なのに何度も涙する。寓話的な部分で村上春樹をちょっと思い出させるが、必要以上に思わせぶりではないところが著者のイイトコロ。そして要所要所に出てくる音楽の本質に迫る言葉の数々もすばらしい。ものがたりというのはこういう細部の出来如何にかかっているのだなぁとしみじみ。

441ページの長編で、かなり浮世離れしている内容に、ちょっととっつきにくいと感じる読者もいるかもしれない。でも、きっと読んで後悔しない。オススメ。

2002年11月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「もっとおおまかに生まれた女」

いのうえさきこ著/ソフトバンクパブリッシング/1000円

もっと大まかに生まれた女。
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ある方に「とっても面白いから読んで!」とすすめてもらったマンガ。著者のサイトはこちら。サイトも面白いが、本はもっと面白い。実際とっっっても楽しみました。大笑い。何度も読み返しては笑い、腰を痛めましたわ。

全体に西原理恵子系なのだが、西原より芸風が丁寧で細かく楽しめる。言葉のセンス、絵(線)のセンス、字のセンスのバランスがとてもいい。身近な人物を切る切れ味が特にすばらしい。そして、ネタのデフォルメ具合がちょうどいい。これ以上ふくらますと白けるぎりぎりを上手に渡っている。ふーん、いのうえさきこ、、、西原と比べられがちな芸風で損しているかもしれないが、西原みたいに突っ走らず、いまみたいに上手に抑えていけば、大化けするかも。いままで知らなくてスイマセン。他の本も買ってみよう。

2002年11月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:漫画

LV4「南の島に暮らす日本人たち」

井形慶子著/ちくま文庫/600円

南の島に暮らす日本人たち
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小さな会社を経営し走り回って生きてきた37歳の著者がある日偶然に癌の可能性を指摘され、いつかはこうしようと考えてきた長期的人生計画を狂わされると同時に、「走り回っただけで終わるのか、こんなはずではなかったのに」と絶望する。結果的には良性腫瘍だったのだが、「もうしたいことを我慢しない、もう自分をみじめにも不幸にもしない」と誓う著者は「すでに南の島でやりたい人生を臆面なく選んでいる人たち」に興味がふくらみ、手術後ひとり南の島に旅に出る。そして、サイパン、テニアン、ロタ、パラオ、ヤップ、と、そこに住む日本人たちの人生に次々に触れていく、というノンフィクションだ。

南の陽光のもとを旅しているのに、とても内省的で静かな文章だ。
著者の人生と日本軍の過去と南の島で生きる孤独などが行間から浮かび上がって来る分、ちょっと重めなのだ。が、しかし、この旅は沈んだまま終わらない。希望をしっかり見せてくれる。最終的に「人はなんでも出来る」という強い自信とともに帰京するのである。ある種「いろんな人生を選んでいいんだよ」という読者励ましの本にもなっている。

2002年10月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

LV5「海馬」

池谷裕二・糸井重里著/朝日出版社/1700円

海馬/脳は疲れない ほぼ日ブックス
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副題は「脳は疲れない」。ほぼ日ブックス第二弾の一冊。

東大薬学部の気鋭の学者である池谷氏と糸井氏の対談をまとめたもので、脳についての最新研究における池谷氏の成果と糸井氏のクリエーターとしての視点がコラボレーションして、実に興味深い内容になっている。
少し挙げるだけでも「脳はいくら使ってもまったく疲れない」「30歳過ぎてから頭は飛躍的に良くなる」「睡眠時間は脳の疲れを取る時間なのではなく、脳が情報を整理する時間である」「夢は整理の過程でいろんな情報をランダムに結びつけてみることから起こる」「脳細胞は一秒に一個死んでいくが、もともとの容量が莫大なので無視していい」「使えば使うほど脳は成長する」……などなど、いままでのいろんな胸のつかえがおり、現41歳のボクに自信と勇気を与えてくれる内容がゴマンと入っている。
各章ごとにまとめも作ってあり、記憶をきちんと整理したあとの脳の中身みたいな印象に本が仕上がっているのもいい。あとはこのまとめ(記憶)をなにと結びつけて、読者自身がブレイクスルーを起こすか、である。

発見は多かったが、特に「脳は疲れない」ことと「睡眠とは脳の最適化作業なのだ」と気づかされたのは大きい。もっともっと脳を酷使しようという気になったしね。うはは。んでもって、ちゃんと睡眠しないと、整理されない雑然とした脳になる、というのも実感としてわかる。インプットがそのまま積み重なっているようなあの徹夜明けの気分。なるほど、ちゃんと寝よう。

などなど、目から鱗の発見が多く、味読したい事実が多い本であった。
池谷氏が最前線で研究する31歳の学者であるというのもいい。糸井氏の先輩風を全く吹かせない謙虚で好奇に満ちた姿勢もいい。ふたりとも論の掘り起こし方は天才的だ。脳を知り、脳を刺激するために読むべき一冊。

2002年09月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 科学

LV5「コミック韓国 コリア驚いた!」

李元馥著/朝日出版社/1500円

コミック韓国
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韓国で通算500万部売れている教養マンガの邦訳にして最新刊で、世界の国々を韓国人のためにわかりやすく解いていったシリーズの最終巻。

いよいよ著者の母国、韓国を取り上げている。相変わらずこの題名で通すんかい!とぼやいてしまうのだが、前作「コリア驚いた! 韓国から見たニッポン」に続き、今作も非常に楽しく非常に頭がクリアになる出来だ。母国の分析ということでかなり肩に力が入っている部分はあるが、半島国韓国の地政学的特質と歴史から国民性を明らかにし、イイトコロとワルイトコロをしっかり描き、将来への展望を説いている内容はかなりハイブロウ。とはいえマンガだから、それがスラスラ頭に入ってくる。今回はマンガ本来の大きな版形で出してくれたのでより読みやすくなった。

W杯共催で近しくなったようでいて、あの独特の熱狂具合に「やっぱり根本から違う国なんだぁ」と思わされた遠い国、韓国。そのトコトン熱狂する国民性の秘密が実にクリアに説明されている。韓国について「同じような顔しているのになんでこういろいろ違うのだろう」と不思議に思っていた部分がほとんど解きほぐされると言ってもいい。W杯共催後の今だからこそ、ぜひともお薦めしたい韓国理解本である。

2002年08月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 漫画

LV3「47歳の音大生日記」

池田理代子著/中公文庫/629円

47歳の音大生日記
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1999年に「ぶってよ、マゼット」という題で出された単行本の改題文庫化。
同じ内容だとしたら文庫の題名の方が数倍わかりやすく内容を言い当てている。つまりは、あの「ベルサイユのばら」「オルフェウスの窓」の池田理代子が47歳にして一念発起し、東京音大の声楽を受験し、受かり、4年間の学生生活を送る顛末が書かれている本なのだが、その間、彼女は結婚もし旅もしライブもし病気もする。かなりハードな4年間である。その4年を主観的すぎず客観的すぎず、威張りすぎず謙虚すぎず、とても上手に描写している。

読者的には「47歳から始めて人生を変えた大御所漫画家の熱意と勇気の物語」的に期待しちゃったりする人が多いかもしれない。実際はもっと気楽な本だ。
冒頭のあたりにこんな文章がある。「『自由であるっていうことはね、何も一切期待しないということよ。期待するから、人間は捉われてしまうの』 この言葉で私は、捨て身になって人事を尽くしきる勇気を与えられた」 この本の芯はここにあると思う。著者は「自分が47歳にして何かを成した」ということから自由だ。何にも捉われていない。だから教訓くさくなく、読んでいて気楽なのだ。この辺の「読者に教訓・説教と思わせない筆致」って実は高等な技だと、ボクは思う。

2002年08月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , エッセイ

LV5「天文学者の虫眼鏡」

池内了著/文春新書/680円

天文学者の虫眼鏡―文学と科学のあいだ
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毎日新聞で古館伊知郎が「目から鱗の名著」と書いていたのを思い出して本屋で購入。
1999年出版の本で、内容自体は96〜97年に「図書」に連載されていたもの。著者は自称「文系」天文学者。様々な文学作品をひもといたエッセイなのだが、着眼点が非常に面白く、知的興奮度は抜群である。

例えば「コップ一杯の水にニュートンの脳細胞を作っていた原子が4000個も含まれている」とか「超自然的な力が働くように思える予知夢であるが、偶然に予知夢を見る人を確率論で計算していくとたった一日で日本に26人もいるはず」とか、文学を起点にこんな面白い話まで発展していくのか、という話が満載なのである。漱石の猫を分析した章も興味深いし、カエサルのローマ暦の話もわかりやすい。
新書はこうあるべし、という見本のような本である。面白い章と面白くない章の差が顕著なのが残念だが、かなり楽しめる。おすすめだ。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 科学

LV3「新・パリでお昼ごはん」

稲葉由紀子著/TBSブリタニカ/1700円

新・パリでお昼ごはん
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フランス出張中にパリに寄るので、パリでひとりで入れるレストランガイドはないものかと探していた。そしたらお誂え向きにこの本を見つけたのである。パリ好きにはかなり有名な本みたいだ。1997年に出た本を2002年用に構成しなおしたもの。42軒のお昼がとてもいいレストランが載っている。

ま、ガイドではあるのだが、42軒それぞれの紹介が4ページに渡るエッセイになっているのがこの本のミソ。これ一冊読み終えると、ランチを通してパリの様々な断面が疑似体験できるようになっている。そこが秀逸。特にボクみたいな食いしん坊には、そこらのパリエッセイより頭に入りやすく血肉になりやすい。
実際にはこの中の一軒にしか行けなかったが、東京に帰ってからもなんとなくパリを感じたくなったらこの本を開くかもしれない。そんな本である。

2002年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 ,

LV3「南の島のティオ」

池澤夏樹著/文春文庫/437円

南の島のティオ
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南の小さな島で暮らすティオという少年の物語。
小さな物語を集めた本で、気楽に手軽にゆったりした島時間に浸れる。欺瞞的忙しさに追われる都会の日常からほんの数分逃避するには格好の本であろう。

描写が非常に自然。読んでいてどこにもつっかえるところがないし、ひっかかるところもない。一番難しいそういう技をなにげなくやっている著者の力量を感じる。そして、著者が沖縄に住んでいるところから来る問題意識もそこここに感じた。失ってしまったらもう元には戻らないもの、時間・精神・自然・精霊……そういったものを豊かに物語の中に棲ませ、違う方向へ行こうとしている現代人にそれらを思い出させる要素を散りばめている。とても好感が持てるのはそれが声高な主張ではないこと。しっかり物語の底に沈ませている。
第41回小学館文学賞を受賞している。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本) , 児童・ティーンズ

LV5「トリツカレ男」

いしいしんじ著/ビリケン出版/1300円

トリツカレ男
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以前、町田康とこの著者の共著「人生を救え!」を読んだのだが、いしいしんじについてはまるで知らなかったし、彼が書いた部分は面白く感じなかったと書いた。ら、著者の兄の友達という方から「トリツカレ男」は面白いらしいですというメールが来た。んでもってbk1に注文して買ったのである。結果的には買って良かった。ええ、面白かったです。

なんか原田宗典の名作「スメル男」を思い出させる題名で、似たような展開を想像していたのだがずいぶん違った。
なんというか童話的であった。ジュゼッペとしゃべるハツカネズミとペチカという女の子が主な登場人物だったりするのだ。いろんなものにどうしようもなくとりつかれてしまう男ジュゼッペ。一度とりつかれたら世界記録が出るくらいそればかりやり続ける。そんな彼がはじめて女の子にとりつかれた(つまり、恋)。彼女にとりつかれたジュゼッペは、どうするか。え?ストーカー? いやいや、そんなありがちなことではない。本当にヒトにとりつかれる(恋する)とはどういうことか。それが後半のストーリーである。

あっという間に読める童話的小説だが、設定も結末もなかなかよく、気に入った。ちょいと温かい気持ちになりたい夜にオススメ。

2002年05月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ファンタジー

LV5「新世紀へようこそ」

池澤夏樹著/光文社/1400円

新世紀へようこそ
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著者が9.11のテロ事件を受けて始めたメール・マガジンのコラムを収録したもの。
著者のサイトでもほぼ同じ内容が読めるが、やはり本の方が目的のコラムを探しやすく、寝ながら読めるのでボクには便利。読者の反応もきっちり載っていて、著者のそれに対する反省や反論も誠実に書かれていてわかりやすい。なにしろ毎日のように書かれているコラムなので、作家の思考構築過程も浮き彫りになっているのが面白い。推敲や論を寝かすということができない分、かなり日々の本音が出てきていると思う。そういう環境の中でこれだけ冷静で客観的な文章を出し続けられるあたりに、著者の真の力が見える。さすがだ。

2001年9月11日にボクたちは真の意味で新世紀を迎えた。この意識が題名になっている。
世界は変わった。変わり続けている。週刊誌や月刊誌ですら、もう発言が追いつかない。この想いが著者にメルマガを書かせたようだ。著者にそこまで焦燥感を持たせたもの。著者に表現手段として評論や小説ではなく「ひとりの人間としての発言」を選ばせたもの。それを考えるとき、ボク自身としても、生き方を試される気持ちになる。読みながら、ボクはのほほんと何をやっているのだろう、と何度も自分に拳を向けた。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際

LV5「コリア驚いた! 韓国から見たニッポン」

李元馥著/松田和夫・申明浩訳/朝日出版社/1500円

コリア驚いた!韓国から見たニッポン
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韓国の大ベストセラー漫画シリーズ「遠い国・近い国」の第7巻である。
あとの6巻は未邦訳。著者のイ・ウォンボクは漫画家でもあるが大学教授でもあり、また有名なデザイナーでもあり、韓国を代表する知性とも言われている異色の人。このシリーズは、外国の事情を鋭くも易しく漫画で読み解いたもので、待望された「近い国・日本」解読である第7巻も2001年4月の時点で60万部出ているらしい。

一読、目からウロコが数十枚落ちた。
韓国民用に書かれているだけあって、韓国民の愛憎入りまざった対日本意識に気を使いつつの展開であるが、平明な知性で語られるその日本論は西欧から見た日本論しか読んでいないボク(もしくは大半の日本人)には新鮮で妙に納得が行くことばかり。そして日本との比較として取り上げられる韓国の現状や歴史、国民性なども、とっても新鮮でわかりやすい。日本を解きながらの韓国論でもあるので、我々にも異様にわかりやすいのである。

島国論から説き明かす日本論はわりとありがちだが、それが「日本の7つの成功の理由」にきちんとつながっていき、その7つの理由がそのまま「現在の苦悩の理由」につながるその展開は見事。細部もとてもよく思考されていて、この著者の半端ではない日本理解の深さ(もしくは直感力の鋭さ)をうかがわせる。オタク論とかも実にしっかりしていて、いろいろ教えられちゃったり。

ギャグの質は日本的にはちょっと古いが、啓蒙系の漫画としてはバランスのいいもの。訳者がつけた(であろう)邦題がキワモノっぽいのが玉に瑕だが、オススメ本である。著者としては1巻〜6巻の西欧編の方が自信があるらしいが、それらを書くことで培った広い視野がこの日本論を深くしているのだと思う。このシリーズすべてを是非邦訳して欲しいと願ってやまない。マジで読みたい。

2002年01月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:漫画 , 時事・政治・国際

LV3「東京の窓から日本を」

石原慎太郎著/文春ネスコ/1800円

東京の窓から日本を
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TOKYO MX TVの人気対談番組「東京の窓から」の単行本化。
石原慎太郎をホストにした対談を活字にしてあり、脚注なども充実しており、とっても明快な「東京論」そして「日本論」になっている。単に「東京の窓から」という表題にせず、もう一歩踏み込んで「日本を」というひと言をつけた意味がよくわかる内容だ(続編は「変える」というひと言が入るのかにゃ?)

対談相手は、唐津一、佐々淳行、グレゴリー・クラーク、孫正義、米長邦雄、金美齢、志方俊之、はかま満緒、ビル・トッテン、竹村健一、徳間康快、ベマ・ギャルポ、中曽根康弘の13人。それぞれに頭脳明快な対談相手であるが、なにより全員「自分の分野から見た自分独自の意見」をしっかり持った対談相手だけに、ホストである石原慎太郎(独自の意見という意味では負けない)と意見が絡み合い出すとちょっと鳥肌ものの明快さに発展するところがあり、面白い。石原は各専門家たちに対してわからないところは率直に伺う姿勢を見せており、伺った意見を自分の中で整理する過程も透けて見えたりしてそれも興味深かった。

読んでいて「日本ってやっぱりヤバイよな」と危機感にさらされる本でもある。問題意識を持たないとヤバイことが次々に出てくる。どの対談も刺激的だったが、個人的に、唐津、徳間、竹村、クラーク、米長、孫あたりの対談が面白かった。

2001年12月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:対談 , 時事・政治・国際

LV5「国家なる幻影~わが政治への反回想」

石原慎太郎著/文春文庫/上590円 下552円

国家なる幻影
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雑誌「諸君!」に1996~1998まで連載し、1999年1月に文藝春秋から単行本になった本の文庫化。
1968年に参院選に出馬して以降1995年に辞職するまでの政界での活動や政治への思いを回想した本。芥川賞を取った作家でもある著者が書く政治の裏側は実にわかりやすく、そして面白い。読み始めたら止まらなくなった。特に要所要所で出てくる人物評価には笑わされたり暗澹たる気持ちになったり…。もちろん政治には裏も表もあり、ここに書かれているのは著者から見た政治の一側面ということもわかっているが、いまの日本の政治を知るには格好の一冊であろう。これを読んだあと新聞などを熟読するといままで見えなかったものが見えてくる(気がする)。

これを読んでよくわかったが、著者はナショナリストというよりもゲームメイカーなのだ。ナショナリストっぽい言動も、ヨットという高等ゲームで学んだ駆け引きという側面から捉えれば実に納得がいく。NOというのも駆け引き上当然のこと。彼にとってあらゆる政治的言動はゲームのカードなのである。だから臆面なく脅しや暴力まで使用する。そして国際政治の場ではそれが全く常識なのである。そういう国際的駆け引きが出来る政治家が日本にどれだけいるだろう。

この本は文筆家の作品であるが政治家の作品でもある。
だからこの本自体が「政治的ゲーム」の1カードである。著者が1カードとして出した本を鵜呑みにするのは危険だが、こういうカードが出せる著者のゲームメイクにそのまま乗ってみたい気もしてくる。そんな本である。

2001年11月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , 評論

LV2「インターネット的」

糸井重里著/PHP新書/660円

インターネット的
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著者が人気HPの運営で得た「肌感」を文章化して、ネットの本質をやさしくひらたい言葉で語っている。
仕事でもプライベートでもインターネットの現場に身を置いているボクにとっては、旧知だったり分析済みだったりする事柄が多い内容だったが(偉そう?)、一般的にはいい本だとは思う。ちょっと尻切れトンボな感じがあるけど、これまたインターネット的でいいではないか。結果までたどり着いてない感じが。そしてそれを出版しちゃうお手軽な感じが。

ボクも6年以上HP運営をやってきているので、アタマで考えただけの人より、肌感で掴んでいることは多いと思う。そういう意味での共感は多かった。やっぱり現場の言葉は強いのだ。学者の分析言葉には飽き飽きしていたからその点はうれしかった。ボク的には「消費にどれだけクリエイティブになれるか」あたりの命題が面白かったな。他のことはわりと考えていたことに近かったが、この命題はあまり考えていなかったので。

著者は「とりあえず今はインターネット的な世界についての翻訳者という位置で楽しむもんね」と目論んでいるんだろうな。昔からその辺の「場所取り感覚」はお見事の一語に尽きる。結果としてインターネット的世界の内にいる人からも外にいる人からも嫌われず、独特の立場で楽しんでいられる。ヤルなぁ、である。

2001年10月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:IT・ネット

LV4「ピカレスク 太宰治伝」

猪瀬直樹著/小学館/1600円

ピカレスク - 太宰治伝
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三島由紀夫伝「ペルソナ」、川端康成&大宅壮一伝「マガジン青春譜」に続く、著者三部作らしい。
著者の本は初めて。評判が高いのは知っていたが、なんとなく粘着質っぽいのが苦手で避けて通っていた。けど本作は、中学時代にあそこまで凝ったダザイの評伝なので、期待して読んだ。

かなりな労作。太宰の本質を外堀からじわじわ埋め込んでいくその粘着質さはさすがなもの。というか評伝ってこのくらい粘着質じゃないと無理だよねー。
「井伏さんは悪人です」という太宰の遺書の謎を解くことが一応の終着点なので、井伏鱒二の本質にもかなり斬りこんでいて、個人的にはそちらの方が興味深かった。肝心の太宰については、期待した以上に詳細かつ突っ込んだ描き方になっていて(特に前半生)満足はしているが、後半生の彼の心の動き、特に自殺間際の心の動きがいまいち見えてこないのが残念(わざとそうしたのだとは思うが)。

全体に、客観と主観が入りまじり、ちょっと不思議な空気感になっている。膨大な事実の積み重ねに基づく客観と、著者の太宰に対する主観が同程度に混ざっているので、どこまでが事実でどこまでが著者による演出なのかが見えにくい。評伝だからそれはそれでいいのだが、事実の多さに惑わされて、読者は著者の太宰観を絶対的に受け入れざるを得ない感じ。
いや、それはそれでいい。そういう本だから。でも、なんというか、テレビで見る著者の論法そのままだよなーと思って。ちょいと高圧的な「これでもお前は反論するのか!」を感じさせる感じ。ま、面白かったからいいのだけど。

2001年07月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

LV3「REMARK」

池田晶子著/双葉社/1600円

REMARK―01OCT.1997~28JAN.2000
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不思議な本である。
いや、本というよりノート、か。単行本の体裁はとっているが、ここに読者とのコミュニケーションは計られていない。徹底的に一方通行。徹底的に読者に不親切。脈絡がありそうでない、なさそうである、言葉の羅列。ノートそのまま横組みで、日付だけが著者の思考の流れの前後を示す。そう、これは著者の日々の哲学メモをそのまま本にしたものなのだ。

いや、徹底的に不親切、というのは違うかな。ちゃんと読者に思考の流れを示している。逆にわかりやすいくらいではある。図解もあったりして、おっ!と真理に触れた気がすることも多々。
でも、それでも、この哲学メモを毎晩ひもとき、著者の思考の流れに忠実に頭を働かせるのはわりと大変だった。普段から考え続けている人には説明の言葉がない分より直接心に届くのだろうが、夜中に会社から帰ってきて、さてとばかり「削ぎ落とされたイケダアキコする」のは、切り替え的に無理があった。

これは3ヶ月くらい海か山に籠もる環境があるときに持って行くべき本かもしれない。ま、上級者向けのハイブロウ本ってことですね。ボクはまだ中級者以下なので、この本の快感に触れることが出来なかった。そういうこと。会社辞めて隠居したころ、じっくり再取り組みするとしよう。

2001年05月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV4「オン!」

池田晶子著/講談社/1800円

オン!―埴谷雄高との形而上対話
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1995年発売。
埴谷雄高と池田晶子の対話を中心に、著者の処女作である「埴谷論」やもっとエッセイっぽい埴谷論などが混ざり、埴谷を知る者も知らない者も知っててわからない者(ボク)も、それなりのレベルで楽しめる本。

哲学書だけど、わりと楽しかった。普段舌鋒鋭いあのイケダアキコが妙に初々しかったり、あのハニヤユタカが理解者を得てウキウキ話すのも面白いし(埴谷はある種の恋を著者にしている)、読者に理解させることを前提としていないその対話はめちゃめちゃ難しい部分も多くてこれまたある種自虐的楽しさがあったりして・・・多忙すぎた春の夜を締めるにはわりと最適な本ではあったのでした(つまり知的興奮と睡眠誘導がバランスよく行われた)。

「死霊」は未読、積ん読、飾っ読。わからないなりにも「死霊」をある程度囓ってから読んだ方がこの本の凄さはより体感できるのだろうが、このたった250ページ弱のオムニバス本を読むだけで2週間かかってしまったのだ、「死霊」に至ると一生仕事であろう。でも、結局「存在」について考えることに至るなら、それでもいいということか。

「オン」とはギリシャ語で「存在」のことらしい。この勢いをかって久しぶりに著者の「メタフィジカ!」も読み直してみようかな。あ、新刊「リマーク」も未読だった。と思ったら他にも新刊が出るらしい。うーむ、池田晶子漬け。なんか読むのに時間かかるからしょっちゅう池田晶子ばかり読んでいる気になってしまうよ。主題はひとつなのにね。

2001年04月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界 , 対談

LV5「考える日々 III」

池田晶子著/毎日新聞社/1600円

考える日々〈3〉
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本当は、池田晶子の本を読んでいること自体、恥ずかしいことなのだ。
自分でとことん考えることもせず、著者に「考えるキッカケ」をもらおうと読んでしまう根本的な矛盾(なぜって著者がイイタイコトは「考えよ!」ということだから)。どこかでそれに羞恥心を感じつつ、今回もたいへん考えさせてもらった。ありがとう。

サンデー毎日に連載しているコラムを集めた第三集。副題が英語でこっそり書いてある。「One Size Fits All」。うーん、なるほど…。テーマは多岐に渡っていてそれぞれ通り過ぎる足を止めてくれる力を持つが、今回は「心で感じる仮想と現実」「死の向こうの存在と宇宙」の項が個人的に特に印象深かった。

本当のところ、「善く生きる」ためにはこういった本から浸みだしてくるテーマに真っ向から闘いを挑まないといけないのである。他のことをしているヒマはないのである。それこそ生きている意味なのである。なのになのに・・・。ま、そういうことを忙しく走る日々の中で思い出すために、これからも定期的に池田晶子を読み続けることであろう。それって本当に恥ずかしいことなのだ。わかってはいるのだ。うぅ。

2001年02月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV5「死と生きる ~獄中哲学対話」

池田晶子・陸田真志著/新潮社/1500円

死と生きる―獄中哲学対話
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ず~いぶん前から気になっていた本で、1999年の2月に出た既刊。「とてもいいよ」「ぜひ読んで」というメールをいっぱいいただいていたが、本屋で見つけることがなく、なんとなくいままでダラダラと気になっていた。そしたら20世紀最後の月に小さな本屋でばったり遭遇。喜び勇んで購入しその晩から腰をすえて読み始めた。

1行1行立ち止まって考えつつ読まなければ進めない本だ。だから結局2週間以上かかってしまった。今月読書数が少ないのはこの本のせい。でもそれだけの価値はある。
死刑囚と池田晶子の哲学往復書簡なのだが、これがまた生半可でない一騎打ち。ドキドキもの。常に「考えよ!」とボクのお尻を叩いてくれる池田晶子も相変わらずスゴイが、死刑囚陸田真志の言葉がまた平明でとても良い。彼の言葉でやっといままで池田晶子が言っていた意味がわかったこともしばしば。例示も巧みだし。

彼らの言葉をなぞりながら、自分の心と必死に対話する。考えるキッカケとしてこの本は優れている。明日事故で死ぬかもしれないボクもまた、時間は限られている。考えよ、考えよ。考えるほどに、いまの仕事や生活の矛盾点が出てきてしまいそこでヤバくなって考えるのを止めてしまうのだが、それでも考えよ。なぜヤバいと思うのか考えよ…と、無限に「考えの湿原」を歩いていきたくなる好著。続編は出ないのかなぁ。

2001年01月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV3「豆炭とパソコン」

糸井重里著/世界文化社/1470円

豆炭とパソコン―80代からのインターネット入門
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「ほぼ日刊イトイ新聞」での人気コンテンツの単行本化。副題が「80代からのインターネット入門」。

著者の80歳の実母が初めてパソコンに触りネットにつながるまでの顛末である。
インターネットについての著者の平明かつ鋭い分析はもちろん面白いが、なによりもイキイキ生きているミーチャン(実母)とその先生役の南波あっこさんの息づかいがたまらなく良い。そういう良さを前面に出すために題名も「豆炭とパソコン」にしたのだろう(「ほぼ日」連載時はいまの副題が題名だった)。豆炭もパソコンも、それ自体が大切なのではない。大切なのは豆炭やパソコンがある生活を楽しんでいるミーチャンなのだ。その主客転倒がいまのIT革命の最大の問題。そういうことが声高でなく生活レベルで伝わってくるところがこの本のいいところなのである(そういう意味では著者による前書き後書きは蛇足かも)。

残念なのは「つながった」ところで終わってしまう点。つながった先の生活をもうちょっとでいいから読みたい。消化不良。とはいえまぁそれは現在の「ほぼ日」で読めるからいいか。むぅ。先を読みたい方はミーチャンみたいにネットにつなぐトライをしてみてね、という深謀遠慮なのかもしれない。

2000年12月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:IT・ネット , 教育・環境・福祉

LV5「虫の目で人の世を見る」

池田清彦著/平凡社新書/720円

虫の目で人の世を見る―構造主義生物学外伝
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副題が「構造主義生物学外伝」。難しそうだし題名的にも哲学的だが、内容は全然そんなことはない。

以前「昆虫のパンセ」という著者の本を読んだことがあるが(いま再読中)、この本はその時の印象よりかなり軽妙。非常に程のよいエッセイ集になっている。いいなぁ、こういう感じのエッセイ。新しい視点・経験を与えてくれつつ、お気楽・適当に読み飛ばせる。そして読後には世の中が読む前よりほんの少しだけ豊かに見えてくる…。簡単そうに見えて、こういうエッセイは実は難しいのである。
で、さりげなく「イイタイコト」を混ぜ込んである。「客観は普遍ならず。主観の中にこそ普遍はある」…。なるほど。確かに虫やら猫やらに人間の客観(例えば科学・数学)は通じない。つまり客観が普遍だというのは人間の大いなる傲慢なのであるか。なるほどなるほど。

虫屋という言葉があるのは知っていたが、それにしてもすごい世界だなぁ。その昔(小学生低学年)、昆虫博士と友達から呼ばれていたボクであるが(ホント)、あの世界を年寄りになるまで引きずって歩いている人がいっぱいいるのだねぇ。はっきり言って素晴らしいと感嘆しつつ読み進んだのでありました。なお、終盤は河童の話になるが、これは洒落っぽくクソ真面目に書いてある。

2000年07月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 科学 , 哲学・精神世界

LV4「パチリの人」

伊藤礼著/新潮社/1300円

パチリの人
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文壇囲碁界というものがあるらしい。なんだか恐ろしくも近づきたくない世界ではあるが、本書はその文壇名人戦で三連覇した著者による囲碁エッセイ。囲碁については門外漢なボクではあるが興味はある。そのうえ著者は数年前にわりと楽しんだエッセイ集「狸ビール」の作者。なんとなく楽しめそうなので、買った。

中盤までは退屈。著者の文章リズムに馴染めずに、諧謔的なところも笑えずダラダラと続く。
が、一度馴染んでしまうと意外なほど気持ちの良いエッセイになった(単に著者の調子が中盤からやっと出てきたという説もある)。一度気持ちが良くなってくるとなかなか味がある文章だと気がつく。最後の方はかなり楽しんだ。題名も装丁もいい。飄々とした書き口も気に入った。次作も楽しみである。

2000年06月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV3「歴史 if 物語」

井沢元彦著/廣済堂文庫/552円

歴史if物語
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新幹線出張の時間つぶしに買ったのだが、わりと面白かった。
二部構成で、「手紙で綴る日本史」と、表題の「歴史 if 物語」。「歴史 if 物語」は例えば「もし黒船がやってこなかったら」とかそういうifをいろいろ書いているもので、それが面白そうだから買ったのだが、結果的には第一部の「手紙で綴る日本史」の方が面白かった。日本史に残る名手紙文をひとつずつ抜き出し、そこから歴史を説いていったものだが、著者は歴史の捉え方がクリアであり、それがとても刺激になったのだ。ごちゃごちゃ言わずにクリアに断言する感じはとっても共感した。井沢元彦、なかなか面白し。

それに反して第二部は知的興奮が少なく、なんだか安い予想屋みたいな感じの連続で、だからどうした、が多かったな。
誰が書いても面白くないのかもね、ifって。よっぽど荒唐無稽な未来にならないと、なんだかがっかりしてしまうのがガンなのだ。クリアに歴史が見通せるヒトほど、ifの答えを書かせるとつまらないものを書くのかもしれない。トンデモ本系作者の方が、実は面白いのかもしれない。

2000年04月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:雑学・その他

LV1「睡眠の技術」

井上昌次郎著/KKベストセラーズ/648円

睡眠の技術―今日からぐっすり眠れる本
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副題が「今日からぐっすり眠れる本」。
東京医科歯科大学の教授が書いた睡眠についての本だが、前書きで書いてあるとおり、いろんなところに書いた文章を再録してまとめたものである。その分、ちょっと散漫なところもあるが、それなりにわかりやすくまとまっている。

総花的に睡眠についての知識は増えるが、テレビ番組の「あるある大辞典」の域を出ていない。なんだか内容が薄く感じられた。新書であり論文ではないのだからこの程度でいいとも言える。でも、読み終わった後の満足感がちょっと薄い本であった。

「あるある大辞典」にあってこの本にないのは「知的エンターテイメント」である。どうやって視聴者(読者)を飽きさせずに楽しませるか。楽しませた上で知識をつけさせることが出来るか。そのへんのプロ意識みたいなものがこの本には乏しい。まぁ教授系が書いたものはほとんどそうなのだけど、もうちょっとなんとかしてほしい。エンターテイメントの努力をしないで「読書離れ」を嘆いていたら、早晩「本」という文化は崩れ去るであろう。

2000年04月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:健康

LV1「知の休日」

五木寛之著/集英社新書/640円

知の休日―退屈な時間をどう遊ぶか
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五木寛之を読むのって「青春の門」以来かも。
副題は「退屈な時間をどう遊ぶか」。人生は短いのに退屈は長い、という矛盾を、遊ぶ、という切り口でさらっと書いているのだが、まぁ敢えて言うなら「退屈」であった。
ただし、退屈を楽しもうというコンセプトの本だから、この退屈は正しい退屈であって…、まぁ著者は上手に逃げている気がするな。退屈な本を書こうという確信犯的著述なのかもしれない、とちょっと思わせる。

著者のエッセイを面白いという人は年輩の方に多い。エッセイはこれしか読んだことないのだが、どうなのだろう。著者に興味がないせいもあるが、なんともはや中途半端な読後感が残った。

2000年03月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV1「科学鑑定」

石山いく夫著/文春新書/660円

科学鑑定―ひき逃げ車種からDNAまで
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最近読んだ「ボーン・コレクター」は科学捜査を駆使したミステリーだった。こういうのを読むと俄然「科学捜査」や「鑑定」についていろいろ読みたくなる性分のボクは、早速本屋に出かけていき、まさに読んで字のごとし、希望にピッタリの本をここに見つけたわけです。

が、一読するのに時間がかかったことといったら! 
なにせ専門的すぎる。漢字も多い。読み慣れない専門用語にキョトキョトしながら読み進めるが、その専門用語自体が画数の多い漢字で、そのうえ著者が熟語を多用するからなんか文章がめちゃめちゃ詰まった感じになって非常に辛かった。ボクに読解力がないといえばそれまでだが、学術論文でも専門書でもなく「新書」でしょ? もっと噛み砕いてよ、もっと平易に書いてよ、興味ある初心者に対してもっともっと易しく書いてよ…つうのは贅沢なのか? 内容は誠意あるものだったが、やっぱり読者に対しての親切に欠けると思う。

ちなみに著者名の「いく」は日かんむりに立。漢字検索でもなかったのでご勘弁。

2000年02月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:科学 , ノンフィクション

LV3「T.R.Y.」

井上尚登著/角川書店/1500円

T.R.Y.(トライ)
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「横溝正史賞史上最高傑作!」と帯にある。
うん、確かに面白かった。でもこれが圧倒的に最高傑作とされてしまう横溝賞って……?って感じは残るなぁ。

革命に翻弄される詐欺師の物語なのだが、その詐欺のプロットは見事だしキャラ造形も上手。なのになぜかあまり印象に残らない。文体かなぁ。主人公にいまいちカタルシスを感じられない部分かなぁ。ストーリーの面白さと細部の存在感がどこかで乖離している気がするのだ。それと、革命につきものの「恋」の部分がないのが物足りない。ここにも主人公にのめり込めない要因があるのかも。

それともうひとつ。題名はもともと横溝賞に応募した題名「化して荒波」の方がまだいいかも、と思った。「T.R.Y.」では何もわからない。何も伝わらない。ちょっと残念。

1999年09月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「指揮のおけいこ」

岩城宏之著/文藝春秋/1524円

指揮のおけいこ
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世界的指揮者である岩城宏之が指揮に関するいろんなエピソードを軽妙に語ったエッセイ集。

「オーケストラとの確執」「大物指揮者に見せるには」「楽譜の覚え方」「カッコイイ燕尾服の作り方」などなど、とにかくいろんな職業上のヒミツを照れながらも素直に語っていて好感が持てる。
本当に指揮者になりたい人やマニアが読んでも役に立つような専門的な内容も適度に入れ込んであるが、基本的には一般クラシック・ファン向けで読んでいて楽しい内容。指揮に対して長年疑問に思っていたことどもが次々氷解していき、ボクにはとても役に立った。
ちょっと文体が軽すぎるかなとも思ったけど、一般向けならこういうことでもいいのかもしれない。

1999年06月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , エッセイ

LV4「見仏記 海外編」

いとうせいこう・みうらじゅん著/角川書店/1900円

見仏記 海外篇
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「見仏記」のファンとしては海外編も当然読む。

古寺仏閣少年だったボクは仏像に対してある種の愛情を捧げてきたが、みうらじゅん氏のような卓越した仏像の捉え方は、自分の中の仏像観の崩壊であり、そしてなにより「物事を自分の視点で見ること」の象徴でもあった。それまで世間一般的な仏像の見方をしていたボクは、それほど彼の仏像の見方にショックを受けたのである。そのショック以降、「見仏記」はボクの中である種特別な位置を保っているのだが、これはその海外編。韓国・タイ・中国・インドと、仏像伝来逆ルートを歩いて行く。

いとうせいこう氏の文章が海外取材のせいかがんばっちゃっていて少々理屈っぽくなった気もするが、みうら氏は相変わらず肩の力が抜けていて良い。今月タイに出張しておきながら(仕事の忙しさにかまけて)仏像をあまり見なかった自分が疎ましくなる。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ , 雑学・その他 , アート・舞台

LV2「パソコンを鍛える」

岩谷宏著/講談社現代新書/660円

パソコンを鍛える
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それなりにパソコンを知っている人のためのパソコン教科書。
OSの原理をわかりやすく解説して「パソコンのユーザーの多くが現在の完全受け身から完全攻勢に180度転換」させる狙いで書かれている。

で、その狙いは成功していると思う。説明が難しいであろう技術についても大変興味深く書かれており(かといって読者を子供扱いもしてない)、ボクにOSの成り立ちをよく理解させてくれた。最後では結局UNIX啓蒙になるのだが、ウィン・マックともに平明に見る目が養われたと思う。もうちょっと既存OSについて公平な書き方であればよりよかった。バイアスがかかっている内容に思えて、読者はちょっと警戒してしまうのだ。

1999年01月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:IT・ネット , 実用・ホビー

LV5「宮殿泥棒」

イーサン・ケイニン著/柴田元幸訳/文藝春秋/2200円

宮殿泥棒
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柴田元幸の翻訳したものにハズレなし(彼自身のエッセイはときどきはずれるが)! 
ということで、今回もはずれなかった。中編4つ。それぞれ「普通の人」の心の動きを細かく追って、ストーリーテリング小説ともシチュエーション小説とも違うカタチでまとめあげており、実に奥深いいい出来の小説集だ。なんというか小市民的感情の動きが実に上手に描かれている。そして身につまされる。

小説の性格からいって教会の懺悔室で聞かれるような物語だが、読後感はたいへん爽やかで充実している。こういった、あまり仕掛けのないヨーロッパ映画みたいな小説をもっと読みたい。ハリウッド映画ばりに仕掛けたっぷりの本がこの頃多すぎる気がする。

1998年12月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「黒と青」

イアン・ランキン著/延原泰子訳/ハヤカワ・ポケット・ミステリ/1800円

黒と青―リーバス警部シリーズ
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「リーバス警部シリーズ」と銘打たれている。英国推理作家協会賞ゴールド・ダガー賞を受賞した力作。

著者の本は本邦初訳だからこれから徐々にリーバス警部を読めるようになるらしい。
題名はストーンズのアルバムから。あの「愚か者の涙」が入っているヤツ。それに象徴されるようにロックはある種この本の基調になっている。読者と主人公を結ぶ架け橋だ。エジンバラを舞台にロックとハードボイルドが入り交じり、凄惨なる自己憐愍と高揚が交互に現れる。

ちょっと会話が洒落すぎているのが全体の色調からいって座りが悪い気がするけど、それもこの本の魅力なのだろう。ボクはもう少し無骨な方が好きだけど。でもまぁとても楽しめます。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「敵対水域」

ピーター・ハクソーゼン/イーゴリ・クルジン/R・アラン・ホワイト著/文藝春秋/1714円

敵対水域
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冷戦時代の1986年。バミューダ海域でソ連の原子力潜水艦が沈没した。これはその関係者を詳細に取材して一編に織り上げたノン・フィクションである。

「泣いた」「感動に手が震えた」などと前評判が高い上に、表紙にトム・クランシーが「これほど深く胸に滲み入る潜水艦の実話を私はこれまでに読んだことがない」などと書いているもんだからかなり期待した。
たしかに内容は感動的。また、潜水艦内の油の匂いまで匂い立ってくるような迫真の表現で読者を飽きさせず最後まで引っ張る。だがどこかで気持ちが入り込みきれなかった。

その理由は「これって本当にノン・フィクションか?」というところ。
ストーリー自体は実話だろう。が、登場人物の感情の動きなどに必要以上に作者の筆が入り込み「感動を演出」している気がするのだ。別に演出してもいいんだけど、表紙などでここまで「実話」「ノン・フィクション」をうたっている上に前書きでも「その行動、交わした会話、そして各人が胸に抱いた密やかな思いにいたるまで、すべて本人が著者に直接語った証言に基づいている」と書かれているから突っ込みたくなる。ボクが気にしすぎなのかもしれない。でもノン・フィクションをうたうには作者の筆が走りすぎている。この本は事実に基づいたフィクションである、そう割り切って読めばもちろん充分に楽しめる。

1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV1「伊丹由宇のビデオでROCK」

伊丹由宇著/共同通信社/1600円

伊丹由宇のビデオでROCK
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著者には「こだわりの店不親切ガイド」という食べ物系の著書があって、そちらはわりと文体も切り口も好きだったのでこれも買って読んだ。
音楽ビデオのレビューなのだが、例えば村上春樹にあるような独自の目線による解析が少ないし、妙に読者に媚びたようなミーハー文体も混ぜていたりしてなんだか読んでいて落ち着かなかった。ビデオをもとに時代を切るということ自体はユニークなのだからもっとしっかり書き込んで欲しかったと残念に思った。

1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , 映画・映像

LV1「住宅道楽」

石山修武著/講談社選書メチエ/1456円

住宅道楽―自分の家は自分で建てる
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副題「自分の家は自分で建てる」。

異端の建築家である著者の住宅論であり経験談であり日本の住宅事情への提言でもある。
おもしろいエピソードが続き、なかなかインパクトがある内容なのだが、いかんせん建築業界ドシロウトの僕が読むとわからない専門用語や固有名詞が中盤から出てくるのが残念。せっかくなら「シロウトにも開かれた文章」を書いて欲しかったのである。著者の言葉ぽく言うなら「建築業界の不自由さから文章が自由になっていないんだよう」というところか。惜しい。

1997年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉 , アート・舞台

LV2「本の運命」

井上ひさし著/文藝春秋/952円

本の運命
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実に蔵書13万冊。知る人ぞ知る本の虫、井上ひさしによる本を巡る物語である。

幼い頃の読書体験からついに図書館を作ってしまうまで、本と共に生きたその半生をわかりやすく綴っている。
彼の本は「生きている」のが素晴らしい。単なる収集家ではないのだ。こんな人の手に渡った本達はホントに幸せ者だ。でも本にまつわるエピソードだけの本ではない。人間が好きなことを追って生きていくこととは何なのか、が、ぎっちり詰まった本でもあるのだ。

1997年08月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「睥睨するヘーゲル」

池田晶子著/講談社/1500円

睥睨するヘーゲル
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哲学の本というより「考える」本である。
この本を読んでボク自身つねづねいろんなことを「考えていたつもり」だったけど、それは単に「思っていたに過ぎない」ことに気付かされた。そういう意味でこれはモグラの目すら開かせる名著であるとボクは思う。

ただ、読んで気が付いて目が開くこと自体もうあなたは「考える人」の資格すらない、と著者は切り捨てている。
池田晶子のそこらへんが好きなんですよ、ボクは。エッセイ集なのでまとまりに欠けるのはしょうがないが、「メタフィジカ」「悪妻に訊け」などの著作より著者の素直な切り口が出てきていて、池田ファンは必読。まだ池田晶子を知らない人はこの本からどうぞ。

1997年04月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界

LV5「そば打ちの哲学」

石川文康著/ちくま新書/680円

そば打ちの哲学
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趣味で蕎麦を打ち初めて半年になるけど、どんな本を読んでも越えられなかった「畳んだら折り目で切れちゃう」問題をこの本は明解に解決してくれた。

そういう意味では実用書でもあるが、あくまでもこの本は哲学書。
哲学読みには中途半端かもしれないが、ボクにはちょうど良かった。大学の教授である著者も趣味で蕎麦を打っているわけだが、哲学者というスタンスを見事に蕎麦打ちに取り入れており、まさに「哲学とは‘哲学すること’である」を実践している。
蕎麦を入り口に古今の哲学に言及し蕎麦を出口として人間の欲望に迫る。その筆、平明にして深遠。蕎麦を打つ人も打たない人もぜひ触れてみて欲しい個性的名著。

1997年03月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:哲学・精神世界 , 食・酒 , 実用・ホビー

LV5「港湾ニュース」

E・アニー・プルー著/上岡伸雄訳/集英社/2200円

港湾(シッピング)ニュース
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地味な本である。
でも何故か強烈な印象を残す。丹念に丹念にディーテイルを書き込んでいくあたり先月紹介したアン・タイラーにも似ているが、アン・タイラーが筋に沿ったディーテイルで構築するのに対して、この作者は寄り道的ディーテイルで全体を浮かび上がらせるというより難易度の高い方法を用いている。そういう意味ではアービングにも似ているかも。

途中まで主人公に愛情が持てなくてイライラしたが、そのイライラが物語後半から快感に変わっていくのが面白かった。
多分その客観的な主人公描写が、この物語の舞台であるニューファンドランドの人を拒否する厳しい自然描写とあいまって、特別な効果を生んでいるからだと思う。ここまで計算し尽くして物語を構築したとしたらこの作者並大抵の筆力ではない。長編2作目とはとてもじゃないが思えない。

なお、この本は全米図書賞とピューリッツァー賞をW受賞した上に各賞総ナメ、ベストセラーにもなったらしい。うなずける。

1996年08月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV1「お金の思い出」

石坂啓著/新潮社/1250円

お金の思い出
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漫画家・石坂啓の青春記である。
切り口は一応「お金」なのだが、もっともっとお金によったお話かと思ったらそうでもない。お金を切り口にしたユニークな青春記かな、とも期待したがそうでもない。そういう意味では全体にどっちつかずでちょっと中途半端かも。

彼女の漫画では「安穏族」シリーズに好きなのが何作かあるのだが、ボクが好きなのはどれも社会派的な題材の物。ああいうの書かせるととてもうまいので、これからに期待しよ、っと。

1996年05月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝

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