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LV4 「アフリカにょろり旅」

青山潤著/講談社/1600円

アフリカにょろり旅
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幻の熱帯ウナギ捕獲のためにアフリカ奥地に入り込んだ東大の研究者による冒険記。

とはいえ研究の書ではまるでなく(題名でわかるか)、いわゆる「爆笑紀行」的趣き。特殊すぎるその体験のすべてが事細かく書かれてあり、読者は日本のベッドで彼らの地獄の日々(そーとー地獄)をウヒヒと笑いながら追体験できる。なんていい世の中なのだろうか(笑)

世界に存在するウナギは全18種類。東大の研究室はそのうち17種を採集し終わっていた。だがアフリカに生息するラビアータという種類だけがどうしても手に入らない。それを採集するために、著者青山潤と相棒の渡邊俊がふたりで灼熱のウナギ捕りツアーを敢行する。マラウイ、ジンバブエ、モザンビーク。アフリカ南部奥地でひたすらウナギを探す毎日。次々に起こるアクシデント。灼熱。危険。焦燥。体力の限界。友情。それら全部引っくるめて「にょろり旅」。ひたすら明るい筆致が救いとなり、読者は気楽に旅を楽しめる。著者は意識していないかもしれないが、もう少しでも筆致が暗かったらと意外と読んでいて厳しかったかもしれない。そのくらい過酷さが行間に感じられた。

この本はお笑い系ではあるが、実はこのウナギ研究班、ちゃんとスゴイ。世界で初めてニホンウナギの産卵場をほぼ特定したりしている。そういう理系学者がこういうハードルの低い本を書いて研究の現場を面白おかしく紹介してくれたこと自体が素晴らしい。こういった本がもっともっと増えるといいなぁ。最先端の研究の現場ほど面白いものはない。ちゃんとボクら素人にもわかるように翻訳して楽しく書いてくれれば、これほど知的冒険に満ちた題材はないだろう。

2007年04月10日(火) 18:26:29・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , , 雑学・その他

LV5「ひとり日和」

青山七恵著/河出書房新社/1200円

ひとり日和
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芥川賞受賞作。著者24歳の作品である。
芥川賞選考会では、珍しく石原慎太郎と村上龍の意見が合い、同時に激賞したらしい。そりゃ読まざるをえないでしょう。

なんだろう、「イマの気分」についていろんな発見を与えてくれる小説だった。時事小説という意味ではなく、ふんわり捉えがたい「今の若者の意識の流れ」みたいなものを見事に紙の上に定着させてくれた感じ。全体に漂うのはイマが持っている微妙な「薄さ」なんだけど、文章自体は「濃い」のである。薄いものを薄く書いたり、繊細なものを繊細に書いたりするのは意外と難しくない技だと思うのだけど、薄いものを濃く表現したり、繊細なものを乱暴に表現したりするのって、かなりハイブロウな技だと思う。その辺が素晴らしいと思った。あ、この場合の「濃い」は、濃厚な表現という意味ではなくて「感覚に逃げていない」みたいな感じなんだけど。

主人公の「できるだけ皮膚を厚くしていっぱしの人生を生きてみたい」という「うっすらとした望み」が、様々な要素に背中を押されて、ゆっくりとカタチになっていく過程がとってもリアルだ。そして妙に読者を安心させてくれる。この安心感が得難い。また、表現や場面演出の上手さも素晴らしい。情景や季節の描写をここまで好ましく読んだ小説も近来にない。好きかも。

2007年02月23日(金) 23:59:30・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「図書館戦争」

有川浩著/メディアワークス/1600円

図書館戦争
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「本の雑誌」が選ぶ 2006年上半期エンタテインメント第1位である。
前半は、本書内の言葉を借りれば少し「痒かった」。でも、設定の秀逸さ、キャラ立ち、若者言葉のリアルさ、文章のリズムなどに引っ張られ、読み進むうちに止まらなくなる。さすがに面白い。主要登場人物のキャラもよく立っている。主人公が特によい。武装化&銃弾の雨あられっていうあたりにもう少しリアリティ(そうなる必然性)があったらより完成度増すんだけどなぁ…。

とはいえ「メディア良化法」って怖すぎ。一歩間違えばありえるだけに。あぁ怖い。いい設定だ。
でも現実には、図書館を武器で守るよりも海外サーバーでの無償公開で悪法に対抗した方が有利かも、とネットにどっぷり浸かっているボクはちょっと思った。ネットを利用する話がひとつも出てこなかった(と思う)あたりが、この時代のリアリティを少し欠いているかも。←ネットを利用するといきなり物語が陳腐になりがち&まだついてこれない人が多そう、というのもわかるけど。

ちなみに著者は「ありかわひろし」という男性かと思っていたが、「ありかわひろ」という女性のようである。

2006年08月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー , 小説(日本)

LV3「シェリー、ポート、マデイラの本」

明比淑子著/小学館/3200円

シェリー、ポート、マデイラの本
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いままでなかったんですよね、こういう本。世界三大酒精強化ワインである、スペインのシェリー、ポルトガルのポートとマディラのガイド本。それぞれに現在の姿から歴史、作り方、主要メーカーの主要商品までカラー写真や図を多様してわかりやすく書かれており、これ一冊持っていればだいたい用は足りる。
ボクはシェリーが大好きで週2〜3回は飲む。ワインに比べて酒精強化ワインは日本ではさげすまれる部分もあるが、飲み慣れるとこんなに気楽でおいしい飲み物もない。著者はその辺の楽しさを含めて、いい感じで布教してくれている感じ。全体に装丁や紙質、写真の写りなども上品な出来。手元に置いて調べるのに、こういうおしゃれな本はうれしいかも。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV1「バレエ・テクニックのすべて」

赤尾雄人著/新書館/1600円

バレエ・テクニックのすべて
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バレエを観るヒトのためのバレエ・テクニック解説書。まぁ少しバレエを観だすと「この型はよく出てくるけどなんだろう」とかいろいろ知りたくなってくる。そういう初・中級者には実にためになる本である。
この本のいいところは、わりと写真(のモデル)がいいこと。解説自体は、極力わかりやすくしてくれた努力のあとは見えるのだが、やっぱり少しマニアック。中級者以上じゃないとついていけないかもしれない。が、初級者が「あぁあの踊りはグラン・ジュテ・アン・トゥールナンと呼ぶのか」などと理解するには十分かも。資料として持っているにはいい本。読むにはつらい。当たり前か。

2003年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台

LV4「主婦は踊る」

青木るえか著/角川文庫/400円

主婦は踊る
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「主婦でスミマセン」の続編。
あら〜前作よりパワーダウンかなぁと感じつつ前半を読み終わり、あぁ主婦日記かぁ…ありがちかもなぁと中盤を読み終わり、そそくさと終盤にさしかかったのだが、この終盤で大逆転大スマッシュが待っていたとは! 

「主婦と情熱」と銘打たれたその章は、涙と笑いが詰まっている傑作であった。
OSK(大阪松竹歌劇団)に雪崩を打って嵌りこんでいくその様たるや、なんつうかSFファンタジーみたいであった。浮世離れと自分でも思いつつリアルに恋愛していくダメ主婦るえか。あぁ笑った。というか泣いた。著者には会ったことないが、もう3年分くらい会った気になった。おもしろし。

ちなみに、OSKは今年5月で解散。81年の歴史に幕を閉じた。著者は存続運動のボランティアをやっているようだが、その後どうなったのだろう。自力公演の話も書いてあるが…。笑って泣いただけに、他人事ではない感じ(笑)。

2003年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「あなた自身の社会〜スウェーデンの中学教科書」

アーネ・リンドクウィスト、ヤン・ウェステル著/川上邦夫訳/新評論/2200円

あなた自身の社会―スウェーデンの中学教科書
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副題通り、スウェーデンの中学教科書である。
スウェーデンの社会の教科書の題名が「あなた自身の社会」。そう、スウェーデンの中学の社会の教科書をそのまま訳しただけのものなのだ。なのに感動できる。日本の社会や教育の問題点が浮き彫りになる。それほど良くできている。心底焦燥する。やばいよ日本。なんとかしなくちゃ。

この題名がすべてを語っている。誰の社会でもなく、あなた自身の社会にあなた自身が積極的にどうコミットするべきか、が具体的に書かれているのだ。
そのために何一つ隠すことなくありのままのスウェーデン社会が中学生のための教科書に提示されている。いろんな立場といろんな意見があることもそれぞれ提示されている。そして中学生に自分自身の意見を持たせることを主に考えられている。この社会はキミたちこそが変えていくんだよと教えている。他人事のように客観的に社会のありようを教える日本の教科書と比べるとそのコミット感・当事者感に呆然とするほどである。いやー、社会に参加する意識やヒトというものの捉え方が根本から違うわ。

詰め込み式でなく、とにかく考えさせることが主目的においているのが素晴らしい。社会は学ぶモノではなく考えてコミットしていくモノなのだ。当たり前といえば当たり前。でも彼我の差は大きい。この差はいつか埋まるのかな。埋まらない気がするな。悲観的かもしれないけど。そんな印象。

2003年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:教育・環境・福祉

LV4「ナイーヴ・スーパー」

アーレン・ロー著/駒沢敏器訳/NHK出版/1200円

ナイーヴ・スーパー
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帯に「北欧から発信されたベストセラー小説が、ヨーロッパ中で若者たちの絶大なる支持を得た。新ジャンル"ナイーヴ文学"誕生」とある。帯の背表紙には「ブローティガンの再来」ともある。ブローティガンの再来とは思わないが、とても新しい文学だとは感じた。

なんというか、ある「哲学的思考」を生活表層的に描きながら、実は何も語っていない、みたいな匂いが新しい。
また、読みながらとても映像的だと思った。それもビデオ映像的。生活を薄ーく切り取っていき、その薄さに意味を持たせていない感じがとってもビデオっぽい。そしてその刹那な感じがイマの気分をよく捉えていると思う。象徴的なのは「リスト作り」の場面。この淡々としたリストの延長上に人生があるのは、インターネット、ビデオ、ケータイなどの「薄いもの」に囲まれたボクたちの実感にとても近いのではないだろうか。これらの薄さ、ナイーヴさと、文学がきっちりリンクした感じ。

この本は筋というよりは文体を読むべきものだろう。とはいえ、小難しいわけではまるでなく、とっても読みやすくとっつきやすい。そういう意味で訳もとてもいい。
なにも起こらないしなにも結論は出ないが、この小説が描き出すイマの気分に共感を持つ人は多いと思う。日本より先にノルウェイで書かれてしまったのが残念な小説。現代日本こそこんな気分の小説を書くに相応しいとは思うのだが(もしかしたら探せばあるのかも)。

2003年06月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「壬生義士伝」

浅田次郎著/文春文庫/上下各590円

壬生義士伝 上   文春文庫 あ 39-2
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いつからか、あんなに好きだった浅田次郎を読まなくなった。「鉄道員」あたりからかな。ひと言で言うと食傷した感じ。もうひと言言うと泣かせがあざとくてちょっと困っちゃった感じ(著者のは明日への希望がわくタイプの泣かせではあるのだが)。
で、久しぶりに読んだ浅田次郎。ネタが新撰組であるのが読んだ理由のすべて。なにしろ中学以来の幕末フェチであるボクだもの。でも、そう思いながら文庫になるまで読まなかったのだから、よっぽど食傷してたのね、浅田次郎に。

さて、久しぶりに読んだ感想はというと……さすがと言うしかないなぁ。
まぁうまいのはわかっていたのだけど。それにしても、だ。方言の一人称語りだけで、幕末の空気から新撰組の真実から人の道とは何かというテーマまですべてを描ききるこの筆力はどうだ。先人が掘り尽くした新撰組という鉱脈に堂々と挑み、新たな命を吹き込んで余りある。斎藤一を描きこみ坂本龍馬暗殺に新解釈(?)を与えただけでも幕末フェチとしては評価する。時代の変わり目を捉え、昭和・平成の現代までつなげ、現代人が失いつつある「日本人の精神性」までしっかり感じさせたその野心もすごい。いやはや。やっぱり浅田次郎は抜群だわ。

2003年03月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV5「主婦でスミマセン」

青木るえか著/角川文庫/381円

主婦でスミマセン
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わかりやすく説明すると「史上最弱なるダメ主婦のダメダメな日常を赤裸々に書いた爆笑エッセイ」ということになるのだろうか。
解説もそんな感じで書いてある。が、どちらかというとそのダメぶりで笑わせる(共感を得る)というよりは、「ダメ主婦が開き直って史上最強を手に入れた!」というイメージに近いかなぁ。なんというか、ここまでダメだと逆に強いよなぁと思わせる毎日を送っている著者の日常ルポなのだ。はっきり言っておもしろい。書いている内容もおもしろいが文章がまたおもしろい。軽妙かつのんびり、そして深淵(←深遠ではない)。この淵にはあまり近寄りたくないが、淵の深さだけはわかる、底に豊かなものがあるのもわかる、みたいな感じ。

で、この本を読み終わる頃には「ダメって何?」とみんなきっと思っているだろう。世間体とか常識とか清潔とかって一体何? 実に些末で、まったく本質に関係ないことではないか。どうしてそんなことに汲々として生きているのだろう?と不思議になる。そういう意味で、著者は自分を(世間常識的に)貶めることで、ボクたちに本質を見る勇気を与えてくれている。381円でそれが買える。るえか。すばらしい。

2003年02月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「東京育ちの京都案内」

麻生圭子著/文春文庫/590円

東京育ちの京都案内
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コンセプトはとてもいい。京都初心者として京都に住んだ著者の、初心者だからこそわかり、そして書ける京都入門なのだ。東京から見て不思議に思える数々の京都伝説。そういうものをひとつひとつ解読してくれ、読者を京都の日常に連れて行ってくれる。

ボク自身、関西に15年住んだので、京都を少しは知っている。が、改めてこうして解説してくれると頭の中の靄がどんどん晴れていくようでとても気持ちがいい。京都を全く知らない人にとっては尚更だろう。これから京都で遊ぼうという人など一読してから出かけるとより深く遊べるかもしれない。

ただ、全体にグルーブ感にちょいと欠けるのが惜しい。よそ者として書いているわりには、(現在京都に住んでいることもあってあまりにバカなことや悪口は書きにくいからか)遠慮しいしい書いちゃっている。だから文章に勢いが出ない気がする。いっそ割り切って書いてくれたらもっともっと面白くなったのに、と、ちょっと残念である。ま、京都人の仲間として生きていきたいという気持ちがある限り難しいことなのだろうが。

2002年06月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:

LV2「石垣島スクーター遊々記」

青井志津著/四谷ラウンド/1400円

石垣島スクーター遊々記
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4月に石垣島へ行って来た。
ボクは現地限定的出版物に非常に弱いので行けば必ず何冊か購入する。そのうちの一冊がこれ。重度の皮膚病を患い、治療法として日光浴が必要な著者が、51歳のときに東京から沖縄は石垣島へ移り住み、スクーターを移動手段としつつ南の島の生活を楽しんでいる様子を描いたエッセイである。琉球新報や八重山毎日新聞に書いたコラムをまとめたものらしい。

なんというか、ゆったりと著者の日常に浸れるいい本だ。ただ、ゆったりさ加減もおもしろさ加減もさすがにちょっとプライベートすぎて読んでいてつらいところはある。でも決して嫌いな本ではない。というか好きである。遠き石垣に著者が毎日暮らしていることが感じられるだけで、心にほのかな灯りが点る。嗚呼、石垣島、また行きたいなぁ。

2002年05月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ ,

LV5「最上階の殺人」

アントニイ・バークリー著/大澤晶訳/新潮社/2000円

最上階の殺人
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1931年にイギリスで発表された作品だけど、日本では去年の8月初版。近年の海外古典発掘ブームで掘り出されたもの。
著者は名探偵ロジャー・シェリンガムのシリーズで当時かなり有名な推理作家だったらしい。これはそのシリーズの第7作目にあたる。アガサ・クリスティが1920年デビューだからほぼ同年代に活躍した作家ですね。

70年も前の作品とはいえ、それを知らずに読んだボクとしては古さをほとんど感じなかった。当然行われるべき科学捜査が行われないので不思議に思い、やっと古い作品であることに気づいた始末。つまり、トリックはともかく、文章や設定、キャラの立ち方、洒落た会話に至るまで、現代にも通じる魅力がこの作品には溢れているということだ。のんびりした世相は感じられるものの、違和感はあまりない。
また、名探偵といいながら実に普通の知能の持ち主である主人公がいろいろ悩みながら推理していくのが活写されてて面白い。読者は彼と一緒に悩み煮詰まりたどり着き、そして恥をかく。うん、オーソドクスだけど楽しめる。また、脇役も魅力溢れている。特に秘書として雇ったステラは抜群のキャラ。わりと普通っぽい推理小説であるこの物語を一気に魅力的にしている。

今月の1番目に薦めるほどか、と言われると少し迷うが、かなり楽しめたのは確か。著者の他の作品も翻訳されるのが待たれる。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「目撃 アメリカ崩壊」

青木冨貴子著/文春新書/680円

目撃 アメリカ崩壊
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9.11をワールドトレードセンタービルからたった13ブロック北のアパートで体験した著者による、迫真のレポート。

ピート・ハミル氏の奥さんでもある彼女の記事は冷静かつクレバーでわりと信頼しているが、このレポートも冷静な良さを残しつつ、実体験した人でないと書けない迫力に満ちていて貴重だ。
特にビル崩壊の現場での記述は力がある。思わず阪神大震災を体験した記憶が蘇ってくる。そして現場にいたからこその様々な怒りも蘇る。冷静な自分と怒りに身を任せている自分・・・大災害現場にいた人のそんな複雑な心境が著者にも見え、共感は強かった。著者自身のアフガンに対するフェアな視点や、たったひとりアフガン空爆に反対したバーバラ・リー議員に対する賞賛などのジャーナリスト的視点に、本能的怒りと恐怖が混じってくる微妙なニュアンス。

ただ、スーザン・ソンタグやノーム・チョムスキーがテロ直後に出した声明のような、圧倒的に冷徹な視点が欲しかったと思うのは贅沢か。アメリカという強大国に住む日本人トップジャーナリストのひとりとしての独自のスタンスを求めるのは贅沢か。感情に左右されたりウェットになったりすることなく冷徹に現場を見る視点がもっと欲しいと思うのは贅沢か。迫真のレポートだけで終わらず、一歩も二歩も踏み込んで欲しかったという贅沢な思いをこの本には持っている。

2002年04月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション , 時事・政治・国際

LV2「本屋はサイコー!」

安藤哲也著/新潮OH!文庫/486円

本屋はサイコー!
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副題は「本を売る仕事はこんなに面白い」。
題名はタモリの懐かしい番組「今夜はサイコー!」のもじりかな。うーん、別にもじらなくても良かった気はするが…(つか、いまではネタ元がわからない人も多数いよう)。

佐野眞一の「だれが『本』を殺すのか」を読んで以来、往来堂書店の安藤店長(現在はbk1の店長)はかなり気になっていた。個人的に「本屋という商売」にすごく興味があることもあるが、旧来システムに対するブレイクスルー例としても興味があった。その著者による本屋奮闘記であるこの本は、そんなボクの興味を満たしてくれた点においては満足のいくものであった。

著者が本屋商売にはまっていく過程はおもしろい。書棚工夫やキャンペーンの張り方も、素人にわかりやすく、成功例としておもしろかった。読後、本屋に入るたびに書棚の並びをチェックしてしまう自分がいたりする。が、(贅沢かもしれないが)内容がそれだけなのが寂しい。著者の体温が伝わってくるような記述がもっとあったら、もっと共感は増えた。奮闘記というものは奮闘する人の体温が感じられないと単なるハウツーものに終わってしまいがちなのだ。その辺が残念。

2002年01月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 経済・ビジネス

LV3「天才アラーキー写真ノ方法」

荒木経惟著/集英社新書/740円

天才アラーキー 写真ノ方法
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アラーキー本人の写真論については、いろんなところで著者自身書き散らしているので目新しくはない。でもこの本はそれらの中でもわりと本音が出ているなと感じるところが多かった。

写真は現実に触発された何か……、被写体と写真を撮る時間を共有する……、写真っつーのはさ生きることなんだよね……、、、たまに出てくるそのような言葉が妙に説得力をもって立ち上がってくる。
ボクは別に写真の専門家でもないので写真技術について読みたいわけではない。写真というものを通して、アラーキーの人生観を、ものの見方を、人への迫り方を、知りたいのである。著者は「写真=人生」と言っているわけで、これはアラーキーの「人生ノ方法」でもある。その点ボクの需要を完璧に満たしてくれる本であった。満足満足。

2001年09月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 評論

LV5「エンデュアランス号漂流」

アルフレッド・ランシング著/山本光伸訳/新潮文庫/781円

エンデュアランス号漂流
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1914年に南極大陸横断に挑戦した英国人冒険家シャクルトン一行28名。その遭難から劇的なる全員生還までを乗組員の日記や詳細な取材などに基づき忠実に再現したノンフィクション。
故星野道夫の座右の書ということもあり98年に邦訳された、幻の名著の文庫化である(原著は1959年に書かれている)。どうやら来年ウォルフガング・ペーターゼン監督によって映画化公開されるらしい。あっちでも見直されているノンフィクションなのかな。

帯のコピー「これ以上危機的な遭難はない!これ以上奇跡的な生還はない!」は決してオーバーではない。
淡々とした進行だが、その切羽詰まった状況は十分衝撃的かつ迫真のものだ。ラストの生還場面など、文章的にはちっとも歌い上げていないのにやたら感動的で、しばらく動けないほどだ。暑いだの寒いだのつらいだの眠いだの、日々文句を言っている自分が恥ずかしくなる。想像するだにすさまじい。

文章的には淡々としすぎている部分もあるが(現代作家ならもっと書き込んでしまうだろう)、結果的には上手にはまっていると思う。導入部は取っつきにくいかもしれないが、どんどん引き込まれるので、ノンフィクション系が不得意な方もぜひ。
ちなみに、エンデュアランス号の乗組員募集の新聞広告コピーは広告界ではちょっと有名だ。「求む男子。至難の旅。僅かな報酬。極寒。暗黒の長い日々。絶えざる危険。生還の保証なし。成功の暁には名誉と賞賛を得る。」……かっこいい! 5000人もの男が殺到したらしい。で、この壮絶な遭難である。うーむ。

2001年08月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV1「アイスクリームの国」

アントニー・バージェス著/ファルビオ・テスター絵/長田弘訳/みすず書房/1800円

アイスクリームの国
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「長田弘が選んだ7冊」の第3回配本の2冊目。
うーん。イマイチだったなぁ。絵はとっても良い。けど文章があまり好きではない。展開も。あまりボクの琴線には触れなかった。

なんだろう? アイスクリームの国というモチーフはいいのだけど、そこから先がないのだ。
ボクだけのアイスクリームの国に旅をする想像力を刺激してくれない。子供と一緒にいろんなアイスクリームの国を想像してみようとしたのだが、どうやっても行き詰まる。「昔、あるところにアイスクリームで出来た国がありました」・・・例えばこういう一行で終わっていた方がワクワクしない? そういうワクワク感がこの本にはないのだ。

2000年12月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:絵本

LV3「温泉ロマンス」

荒木経惟著/光文社知恵の森文庫/648円

温泉ロマンス―アラキグラフ〈第2号〉
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副題は「アラキグラフ第弐号」。
ま、率直に言って「エロ本」である。「エロ写真集」である。
ただ、文庫でこういうエロ本を出したのが新しい。しかも「知恵の森文庫」である。知恵、なのだ。いや、皮肉ではなくとてもいいことだと思う。アラーキーは芸術書でなく文庫がよく似合う。篠山紀信の文庫写真集(いわゆる激写シリーズね)はなんかキレイゴトの匂いがするが、アラーキーは文庫本来の「読み捨てでなにか悪いか」的セメノシセイがあって、とてもしっくり来る。

アラーキーの写真にあって紀信の写真にないもの、それは「ワタクシ」だ。彼は徹底的に個人的関係を被写体と結ぼうとする。そしてそれを写真にする。だから常にハメ撮りなのだ。むーん。あらゆる意味で、文庫が似合う写真集である。

2000年08月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:写真集・イラスト集

LV5「建築を語る」

安藤忠雄著/東京大学出版会/2800円

建築を語る
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建築家安藤忠雄の東大大学院での講義を一冊にしたもの。第一講から第五講まで。

彼の建築に対する考え方が、その半生と共に語られていて、実に面白く含蓄に富んでいる。いまだ「大センセイ」になるのを拒否しているその精神で語られた言葉は、全体の構築がしっかりしている上にケレンもあり、細部はシンプルにまとまっていて、著者自身が作る建築物を彷彿とさせるようである。

まぁ建築についてはド素人なので、わからない専門用語・専門家名なども出てきたが、そういう部分はすべて飛ばし読みしてもとても面白かった。個人的に特に面白かったのが、若い頃に考えた都市建築計画の案をぶっつけで役所に持っていったり、歳をとったいまでも当時の案にこだわっていたりといった「精神的若さ」みたいなもの。ボクなんか良い案だなと思っても、否定されると妙にオトナになってバランスを取り直して作り直したりしてしまう。それではなにも残せないのだ。そんなこと今頃わかったりした。まぁここでは多くを語れないけど。

まぁそういうような心の部分を刺激してくれる内容を持った名講義。一読をオススメします。
それにしても素朴な疑問なのだけど、なぜ建築家の書く文章はみな句読点が「,」と「.」なの? 建築雑誌とかでもほとんど「,」と「.」だ。あまり好きではないのだけど。

2000年04月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:アート・舞台 , 科学

LV5「さゆり」

アーサー・ゴールデン著/小川高義訳/文藝春秋/上下各1524円

さゆり〈上〉
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スピルバーグがこの本の映画化権を取ったとか、全米で200万部売れたとか、とにかく話題の本ではある。

アメリカ人が芸者のことを書いた本なのだが(原題は「Memories of a Geisha」、「将軍」にあったような“ねじ曲がった日本観”みたいなものはここにはなく、日本人でもここまで精密・正確には書けないのではないか、と思わせるくらい描写は見事。これは訳者の力もあるとは思うが、とにかく祇園の芸者たちの日常が行間から匂い立ってくるのだ。

上巻は特に大傑作。芸者の回想録なのに手に汗握るとは思わなかった。下巻はそれに比べると数段落ちてしまう。エピソードの積み重ね方も雑で、主人公へのカタルシスすら消えていってしまうのが残念。またラストにかけての展開もおざなりで、上巻が面白かった分、読後はなんだかがっかりしてしまった。でも、それでもまぁ最高点だろうなぁ。

まるで日本人が書いているように、日本人にとっては常識なことを著者はまるで説明しない。あれで全米200万の読者は正確に理解したのだろうか。そこらへんが心配。あと、あの独特の祇園言葉を英語ではどう書いたのだろう。ちょっと原書を読んでみたい気分。

2000年01月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV5「夢奇譚」

アルトゥル・シュニッツラー著/池田香代子訳/文春文庫/381円

夢奇譚
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キューブリックの遺作映画「アイズ・ワイド・シャット」の原作。
いまから74年も前にウィーンで書かれた物語。フロイトが「わが精神のドッペルゲンガー」と呼んだ著者シュニッツラーの著書は森鴎外がいくつか翻訳しているようだ。

薄っぺらい本だから一日で読める。ただ内容的には薄っぺらくない。かなり心に残った。
主人公(夫。映画ならトム・クルーズ)の意識の流れを克明に追って行くのだが、自分が最良のものとして選んでいる人生(日常、仕事、そして妻)が、自らの内面の真実とズレてしまっていることに気がつき懊悩するに至る心理描写が見事。そしてそれは決して一致するものではない、と持っていくニヒリズムもなかなか共感できるものである。夢とリアルなものの間に境界線は果たしてあるのか。そしてどちらが本当の「心の真実」なのか。深い夜、ベッドに横になりながら自分の心の奥底をしっかり見据えさせる力をこの薄い本は持っている。

映画はまだ観ていないのだが、この「意識の流れ」的原作をどう映画化しているのか、先に映画を観てしまった人には味わえない楽しみが残されているのがうれしい。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV3「ベッドの軋み」

阿木燿子著/マガジンハウス/1400円

ベッドの軋み
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ひと言で言うと、作詞家阿木燿子が書いた短編ポルノ小説集、かな。
全体を読み終わるとどれも「日常の異化としてのセックス」を描いていることがわかるんだけど、一編一編はわりとポルノ。女性の視点かつ作詞家的言葉の選び方がわりと心地よいとは思うけど。

著者のあとがきを読むと「棘のあるシーツ」という前作があるらしい。「この二冊に共通するテーマは、エロスである。男と女のエロティックな関係、もしくは女性が性的な成熟を極めるまでの過程を描きたいと思い、書き溜めたものばかりだ」と書いてある。なるほど、過程としての異化、なのね。人生と一緒なんだねぇ、なんて変な感心をしたりして。

1999年11月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「決定版快楽温泉201」

嵐山光三郎著/講談社/1800円

決定版(とっておき)快楽温泉201
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「週刊現代」にグラビア連載していた温泉紀行が一冊になった。
写真もふんだんな実用書だが、あれを読んだことがある人はわかるだろうが単なる温泉紹介ではない。作者の視点がしっかりそこに根付いていてちょっと文学的ですらある。卓越した温泉人生論だ。

前書きに「私は大学を中退してどこかの山の湯の下足番でもやろうと考えていた。いまでも、私と同年代の湯守りに会うと『ああ、この人は私だったかもしれない』と思う」とある。『ああ、この人は私だったかもしれない』という感慨はボクの中にも常にあって、そういう感慨で温泉を見られる人の書く文章は普通以上にボクの中で響くのである。

本にまとめるにあたって「とびっきり8」という大オススメ温泉を抄出したのも感じが良い。どの温泉も結局気持ちがいいのだ、というような予定調和で終わっていないところが特に。

1999年07月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル: , エッセイ

LV4「満天の星 〜勇気凛凛ルリの色」

浅田次郎著/講談社/1600円

満天の星―勇気凛凛ルリの色
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週刊現代に連載していたエッセイ「勇気凛凛ルリの色」の四巻目にして完結版。
「鉄道員」以来どうにも作風・方向に納得行かない浅田次郎だが、エッセイは三巻目の後半から復活していて、とても充実したものだったから終了はちょっと残念。

このエッセイ集の中に「ひとりでも多くの人に、小説を読んでほしい。むろん私の小説を、という意味ではなく、テレビも映画もいいが小説という娯楽を持ってほしいと思う」「『読む人だけが読めばよい』という作家の姿勢は小説をいずれマニアックな、特殊な文化に変形せしめる」「すぐれた芸術は常に大衆とともにあり、そうした普遍性のない芸術はまがいにちがいないからである」といった展開がある。
彼が一部古参浅田ファンや評論家に誹られながらもお涙頂戴的極甘小説を書き続ける理由がやっとわかった。彼は直木賞作家として小説を復権させるため、わざと「大衆に求められるもの」を書き続けているのだ。

そしてそれは成功しつつある。うちの母まで読んでいる。すごいことだ。
彼の感涙小説を酷評ばかりしたボクだが(そしてこれからも急に評価をあげることはないかもしれないが)、そのことについてはめちゃくちゃ認めます。偉い、浅田次郎!

1999年03月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「ここがホームシック・レストラン」

アン・タイラー著/中野恵津子訳/文春文庫/752円

ここがホームシック・レストラン
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このところどしどし文庫化が進むアン・タイラー。これは1982にアメリカで出版された長編の文庫化にして新刊だ。

前半はなんだかとろいな、と感じたが、中盤からは一気に読ませて呆然と空を仰がせる。さすがアン・タイラー、としかいいようがない。心の襞を、まるで標本にするように丁寧に採集していくその手法は、こうして家族をいろんな角度から書かせると特に際だち、なんだか違う人生を生ききったような充実した読後感をもたらす。
この長編に限って言えば、エズラの心の襞にだけ、読んでいて入り込みにくかったのが残念だが、生きている限りついてまわる「家族という小宇宙」をこれほどまでに彫りだして見せた小説は少ない。

読む人によっては甘ったるいソープドラマと取るかもしれないが、ボクはアン・タイラーを支持します。ゆっくり惜しみながら全作読もっと。

1999年02月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV2「霞町物語」

浅田次郎著/講談社/1500円

霞町物語
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帯とか広告で「著者自身の物語」と書いてあるのを読まなければもっともっと楽しめたかも。

非常に良く出来た青春の1シーンなのだが、「主人公=著者」と思って読んでしまうと白けてしまうのだ。やることなすこと格好良すぎる。よく自分でこんなの書けるなぁ、と逆に感心してしまう。含羞がなさすぎてちょっとついていけない部分がある。祖父や親父を描いたところはとってもいい。が、彼自身の描写になると読んでいる方がこそばゆくなってくる。

うまいんだけどなぁ。でもこれは、自分の半生を自分に酔いながら歌いあげる演歌歌手と変わらない。いろいろなエピソードは心に残るのだけど…。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 小説(日本)

LV3「老人力」

赤瀬川原平著/筑摩書房/1500円

老人力
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この造語をはじめて聞いたのはいつだったかな。「新解さんの謎」を読んだ頃だったか。「老人力」。こんなにいい造語はなかなかない。この本はこの造語から派生する諸問題に赤瀬川節でそれこそ「老人力で」踏み込んだ好エッセイである。

いつも全体にのほほんとしすぎて物足りないところのある彼のエッセイだが、この本に関してはそうでもない。老人力から人生観、世界観などに論を広げているところなど見事。現代の文明批評にもなっている。こういう新しい視点、好きだなぁ。

1998年10月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV2「見知らぬ妻へ」

浅田次郎著/光文社/1500円

見知らぬ妻へ
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おーい、浅田次郎さーん、どこ行っちゃうのー!と叫びたくなる一冊。

「鉄道員」の流れを汲む泣かし短編集なのだが、泣かしってこんなに安売りしてしまっていいの?となんか居心地が悪くなる部分がある。時代的にこういうものが求められ、また、著者も求められるままに必死で書いているのだろう。ボクがケチつけることもないのだが、なんというか、その、筆が荒れないだろうか。

歌がうまい歌手がそのうまさを誇示した歌い方をするようになると、聴いている側としては鼻につきだすものである。ビブラートをきかせすぎたりすると歌が安くなっていく。で、その安い癖は簡単には取れなかったりするのだ。
なんかこの頃の著者はそんなことを思わせる。いくつかはとてもいい短編はあったし、涙するものもあった。でも、浅田ファンとしては物足りない。というか、そっちにあまり行って欲しくない思いである。個人的に。

1998年08月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「文人悪食」

嵐山光三郎著/マガジンハウス/1800円

文人悪食
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労作にして名作。日本文学好きには堪らない本だ。
近代文学史を文士たちの食の嗜好によってたどってみようとするもので、まずその切り口に目丸。作家の食の嗜好はその作品と密接な関係があり、それを作者ごとにじっくり見ていくその労力に口開。そしてそしてそれぞれが非常に優れた作家論になっているその技に舌巻。

取り上げている作家は37人。それぞれに絶妙の作家論が展開されるが、それはそれ名手嵐山光三郎であるから、ひとつも小難しくなく読者を上手にその作家の世界にいざなってくれる。各作家ごとにかなりの文献・資料を読むせいだろう、著者の文体が微妙に違っていてそれもオマケ的に楽しめるよ。 なおこれは去年の3月初版のもの。

1998年06月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒 , ノンフィクション , 評論

LV5「闇に浮かぶ絵」

R・ゴダード著/文春文庫/上下各619円

闇に浮かぶ絵〈上〉
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期待のゴダード。いまやトップクラスにフェバリットになりつつある。

上巻はわりと退屈。騙りに騙りを重ねるいつものゴダード節で気が抜けない上に「またかぁ」的ゴダード世界でちょっと読み進むのに根気がいった。

が、さすがゴダード。下巻に入ると一気にジェットコースターである。
息もつかせぬ筆運びに翻弄される。ただ、主人公の存在自体がミステリーのキーであるだけに、主人公の人生的背景を描き込めない構造的欠陥がこの物語にはあり、他の著作に比べて深みが出せなかったのが非常に残念だ。そこらへんの深みが他のミステリー作家とゴダードの差であっただけにちょっと苦しい。
他のゴダード作品に比べると星ひとつくらい劣るかもしれないが、それでも十分三ツ星。上巻で投げ出さないように。

1998年04月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV3「日輪の遺産」

浅田次郎著/講談社文庫/733円

日輪の遺産
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浅田次郎がまだ無名だった頃の旧作である。極道小説以外では初の長編で、いわば浅田次郎の原点的な作品だ。

いまの浅田次郎の技を知っている読者たちにとってはずいぶん稚拙に思える展開と書きっぷりで、同じ原点としても極道小説の原点「きんぴか」には遠く及ばない。それでもまぁ十分面白いあたりがサスガですね。独特のウェットさは見事なものだ。
しかしこれと同じ題材をいまの浅田次郎に与えたら、かなり泣けるものを書くだろうなぁ…。今度は沖縄系の話を書き起こしてくれはしないだろうか。

1998年04月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「福音について」

浅田次郎著/講談社/1600円

福音について―勇気凛凛ルリの色
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週刊現代連載中のエッセイ「勇気凛凛ルリの色」の第3巻である。

既刊に比べて身近な話題が多く、浅田次郎の世の中への目線を知りたいボクなんかにとってはちょっと食い足りない部分もあった。でもちょうど直木賞をとったあたりの連載が載っているのでなかなかに臨場感はある。新しくひとりの文豪が出来上がっていく瞬間瞬間のシズル感がとてもいい。まぁこれは作者の狙いではないだろうが…。
贅沢を言えば、既刊にあったような例えば沖縄に対する独自の見方みたいなエッセイをもっと読みたい。オーバーワークで大変だろうけど.。

1998年04月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV5「敵対水域」

ピーター・ハクソーゼン/イーゴリ・クルジン/R・アラン・ホワイト著/文藝春秋/1714円

敵対水域
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冷戦時代の1986年。バミューダ海域でソ連の原子力潜水艦が沈没した。これはその関係者を詳細に取材して一編に織り上げたノン・フィクションである。

「泣いた」「感動に手が震えた」などと前評判が高い上に、表紙にトム・クランシーが「これほど深く胸に滲み入る潜水艦の実話を私はこれまでに読んだことがない」などと書いているもんだからかなり期待した。
たしかに内容は感動的。また、潜水艦内の油の匂いまで匂い立ってくるような迫真の表現で読者を飽きさせず最後まで引っ張る。だがどこかで気持ちが入り込みきれなかった。

その理由は「これって本当にノン・フィクションか?」というところ。
ストーリー自体は実話だろう。が、登場人物の感情の動きなどに必要以上に作者の筆が入り込み「感動を演出」している気がするのだ。別に演出してもいいんだけど、表紙などでここまで「実話」「ノン・フィクション」をうたっている上に前書きでも「その行動、交わした会話、そして各人が胸に抱いた密やかな思いにいたるまで、すべて本人が著者に直接語った証言に基づいている」と書かれているから突っ込みたくなる。ボクが気にしすぎなのかもしれない。でもノン・フィクションをうたうには作者の筆が走りすぎている。この本は事実に基づいたフィクションである、そう割り切って読めばもちろん充分に楽しめる。

1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ノンフィクション

LV4「東京観音」

荒木経惟+杉浦日向子著/筑摩書房/2200円

東京観音
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アラーキーが写真を撮り、杉浦日向子が小文を書きながら東京の街の姿と観音像を巡っていく。その企画にまず拍手。

相変わらずアラーキーの視点がいいので飽きない。彼に撮られると観音様も急に人間味を持ち出すから面白い。杉浦日向子の文もいい。妙に色気がある。アラーキーに触発されている感じ。

という風に至極面白かったんだけど、この二人のそぞろ歩きであるならばもっともっと濃厚な構成でないと読んだ気がしない部分がある。もうお腹いっぱいってくらい写真と文を載せて濃厚きわまりなく構成してくれてこその二人だと思うのだが。ちょっと欲求不満が残るかも。

1998年03月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ , 写真集・イラスト集 ,

LV3「珍妃の井戸」

浅田次郎著/講談社/1600円

珍妃の井戸
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アポロン的大傑作「蒼穹の昴」の外伝的位置づけか。「蒼穹の昴」に登場した人物がその人物造形のままにあらわれるので「蒼穹の昴」を読んでいない人にはいまひとつ楽しめないかもしれない。

相変わらずの浅田浪花節で快感に導いてくれる。
が、著者が読者よりも先に泣き叫んでしまうので、読者はちょっとひいてしまうところがある。この頃このパターンが多いかも。「泣かせ」に自信を持ちすぎているのかなぁ。必要以上にビブラートをきかす演歌歌手みたいなところがある。ちょっと惜しい。

物語的には4人の貴族たちが珍妃殺人の調査に乗り出す動機がもうひとつ弱い気がする。
貴族がそんなことするだろうか? 最後までそれに対する違和感が残った。

1998年02月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:歴史小説

LV3「月のしずく」

浅田次郎著/文藝春秋/1429円

月のしずく
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小説が心のマッサージであるならば、こういう「泣かせ」狙いは決して間違っていない。日々の生活にほんの少し潤いを与えてくれる。忘れそうになっていた何かを取り戻させてくれる。

だが、本来それはスパイスとして効いてくるべきもので、その狙いがモロに見えてくると鼻につくものだ。泣かしのド演歌が聞いていて辛いのと一緒。狙いはわかるが読んでいて辛い。「鉄道員」でこの系統は打ち止めして欲しかった。

いい話は多いのである。もう少し構成を淡白に、さらりと書いてなおかつ泣かせて欲しい。こういう書き方をしていると著者はここで終わってしまう気がする。そんなにヤワではないとは思うが、でも、ちょっと心配。

1997年12月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV3「温泉旅行記」

嵐山光三郎著/JTB/1500円

温泉旅行記 単行本
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残念な本だ。前半、特に第1話など「こ、これは紀行文学の新たなる傑作誕生か!?」と色めき立つほどの衝撃を持って読んだ。でもこの緊張は2話目あたりから崩れていき最後の方は「普通に面白い旅行記」になってしまった。

これはたぶんネタ(文人はなぜ温泉に泊まるか、とか、山口瞳の思い出とか)を適度に入れ込みながら書いているからだろう。著者のサービス精神のたまものであろうが、ネタなど入れずに淡々と書いたほうが結果的には良かったと思う。第1話はそれで成功している。あれは傑作である。あの調子で通してくれたら……まことに残念な本なのである。

1997年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:

LV3「天才になる!」

荒木経惟著/講談社現代新書/660円

天才になる!
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天才アラーキーの初の自伝だそうだ。インタビューでまとめたアラーキーの半生である。

ボクが初めてアラーキーの写真集を買ったのは6年前の「センチメンタルな旅・冬の旅」である。
以来ちょこちょこ買い続けているくらいはファンなのだが、実はその半生など知りたいと思っていなかった。写真で十分だったのである。
しかし読んで良かったな、これは。彼がなぜ極私的生活を写真で追いまくっているのか、ちゃんと秘密が書いてある。要は「時代の奴隷にはならない」ということだったんだな(こんなこといわれても読んでいない人にはなにがなんだかわからないでしょうね。すいません)。ふーん、とかなり共感することの多かった一冊である。
この本に刺激されて、佐藤家では何度目かのアラーキー・ブームである。全集にいま取り組んでいる。これも、面白い。

1997年11月01日(土) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:自伝・評伝 , 映画・映像

LV5「きんぴか」

浅田次郎著/光文社/1942円

きんぴか
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著者の初期の傑作。
浅田次郎のすべてがあると言ってもいい。まだ明日をも知らぬ作家であった彼は惜しげもなく様々なネタをこの中にぶち込んでいる。ここから上手に抽出すれば長編が5篇は出来るのでは、というくらいな物だ。

かつては光文社ノベルズ3巻で出ていたらしい。
そう、内容的にはまさにノベルズがお似合いなのだ。ハードカバーになってもその下世話な魅力は少しも衰えず(まぁ内容は一緒なんだから当たり前だけど)一気に読ませる。主人公達は超魅力的。この物語が終わって、彼らと別れるのが非常に辛くなるほどであった。
展開は荒唐無稽ながらも読者を惹きつけて離さない。著者は「センセイ」にならずにこういうエンターテイメントをもっと量産して欲しいと思うのである。

1997年10月01日(水) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「活動寫眞の女」

浅田次郎著/双葉社/1700円

活動写真の女
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直木賞作家受賞第一作というふれ込みだが、実際には受賞する前の96年に連載していた長編である。
霊をモチーフに「哀しき人間の業」「現実という虚構」を描く手法はますます磨きがかかっており、安心して著者の世界にどっぷり浸かっていられる。こういう安心感は得難いものだ。

今回は題材である映画がまず非現実のものである上に、途中に著者自身の口上まで入り、いよいよ現実と非現実の境目を曖昧にしている。新鮮。読んでいてその浮遊感にめまいがするほどだった。ただ物語の鍵を握る女性霊への共感が薄いのが残念。もっとあれば著者の注文通り泣かされてしまっただろう。

1997年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「夢を食った男たち」

阿久悠著/小池書院/920円

夢を食った男たち―「スター誕生」と黄金の70年代
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天才・阿久悠が70年代の歌謡曲界を振り返った快作である。
副題に「スター誕生と黄金の70年代」とあるように、お化け番組「スタ誕」を軸に、花の中三トリオ、伊藤咲子や黒木真由美、岩崎宏美、ピンクレディ、そして都倉俊一をはじめとする仲間たちを描いたもので、歌謡曲という素晴らしい虚構の世界をその鋭い視点で熱く語り尽くしている。

ボクはもともとこの世界が好きだしかなり詳しい。そういう意味で特に楽しめたということもあろう。
が、ちょっと大げさに言えば、これは日本が熱かった時代を音楽で切った貴重な証言集でもあるのだ。まだ戦後という言葉が生きていた時代を、歌謡曲というジャンルがあった時代を、この本で再体験して欲しい。でもあの当時の事情をほとんど知らないヒトにはつまらないかもしれないなぁ。

1997年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , 自伝・評伝

LV3「書き下ろし歌謡曲」

阿久悠著/岩波新書/520円

書き下ろし歌謡曲
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歌謡曲をこの本のために書き下ろしているのである(もちろん作曲ではなく作詞で)。

あの天才・阿久悠が、である。しかも100曲も、である。実に新しい企画ではないか! こういう野心的な企画は大好きである。
狂喜して購入した。が、改めて「時代と共に歩けなくなってしまった歌謡曲というジャンルはいかにつらくなってしまったか」ということを確認したにとどまってしまった。すごい詞はいくつもあった。でもそれは「良く出来た詞」であってもはや「時代を先導する詞」ではない。ひょっとしたらもう言葉が時代を踊らせる時代ではないのかもしれない。そんなことを思った。
労作ではある。が、なんだかせつない一冊だった。

1997年09月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽

LV5「地下鉄に乗って」

浅田次郎著/徳間文庫/514円

地下鉄(メトロ)に乗って
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94年に出た長編の文庫化。
「地下鉄」に「メトロ」とルビがふってある。物語の筋からするとあんまりピンと来ない題名である。

一種のタイムスリップものなのだが、同じタイムスリップものでも例えば「蒲生邸事件」なんかより深みを感じるのはこの著者はそこに必ず浪花節を入れるからである。それが鼻に付くと感じる読者もいるであろう。ボクはわりと成功していると思うし好きでもある。ただこの作品では浪花節度がちょっと中途半端であるのが残念。「天切り松闇がたり」のような浪花節を要所要所でべったり入れた方が良かったのではないか。浪花節のメリハリとでも言うのかな、それが足りない気がする。

1997年08月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV1「天皇家の食卓」

秋場龍一著/DHC/1600円

天皇家の食卓―和食が育てた日本人の心
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「エリゼ宮の食卓」という名作に対抗したような題名だったので期待して読んだ。天皇家の食事を通してニホンとニホン人を燻り出してみせるものと思ったのだ(帯にもそれらしきことが書いてある)。

だが……まぁ天皇家の食事体系は究極の健康食で和食は世界的に優れていて、みたいな展開どまりでどうにも食い足りない。古代の食事の形態や宮廷言葉など興味深いところもあったが、だからなに?って感じがちょっと。題材はいいのだが著者の視点がちょっとぼやけぎみだからそうなるのかも。

1997年08月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:食・酒

LV5「勇気凛々ルリの色 2」

浅田次郎著/講談社/1600円

勇気凛凛ルリの色〈2〉四十肩と恋愛
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先月に「勇気凛々ルリの色 1」を取り上げたけど、この「2」は前作以上に充実した内容で読みごたえがある。よくは知らないが、エッセイはこの一本に絞っているのだと思う。そうでなければ書けない切れ味がそこここに感じられる。

オウム問題、沖縄問題、薬害エイズ問題などの時事ものにも独特の視点、「人倫としてどうなのか」という揺るぎない視点から書かれており刮目させられる。エッセイも名手化してしまった著者はいったいどこまでいくのだろう。

1997年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:時事・政治・国際 , エッセイ

LV3「鉄道員」

浅田次郎著/集英社/1575円

鉄道員(ぽっぽや)
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著者初の短編集。
世の中では大受けしているらしい。実際、良く出来ていると思う。泣かされる話ばかりだ。名作の誉れ高くなると思う。

ただ、志水辰夫に感じる「泣かしてやるよ、ほら、泣けるだろ、な?な?」みたいな‘見え見えの狙い’がわりと感じられてしまう分、ボクはちょっとしらけてしまうのだ。ちゃんと泣かすってとても難しい技だし、それを売りにしてもいいとは思うけど、今のボクにはちょっとオーバーな感じ。もっと年とったらちょうどいいかもしれない。

浅田次郎は背景の書き込みが足りないと上滑りする作風である。「天切り松闇がたり」や「蒼穹の昴」のような背景がしっかり書き込める長編や大長編の方がそのチカラを発揮する。背景さえ書き込めれば決して上滑りしないのだが…。長編の方がボクは好きだ。

1997年07月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV5「勇気凛凛ルリの色」

浅田次郎著/講談社/1600円

勇気凛凛ルリの色
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週刊現代連載の浅田次郎のエッセイ集である。
ただいま絶好調の著者らしくこれもたいへん良いエッセイばかり。並々ならぬ実力をここでも発揮している。視点の明解さ。ボキャブラリーの豊富さ。そしてなにより「少なくとも読者を勇気づけることは、いやしくも言葉で飯を食う者の使命であろう」という言葉に象徴されるような著述姿勢。
もともと連載エッセイ向きな波乱万丈な生活をしている著者だ。面白くないはずがないのである。ちなみに、小説では泣かしは名人だが笑わしは下手であったが、エッセイでは笑わしもなかなか。

1997年06月01日(日) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:エッセイ

LV4「プリズンホテル」「プリズンホテル秋」「プリズンホテル冬」「プリズンホテル春」

浅田次郎著/徳間書店/順に1400円、1700円、1500円、1700円。

プリズンホテル
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これはシリーズだが、それぞれ異なった作品ゆえ別々に取り上げるべきではある。がそうすると書評のしようもないのでまとめて取り上げよう。

結論から言うと「プリズンホテル」は傑作。
後にいくにしたがって普通になっていく印象だ。ただ1作目が傑作だから後をどうしても読みたくなってしまう。
この著者、泣かしは絶品だが、笑わしはへたくそである(泣かしに比べると、だが)。このシリーズはばかばかしい笑わしの要素が強いのでそこらへんが際立ってしまった。これで笑わしのコツでも掴んだ日には浅田次郎は大化けするかも。それにしても極道書かせたら日本一だねぇ。見事だ。

1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV2「ジャズと生きる」

穐吉敏子著/岩波新書/650円

ジャズと生きる
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「世界のアキヨシ」の自伝。
日本で不当に評価されているこの著者の自伝は前から読みたかった。

文章の方は音楽と違い淡々としていてリズム感もスイング感もないが、その分だけ絞り出すような迫力が出てきていている。ただ時系列的な混乱、唐突に入ってくるエピソード、ジャズへの中途半端な言及、など、読んでいて辛いところはいっぱいある。そこらへんがもう少しこなれていればぐっと密度が濃厚になりいい自伝となったのに悔やまれる。

彼女のビッグバンドジャズは「ミナマタ」などのテーマ性の強さで敬遠していたがこれを機にまた聴いてみたい。

1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:音楽 , 自伝・評伝

LV2「古い骨」

アーロン・エルキンズ著/青木久恵訳/ハヤカワ文庫/580円

古い骨
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古典的な推理小説。
現代のシャーロック・ホームズとでも言おうか。骨が専門の学者がワトソン役を従えて難事件に挑んでいく。

トリックは新鮮味がないしキャラクターも特に魅力的という訳ではないのに何故か人を掴んで離さない魅力がこの小説にはある。トリックは物語の途中で読めてしまう。それでもなんか魅力がある。不思議な推理小説。時間つぶしには最適。アメリカ探偵作家クラブ賞をもらっている。

1997年05月01日(木) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:ミステリー

LV5「天切り松闇がたり」

浅田次郎著/徳間書店/1500円

天切り松 闇がたり
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不覚にも泣かされてしまった。全く名人技。「蒼穹の昴」のスケール感はないにしても語り口はあれを上回るほどうまい。

全編「どさ回りの講談風」人情劇なのだが、鼻に付くどころかもっと読みたい読ませてくれろ、とすがりたくなる浪花節。
日本人の奥底をつつくのが上手だなぁ、この著者。
「このもっていき方イヤだな、お洒落じゃないな、臭すぎるな、え、ヤダよ、誰が感動するもんか、見え見えじゃないか、うわ、うわ〜、ぐじゅぐじゅぐじゅ……」と、必死に抵抗するも空しく撃沈されてしまう。参ったな。とっても参った。さてお次は「プリズンホテル」シリーズを読もう。

1997年04月01日(火) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(日本)

LV4「ジェファーソンの死」

アーネスト・J・ゲインズ著/中野康司訳/集英社/2600円

ジェファーソンの死
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山田詠美の「アニマル・ロジック」とこの「ジェファーソンの死」を読めばアメリカにおける黒人差別問題の根の深さが皮膚感覚レベルで実感できる。まぁこの本は単なる社会派文学ではないのだけど。

原題は「A Lesson Before Dying」。
冤罪の黒人死刑囚と彼に「人間として死ぬこと」を教えようとする黒人教師の物語で、実にアメリカ的な善悪の付け方がちょっと鼻に付くが、丹念に書き込んであり良質だ。何か久しぶりに高校生になった気分。あの頃読んだ「教訓的良書」の懐かしい匂いがプンプンする。いい意味で。
ちなみにこの本は全米批評家協会賞を受賞している。

1996年07月01日(月) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外)

LV2「飲食男女」

アン・リー著/南條竹則監訳/新潮社/1300円

飲食男女
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アン・リー監督の同名映画(邦題「恋人たちの食卓」)を、監訳の南條竹則が小説化したもの。

ノベライゼーション自体は台湾の小説家によってなされているのだが、台湾料理についての訳注をこうるさく付けるよりは、いっそのこと日本人で中華に詳しい人で小説に書き起こしてしまった方がよい、という出版社判断があったようである。ノベライゼーションはあまり好きではないのだが、実は映画が先にあった、ということを知らずに題名に惹かれて買ったもの。その後映画を借りて観た。

台湾一の料理人の父親と、恋に揺れる三姉妹のお話。
ノベライゼーションなので、なかなか映像を越えることは難しいのだが(アン・リーだし)、この本の良いところは巻末にレシピが載っていること。ちょっとしたシズル感が味わえて良い。

1995年09月01日(金) 12:00:00・リンク用URL

ジャンル:小説(海外) , 食・酒

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